3 暗くて、紙がいっぱい
朝、ホウセンカの種をまいた。
昨日までなら、たぶんどうでもよかった。
今日は、土の中が少し気になった。
三時間目の休み時間。
「ない!」
佐々木さんが、机の中を探していた。
「なにが?」
「しおり。
黄色い花の」
去年、おばあちゃんといっしょに作ったらしい。
みんなで探した。
机の下。
ロッカー。
本棚。
でも、見つからない。
「山下さん、さっき佐々木さんの机のところにいなかった?」
誰かが言った。
教室が、少しだけ静かになった。
「いたけど」
「なにしてたの?」
「消しゴム拾っただけ」
山下さんは前にも、人のペンを勝手に使って怒られたことがある。
だからだと思う。
誰も「取ったんじゃないの」とは言わなかった。
でも、言わなくてもわかることがある。
ぼくも、少しだけ思った。
もしかして、と。
「取ってないから」
山下さんが言った。
「誰もそんなこと言ってないじゃん」
「言ってるのと同じだろ」
山下さんは椅子を引いた。
ガタン、と音がした。
「知らない!」
そのまま教室を出ていった。
放課後。
佐々木さんの机の下に、小さな黄色い花びらが落ちていた。
「しおりの花かな」
となりの席の結衣が言った。
「たぶん」
ぼくはそれをハンカチに包んだ。
家に帰ると、フローラは店の奥で寝ていた。
「これ、食べて」
花びらを見せる。
「まずそうだな」
「まだ食べてないだろ」
「見ればわかるだろ」
「お願い」
「やだ」
「バラ一本」
「三本」
「一本」
「じゃあ寝る」
「二本」
フローラは起きた。
ほんとうに性格が悪い。
花びらを口に入れる。
もぐ。
もぐもぐ。
顔をしかめた。
「……こんなの食わせるなよ」
「なにかわかる?」
フローラは目を閉じた。
「暗い」
「暗い?」
「紙。
いっぱいある」
「誰か見えた?」
「見えねえな」
「それだけ?」
フローラがぼくをにらんだ。
「花だぞ。
防犯カメラじゃねえんだぞ」
それは、そうかもしれない。
次の日。
「暗くて、紙がいっぱい……なところじゃないかな」
「なんで?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
結衣がぼくを見る。
「……なに」
「べつに」
結衣は腕を組んだ。
「暗くて、紙がいっぱい」
それから、少し考えて言った。
「本じゃない?」
ちょうどそのとき、佐々木さんが教室に入ってきた。
手に本を二冊持っている。
「あ」
結衣が言った。
「それ、図書の本?」
「うん」
ぼくと結衣は顔を見合わせた。
一冊目。
何もない。
ぼくは二冊目をめくった。
ぱら。
真ん中から、薄い紙が落ちた。
黄色い押し花。
「あった!」
佐々木さんは、しばらくそれを見ていた。
それから、山下さんの席へ行った。
「しおり、あった」
「そ」
「本にはさまってた」
「ふうん」
「……ごめん」
山下さんは漢字ドリルを見たままだった。
「別に」
しおりは見つかった。
なくしたものは戻ってきた。
でも、教室は少しだけ静かだった。
帰り道。
フローラは約束のバラを食べていた。
「山下さん、取ってなかった」
「誰だよ」
「昨日話しただろ」
「覚えてねえ」
ぼくは小石を蹴った。
「ぼくも疑ってた」
「ふうん」
「よくないよな」
「別に」
「よくないよ」
「じゃあ謝ればいいじゃねえか」
ぼくはフローラを見た。
「え?」
「間違ってたんだろ」
「うん」
「なら、謝ればいい」
「……おまえ、まともなこと言うんだな」
ぼくが言うと、フローラはバラをかじった。
「は?」
「なんでもない」
明日、謝ろう。
……言えるかな。




