4 リーナと講義・研究棟
図書館棟を出ると、ギルがいつの間にか持っていた紙袋から、美味しそうな匂いのする包みを取り出した。リーナのお腹がぐうーっと派手な音を立てて、アルはふき出した。笑いが止まらない。アルは笑いすぎて、目に涙を浮かべながら言う。
「お腹すいてるでしょう?時間が無いから歩きながらで悪いけど、食べて」
リーナは顔を真っ赤にしながら頷いた。
あきれ顔のギルから包みを受け取って、肉や野菜が挟まっているパンにかぶりつく。
恥ずかしさでいっぱいのリーナの心を、素材の味と肉汁、ソースのハーモニーが癒していく。
三人が食べ終わる頃にたどり着いたのは、講義・研究棟だった。丘のふもとから斜面に建物が集まっており、それぞれが石造りの渡り廊下でつながっていて複雑な造りをしている。
ふもとにある第一棟の最上階まで上り、渡り廊下を行くと、斜面にある第二棟の一階につながっている。またその最上階まで上って、渡り廊下を行けば、今度は第三棟の二階につながっている。しかも、途中で第四棟への分かれ道もあった。まるで迷路みたいだ。
リーナが道筋を忘れないか不安になりながら二人について行くと、第三棟の最上階に出た。なかなかの高さまで上ってきたため、渡り廊下に出るととても見晴らしがいい。さっきまでいた図書棟や博物資料棟がとても小さく見える。シュエルダ孤児院もどこかに見えそうだ。
「ほら、あれがカロックス山。シャロン領名物」
アルが楽しそうに指さす方を見ると、遠くに山の上の方がのぞいているのが見えた。
「山って大体ぼこぼこした形をしてるのに、あの山だけは砂遊びで作ったようなきれいな形なんだよね。美しさと大きさの威容をたたえて、サリージャ教の聖地にもなってる。すごいよね」
「本当……。綺麗……」
リーナはうっとりとつぶやく。山ははるか遠くにあるのに、リーナは頭の中で、頂上からふもとまで美しい傾斜を描く姿を見上げていた。
「さあ、行こうか」
アルの声掛けで、リーナは名残を惜しみながら、歩き出した。
到着したのは、第五棟。丘の一番高い所にあった。疲れた。リーナは、毎日こんな所に通ってる人がいるだなんて大変だろうなと思いを馳せた。
アルに案内されて講義室に入ると、学生たちが談笑している。まだ授業は始まっていないようだ。そこそこ広いわりに、学生はまばらだった。
アルは後ろの方の席に移動しながら、リーナに笑いかける。
「もうすぐ、アトセルティルス文明研究の第一人者、シュバルト教授の講義が始まるよ」
「本当!?」
リーナは、さっき図書館棟の本棚にシュバルト教授の名前がたくさん並んでいたことを思い出した。アルが持っていた本にも書いてあった。
リーナは、わくわくしながらアルの隣りに腰を下ろす。
「あれ? ギルは座らないの?」
リーナが不思議そうに尋ねると、ギルはむすっとして片眉を上げる。
「僕は、興味の無い話を長々と聞いていられるほど忍耐強くないんだが」
リーナが反射的に申し訳ないと思うと同時に、アルが噴き出した。
「知っているよ。君は講義室の外で休憩しているといい。講義中は安全だろうから」
アルが鷹揚に手をふると、ギルは一礼して講義室を出て行った。
講義が始まると、シュバルト教授が、アトセルティルス文明の出土品を順にあげて考察を語り始めた。リーナにとってはとても興味深く、思わずアルに「面白いね!」と目で訴えた。しかし、アルは、目を閉じていて気付いてくれない。どうやら眠ってしまっているようだ。リーナは一つため息をついて、講義に戻った。
たっぷり一時間、話を聞いたリーナは満足だった。なんだかいろんな事を思い出せたような気がする。でも、所々に違うんじゃないかと感じるような違和感もあった。
講義の終了とともに目を覚ましたアルは、私の表情を見て笑みを浮かべる。
「面白かったようだね」
「うん!ありがとう」
「何か、手掛かりになりそうなことはあった?」
リーナは考え込む。
「炎ではない明かり、自分で回って風を送る羽、太陽も火も無いのに温まる部屋」
「謎かけみたいだね」
「どうやったらそうなるかはわかんないんだけど、あり得るような気がしたんだけどな~」
リーナは首をひねる。
「あ! 学院の地下や王都の地下にも、まだまだ遺跡が眠ってるんだって。半分も発掘できてないらしいよ」
「へえ。それを見に行くのも良さそうだね」
アルの言葉に、リーナの目が輝く。
「見に行けるの!?」
「学生なら、申請すれば誰でも見られるはずだよ。行ってみよう」
アルは、おもむろに後ろに声をかける。
「じゃあ、ギル、そういうことだから」
「ギル!?」
リーナは、いつの間にか、後ろに控えていたギルに驚いて机に背中をぶつけた。




