第38話
「……とりあえず、あれをどうにかしないと帰れないんだよね。」
僕は目の前に立つ巨大なホブゴブリンを見上げながら、出来るだけ普段通りの声でそう言った。もっとも、手のひらには嫌な汗が滲んでいるし、心臓もさっきから妙に忙しい。相手は身長二メートルを軽く超える巨体で、肩や胸には鉄製らしい防具、右手には僕の胴体ほどもある棍棒を持っている。
鑑定によればレベル15。僕たちのほぼ倍だ。
しかも固有能力に【剛力】【威圧】【統率】と、いかにも強そうなものが三つも並んでいた。
「ご主人、オイラが先に行くワン?」
「待って。あの棍棒に当たったら二郎丸でもただじゃ済まないよ。」
「当たらなければ大丈夫だワン!」
「そりゃそうだけどさ……。」
「シュウ君〜。」
「ん?」
「お腹〜。」
るかにがホブゴブリンの腹を指している。さっきも教えてくれた通り、胸や肩は防具で覆われているのに、腹の中央だけは妙に無防備だ。確かに狙うならそこだろう。ただ、問題はあの長い腕と巨大な棍棒をどうやって避けるかだった。
「よし。二郎丸は横から気を引いて、るかには少し離れたところから毛針。僕は隙が出来たら腹を狙う。ただし、誰かが危ないと思ったらすぐ声を掛けること。いいね?」
「分かったワン!」
「は〜い。」
「それから二郎丸、絶対に棍棒を受けようとしないでよ。」
「オイラそんなことしないワン。」
「昨日までの君ならやりそうだから言ってるんです。」
「昨日のオイラとは違うワン!」
「昨日って、つい二十四時間くらい前なんだけど。」
そんなことを話している間に、ホブゴブリンがこちらへ歩き始めた。
一歩ごとに石床が鈍い音を立てる。見た目の割に動きは遅そうだが、あの長い腕を考えると間合いを見誤るわけにはいかない。
「じゃあ、行くよ!」
「ワン!」
二郎丸が左へ駆け出し、僕は右へ回り込む。るかには入口付近から動かず、いつでも毛針を撃てるように身構えた。
ホブゴブリンは最初、僕の方を見ていた。
ところが二郎丸が横から大きく吠えると、そちらへ顔を向ける。
「こっちだワン! 大きいだけじゃ当たらないワン!」
「二郎丸、挑発はほどほどに!」
「作戦だワン!」
「君の作戦、だいたい余計な一言が付くんだよ!」
ホブゴブリンが棍棒を横へ振った。
ブォンッ!
凄まじい風切り音とともに、二郎丸の頭上を巨大な棍棒が通過する。二郎丸は素早く身を伏せて避けたものの、僕の方が肝を冷やした。
「危なっ!」
「余裕だワン!」
「余裕って言う人ほど危ないんだよ!」
その隙に僕は背後へ回り、鎧のない腹へ木刀を振り込んだ。
ゴッ!
確かな手応え。
「よし!」
ところがホブゴブリンは少し体を揺らしただけだった。
「……あれ?」
普通のゴブリンなら、今の一撃でかなり効いていたはずだ。
ホブゴブリンがゆっくり振り返る。
赤い目と目が合った。
「……こんにちは。」
「グオォッ!」
「ですよね!」
慌てて後ろへ跳ぶ。
次の瞬間、さっきまで僕が立っていた場所へ棍棒が叩き付けられた。
ドォォン!!
床の石が砕け、小さな破片が飛び散る。
「ちょっと待って! 床が割れたんだけど!」
「凄い力だワン!」
「感心してる場合じゃない!」
「シュウ君〜右〜!」
るかにの声に反応して体を捻ると、ホブゴブリンの左手が目の前を通り過ぎた。棍棒だけを警戒していたが、当然ながら反対の手も使えるらしい。
危ない。
実に危ない。
「るかに、ありがとう!」
「どういたしまして〜。」
「毛針お願い!」
「は〜い。毛針〜!」
ドドドドッ!
るかにの背中から放たれた毛針が、ホブゴブリンの腹や太腿へ次々と突き刺さった。
「グガァァ!」
今度は明らかに反応した。
ホブゴブリンがるかにへ向き直る。
「るかに、下がって!」
「は〜い!」
トコトコトコトコ。
……遅い。
「二郎丸!」
「任せるワン!」
二郎丸が猛然と走り、ホブゴブリンの横をすり抜ける。
「こっちだワーン!」
ホブゴブリンが振り返り、棍棒を振り上げる。
その瞬間、二郎丸は進路を変えた。
「忍犬の速さを見るワン!」
「だから余計なこと言わなくていい!」
棍棒が空振りし、二郎丸はそのままホブゴブリンの背後へ回り込む。僕も反対側から近付き、今度は膝の裏を狙って木刀を振った。
ゴンッ!
「グッ!」
効いた。
ほんの少しだが、巨体が傾いた。
「二郎丸、足!」
「噛み付きだワン!」
ガブッ!
「グガァァ!」
二郎丸がふくらはぎへ噛み付くと、ホブゴブリンは怒り狂ったように足を振り回し始めた。僕は慌てて二郎丸へ声を掛ける。
「離れて!」
「ワン!」
二郎丸が飛び退いた直後、巨大な足が石床を踏み鳴らした。
ズンッ!
「あんなのに踏まれたら終わりだね……。」
「オイラ踏まれないワン!」
「うん。絶対踏まれないで。」
ここまでで分かったことがある。
まず、ホブゴブリンは非常に頑丈だ。僕の木刀も二郎丸の噛み付きも、普通のゴブリンほどの効果はない。るかにの毛針は比較的よく効いているようだが、あの巨体を倒すには相当な数を撃ち込まなければならないだろう。
一方で、動きは単純だった。
棍棒を振る。
殴る。
踏み付ける。
どれも威力は恐ろしいが、攻撃の前に肩や腰が大きく動くので、よく見ていれば避けられない速さではない。
ただし、これは一対一ならという話だ。
僕たちは三人いる。
それなら。
「二郎丸、るかに! 少しずつ削ろう! 一気に倒そうとしなくていい!」
「分かったワン!」
「ちょっとずつ〜。」
僕たちは改めて距離を取った。
二郎丸が走って注意を引き、僕が横から木刀で打つ。るかには無防備な場所へ毛針を撃ち、ホブゴブリンがそちらへ向かえば二郎丸がまた注意を引く。
地味だ。
実に地味な戦い方だった。
でも、これが意外とうまくいった。
「ご主人、右だワン!」
「分かった!」
「シュウ君〜後ろ〜。」
「ありがとう!」
「毛針〜。」
「二郎丸いるからちょっと待って!」
「もう撃っちゃった〜。」
「ワァァン!?」
二郎丸が慌てて横へ跳ぶ。
毛針がそのすぐ脇を通り過ぎ、ホブゴブリンの腹へ突き刺さった。
「危なかったワン!」
「ごめんね〜。」
「味方に撃つのは反則だワン!」
「二郎丸が急に動くから〜。」
「オイラはいつも動いてるワン!」
「それが問題なんじゃない?」
僕が口を挟むと、二郎丸が不満そうにこちらを見た。
「ご主人までるかにの味方だワン!」
「どっちの味方とかじゃなくて、今はボスと戦ってるんです!」
「そうだったワン!」
本当にもう。
緊張感があるのかないのか分からない。
それでも、少しずつホブゴブリンの動きが鈍くなってきた。
最初は軽々と振り回していた棍棒も、今は一度振るたびに僅かな間が生まれる。腹や脚には無数の毛針が刺さり、膝を庇うような動きも見せ始めた。
「……いけるかも。」
そう思った。
その時だった。
「グオオオオオオッ!!」
ホブゴブリンが突然、天井へ向かって咆哮した。
耳を塞ぎたくなるほどの大声。
それだけではない。
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、足が床へ張り付いたように動かなくなった。
「……え?」
怖い。
さっきまでとは違う。
目の前にいる魔物が、突然どうしようもなく恐ろしいものに思えてきた。
逃げたい。
逃げなきゃ。
でも足が動かない。
「ご、ご主人……。」
二郎丸の声が震えている。
るかにも体を丸めかけていた。
「……威圧?」
鑑定に出ていた固有能力。
これか。
頭では分かっているのに、体が言うことを聞かない。
ホブゴブリンが棍棒を持ち上げた。
狙いは。
二郎丸。
「……っ!」
動け。
動けよ!
僕は必死に足へ力を込めた。
その瞬間、胸の奥で何かがすっと軽くなった。
目の前に小さなウィンドウが現れる。
【精神耐性】
精神干渉への抵抗に成功しました。
「……!」
動ける。
「二郎丸!!」
僕は叫びながら走った。
二郎丸はまだ動けない。
ホブゴブリンが棍棒を振り下ろす。
間に合わない。
僕は二郎丸へ飛び付き、そのまま横へ転がった。
ドォォォン!!
すぐ後ろで床が砕けた。
「うわぁぁぁ!」
石の破片が背中へ当たり、思わず声が出る。
痛い。
でも生きている。
「二郎丸、大丈夫!?」
「ご、ご主人……。」
「大丈夫だから! 怖いのはあいつのスキル!」
二郎丸の体が震えている。
僕はその背中を撫でた。
「ほら、いつもの二郎丸に戻って。あいつに唐揚げ全部取られちゃうよ。」
「……。」
「今日のお弁当の唐揚げ、全部食べられちゃうよ?」
「……ダメだワン。」
「そうそう。」
「オイラの唐揚げだワン!」
二郎丸が立ち上がった。
「取らせないワン!!」
「うん。そこまで怒らなくてもいいけど。」
本当に唐揚げが好きなんだな。
るかにもまだ少し震えている。
「るかに!」
「シュウ君〜怖い〜。」
「大丈夫! こっちおいで!」
「……。」
「帰ったらプリン食べよう!」
「……プリン?」
「うん。大きいやつ!」
「大きいの〜?」
「特大!」
「……食べる〜!」
るかにも立ち直った。
……。
何だろう。
僕たちの精神力は食べ物で出来ているんだろうか。
それでも、二人が動けるようになったことに心底安心した。
ホブゴブリンがこちらを見ている。
「……なるほど。」
こいつには威圧がある。
そして剛力。
長期戦になれば、こちらが集中力を切らした瞬間に一撃を貰うかもしれない。
僕たちは少しずつ削るつもりだったけれど、いつまでも同じ作戦を続けるのは危険だ。
「二郎丸、るかに。」
「ワン。」
「は〜い。」
「そろそろ決めよう。」
二郎丸が僕を見る。
「どうするワン?」
「るかに、まだ毛針撃てる?」
「撃てるよ〜。でもいっぱいは疲れる〜。」
「じゃあ最後に一回だけ、出来るだけたくさんお願い。」
「分かった〜。」
「二郎丸は僕と一緒にあいつの足を狙う。倒れたら、るかにが腹へ毛針。最後は僕が行く。」
「分かったワン!」
「ただし、僕が合図するまで飛び込まないこと。」
「ワン!」
「絶対ね。」
「ワン!」
「……二郎丸?」
「分かってるワン!」
本当に分かっているのだろうか。
まあ、今さらだ。
僕は木刀を握り直した。
白銀色の刀身が、部屋の松明の光を受けて淡く輝いている。
兎神の霊剣。
絶対に折れないというだけでも十分ありがたい。
普通の木刀だったら、今頃とっくに折れていただろう。
「行くよ!」
僕が右へ。
二郎丸が左へ。
ホブゴブリンは僕を見た。
棍棒を持ち上げる。
来る。
大きく振り下ろす。
僕は横へ跳んだ。
ドォン!
床が砕ける。
でも今度は慌てない。
棍棒を振り下ろした後、ほんの一瞬だけ腕が止まる。
そこへ踏み込む。
「せぇい!」
木刀を膝へ。
ゴンッ!
ホブゴブリンが僅かに体勢を崩した。
「二郎丸!」
「ワーーン!」
二郎丸が反対側から飛び込む。
噛み付き。
ガブッ!
「グガァァ!」
ホブゴブリンが足を振り上げようとする。
「離れて!」
「ワン!」
二郎丸が飛び退く。
僕はもう一度、同じ膝を打った。
ゴッ!
「グッ!」
巨体がぐらつく。
「もう一回!」
「ワン!」
二郎丸が体当たり。
ドンッ!
ホブゴブリンの片膝が床へ落ちた。
ズンッ!
「るかに!」
「は〜い!」
るかにの背中の針が逆立つ。
「いっぱい行くよ〜!」
「お願い!」
「毛針〜〜〜!」
ドドドドドドドドッ!!
これまでで一番多いんじゃないかと思うほどの毛針が、一斉にホブゴブリンへ向かった。
腹。
脇腹。
太腿。
肩。
鎧の隙間。
「グオオオオオッ!!」
ホブゴブリンが苦しそうに叫ぶ。
でも、まだ倒れない。
「嘘でしょ……。」
あれだけ撃たれて、まだ動けるのか。
ホブゴブリンが棍棒を持ち上げる。
るかにを狙っている。
「るかに逃げて!」
「疲れた〜。」
まずい。
毛針を撃ち過ぎた。
「二郎丸!」
「ワン!」
二郎丸がるかにへ走る。
いつものように背中へ乗せ、そのまま横へ駆け抜けた。
「るかに便、出発だワン!」
「わ〜い……。」
「今は喜んでる場合じゃない!」
ホブゴブリンが棍棒を振り下ろす。
空振り。
そして。
動きが止まった。
「……あ。」
膝。
腹。
肩。
全身に傷を負ったホブゴブリンは、棍棒を持ち上げた姿勢のまま、僅かにふらついている。
僕は鑑定した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ホブゴブリン・ロード】
Lv15
HP:19/286
状態:重度疲労・出血
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……十九。」
あと十九。
でも、まだ十九もある。
僕は木刀を握る手に力を込めた。
「二郎丸、るかにをお願い!」
「分かったワン!」
「ご主人〜!」
「大丈夫!」
僕は走った。
ホブゴブリンがこちらを見る。
棍棒を持ち上げようとする。
でも遅い。
一歩。
二歩。
踏み込む。
狙いは腹。
るかにが最初に教えてくれた場所。
「はぁぁぁっ!」
木刀を両手で握り、全力で突き込んだ。
ドンッ!!
深く入った。
ホブゴブリンの巨体が大きく揺れる。
「グ……。」
赤い目が僕を見る。
怖い。
でも、もう一撃。
僕は木刀を引き抜き、今度は下から斬り上げるように振った。
「これで……!」
ゴッ!!
ホブゴブリンが後ろへ倒れた。
ズゥゥン!!
大きな音が部屋へ響く。
「……。」
僕は木刀を構えたまま動かなかった。
まだ起き上がるかもしれない。
二郎丸もるかにを背中に乗せたまま、少し離れた場所で様子を見ている。
十秒。
二十秒。
やがてホブゴブリンの体から黒い煙が上がり始めた。
「……終わった?」
煙が濃くなる。
巨体が少しずつ崩れていく。
そして最後に。
完全に消えた。
床には、これまで見たものより遥かに大きな魔核が一つ残っていた。
「……。」
「……ワン。」
「……。」
僕たちはしばらく何も言わなかった。
本当に終わったのだろうか。
あの巨大な魔物を。
僕たち三人で。
「……勝った?」
二郎丸が僕を見る。
「勝ったワン?」
るかにも小さく首を傾げる。
「勝った〜?」
僕はゆっくり木刀を下ろした。
「……勝った。」
その瞬間。
「やったワーーーン!!」
二郎丸が走ってきた。
「ご主人! 勝ったワン! 勝ったワン!」
「痛い痛い! ちょっと待って!」
勢いよく飛び付かれ、僕はそのまま床へ尻餅をついた。
「ご主人凄いワン!」
「二郎丸も凄かったよ!」
「オイラ頑張ったワン!」
「うんうん!」
るかにも二郎丸の背中から降り、僕の膝へよじ登ってくる。
「シュウ君〜。」
「るかにもありがとう。毛針、凄かったよ。」
「疲れた〜。」
「そうだね。今日はいっぱい撃ったもんね。」
「プリン〜。」
「うん。特大プリン買って帰ろう。」
「わ〜い!」
「オイラは唐揚げだワン!」
「はいはい。唐揚げも買おう。」
「六個だワン!」
「三個。」
「五個だワン!」
「何で今交渉始めるの!」
二郎丸が僕の膝へ前足を掛ける。
「四個で手を打つワン!」
「……今日は四個でいいよ。」
「やったワン!」
もういい。
今日は特別だ。
僕は二郎丸とるかにを抱き寄せた。
二郎丸の毛は温かく、るかにはいつものように僕の腕へ顔を押し付けている。
本当に良かった。
誰も死ななかった。
大きな怪我もしていない。
それだけで十分だった。
「……帰ろうか。」
「ワン!」
「帰ろ〜。」
そう言って立ち上がろうとした時だった。
ピロン。
いつものウィンドウが現れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【第101ダンジョン】
最終守護個体の討伐を確認しました。
攻略進行度:100%
第101ダンジョンの攻略が完了しました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……おお。」
本当に攻略したんだ。
僕は表示を何度も読み返した。
百%。
攻略完了。
ようやくだ。
「二郎丸、るかに。見て。」
「百だワン!」
「百〜。」
「うん。全部終わった。」
二郎丸が嬉しそうに尻尾を振る。
るかにも僕の膝の上で小さく跳ねた。
「やったね。」
「やったワン!」
「やった〜!」
その時。
ピロン。
もう一つウィンドウが現れた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【初攻略達成】
世界で初めてダンジョン攻略が確認されました。
初攻略特別報酬が付与されます。
報酬の詳細はステータス画面から確認出来ます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「……初攻略?」
僕は思わず声に出した。
世界で初めて?
本当に?
日本で初めてじゃなくて?
世界で?
「……凄くない?」
「凄いワン!」
「一番〜!」
「いや、待って。僕たちが世界で最初ってこと?」
「一番だワン!」
「るかに一番〜。」
二郎丸とるかには大喜びしている。
でも僕は、少しだけ背筋が寒くなった。
世界で初めて。
ということは。
他のダンジョンはまだ一つも攻略されていない。
三百六十五あるダンジョンのうち、僕たちが攻略したのは第101ダンジョン。
残り三百六十四。
しかも、この第101ダンジョンはBランクだ。
上にはAランク、Sランク、SSランクまである。
「……大丈夫なのかな、世界。」
僕がそんなことを考えていると、突然、部屋の明かりが一段と強くなった。
「え?」
松明ではない。
天井。
壁。
床。
部屋全体が淡い金色に輝き始めた。
「ご主人、何だワン!?」
「分からない!」
「綺麗〜。」
「るかに、ちょっと待って!」
そして。
頭の中に。
声が響いた。
いつものレベルアップのふざけた歌声とは全く違う、落ち着いた、どこか無機質な声だった。
『世界告知』
「……え?」
『世界初のダンジョン攻略が達成されました』
『攻略対象――第101ダンジョン』
『初攻略者――桑名秀』
「……。」
『従魔――二郎丸』
「オイラだワン!」
『従魔――るかに』
「るかに〜。」
『初攻略特別報酬を付与しました』
『第101ダンジョンは九十日間の休止期間へ移行します』
『未攻略ダンジョン数――三百六十四』
『次回集団暴走判定までの猶予期間が九十日に更新されました』
『世界告知を終了します』
……。
静かになった。
部屋の金色の光がゆっくり消えていく。
僕はしばらく動けなかった。
「……。」
「……ワン。」
「……。」
二郎丸が僕を見上げる。
「ご主人。」
「……何?」
「オイラの名前呼ばれたワン。」
「……うん。」
「世界告知って言ってたワン。」
「……うん。」
るかにも首を傾げる。
「シュウ君〜。」
「……何?」
「世界中に聞こえたのかな〜?」
「……。」
世界告知。
世界初。
初攻略者。
桑名秀。
従魔。
二郎丸。
るかに。
……。
ちょっと待て。
世界告知って。
まさか。
本当に。
世界中?
僕の名前が?
しかも実名?
「……。」
二郎丸が嬉しそうに尻尾を振る。
「ご主人、有名人だワン!」
るかにも楽しそうに言う。
「シュウ君〜世界一〜。」
「……。」
いやいやいや。
待って。
僕、そんなの聞いてない。
匿名希望とかないの?
せめて冒険者名とか。
そもそも僕、まだ無職なんだけど。
防衛省に送った魔核も実名だったし。
住所も書いたし。
……。
あれ?
これ。
もしかして。
とんでもないことになったんじゃ。
僕は二郎丸を見る。
るかにを見る。
もう一度、何も表示されていない空間を見る。
そして。
「えーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
僕の叫び声が、第101ダンジョンの最奥部へ盛大に響き渡った。
足掛け何年?やっとここまで書けました。
当初お読みいただいていた方々。こんなに時間が掛かり本当に申し訳ありませんでした。
一般的には第一章はここまでとなります。
次回から心の中で第2章の開始です。(やり方が不明)
お読みいただいた皆様本当にありがとうございました。
また来週投稿しますので引き続きどうぞよろしくお願いします。




