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登校初日から天真爛漫な美少女にプロポーズされましたが、僕は彼女と結婚しないで一親等になることを決めました。【長編小説】  作者: 金森 亮
第六章 結婚破綻

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第22話 なぜか愛し尽くされるようになるということ

 6月23日週始め、僕はいつも通り彼女と登校するわけだが、彼女の血色をたしかめると、逆に以前よりも良くなっていた。


 彼女は笑顔を絶やすことをせず、僕のほうを頻りに見つめる。


『……希奈の支柱になれたってことでいいんだよな?』


「もう悩みはないか?」


 彼女を疑っているわけではない。ただ、彼女が悩みに侵されていないという安心が欲しかったのだ。


「そうね。自分で抱え込んでいたものも、全部どっかに行っちゃったわ」

「それがいい」

「……待って、まだ一つだけあるわ」

「なんだなんだなんだ?」

「あ、焦りすぎよ」

「ご、ごめん」

「……結婚以外に家族になれる方法が分からないのよ」

「あ、あぁ……それか」


 先の土日、僕は貴重な休日を返上して思考を巡らしていた。


『希奈と結婚以外の方法で家族になるには“事実婚”をする……いや、グレーだよな』


 だが結局は時間をドブに捨てただけで、なんら解決策は思いつかなかった。


 それでもまだ僕らには時間があり、いつか解決策が出ることを期待して、今はあまりその件を考えないことにしていた。そんなことをしなくとも、僕らの縁が断ち切られるわけないのだ。


「まぁ、どうにかなるだろ」

「本当にどうにかなるのかしら……」

「言っておくけど、僕がこんな発想になったのは全部誰かさんのせいだからな」

「誰かしらね。そんな自己肯定の塊みたいな考えを植えつけたのは」

「さぁな」


 そんな冗談で微笑できるぐらいには、彼女の精神が戻ってくれた。三ヶ月前の僕には考えられなかっただろうが、今はこの普遍のほうが快適なのだ。



 ただ、ちょっと彼女の態度が“改善され過ぎている”気がしなくもない。


 登下校中に手を繋ぐのはいつも通りなのだが、彼女は僕の身体をぐいと引き寄せて密着させてくるのだ。まるで最初に彼女と登校したあの日のように。


 彼女はニヤリと笑みを浮かべ、クスクスと笑っては小刻みに震える。


「急にどうしたんだよ……?」

「深い意味はないわよ。隠しごともないし」



 また弁当の見栄えも変わった。今までと言えば、栄養バランスが整えられた良くも悪くも普通の弁当だった。

 それが茶色一辺倒のおかずに置き換えられて、男子高校生が歓喜するラインナップになっていた。


「……本当になにがあったんだ?」

「茄子の肉巻きでしょ? 色は色だけどそこまで栄養価は変わっていないわ」

「そうなのか……」

「それにしても、よく施設の調理場でこんな旨いもの作るよな」

「場数よ、場数」


 彼女の僕に対する献身というか、気持ちを推し量る水準が明らかに高まっていた。違和感を覚えるほどではないが、唐突な変化に脳の処理が滞っていた。



 こういうときに頼りになるのが友達という存在で、僕は授業中、スマホのトーク画面を開き例の人にこう訊ねた。


「河田。希奈、様子変。滅茶献身」

「なに言ってんの?」

「今日を境にスキンシップの割合とか弁当の質とかが異常に高まっているんだ」

「あんた希奈になにかした?……」

「あぁ」 「例の能力を否定させたな」

「はぁぁぁ?」 「それを希奈が受け入れたって言うの?」

「全部嘘だったかもしれないって言ったよ」

「……そう」


 そこから三分間、一切のやり取りが途絶える。次に河田が送った内容は、僕が体感したことのない概念だった。


「それはデレよ」

「デレってなんだ?」

「あんたを好き過ぎて態度が緩んでいるの」

「なんで急にそんな好きになるんだよ?」

「自我を取り戻してくれたからじゃないの」

「……あれ、そんなに重要だったのか」

「きっと隠しごとを守ってきた容量が空いたのね。それであんたに心を充てる時間が増えたの」


 すると僕は視線を浴びていることに気がつき、河田がこちらをじっと見つめていることを知る。睨んでいるわけではないが、河田は胸の内を吐露する。


「あぁあ」 「もう完全に役目は奪われちゃったわね」

「なんの役目だ?」

「希奈のお世話係」 「希奈を幸せにする係」 「ずっと私の特権だったんだけど」

「みんなで幸せにすればいいだろ」

「それは私への当てつけ?」

「なんでそう歪曲するんだよ……」


 とどのつまりは、彼女によって磨かれた僕の性格が彼女の負の部分を打ち壊したというわけだ。


『……なんか“運命共同体”っぽいな』


 いつの間にか僕も自虐をしなくなって、人当たりの良し悪しも一人前のものに仕上がっていた。そんな僕らが唯一損したことと言えば、きっと結婚が許されない“未来”ぐらいだろう。



 そのことについて、帰り道で彼女から話があった。


「……私たちって死ぬまでずっとカップルなのかしらね」

「さぁな。僕は別にそれでもいいよ。僕らの関係値が変わるわけでも、子供が作れないわけでもないしな」

「こ、子供って……」

「あ、あくまで色んな可能性を考えているだけだから」


 彼女とは所詮三ヶ月の付き合いだ。まだ下ネタチックな話は早かった。


「ご、ごめん。変な方向に話がいっちゃって……」

「別にいいのよ。そろそろそういう時期なのかもしれないし」

「一旦この話はやめておこうか……」

「でもそうね。本当は未来なんて、誰にもなにも分からないはずよね」

「そうだ。だから明日を生きようと思えるんだしな」

「もしかして、その考えも私由来かしら?」

「ご明答だよ」


 彼女は引き寄せていた僕の腕を、少しだけ解放させる。力が和らぐと、彼女は少し不安が混じった笑顔を見せてきた。


「……私たち、家族になれるのかな」

「なろうと思えばなれるんじゃないか?」

「結婚以外でよ……?」

「色々あるだろ……まぁ、パッとは思いつかないけどさ」

「そうよね……」

「でも、僕はどうにかなる精神で過ごせばいいと思う。話は大人になってからだ」

「……私って、響にとんでもないものを施しちゃったわね」

「い、いいだろ。今はこれが普通なんだからさ……」



 結局、今日のところは「未来になってから考えても遅くはない」という結論に落ち着くことになった。



 だがその日の晩、その翌日の晩と、僕は様々な家族形態を調査していた。


『選択肢が大いに越したことはないし、今探し出せるなら今から探し出すに越したこともない』


 深夜1時になっても、スマホを酷使して結婚以外の家族関係を考えていた。そうして3時すぎにはようやく四つの案が浮上する。


 一つ目は事実婚と呼ばれるもので、同性事実があっても婚姻届を出さず、戸籍を一致させないやり方だ。

 だが、この方法を果たして家族と言い切れるのかはなんとも言えないし、これだって見方によっては結婚になり得るだろう。


 二つ目は住民票を一致させて、世帯主と同居人になるやり方だ。こうすれば生活を共に営んでいるということになり、家族に近い実態にはなる。

 しかしこれもまた、家族関係が樹立されているとは言い切れない。


 そうなったとき、最後の案が現実味を帯びることになる。


『……養子縁組か』


 早い話、僕と彼女が養子縁組を結ぶことで、誕生日の早いほう僕が親、遅い彼女が子になるわけだ。多少複雑な家庭環境にはなってしまうが、こればかりは絶対に家族になれると断言ができる。


 しかし、この養子縁組にも問題はある。当たり前のことだが、カップルが親子になるという事例が隅から隅まで検索しても出てこない。

 僕らの「養子縁組ができて結婚ができない」という状況が特殊すぎて、未開拓の地が過ぎたのだ。


 だが、僕はもう一昔前の僕ではない。諦めなんて言葉は似つかわしくなかった。


『……前例がないなら、僕らが開拓してしまえばいいんだ』


 僕らにはそれだけの引力がある。共感を装うのではなく真に共感できる。だから、僕はどうしても家族になりたかった。既に孤独を噛み締め合う覚悟が備わっていた。



……だが、その晩のことだった。

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