第5話 私の部屋に入りなさいよ!……応答なし、なら壁を繋げるんだから
《結城 視点》
俺は、小学校の頃までは虚弱体質だった。
風邪も引きやすくて、体調もすぐ壊した。
その上顔は童顔で女の子みたいとよく言われ、上級生の女子の先輩達に苛められ金銭を要求されそうになったこともあったくらいだ。
そんな時は、男子の先輩達が「ハァ、ハァ」吐息を漏らしながら、必死に俺を守ってくれていたんだよな。
男子の先輩って、なんであんなに親切で優しいんだろうか?
……そんな時期に、俺と似たような悩みで不登校気味になっていたのが、元カノの宵宮・クロメール・アイシャだった。
彼女も、美少女過ぎるその容姿のせいで、男女関係のトラブルが絶えなかったんだ。
そして、とある出来事がきっかけで俺たちは出会い、お互いの合意で偽の恋人になって……そのうち本当の恋人になって――――俺から別れを切り出して別れた。
『結城〜! 返事しなさいよ! なんで、自転車の合鍵なんて渡してきたのよ。本物の合鍵寄越しなさい〜!』
お隣のベランダからなにか聞こえてくるが気にしない。
「近所迷惑(俺限定)だろうに……相変わらず。パワフルなお嬢様だなアイシャのやつ」
アイシャは、小さい頃から両親に甘やかされて育てられてきた。
そのため、「言いたいことはハッキリ言い、やりたいことは即行動、勘違いしやすく嫉妬深い女の子に成長してしまったのよ。だから、アイシャのことを一生よろしくね。結城君」とか昔、アイシャのお母さんが言ってたのを思い出した。
「…………電話久しぶりにかけて注意してやるか」
俺は、テーブルに置いていたスマホを取り出して、仲違いになった夏の日(9ヶ月振り)に元カノへと電話をした。
『プルルル……プルルル……何よっ! さっさと部屋の中に私を招き入れなさいよ。結城!』
着信音がなって数秒後、近所迷惑の元凶《元カノ》が電話に出た。
「アイシャ……宵宮さん。うるさい、ハウスハウス」
『だから誰が犬よ!』
……キャンキャンキャンっとさっきまで叫んでたじゃないか。
なんて事をそのまま伝えるとアイシャは怒るので、スルーする。
仲直りした途端に部屋に入れろなんて言われても、さっきみたいにすんなり入れると思うなかれ。
(こ、これでまた私たちお友達として、仲良くできそうね。結城)
……何が「お友達として仲良くできそうね」だ。
俺はてっきり「また付き合いましょう」とか言われるかと凄く期待していたのに。《《お友達》》かよ。
……そっちがその気なら、こっちも一定の距離感を取らせてもらうんだからな。アイシャ。
『な、なによ。まだ怒ってるの? わ、私たち、ちゃんと仲直りできたじゃない。後は同棲するだけよ。だから貴方の部屋に私を入れなさい。結城』
……なにを言ってるんだ? アイシャは? 頭でも打ったのか?
「ハハハ。冗談が過ぎるよ、宵宮さん。俺たちは来月から思春期真っ盛りの高校生だぞ。入れるわけないだろう」
『は? なにを言ってんのよ。結城! 私たち、元恋人同士だったのよ。お互い、遠慮なんていらないじゃない』
「いや、いるだろう。アホの子」
『だ、誰がアホの子よ!』
「俺たちは、年頃の男女同士だ。適切な距離感で高校生活を行うべきだろう。なので、今後君を俺の部屋には招かないからな。それじゃあ」
『は!? な、なにを勝手に決めてるのよ。それじゃあ、せっかく仲直りした意味ないじゃ……ピッ!』
「ふぅ〜! 疲れた……寝よう」
昨日の買い出しの時も、変な娘に絡まれて大変だったしな。
おまけに自分の部屋に居れたら、アイシャはうるさいし……
「……相変わらず……距離感が……バグった……元……カ……ノ……だ……よ……な……ZzzZzz」
俺は、昨日買ってきた小さい一人用ソファーに座ると寝落ちしてしまった。
『ここを貫通させて、扉を開ければいいんですの?』
『そう! じゃないと会ってもくれないのよ! そんなの絶えられないわ。お願い。葵』
『むむむ。親友がこんなに困っているのなら仕方ありませんわ。突貫工事の始まりですの』
『あ、ありがとう。葵〜!』
ドガアア!!キュイイインンン!!!バギバギッ!!カンカンッ!!
◇◇◇
「………おっと……やば……昼寝のつもりが、もう夕方近くに……起きないと」
ベランダの方を見ると空が夕暮れに染まっていた。何時間も眠ってたらしい。
「あっ! やっと起きた! おそよう。結城〜!」
「お、おう。おはよう……アイシャ?」
「お、アイシャって呼んでくれたわね。えへへ」
俺の目の前にはエプロン姿のアイシャさんが立っていた。
…………何でだ?
「き、君。どこから侵入してきた? まさか鍵だって何重にも昨日かけ直したのに?」
「にひひ! 友情パワーよ。それよりも食事にしましょうよ。結城のためにオムライス作ってあげたんだから。完食しなさいよね」
などと笑顔で言われてしまった。
「いや、俺の質問にちゃんと答え……お、おい。手を引っ張るな。アイシャ〜!」
「内緒よ〜! それよりも、これからの半同居生活楽しみね。結城〜!」
この時の俺はまだ知らなかった。
俺が住むようになる部屋のあっちこっちに、アイシャの部屋へと通じる秘密の入り口が幾つも作られたなんて知らなかったんだ。




