第5話「涼音おばあちゃん、暴徒問題に直面する。」
音ゲー勇者!!
⻆谷 春那
第五話
涼音おばあちゃん、暴徒問題に直面する。
「…お。無事に怪我無く、あのクレイジーピーポーの山を抜けられた~?さっすが、ズルナ!やるね~!!」
「…全部、ムジカ様のせいですから。給料、臨時出して下さい。」
「これ、給料出るんだ…。」
「出なかったら、やってけませんよ。慈善事業じゃないんですし。」
「ちょっと~?家は、『慈善事業』だけど~?」
「私は、『慈善事業』でやってませんので。」
「…私も、給料出ますか?」
「もっちろん!まぁ、『給料』って名前じゃ、無いと思うけどね。お貴族様の、年金みたいなもんをあげるよ~。個人的には、おこづかい的な感覚だけどね。働く必要は、ナッシング!!」
「え、ニート推奨…?」
「うーん、そう!!」
「マジで?!」
「…スズネ様。就職されるおつもりなんですか?大丈夫ですか。本気ですか。」
「え、これ、私がおかしいの?」
「あー、スズネは、まだ自分の重要性を分かってないみたいね。ズルナ、頼んだ!」
「…スズネ様。『勇者』と言う存在は、替えが聞かない存在なのです。下手をしたら、神に匹敵する存在。言ってしまえば、この宗教の要人です。」
「あ、ひょっとして、下手をしたら命を狙われる感じですか?」
「はい、そうです。」
「マジで??」
「マジです。」
「…引き籠ろうかな。」
「それも、推奨出来ません。奴ら―【デウス】は、きっと嗅ぎ付けて、襲撃してくるので。」
「物騒すぎやしないか、異世界?!…え?私、その。これから一生、命狙われるんですかね…?」
「Yes.」
「Oh,my god.」
「呼んだ~??と言うか、マジ似合ってるじゃん、その服!!」
「そうですね。家の、神官服ですので。ムジカ様の癖、ゴリッゴリの。」
「…あ!!神官に紛れていれば、良いのでは?!【勇者】だって、バレなければ!!」
「いえ、神官も、狙われます。」
「え、ひょっとして、『静養』って。」
「はい、この前の襲撃で、コッテンパンに。」
「…マジかよ。」
「ごめんね!こんな世界で!!」
「…家の過激な信者共。あいつらも、元々はあそこまで過激じゃなかったんですけどね。ただ、頭の可笑しい集団ではありましたが。」
「そうねー。ここ最近、【デウス】が活発だからね。恨みたくなる気持ちも、まぁ分かる。」
「…まぁ、ひとしきりの戦闘能力は、身に付けておくべきでしょう。」
「えー?貴女まで、そんな事言うのー?」
「当たり前です。」
―――――――――――――――
ズルナ曰く、この世界では、【デウス】と言う宗教が、ほかの宗教を襲撃して回っているらしい。場合によっては、神本人が暗殺されてしまう場合も。「音楽の女神・ムジカ」を祀る、ムジカ教も例外ではない。しかし、【勇者】が居れば、戦局が変わるらしい。何なら、殺されてしまった神の代わりとして、新しく神格化する事も。
なので、「音の勇者」である涼音も、狙われるだろうと。
近年、その【デウス】の動きが、増々過激になってきていると言う。同一神を祀る穏健な団体の成長に、どうやら反発しているらしい。そのせいで、襲撃の数・頻度・被害が『進化』。ある者は家族を殺され。ある者は家族を奪われ。ある者は、職業を失い。そんなこんなで、信者達の不満は爆発寸前。【勇者】を使って、【デウス】と戦争しようとする動きが、起きているらしい。そんな緊張も気にせず、ムジカが「勇者の降臨」を告知してしまったのだと言う。
「…だってさ?牽制になると思ったのよ~。」
「逆効果です。もう、勝手な事しないで下さい。」
「…スズネ。別に無理に、戦争に参加させるつもりはない。言った通り、寧ろ貴女には、思うように生きて欲しいと考えているの。」
「そ、そうは言っても…」
涼音は、扉の外に耳を傾ける。転生前に尋ねた、あの部屋だ。どうやら、あの扉以外にも、扉はあるらしい。
今日も、信者共は、運動を起こしている。
「勇者を出せー!!!」
と、声を荒げている。涼音がこの世界に転生してきてから、早二週間。全く、鎮静しそうにない。
「…ムジカ様、説得してきてください。」
「いやー。聞いてくれないのよ…。」
「何か、皆、血走ってますね…。」
「まぁ、無理は無いのかもしれないけどね。」
「スズネ様には、戦闘の意思が無いのですよね。」
「そうですね。文化を、学びたかったんですけどね~。」
「スズネ、各国を旅したいって、言ってなかったっけ?」
「そうなんですけど…。この調子じゃ、部屋の外にも、迂闊に出れませんよ。…セキュリティ、どうなってるんですか…。」
「それは、申し訳なく思ってます。全ては、ムジカ様のせいで。」
「私?!」
「当たり前です。」
「理不尽!!」
「…信者さんが、この建物の中をうろついているのは、まだ分かります。此処は、宗教施設ですし。ですが!!」
そう言って、机を叩く涼音。
「びっくりしたー。」
「どうして!!神官のフリしてるんですか!!何で?!?!」
「どうやら、御用達の呉服屋さんも、参加しているみたいでして。」
「終わってる。終わってやがる…。本当に、此の部屋にまでは、入って来ないんですよね?」
「だいじょーV!この部屋は、私―女神様の、神聖な空間。許可貰わなきゃ、入っちゃいけないの。」
「…と言うか、何処からでも出入りできるなら、最初の時。あの扉からじゃなくても、良かったんじゃないんですか…?」
「あー。ちょっと。魂事情が御座いまして…。あれは、しょうがなかったの!でも、今は正式にこの世界に転生して来れたから、大丈夫よ!!」
「…何だか私、スズネ様が本気で可哀想になってきました。」
「何で?!」
「いや、神はこんなんだし。」
「『こんな』?!」
「こんな状況だし。」
「ウッ!」
「あ、別に気にしてませんよ。」
「…スズネ様。かなり、独特な感性をお持ちなのですね。」
「ちょ!違います!!あれです!!老後の生活よりこっちの方が、マシです!!マジで、ズルナさんも介護してくれる人は、慎重に選んだ方が良いですよ!!」
「そうなんですか。人間は、大変なんですね。」
「…ん?」
「あ、説明してなかったっけ?ズルナは、楽器の妖精さんで、まぁ、『老死』と言う概念が、無いわね。」
「うっらやま!!」
―――――――――――――――
「…さて、ムジカ様。スズネ様。本気で、対処を考えなきゃいけないですよ。」
「そうねー。このままじゃ、永遠に出れないし。それは、困っちゃうもんね?」
「それだけじゃないですよ。…ムジカ様、謀反されますよ。」
「え?!」
「…『謀反』って、あれですか?あの、『下剋上』ですか?」
「多分、それです。『裏切り』と言うか、『革命』と言うか、の。」
「何で?!?!?!皆、私の【超音楽】に、心酔してるんじゃないの?!」
「【超音楽】?」
「ムジカ様の能力の、通称です。ムジカ様の数少ない、分かりやすい神様パワーです。」
「『数少ない』?!いっぱいあるよ!!」
「いや、効果と言うかが、複雑すぎるんですよ。どれもこれも。」
「…そー?」
「そうです。あ、スズネ様もいずれ、教養程度に知ってもらう必要があるかと。一応、我が『ムジカ教』の勇者様なので。」
「は、はぁ。…あの、前に渡された、分厚い本でしょうか。」
「…分かりますよ。こんな神様の歴史とか。成り立ちの歴史とか。作り話の神話とか。覚えて、何の得があるのかって、話ですもんね。」
「そっちより、魔法とか覚えた方が、断然良いと思う!!」
「本人が、言っちゃって良いんですか…。」
「…まぁ、軋轢を防ぐために、少なくとも。勉強してる素振り程度は、しておいた方が良いかと。信者達は、結構重視している者も、多いようですし。」
「…結局、【超音楽】って、何なのでしょうかー。」
「あ、脱線しました。【超音楽】は、『超絶音楽技巧』の略です。」
「…ブフォッ。」
「吹かないでよ!!自分だって、結構恥ずかしいから、略させてるのに!!」
「まあ、これが結構、侮れないんですよね。若干、洗脳じみていますし。」
「…スン。」
笑いを堪え切れなかったり、一気に真面目な顔に戻ってみたり。テンションが、ジェットコースターである。
「あ、大丈夫ですよ。ただ、気分とか感情とかが、無理矢理動かされるだけなので。万能じゃないんです。だからこうやって、謀反が動き始めているんですけどね。」
「音楽は、感情を動かすもの!!普段は、能力に頼ってないのよ!!本当よ?…ただ、最近の信者達は、どうやら過激になってきてたから。鎮静化させるために、【超音楽】を連発しちゃってたら…どうも、耐性を獲得しちゃったみたい。」
「…一つだけ、言っていいですか?」
「どうぞ?」
「馬鹿なんですか。」
「酷い!!スズネ、聞いた?!この人、神様に向かって。ば、ばばばば、『馬鹿』って!」
「いや、向こう、耐性獲したのに、どうしてまだ【超音楽】で解決しようとしているんですか。」
恐らく、涼音が転生してきた初日にやっていた、ライブ的な何か。あれが、【超音楽】だったのだろう。確かに最近、ライブ(仮)を毎日やっており、
「こんな(信者共が暴徒になりつつある)一大事に、何してるんやコイツ。」
的な目で、涼音は見ていた。
「そういうカラクリがあったのか~。」
と、感心させられた。しかし、確かにズルナの言うとおりである。相手がその【超音楽】とやらに耐性を持ってしまった今、さらにそれを浴びせ続ける事は、向こうの耐性を強化させることと同義である。それはまさしく、愚の骨頂であろう。ズルナの指摘は的確。
しかし、涼音はムジカとも、ズルナとも、既に二週間、寝食を共にしている。
ズルナはとても常識人。そして、臆する事が無い。自身の「正解」を、疑う事がない。それは、彼女の地頭の良さと、度量。その二つが成す芸当であろう。ズルナの正体が「楽器」と言われた時、何か納得させるものを感じた。
管楽器だと分かりやすいのだが、少しでも何かが違うと、音すら出してくれない楽器がある。そうでなくても、美しい音が出ないものが多い。某国民的アニメのキャラクターのヴァイオリンは、不協和音ばかり出てしまう。そう思うと、ピアノは大変良心的な楽器だろう。
かと言って、ズルナは何だかんだ。ムジカを尊重しているように、思われる。ムジカは本当に、勢いで生きているような存在だ。しかし、その根底には、行動には。強い感情を感じる。所々、時々感じる感情。それは、「怒り」だ。一見すると道化のように見える。しかしその実、誰よりも、強かだ。そして、揺るぎない一手。怒りは、遠回りになっても、確実なルートを、選ばせるのだろうか。それにしても、誰に対しての怒りなのだろうか。信者達?それとも、度々話題に上がる【デウス】?流石に涼音も、そこまでは推し量れていない。何ならこれは、涼音の長い人生経験が導き出せた「予測」であって、全くの妄想だ。
しかし、これだけは言える。ムジカには何か、策がある。
そして、どうやらそれは正しかったようだ。ムジカが不敵に、ニヤリと笑う。赤毛の女に、思わずドキッとさせられる。性愛や、恋情ではない。ただ、子供の可愛らしい姿を見るような。そんな、「キュン」。
「…あら、ズルナ。私の能力、忘れたのかしら?スズネに勉強を勧めてたのに?」
「…応用してます。」
「してます。」
「音楽系の能力ですか?」
「部分的にそうです。」
「ア〇ネイター?!」
「何、それ?」
「スズネ様の世界にも、『フォーヒアザーグ』に似た遊びが?」
「ふぉ、『フォーヒアザーグ』…?」
「…効果対象に生物は入っていますか。」
「部分的にそうです。」
「植物には効きますか。」
「…部分的にそうです。」
「…!ひょっとして、【ドラッグ・ミュージック】…?」
「ピンポンピンポーン!!流石、ズルナね。」
「ど、『ドラッグ』…?違法な薬物...?」
「あー、ちょっと説明が難しいので、後にしましょう。とりあえず、この騒動を片付けてからです。スズネ様。解決の糸口が、見つかりました。」
「そうそう!!もっと、崇め讃えても良いのよ!!」
「いや、もとをただせばムジカ様の責任なので、褒められません。」
「そんなー!!」




