第27話
おはようございます。昨日更新出来ずすいません。
茂みを抜けると、いつもの洞穴が見えてきた。
「今日は慎重に行こう。」
「ワン!」
「は〜い。」
二郎丸もるかにも昨日までの反省があるのか、今日は珍しく真面目だった。
洞穴へ入り、石造りの階段をゆっくりと降りていく。
ひんやりした空気が肌を撫でる。
「やっぱり何回来ても慣れないなぁ。」
壁に取り付けられた松明のような灯りがぼんやりと通路を照らしている。
「罠感知。」
特に反応は無い。
「よし、進もう。」
・・・
しばらく歩くと前方の曲がり角から
「カサカサカサ……。」
聞き慣れない音が聞こえてきた。
「止まって。」
二人もピタッと止まる。
ゆっくりと顔だけ覗かせると、そこには一匹の巨大な虫がいた。
体長は一メートルほど。赤茶色の甲殻。
何十本もの足が忙しなく動き、大きな顎をカチカチと鳴らしている。
「うわぁ……。」
生理的に無理だった。
「気持ち悪いワン……。」
「足いっぱい〜。」
るかには少しだけ引いていた。
「鑑定。」
⸻
【ジャイアントムカデ】
Lv3
大型の肉食ムカデ。
素早い動きと毒牙を持つ。
単独行動が多い。
⸻
「ムカデかぁ。」
ダンゴムシよりは強そうだけど、ゴブリンほどではない。
「今回は練習も兼ねよう。」
二人を見る。
「まずは二郎丸が前衛。」
「ワン!」
「無理はしないこと。」
「ワン!」
「るかには後ろから援護。」
「任せて〜。」
「僕は隙を見て攻撃する。」
「「ワン!」」
・・・
その瞬間だった。
ムカデがこちらへ気付いた。
「シャァァァッ!!」
速い。
地面を滑るように一直線に突っ込んでくる。
「来るよ!」
「ワン!」
二郎丸も真正面から駆け出した。
ガキン!
ムカデの大顎と二郎丸の前足がぶつかる。
「うわっ!」
前より全然強い。
でも押されてはいない。
「るかに!」
「え〜い!」
毛針が連続で飛ぶ。
ドドドドッ!
ムカデの背中へ何本も突き刺さった。
「シャアアア!」
怒ったムカデがるかにへ向きを変える。
「今!」
木刀を握り締め、一気に踏み込む。
「せいっ!」
ゴッ!!
手応え。
硬い。でも前ほどじゃない。
ムカデの体が横へ吹き飛んだ。
「効いてる!」
「ワン!」
二郎丸が横から飛び掛かる。
「噛み付き!」
ガブッ!
ムカデの胴体へ牙が食い込む。
「シャアアア!!」
暴れる。かなり暴れる。
二郎丸が振り回される。
「わわわわっ!」
「二郎丸!」
「だ、大丈夫だワン!」
全然大丈夫そうじゃない。
その姿が少し面白い。
「るかに!」
「いくよ〜!」
毛針が今度は顔へ命中する。
「シャッ!」
怯んだ。
「今だ!」
木刀を上段へ構える。
昨日までなら怖くて踏み込めなかった距離。でも今は違う。
「うおぉぉぉ!」
ゴッ!!
ムカデの頭へ直撃。
甲殻が割れ、ムカデはその場でひっくり返った。
ピクピクと数回足を動かしたあと、黒い煙となって消えていく。
「……勝った。」
「勝ったワン!」
「勝った〜。」
三人で顔を見合わせる。自然と笑みがこぼれた。
「思ったより余裕だったね。」
「ご主人強いワン!」
「二郎丸もちゃんと前で頑張れたね。」
「えへへだワン!」
「るかにも援護ありがとう。」
「えへへ〜。」
その時だった。
『レベルアップップップ〜♪』
「出た。」
『レベルアップップップ〜♪』
「また出た。」
相変わらず腹の立つ歌声だった。
「ねぇ。」
「ワン?」
「この人、歌うのやめられないのかな。」
「音痴だワン。」
「二郎丸。」
「ワン?」
「そこまで言ってない。」
「でも音痴だワン。」
「……。」
否定できなかった。
「二人とも大丈夫?」
「オイラ元気だワン!」
元気よく返事をしたものの、二郎丸はその場へぺたりと座り込み、舌をだらんと出して「ハァ、ハァ」と肩で息をしていた。
「いや、全然元気じゃないじゃん。」
「ちょっと疲れただけだワン。」
「それを世間では疲れてるって言うんだよ。」
「えっ。」
「えっ、じゃない。」
そのやり取りを見ていたるかにも、いつの間にかその場へ寝転がっていた。
「るかにも疲れた〜。」
「そっちもか。」
「えへへ〜。」
三人とも笑ってしまう。
少し休憩を取ることにし、リュックから水筒を取り出して麦茶を回し飲みした。冷たい麦茶が乾いた喉を潤し、張り詰めていた緊張が少しずつほどけていく。
「疲れたねぇ。」
「でも勝てたワン!」
「うん。昨日だったら危なかったかもしれない。」
それでも、もう逃げ回るだけではない。ちゃんと戦えている。三人で力を合わせれば、自分たちより少し強い相手にも勝てる。その事実は何より大きな自信になっていた。
その後も夕方近くまで探索を続け、途中で現れた巨大ダンゴムシやジャイアントムカデを何匹か倒した頃には、さすがに全員がへとへとになっていた。
「今日は帰ろうか。」
「賛成だワン……。」
「お腹すいた〜……。」
ダンジョンを出ると、西日に照らされた山々が黄金色に輝いていた。夕暮れの風はひんやりとして気持ち良く、昼間の熱気をゆっくりとさらっていく。
山道を下りながら僕は大きく伸びをした。
「今日は頑張ったね。」
「いっぱい戦ったワン!」
「今日はご飯いっぱい食べられるね〜。」
「それは間違いないね。」
しばらく歩いていると、るかにが突然立ち止まった。
「シュウ君〜。」
「ん?」
「今日いっぱい頑張ったから、ご褒美ほしい〜。」
「ご褒美?」
「アイス〜。」
その一言で二郎丸の耳がピンッと立った。
「オイラもアイス食べたいワン!」
「……。」
どうやら考えることは同じらしい。
「じゃあ帰りにスーパー寄ろうか。」
「やったワン!」
「わ〜い!」
二人は疲れていたはずなのに、その瞬間だけ元気いっぱいになった。
「さっきまで歩くのも大変そうだったのに。」
「アイスは別腹だワン!」
「るかにも〜。」
「ハリネズミにも別腹ってあるんだ。」
「あるよ〜。」
即答だった。
思わず吹き出してしまう。
世界は少しずつ終末へ向かっている。
防衛省も政府も研究者達も、きっと今頃は頭を抱えているはずだ。
だけど僕たちは今日も笑っていた。
今日一日を無事に過ごし、少しだけ強くなって、美味しいアイスを食べながら家へ帰る。
夕焼けに染まる山道を、三人は笑い声を響かせながらゆっくりと歩いて帰るのだった。




