第2話 お隣のアイシャさん
《宵宮・クロメール・アイシャ 視点》
意地の張り合いだと勝手に思っていた。
どうせお互いの受験が終われば、元の鞘に収まる。また結城と甘い学生生活が送れると勝手に勘違いしていた。
卒業式が終わった後、皆が居なくなった教室に呼び出された時は、「あぁ、これでやっと結城と和解できるのね」なんて期待していたのに………
【俺たち、もう別れよう。アイシャ】
言われたのは、そんな言葉だった。
眉目秀麗で、綺麗な艶やかな黒髪の私自慢の彼氏がそう言った。
一瞬。彼が……結城がなにを言っているのか理解できなかった。
理解に苦しんで……数秒経ってやっと理解した。
「あぁ、そっか。私たち、とっくに手遅れだったんだ」
……そりゃあ、そうよね。私は彼のことをものすごく避けていたんですもの。
◇◇◇
卒業式から数日後。
私は実家の庭先で傷心ティータイムをして、過ごしていた。
「ハァ〜!……結城が私に謝って、仲直りのする計画だったのに。なんで、別れることになってんのよ。素直じゃない私の馬鹿……」
「……なんだか元気がありませんわね。アイシャどうかなされたんですの?」
春休み期間中、家に遊びに来ていた親友の葵に心配されてる。
駄目ね。顔に出してちゃ、最近失恋したなんて、葵に言ったら格好のネタにされるだけだわ。
「なんでもないわよ。葵。……そう、もう終わったことだからなんでもないのよ」
「? そうなんですか。それなら良いのですけど」
「………はぁ〜、断れば良かったのよね」
そうよ。別れようって言われた時に維持を張らないで、素直に「別れたくない」って言えば良かったのよね。感情的になった私のおバカさん。
「だから、何がですの?」
「だから、なんでもないわよ」
……最初はお互い容姿が良すぎて目立つせいで、回りからのアプローチを回避するために付き合う振りをしていたのに。
いつの間にか本当に付き合うようになって。両想いになれたのに、私の変な誤解ですれ違い始めて破局。
「はぁ〜、なんでこうなっちゃったんだろう?」
「………そんなに思い詰めることがあったのなら、環境を変えてみてはどうですの?」
「なによ突然、環境を変える? どういうことよ」
「そうですわね。気分転換に一人暮らしをしてみてはいかがですか。ワタシたちが春から通う星夏高校は、ここから遠いことですし。丁度良いと思いますよ」
「一人暮らし?」
一人暮らしか。
たしかに地元にいても結城と遭遇する確率もあるし。結城との思い出が多すぎるこの街にいたら心が病んでいくだけだわ。
それなら、数年地元を離れて結城《元カレ》が居ない新天地で過ごした方が気が紛れるわよね。
「まぁ、それが嫌でしたら構わないのですけ……」
「それよ! ナイスアイデアよ。葵!」
そうよ。一旦地元を離れてマインドリセットよ。
一人暮らしで失恋した心を癒すのよ。私〜!
◇
そして、現在。
葵の紹介で住むことになったマンションの部屋。
隣のベランダが騒がしかったから、誰か居るのかと思ってベランダの窓ガラスを開けたら、私の理想のイケメンが立っていたわ。
私(身長165センチ)よりも高い背丈。
綺麗な艶のある黒髪に、優しそうな顔立ち。
眉目秀麗の中性的な美少年。
そう。まるでつい最近別れたばかりの元カレのような人が……
てっ! 私の大切な元カレの結城じゃない!
「はぁ!? えっ? 結城? なんで、あんたがここに居るのよ?」
「……アイシャ? なんで、君がここに居るんだ?」
狼狽する私をジーッと見つめながら、そんなことを言う彼。
何かしら?
凄くドキドキするんだけど。もしかして、やっぱり寄りを戻そうと言われるのかしら?
「…………………ふぅ~………じゃあ、失礼します」
「は? えっ! ちょっと! なによ! その態度! 待ちなさいよ! 結城!」
結城は、無表情でそう告げると自室のベランダの窓ガラスを開けて中へと入っていったわ。
身体を乗り出して、結城の部屋を覗こうと試みてるけど……
こっちのベランダからでは、結城の部屋の様子が全く確認できないわ。
「ちょっと! 結城! 返事をしなさい! 聞いているのかしら?」
「………………………」
む、無反応?……ふ……ふざけ……
「んじゃないわよっ! 元カレのくせに! 私が今、どれだけまた貴方に会えたのが嬉しいか教えてあげるわ!」
この時の私の感情は高揚していた。
最悪の形でお別れした結城にまた、会えた。
また、中学生の頃のようにお話ができると思って心が舞い上がっていた。
急いで玄関に向かうと、靴を履いて扉を開けて隣の部屋の玄関扉へ。
インターホンを鬼連打したわ。
『ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!』
「結城〜! 居るのは分かってるのよ。ここ開けなさいよ! 扉を開けて、なんでこのマンションに居るのか、ちゃんと私に説明しなさいよ! 結城〜! 卒業式の日。なんで私の言葉を無視して、居なくなったのよ! ちゃんと説明しなさいよ!」
インターホンを鬼連打しても無反応〜?
結城のくせになんなのかしら?
ガチャッ!
「と、扉が開いたわ! 結城。なんで私のことを無視したの……んむぅ!?」
扉を開けたと思ったら。結城が私の口元を塞いできたわ。なにするのかしら?
「アイシャ、うるさい。ご近所迷惑だろう。ハウス、ハウスしろ。ハウス」
「んんんんんんんんんんん!!(なら、貴方の部屋の中に招き居れなさいよ!)」
「……はぁ〜、分かったよ。まだなにも家具とか置いてないけど、お好きにどうぞ。宵宮さん」
「んんんん!!(なによ、その反応!!)」
こうして私は、結城に口元を抑えられながら、元カレの部屋に入ることができたのだわ。




