↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/32

第29話

それから一週間ほど、僕たちは毎日のように裏山ダンジョンへ通い続けた。


朝起きて朝食を食べ、装備を整えて山へ入り、夕方になるまで探索して帰ってくる。そんな生活がいつの間にか当たり前になっていた。


最初の頃は洞穴へ近付くだけで胸がざわついていた。あの暗い入口の向こうには命を奪う魔物がいるという事実が、どうしても頭から離れなかったからだ。


でも今は違う。


洞穴へ続く獣道を歩きながら「今日は何匹くらい倒せるかな」と考えている自分がいる。恐怖が消えたわけではない。ただ、恐怖と付き合いながら前へ進めるようになっていた。


「今日はセンチピードを五匹倒すワン!」


「るかには六匹〜。」


「いや、数を競うゲームじゃないからね。」


「「え〜。」」


相変わらず二人は自由だった。


洞穴へ入り、石造りの階段をゆっくり降りていく。


ひんやりとした空気が肌を撫で、湿った土と苔の匂いが鼻をくすぐる。壁に並ぶ松明のような灯りも、最初は不気味にしか見えなかったのに、今では「いつもの灯り」になってしまった。


「罠感知。」


特に反応はない。


「よし、行こう。」


一週間も通っていると、ダンジョンにもある程度の規則性があることが分かってきた。


入口付近は巨大ダンゴムシ。


少し奥へ行くとジャイアントセンチピード。


さらに奥へ続く通路はいくつかあるが、そこから先はまだ踏み込んでいない。


「無理はしない。」


それが今の僕たちのルールだった。


・・・


「カサカサカサ……。」


通路の先から聞こえてくる音にも、以前ほど驚かなくなった。


「センチピードだね。」


「ワン。」


二郎丸が自然と前へ出る。


「るかには後ろ。」


「は〜い。」


言葉を交わさなくても位置取りが決まる。


巨大ムカデがこちらへ気付き、一直線に突っ込んでくる。


「シャァァァッ!!」


「来るよ!」


ガキン!


二郎丸が前足で受け止め、その隙にるかにが毛針を放つ。


ドドドドッ!


背中へ突き刺さった毛針でムカデの動きが鈍る。


「今だ!」


木刀を振り抜く。


ゴッ!!


甲殻が割れ、ムカデは黒い煙となって消えていった。


「勝ったワン!」


「えへへ〜。」


最初の一匹を倒した頃には汗だくになっていたのに、今では息を整えればすぐ次へ進める。


戦うたびに三人の動きが少しずつ洗練されていくのが分かった。


二郎丸は相手の動きを読むのが上手くなった。


るかには毛針の連射速度が明らかに上がっている。


そして僕は、木刀を振るうたびに体が自然と動くようになっていた。


・・・


ある日は巨大ダンゴムシが三匹同時に現れた。


「ご主人!」


「慌てない!」


三匹に囲まれかけた瞬間、二郎丸が一匹を体当たりで弾き飛ばし、るかにが別の一匹へ毛針を集中させる。


僕は最後の一匹へ踏み込み、木刀を横薙ぎに振る。


ゴッ!


一匹。


二匹。


三匹。


以前なら絶対に逃げていた状況だった。


「すごいね。」


「何がだワン?」


「ちゃんと三人で戦えてる。」


二郎丸が照れ臭そうに尻尾を振る。


「オイラ、ご主人の役に立ててるワン?」


「うん。すごく。」


「えへへだワン。」


その笑顔を見るだけで、また頑張ろうと思えた。


・・・


探索の合間には、妙な遊びも増えていった。


「二郎丸、あそこまで競争!」


「負けないワン!」


通路を全力で走る柴犬。


それを追い掛ける僕。


後ろから「待って〜」と言いながら転がるようについて来るるかに。


「ハァ、ハァ……。」


「ご主人遅いワン。」


「いや、君が速すぎるんだよ。」


素早さ24は伊達じゃなかった。


るかには通路の壁に小さく毛針で落書きをして遊び始めた。


「こら。」


「消えない〜。」


「それ落書きだからね。」


「芸術〜。」


「芸術でもダメ。」


結局、毛針で開けた穴を眺めながら「ハリネズミアート展」を開催していた。


平和だった。


ここがダンジョンであることを忘れそうになるくらい平和だった。


・・・


そんな日々を繰り返しているうちに、裏山ダンジョンは僕たちにとって少し特別な場所になっていった。


最初に魔物と戦った場所。


最初に三人で勝った場所。


最初に「家族」として協力した場所。


「このダンジョン、好きだワン。」


帰り道、二郎丸がぽつりと言った。


「そう?」


「怖いけど、安心するワン。」


「分かる気がする。」


るかにも頷く。


「ここ、お家の近くって感じ〜。」


ダンジョンなのに「お家の近く」という表現はどうなんだろうと思ったが、不思議としっくりきた。


「将来さ。」


「ワン?」


「このダンジョンを近所の人たちの修行場にできたら面白いよね。」


「修行場?」


「うん。徳島さんとか、近所のおじいちゃんおばあちゃんとか。少しずつレベルを上げて、体も元気になって、皆でお茶飲みながら『今日はムカデ三匹倒したよ』なんて話してるような場所。」


「徳島さん強そうだワン。」


「鍬でゴブリン倒しそう〜。」


三人で笑う。


本当にそうなりそうだから困る。


・・・


一週間が過ぎた頃、僕たちのステータスも少しずつ変化していた。


名前:クワナ シュウ 性別:男

職業:冒険者

レベル:8


HP:83

MP:40

SP:6


力:15

体力:12

かしこさ:13

素早さ:11

器用さ:17

魅力:10

運の良さ:85


固有スキル:

「従魔の気持ち」「精神耐性」「世界を変えた者」「鑑定」


スキル:

「罠感知1」「剣術3」


称号:

「備えし者」


名前:二郎丸(柴犬) 性別:男

職業:桑名家の忍犬見習い

レベル:8


HP:70

MP:35

SP:6


力:15

体力:12

かしこさ:17

素早さ:24

器用さ:9

魅力:31

運の良さ:17


固有スキル:

「シュウの加護」「忍犬」


スキル:

「噛み付き3」「気配察知1」「遠吠え1」


忍犬:

「軟化2」


名前:るかに(ハリネズミ) 性別:女の子

職業:桑名家のまほ〜使い

レベル:8


HP:67

MP:52

SP:6


力:5

体力:8

かしこさ:34

素早さ:11

器用さ:13

魅力:42

運の良さ:29


固有スキル:

「シュウの加護」「ハリネズミまほ〜」


スキル:

「丸くなる1」「トゲトゲ1」「バランス感覚1」


ハリネズミまほ〜:

「毛針3」


大きく変わったわけではない。


それでも確実に強くなっている。


剣術は3になり、木刀は体の一部のように振れるようになってきた。


二郎丸の噛み付きは一撃の重さが増し、るかにの毛針は連射速度も威力も明らかに上がっている。


「そろそろ……。」


縁側で夕焼けを眺めながら僕は小さく呟いた。


「ワン?」


「第101ダンジョンへ挑戦できるかもしれない。」


二郎丸とるかにが顔を見合わせる。


あのゴブリンがいたダンジョン。


初めて本気で命の危険を感じた場所。


まだ怖い。


でも今の僕たちなら、あの時とは違う。


右では二郎丸が小さく寝息を立て、左ではるかにが丸くなって眠っている。


三人ならきっと大丈夫。


そんな根拠のない自信が、少しだけ芽生え始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。