第7話 元カノと久しぶりに出かけた件
《結城 視点》
「ホテル楽しみね。結城〜!」
「ホテル内のレストランな。宵宮さん」
俺の隣には、超ご機嫌の元カノ《アイシャさん》が立っている。
本当にどうしてこうなった?
こいつ。俺を逃がすまいと、俺の右腕をがっちり掴んで離さないし。胸当たってるんだが!
駄目だ、意識するな。平常心平常心……平静を装え。俺《結城》〜!
「……マンション近くにあるホテル『ニューガーデン』。こんな時間じゃレストランの予約が取れないと思ってたけど、案外いけるもんなんだな」
しかも、高校生にもなってない学生がだ。何でだろうか?
「あら? 私の家の名前を使えば良かったじゃない。それなら、直ぐに一番良い席を用意してくれるもの」
「……家の権力を直ぐに使おうとするなよ。俺たちまだ子供なんだぞ」
「そ、そうね。ごめん………???」
アイシャの奴、あんまり分かってないって顔してんな。
「俺たちは親が《《たまたま》》お金持ちの家に産まれたラッキーな奴らなんだよ。だから、家の影響力を外であまり使わない方がいいんだよ。迷惑になることだってあるんだからな」
「!……確かにそうだわ。結城の言う通りね! 分かったわ。私、結城のために今後は宵宮家の権力を使わないでいくのだわ」
「なんで俺のためなんだよ」
「……言いたくない。ていうか、言わせようとするんじゃないわよ! 恥ずかしいわね! ふんっ!」
う〜ん。これは理不尽な。
アイシャの実家である「宵宮家」は超が付くほどのお金持ちだ。俺の家とは比べ物にならないくらいの本物のお金持ち。
兄妹も多いらしく、アイシャは美人三姉妹の長女で、一般常識にかけた世間知らずなお嬢様に育ってしまったとか、アイシャ専属のメイドさんが昔言って嘆いていたな。
…………つうか。アイシャのご両親は、アイシャに生活力もないのに1人暮らしをよく許したな。本当。
◇
《ホテル『ニューガーデン』》
「ふ〜ん。あれがアイシャを振った男ですのね。遠くからじゃ上手くお顔が見えませんね……今回はアイシャのために何もしませんけど。あの娘に辛い思いをさせた罪は、いつか払わせてあげますわ」
「あ、あの〜! 有栖川様。本当に一般用の個室で宜しかったのでしょうか? それに部屋は取らなくていいも部下に聞きましたが」
「まぁ、貴方は『ニューガーデン』のオーナー様。えぇ、結構ですわ。それよりも、予約が満席なのに席をご用意頂きありがとうございます。感謝致しますわ」
「い、いえ、とんでもございません。有栖川財閥の皆様にはご贔屓にさせて頂いておりますので」
「それでも、こちらのお願いを聞いてもらって、そちら側が忙しくなったのは事実。……そうですわ! 来月の星夏高校の入学式パーティーは『ニューガーデン』で行うように学園長に進言しておきますわ。それで今回の穴埋めとさせて頂いても宜しいでしょうか?」
「そ、それは本当ですか!? あ、ありがとうございます! 従業員一同、誠心誠意込めてお出迎えさせていただきます!」
「フフフ、ありがとうございますわ。…………申し訳ありませんが。わたくし、とある方たちが来る前にお手洗いに行ってきますわ」
「は、はい。畏まりました。有栖川様」
(アイシャたちが来るまでの間に林檎ジュースを飲み過ぎましたわ………漏れちゃいますわ)
◇
ホテル内のレストランへとやって来た。
予約した俺の名前を言うとすんなり個室へと通され、メニュー表を手渡されて食前酒……ではなく、ノンアルコールの飲み物を選ぶ。
ここまで俺たちが中学校を卒業したばかりの子供だということを、誰も突っ込まないのは流石に可笑しくないだろうか?
「お料理楽しみね。結城〜!……その後のこともね」
「………そう」
なにを楽しむ気なのか分からないが。
アイシャの奴、なにを企んでるんだ? 気になり過ぎるな。
……まさか俺が別れを切り出したことを、本当はまだ根に持っていて仕返しに今夜俺になにかする気なのか?
いやいや、アイシャに限ってそんなことするわけないよな。強がりなだけで、中身は弱々なアイシャさんだぞ。
「失礼致します。アミューズの「春キャベツのキッシュ」になります」
「あ、ありがとうございます」
なんどと考えていたら料理が運ばれてきた。
最高級ホテルのレストラン。
テーブルマナーは大事、粗相は駄目だ。
実家が芸能関係だと、ここら辺が厳しいんだよな。どこから誰の目が光っているか分からない。
「今夜は、楽しむわよ。結城」
「……なんで君は、獲物を狙うような目で俺を見てるんだよ」
………2時間後。
「結城〜! 頭がボーッとするわ〜!………少し眠るわね………」
「…………アイシャ、なんでジンジャーエールで酔うんだよ。……聞いてないし」
本当に眠っている。
料理の中に入っていた微量の料理酒で酔ったかな?
……そういう俺もトイレが近くなってきた。
「すみません。彼女、少し体調が悪いようなので、横になれるように椅子を用意して頂いてもいいですか?」
「は、はい。直ぐご用意致します。少々お待ちをっ!」
サービス(女性)の人たちがソファーを担いで持ってきた。いや、どんなサービスだよ。
「……うぅ……俺もアイシャが寝ている間にトイレトイレと……」
眠っているアイシャを残していくのは、申し訳ないが膀胱が破裂しそうなんだ。許してほしい。
「…………ここはどこですの? 迷いましたわ」
そしてトイレの後、ホテル内で迷子になった女の子と遭遇した。艶やかな銀髪の女の子に。
「どうしたんですか?」
「え?……貴方は……(綺麗なお顔の方ですわね。一瞬、見惚れてしまいましたわ)」
「?」
「は、はい。少し迷ってしまいまして、途方に暮れていましたの。最上階にある「百合の部屋」に行きたいのですけど。分からなくて」
「そうなんですか。それは困りましたね。……少し待ってて下さい。ホテル内の地図を見てみますね」
「ホテル内の地図ですの?」
俺はポケットからスマホを取り出すと、『ニューガーデン』のサイトを検索。ホテル内の地図が掲載されているブラウザを開いた。
「あぁ、ここか。「百合の部屋」でしたよね? ここから近いんで案内しますから、付いてきて下さい。お嬢さん」
どう見ても身分が高そうな高貴な人にしか見えないんだよな。この女の子。
「まぁ、紳士的ですわね。今時いませんわ。貴方みたいな方」
「ハハハ……でしょうね。じゃあ、行きましょう」
……紳士的に扱わないと怒る猛獣と付き合ってたからな。
その後、お嬢さん……有栖川葵さんを「百合の部屋」へと無事に連れて行った。
「ここまで案内していただきありがとうございますわ。シラキさん」
「ん〜! いや、俺はシラ……」
いや待て、この娘の些細な間違いを否定して怒らせるのもよくないか。
もう、会うこともないだろうし。名前の間違いくらい指摘しなくてもいいか。
「シラキさん? どうされましたの?」
「あ、いえ。君を無事に送り届けられてよかったよ。それじゃあ、今度から迷子には気をつけて、有栖川葵さん。さようなら」
トュンクッ!
「え、ええ、さようならですわ。……シラキ様。……あら? わたくし……どうしたのでしょうか? 心臓の鼓動が……」
その後、有栖川さんとは別れ。
アイシャの居るレストランに戻ったが……
「むにゃむにゃ……結城。今夜こそは〜!」
「完全に寝落ちしてしまいまして。どうされますか?」
困り果てた顔をしたサービスの人が、俺を出迎えてくれた。
「……あ〜、取り敢えず料理は全部出して下さい。残しても勿体ないので、俺が全部頂きます。それと支払いはクレジットカードで」
「か、畏まりました。す、すぐにお持ち致します」
運ばれてくる料理を食べつつ、アイシャの寝顔を見ながら優雅な夜食を1人で堪能したのだった。
「高級レストランでの、静かな食事もいいもんなんだな。また新たな知見を得てしまったな」
「……今夜はハッスルよ。結城〜!……むにゃむにゃ……」
「同じお嬢様でも、アイシャは愛嬌がある「おもしれえ女の子」枠だよな。……アイシャは」
俺は、そんな「おもしれえ女の子」の寝顔を見ながら、幸せな気分に浸っていた。




