第4話「涼音おばあちゃん、異世界に到着する。」
音ゲー勇者!!
⻆谷 春那
第四話
涼音おばあちゃん、異世界に到着する。
「…この扉を、くぐるだけで良いんですか?」
「そう!スリッと、どうぞー」
「え。何か、勇気が要りますね。」
彼女たちの目の前には、寝室にはかなり仰々しすぎる、大きな扉がそびえたっている。ギリシャの神殿のような見た目で、大理石のような見た目をしている。彫刻がされているところも相まって、文化財としての価値が非常に高そうな見た目をしている。
「…まぁ、そうよね。ごめんなさい。前世の方々とはもう、会えなくなってしまう。輪廻転生の再会の可能性も、絶たれてしまうわね。」
「いや、別にそれは気にしていません。もう、満足していますし。」
「…ドライ過ぎない?」
「老いが進むと、必然的にこうなりますよ。と言うか、つい最近まで忘れていましたし。」
流石に100歳超えると、ボケには抗えないらしい。
「あ、言語は心配しないで。バッチリ、と言うか元々。貴女の魂には、この世界の言葉が刻まれている。『母語』って、あるじゃない?あれって産まれる前から、魂に刻まれているのよね。実は。」
「マージですか?」
「マージ。赤ちゃんの学習が速いんじゃなくて、シンプルに元々習得しているだけ。」
「世界の真理。」
「まぁ、この世界でも、知られていないんだけどね?」
「…消されます?」
「消されない消されない。…まぁ、常識はー。頑張って。」
「ちょっと、フォローお願いしますよ?と言うか、私、どういう風に登場するんですか?」
「うーん。空から生まれた?」
「人 や め て る」
「まぁ、よくある事よ。」
「あってたまるか。」
「いや、本当に。この世界、妖精さんとか居るから。」
「なら、いけるか…。」
「前々から、『勇者が生まれるよー』って、教えてるから。」
「『神託』?」
「ううん、口頭。」
「それで良いんですか?威厳とか。」
「出そうとすればする程、出なくなるものよ。威厳と歯に挟まったお野菜は。」
「何か、深いですね。」
「…で、貴女は何時出るの?」
「うーん…。女神様から先にどうぞ?」
「何で?!」
「えー、何か、恥ずかしいし。」
「しょうがない。おてて繋いで、一緒に行く?」
「それはもっと恥ずかしいです。」
「えー。我儘。」
「一般的な反応ですー。」
「もう、しょうがない。スズネは恥ずかしが屋みたいだし。私の後にちゃーんと、続いて来なさいよ?」
「はーい…。」
「何か、不服そうね。」
―――――――――――――――
「ムジカ様!」
「ムジカ様だ!」
「ムジカ様—!!!」
老若男女、様々な人が扉の前には控えていた。そわそわして落ち着かなさそうに歩いていた人や、本を読んでいた人、何故かタオルや石鹸が入った籠を持つ人もいる。が、多数派は祈っていた人々だ。祈る手の形や表情は千差万別だが、祈る祈らないに問わず、同じような服を皆、身に纏っている。「聖職者」と言う雰囲気ではない。この国の文化的な服なのだろうか?「村娘」と言った雰囲気のワンピースを着ている人や、チェック柄のズボンを着ている人が多い。そんな中、颯爽と、一番に駆け付ける者が居た。
「本日もご機嫌麗しゅう、ムジカ様。」
どうやら神官のようで、白い服を身に纏っている。
「やあ、ズルナ。…人避けをするように、頼んだはずだけど?」
「申し訳ございません。」
「良いわ。分かってるわよ。…この量の人民。そしてこの熱量…ごめんなさいね。まさか、これ程とは思わなかったわ。…思慮が足りていなかったわ。」
「いえ、全て私共の責任で御座います。」
「良いのよ、本当に。これを抑え付けるのは不可能。出来ても、混乱や狂騒が広がりかねない。正しい判断よ。よくやったわ、ズルナ。」
「は。有難きお言葉。…どうぞ、私の後ろにお隠れ下さい。」
「あ、はい。」
これを見越していたのか。何やら、同じような服を持っている。「着替えろ」と言う訳ではない。
「とりあえずこれを羽織って、我々に紛れて下さい。」
と言う意味だ。幸い、いや、必然的に。扉は、装飾に隠れていて、見えづらい。しかも、最前列は聖騎士団らしき人々が守っている。この場―まるで、地下アイドルのステージのようになりつつある―からの脱出はしかし、難しい事だろう。
「ムジカ様!!勇者様を!!」
「早く、早く!!」
「今こそ、勝鬨を上げる時に御座います!!」
「…スズネ。この子はズルナ。信頼できる人よ。彼女の後について行って。私は、この場を収めてるから。」
「…スズネ様。名乗りが遅くなる無礼をどうか、お許しください。今は早く、疾く。」
「あ、はい。」
救世主の登場に、信者達は狂喜乱舞している。だから、彼らに涼音を渡すわけには、いかない。少なくとも、今は。これを収められるのは、影響力とカリスマがある者のみ。
「やっほー、みんなー!!」
「ムジカ様!!」
「ムジカ様ー!!!」
「お前ら!!ムジカ様がお話しているだろうが!」
「勇者様は?!」
「ムジカ様!?」
「だから、静かにしろ!!」
「何すんのよ!?」
まさに、喧噪の幕が開けそうな瞬間。
―――――――――――――――
「パチン」と、大きな音が響く。ただの、手を叩いた音である。しかし、振り向かざるを得ない。注目せざるを得ない。
なぜなら彼女―ムジカは、音楽の女神だから。彼女の話し声は、例えどんな内容でも感動的な歌劇の一幕となり。彼女が出した音は、例え不協和音であろうと、美しい音楽に昇華される。
路上のストリート・ミュージシャン。目的地に向かって歩いている人々の足を、思わず止めてしまう。遅れる事は、厭わない。遅れた人々も、音楽家のせいには、決してしない。
そんな、音楽家。それが、ムジカだ。
―――――――――――――――
「はーい、皆。喧嘩はダーメっ!」
『は、はい!!』
「はてさて皆?私は、『各々、自宅で待つように』『此処に集まらないように』って、言わなかった~?あ、だから、喧嘩はメッ!責任転嫁なんて、見苦しいよ!!」
『はい!!すみません!!』
「あと、勇者はデウス撲滅のための道具じゃ、ありません!!ただの、皆のアイドル!!分かったー??」
『はい!!』
「よし、宜しい!!えー、皆?一曲、やってくー??」
『うぉー!!!』
―――――――――――――――
「…全く、これだから。すみませんね、家のムジカ様が。」
「え、ああ、はい。」
「威厳も何も、あったもんじゃない。」
「何か、人気者ですね。」
「…家の信者達は、頭の可笑しい人間が、多いんですよ。悪い人とは言いませんが、良い人とは決して言いたくない。良くも悪くも、ノリが良すぎるんですよ。」
「何か、信者さん?達とは、一線を引いてる感じがしますね。」
「当たり前です。裏方まであんなだったら、もう回りません。…改めまして、ようこそ、スズネ様。私は、ズルナと申します。貴女様の教育係を、本日より担当致します。どうぞ、よろしく。」
「あ、こちらこそ。ご丁寧にどうも。」
「…久々に、マトモな方が来られて安心しました。」
「そうなんですか?」
「えぇ。肝心の御奉神は、あんなですし。信者共も皆、うぇいうぇいわいわいしていますし。」
「共…」
「まともな人間が、来てくれる訳がないんですよね、ハハ。」
「お、お疲れ様です…。」
「あ、神官たちは比較的マトモなのを揃えているので、御安心ください。…ただ、いつも出払っていますが。」
「な、成程~。…つかぬ事をお伺いしますが、何の御用件でお外に?」
「…まぁ、静養ですね。」
「あ。」
「いえ、心もあると思いますが。…スズネ様も、お気を付けください。近年、【デウス】が増々活動的になっていますので。」
「何か、物騒ですねー…」
「あ。そうでした。そう言えば、スズネ様は其処ら辺の知識が、ゴッソリ抜けていらっしゃるのですよね?とりあえず、街中でも注意してくださいね。一般的な人間でも、普通に騙されるほど、狡猾なので。」
「ほ、ほう?」
「知らない人には、ついて行かない。迂闊に人を助けない。これさえ守れば、大丈夫かと。」
心の中でドン引き涼音。
「…そんな、子供じゃないんですから。」
「はい、存じていますよ?」
「…ん?」
「勿論、伺っていますよ?」
「…すみません。どのような触れ込みなんでしょうかね。」
「え?あぁ。一般的な神官は、『勇者がクソ神の策略で隠されていたが、(魂だけになったが)無事に戻って来た』と言われています。」
「成程…?」
「まぁ、この世界ではありふれた事なので。」
「…貴女は?」
「私は、上級神官ですので。」
「…つまり?」
「ありのままを。」
「おい!!!」




