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2 まずいには、わけがある

「ついてくるなよ」

 ぼくは言った。


「なんで?」


「なんでって、ここ、ぼくの家だから」


「知ってる」


 妖精は、ぼくの後ろを飛んでいた。

 さっきまで、ゴミ箱の花を勝手に食べていたやつだ。

 ぼくは裏口から家に入った。

 くつをぬぐ。妖精も入ってくる。


「だから、ついてくるなって!」


「うるせーな」


「おまえが勝手に入ってきてるんだろ!」


 妖精はぼくを無視して、階段を飛んでいった。


「あ、おい!」


 追いかけて部屋に入ると、妖精はもう机の上にいた。

 ぬいだままのくつ下。

 教科書。

 マンガ。

 昨日食べたおかしのふくろ。


「きたねえ部屋だな」


「おまえに言われたくないよ!

 ゴミ箱にいたくせに!」


「あれは食事中だったんだよ」


「もっと悪いよ!」


 妖精は、本だなのすき間や机の下をのぞいた。

 今度はランドセルの中に入ろうとする。


「何してるんだよ」


「家さがし」


「は?」


「この家、穴がいっぱいあるから住むぞ」


「住むな!」


 妖精は、えんぴつ立てに入った。

 頭だけ出ている。


「ここもいいな」


「出ろ!」


「せまい」


「当たり前だ!」


 ぼくが手をのばすと、妖精は飛んでにげた。


「そういえば、おまえ、名前は?」


「フローラ」


「フローラ?」


「そうだ」


「変な名前」


「咲人に言われたくない」


「なんで、ぼくの名前知ってるんだよ!」


「下で母ちゃんが呼んでたぞ」


「母ちゃんって言うな!」


 そのとき、下からお母さんの声がした。


「咲人ー!

 ちょっと来てー!」


「なにー?」


 ぼくは部屋を出た。

 フローラもついてくる。


「来るなよ」


「ひまだし」


「ぼくについてくるな」


「家を見てるだけだ」


「同じだよ!

 お母さんに見つかるだろ!」


「別にいいだろ」


「よくない!」


 ぼくは飛んでいるフローラをつかんで、ズボンのポケットに入れた。


「何すんだ!」


「静かにしてろ!」


「せまい!」


「さっき穴がいっぱいあるから住むって言っただろ!」


「ここは穴じゃねえ!」


「うるさい!」


 一階のお店に行くと、お母さんが花の前でしゃがんでいた。


 店の中は、いつも少し寒い。

 水と花のにおいがする。

 ぼくは、このにおいがあまり好きじゃない。


「咲人、これ、ちょっと持ってくれる?」


 お母さんの前に、黄色い花があった。


「何これ」


「ガーベラ」


「ふーん」


 その花は元気がなかった。

 花も葉っぱも、ぐったりしている。


「朝はもう少し元気だったんだけどね。

 お水もあげたんだけど」


「じゃあ、もう一回あげたら?」


「それは、やりすぎになるかもしれないでしょ」


 やっぱり花は、めんどうだ。


「おい」


 フローラがポケットの中から顔を出した。


「何」


「それ、食わせろ」


「は?

 売りものだぞ!」


「全部食うとは言ってないだろ」


「一枚でもだめだよ!」


「咲人?」

 お母さんがこっちを見た。


「誰と話してるの?」


「えっ、いや、何でもない!」

 ぼくはポケットを手でおさえた。


 そのとき、ガーベラの花びらが一枚、ひらりと落ちた。

 ポケットの中で、フローラが動いた。


「お、おい」


 するっ。

 フローラが飛び出した。


「あ!」


 ぱくっ。

 床に落ちる前に、花びらを食べた。


「こら!」

 ぼくはすぐにしゃがみこんで、フローラを両手でかくした。


「咲人、何してるの?」


「花びら!

 拾ってる!」


「そう?」


 あぶない。

 手の中で、フローラがもぐもぐ食べている。

 そして急に止まった。


「……まずい」


「また?」


「ちがう、これはびしゃびしゃだ」


 フローラはガーベラを見た。


「こいつ、ずっと水の中だ。

 足がびちゃびちゃだ」


「花に足なんてないだろ」


「根っこだよ、ばか」


「ばかって言うな!」


「水、水、水。

 もういらないってさ」


「なんで分かるの?」


「食ったから」


「食べたら分かるの?」


「そいつが覚えてることならな」


 ぼくは、フローラを見た。


「一枚しか食べてないだろ」


「同じやつだ」


 花が、覚えてる?


「で、どうすればいいの?」


「水、もうやるな。

 あと、風の通るとこに置いとけ」


「本当に?」


 お母さんが、じっとぼくを見ているのに気づいた。


「……何でもないです」


 なんで、ですをつけたんだろう。

 フローラが笑っている。

 むかつく。


「下見ろ」

 フローラが言った。


「その白いやつから出せ」


 ガーベラの鉢は、白い鉢の中に入っていた。

 ぼくはフローラをポケットにもどしてから、中の鉢を持ち上げた。


「重っ」


 白い鉢の底を見る。


「あ」


 水がたまっていた。


「お母さん!

 水、たまってる!」


「え?」


 お母さんものぞきこんだ。


「あら、本当だ。

 昨日、水をあげたあと、ちゃんと切れてなかったのね」


 ポケットから、フローラが顔だけ出した。

 ぼくはあわてて頭を押しこんだ。


「いてっ!」


「咲人?」


 ぼくは、だまってポケットをおさえた。


 ぼくとお母さんは、水をすてた。

 ガーベラを風の通る場所にうつして、今日はもう水をあげないことにした。


 次の日、学校へ行く前にお店を見た。

 ガーベラが、昨日より元気になっていた。


「咲人、見て。

 元気になってる!」


「うん」


「昨日、咲人が見つけてくれたからだね」


「まあね」


 本当は、フローラのおかげだけど。

 まあ、いいか。

 お母さんは、ぼくの手に百円玉をのせた。


「お店を助けてくれたごほうび」


「えっ、いいの?」


 百円。

 やった。

 グミにしようかな。

 アイスもいい。


 部屋にもどると、フローラがぼくのまくらの上で、大の字になって寝ていた。


「おい、そこ、ぼくのまくら」


「うるせえな」


「どけよ」


「やだ」


 ぼくは百円玉を見た。それから、フローラを見る。

 口が悪くて、勝手に花を食べる。

 勝手に家に入って、ぼくのまくらで寝る。


 でも、百円。


「……まあ、しばらくなら、飼ってやってもいいかな」


 フローラが起きた。


「あ?」


「……何でもない」


 やっぱり、感じ悪い。

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