第3話 気まずい恋人達は相思相愛?
《白鷺結城 視点》
現在。元カノが椅子に座ってテーブルを挟んで向き合っている。
「…………………………」
「…………………………」
気まずい。
アイシャの勢いに押されて、部屋へと上げてしまったけど。なにを喋ればいいんだろうか?
「…………………………」
数週間振りに見る元カノは、ミロのヴィーナスの様に美しかった。
いやいや、見惚れている場合か俺。
さっさと一人暮らしを始めた経緯を説明して帰ってもらわないと。
「………なんで?」
「え?」
ずっと思考を巡らせて考え事をしていたら、アイシャが口を開いた。
「なんで、卒業式の別れようなんて言ったのよ?」
いきなり核心を突く質問をされてしまった。
「なんでって……そりゃあ」
「そりゃあ……何よ!?」
アイシャがテーブルを両手でガンっと着くと、そのまま勢い良く立ち上がった。
「か、可愛い顔を0距離で近づけてくるな。恥ずかしいだろう」
「か、可愛いって…………それで褒めているつもりなの? 言い訳が完了したとでも思ってるわけ?」
ジト目で睨むなって……なんで俺が尋問されているんだ? アイシャは俺のことを嫌いなんじゃないのか?
「別れた途端に、なんで距離感バグってんだ。は、離せよ。顔が近い!」
「……それで? なんで私をずっと避けてたのよ? 説明しなさいよ。早く!」
「そ、それは……」
「何よ? さっさと言いなさいよ! 結城!」
会話の主導権を完全に握られている。ここ俺の部屋だよな?
「9ヶ月前にアイシャが「浮気者」とか騒ぎ始めたからだろう。そこからお互い拗れに拗れて話さなくなって。あぁ、俺たちは自然解消したと思ったんだ」
そう。あれは去年の夏が始まったすぐの時だった、クラスメイトたちにアイシャへの誕生日プレゼントを相談し、とある雑貨屋で一緒に選んでいるのをアイシャに目撃されたあの日から俺たちの関係は拗れたんだ。
「浮気者って! それは、結城が三月さんと仲良くデートしてたから怒ったんでしょう? 私と付き合っていたのに、別の女の子とデートしてれば誰だって怒るわよ!」
「デートなんてしてない! 俺はアイシャのためにプレゼントを買おうとしていただけなんだ」
「結城がモテるから信じられないわ。ふんっ!」
「いや……俺の話をちゃんと聞いてくれよ」
「き、聞いてるわよ。結城がモテるのがいけないわ」
いくら彼女に説明しても、最終的にお互いこんな状態になる。話が噛み合わないというか。
……たしかに俺は顔と家柄くらいしか取り柄がない男だ。それが原因で苛めや金銭のトラブルなんて小さい頃からしょっちゅうだった。
誘拐までされかけたこともある。
いや、今はそんな話はどうでもいいんだ。
「………別れを切り出したのは悪かったよ。ごめん。それよりも、なんでアイシャが隣の部屋に居るんだよ。まさか俺のストーカーでもするために部屋を借りたのか?」
「ち、違うわよ! なんでそうなるの? 偶々《たまたま》よ! 偶々。結城が住む部屋の隣に引っ越してきたのよ。偶々ねっ!」
ものすごい反論された。そうか偶々だったのか。……本当に偶々か?
まぁ、いいや。今の情緒不安定なアイシャさんになにを言っても、反論されそうだしな。
一旦、俺の部屋からお帰りいただき、今後は入室させないようにしよう。
なんて事を企んでいると。アイシャのお腹から……
グウゥ〜!
「……お、お腹が減ったわ。結城」
「………………そうか」
お腹を鳴らした音が聞こえてきた。
「ツーバーリーツで何か頼むか」
「………………そうね」
◇
「支払いはBayBayでお願いします」
「ハイッ! 『ピッザラ』のお届けもので〜す! ありがとうございました」
「…………何か?」
「い、いえ、お兄さん。綺麗なお顔さんですね〜! こちら、私の連絡先ですので、お渡ししておきますね〜! どうぞ!」
「……いや、いらないんですけど」
「アハハハ!! またまたご冗談を〜! スマホお借りしますね。ポチポチポチと……私、スポーティー美少女の赤坂雫です。連絡先、登録しておきました。これからよろしくお願いしますね」
「は?……いつの間に?」
「隙ありですね。お兄さん。またのツーバーリーツのご利用お待ちしていますよ〜! お兄さんの連絡先もバッチリ覚えたので、後で連絡しますね〜! ではでは〜!」
行ってしまった。なんだったんだ……
「赤坂雫か。……これが春。新しい出会い……か」
「じゃないわよ! 元カノの前で、なにをまたフラグ建ててるのよ!」
「うわぁ!? アイシャ。なんでいきなり俺の後ろに立ってんだ!」
「ずっと後ろで観察していたわよ。浮気も……いえ、もう別れたわよね。私たち……そうよね。これ浮気じゃなかったわね。もうっ! なんなのよ! 結城はっ! もうっ! もうっ!」
アイシャの機嫌がまた悪くなり始めた。
まずいな。凄くまずい。とりあえずピザを餌付けして機嫌を直してもらわないと。
「とりあえず一緒にピザ食うか?」
「ええ、食べるわ。ぜひっ!」
「……おう。食い終わったら自分の部屋に帰ってくれよ」
「それは嫌!」
「……なんでだよ」
数週間前に別れたばかりなのに、俺たちは2人きりでなんでピザを食うはめになってるんだろうか?
◇
「ハフッ! ハフッ! 『激辛麻婆豆腐味のバジルマスカルポーネピザ』美味しいわね。結城」
「おう。こっちの『トマトベースのゴルゴンゾーラマルゲリータ』も美味しいぞ。いるか? アイシャ」
「食べさせてくれるの? なら、私も食べさせてあげるわ。はい、あ〜ん!」
「……お、おう。あ〜ん!……辛いけど旨いな」
「でしょう? 久しぶりに結城と食事ができて私も美味しい食事を取れるのは、幸せよ」
「そ、そうか。それは良かったな」
「えぇ!」
……ピザを食べさせたことでアイシャの機嫌は直ったけど。
俺たち別れてたんだよな?
それなのになんで同居カップルみたいに、仲良く同じ部屋で食事しているんだろうか?




