第10話 このままが良いのだけど?
今、私はすごく幸せだわ。
「髪乾いたんだし、自分の部屋に帰れよ。アイシャ」
「いやよ。めんどくさいもの」
「……なんだよ。それ」
「フフフ、なんででしょうね」
別れたはずの元カレの背中にベッタリ自分の背中を押し付けて甘えているの。
中学生の頃じゃあ考えられない光景ね。
「……あのさ」
「ん〜? 何かしら? 結城」
「中学生の頃はさ」
「……うん」
「色々と勘違いさせて悪かった。俺がアイシャに勘違いするような行動を取って、別れを切り出してさ」
「ん? またその話なの? もういいの」
「……いや、よくないと思うけどな」
「いいじゃない。そのおかげで、今の私たちは物理的にすごい近い距離になれたんですもの」
そう。たまたまだったとはいえ、部屋が隣人同士。最高よ。
毎晩、結城の部屋に侵入すると縄で縛られて簀巻きにされるけど、そんなの些細なことだわ。
これからはずっと結城とイチャイチャできるんだもの。後は、よりを戻して結婚式をあげるだけなのよ。
「アイシャ……なんか悪いこと考えてるだろう?」
「へぁ!? か、考えてないわよ。私が結城に嫌なことをなんてすると思ってるの?」
「……しないな。アイシャは俺に嫌なことはしない」
「でしょう?」
「しないけど。迷惑はかけてくるな。トラブルメーカーアイシャさんだな」
「むぅ〜! なによ、その変な言い方。酷いじゃない!」
「ハハハ、悪い悪い」
「もう! 結城は、相変わらずの意地悪ね」
お互いの背中を預けながらベッドの上で駄弁っているだけ。
私がせっかく布面積が少ない服装で誘っているのに、なにも手を出してこないのは流石は紳士な結城だわ。
さっさと私を襲いなさいよね。そして、美味しく食べるのよ。
お風呂も私が眠った後に入る気なのかしら?
「……明日はさ」
「ん?」
「明日は高校の入学式ってことは、アイシャの家族も来るんだよな?」
「……なによ。突然?」
良い雰囲気だったのに、結城ったら突然どうしたのかしら?
「いや、アイシャと仲が悪くなった後な」
「うん」
「アイシャの兄妹たちから、なんでアイシャと仲ぎ悪くなったのかを、すごく聞かれるようになったんだよ。毎晩連絡も来るしな」
「……私、そんな話初めて聞いたんだけど」
なによそれ? そんな話、初めて聞いたわよ。……あのアホの子たちは、私と結城が距離を置いている間になにをしようとしていたのよ!
「いや、俺も初めてアイシャに伝えたんだけどな。明日の入学式、妹さんたちも来るんだよな?」
「そうね。来年には、私たちの後輩になっているかもしれないわね」
「そうか。……会うの気まずいんだよな。大切な姉のアイシャを傷つけた最低元カレ野郎とか言われそうでな」
「そうなったら、私が結城を守るわよ。結城は私の元カレだもの」
そう、じつの姉妹だろうと私は容赦なく結城を奪われないように立ち向かうわ。
「そうか。それは優しい元カノさんだな」
「フフン。そうよ! 私は結城にとって、頼もしい元カノさんよ」
「……そっか。それを聞いたら安心した。風呂、入ってくるわ。……そうだ。アイシャ」
「ん〜? 何かしら?」
「今日は、自分の部屋で寝ろよ。思春期の若い男女が一緒のベッドで添い寝して寝るなんて、色々マズいんだからな」
「無理ね」
「そうかよ。……風呂行ってくるわ」
「は〜い!」
ようやくお風呂に入って行ったわね。
……どうしましょう?
私も、もう一度お風呂に入ろうかしら?
「な、な、なにを考えてるのよ。それはハレンチ過ぎるわよ。…………だ、駄目ね。私……本当に結城が大好き過ぎるのだわ」
両手で自分の顔を強く抑える。
テーブルに置いてある鏡を覗き込んで、自分の顔がすごいことになっているのを、まじまじと観察する。
「……林檎みたいに顔赤すぎ。私どれだけ結城のことが好きなのよ。もう」




