第8話 元カレの独り言を黙ってきくわ
《アイシャ 視点》
「あ、あの。お客様。タクシーをお呼びしましょうか? 夜も、もう遅いですし。お若い方だけでは危険では?」
「あ、いえ、アイシャは俺と一緒にいるのが一番安全ですから大丈夫です」
「は、はぁ、そうですか。……お気をつけてお帰り下さい。あ、ありがとうございました〜!」
「いえ、こちらこそ、俺の元……《《彼女》》がお騒がせしました。すみません」
◇
目が覚めたのだわ。
結城の背中?……私、今結城におんぶされているの?
「アイシャ……相変わらず。手間がかかる女の子だよ。君は……そこが良いんだけどさ。フフフ」
笑ってる。結城、もしかして私が起きたの気がついてないのかしら?
「中学生の頃はさぁ、お互い幼かったせいかな? 喧嘩して避けあってたなんて、今思えばアホな時間を過ごしたと思うよ。……中三の日々は帰って来ないのにな。すごく勿体ないことをしたと思ってる」
……私もそう思ってるわ。結城。
「……寝てるよな? 少し重くなったか? アイシャ」
重くなってなってないわよ。アホの子結城〜!
「でも、アイシャと仲直りできて本当に良かったと思ってるよ。……それと、また会えて嬉しかった」
結城……
私は……このタイミングで声を出していいか迷ってしまった。
結城の横顔が真剣そのものだったから、声が出せなかった。
結城が次に話す言葉を聞きたかったから。
「でも、まだよりは戻さないでおこうと思うよ」
……なんでよ。
「中学校の頃から思ってたんだ。アイシャと俺じゃあ、釣り合わないってさ」
…………なにを言ってんのよ? 私と釣り合って、私のわがままを聞いてくれる男の子は、アンタ位しかいないわよ。
私の理想の元彼氏がなにを言ってるのかしら?
「星夏高校に入ったら、色々と頑張ってみるよ。自分磨きってやつだな」
高スペックのくせになにを言ってるのよ! そんなことされたら、結城に寄り付く女の子の比率が上がるだけじゃない。
やめさないよ。やめて、私だけに集中しなさい!
………ちょっと待って。結城が行く高校、星夏高校って言わなかった?
星夏高校って、私も通う高校じゃない! 知らなかったわ。
いや、知らないのも当然ね。私、星夏高校の推薦入学が決まって、結城とも会うのが気まずかったからほとんど学校行ってなかったのよね。
「……やっと、マンション着いたな。アイシャ、起きてるか?」
「………………」
絶対に起きないわよ。起きたら、結城の部屋に入れてもらえなくなるもの。
「まだ寝てるし。……仕方ない。俺の部屋で寝かせるか」
「……………や」
「……や?……寝言か」
や、やったわ。これで無条件で結城の部屋に入れるわ。
嬉しすぎて声を上げそうになったけど、なんとか耐えられたわね。偉いわよ、私。
「エレベーター、エレベーターと」
マンションの中に入って、エレベーターで結城の部屋に到着。
その後、何重にも掛かった玄関の鍵を結城が素早く開けたわね。
そして、私と一緒に部屋の中に入って……
キュッ!
「……これで良し。《《縄》》買っといて良かったな」
「は?」
私の両手と両足を白い縄で縛り上げて、優しくソファーの上乗せたのだわ。
「ちょ、ちょっとっ! 何してんのよ。結城」
「君、やっぱり起きてたのか」
「ギクッ!」
「擬音で答えるな。……起きてたんなら、さっさと言ってくれよな」
「わ、私になにをする気? 結城」
元カレに縛られてる。わ、私、襲われちゃう? 大好きだった(今も大好き)元カレにあんなことやそんなことされちゃうのかしら?
「………ホットミルクとホットココアどっちが良い?」
「え?……じゃあ、ホットミルクでお願い」
「了解」
……なんで、ホットミルク? アオハル的な展開は起きないの?
◇
数分後、湯気が立ち込めるマグカップを2つ持った結城が戻って来た。それをテーブルの上に置く。
「ほれ、縄解くから暴れるなよ」
「あ、暴れないわよ。……ありがとう」
私を縛っていた縄を解いて、ホットミルクが入った方のマグカップを渡してくれた。
それを私はチビチビ飲み始める。
「……俺は焦らなくてもいいと思うけどな」
「?……なにがよ」
「だから俺たちは中学生で焦り過ぎてたんだよ。それで次は高校生だろう?」
「?……そうね」
「今度は時間をゆっくり仲良くなっていこう。……俺とアイシャは特別な……」
「結城……」
結城が告げるその後の声を静かに待っていた。特別な……存在と言われるのを。
「友達なんだからな」
「は?」
……この元カレ。なにを言っているのかしら?
「高校生活の間にだんだんと仲良くなればいいさ。だろう? アイシャ」
「……ざけんじゃ……わよ」
「……アイシャ? どうし……」
「ふざけるじゃないわよ! もう怒ったわ! そこになおりなさい。結城!」
「お、おい! 止めろ。アイシャ! なにを……抱き付くな! 止めろ!!」
「二人きりで止めるわけないでしょう! アホ結城〜!」
……暴走して結城に襲いかかろうとした私は、その後、結城に縄で縛られて朝までソファーに寝かされてたのだったわ。とほほ。




