第26話
ご覧いただきありがとうございます。
先週更新できなかったので本日更新させていただきます。
翌朝。
窓の外から聞こえてくるウグイスの鳴き声で目が覚めた。カーテンの隙間から差し込む朝日が部屋を明るく照らしている。
「ふぁぁ……。」
時計を見ると午前六時半。休日にしては少し早い。布団から起き上がろうとして、動けなかった。
「……。」
右腕が重い。
見ると二郎丸が腕を抱き枕代わりにして気持ち良さそうに寝息を立てていた。
「スピー……。」
「二郎丸……。」
そっと体を動かそうとすると、今度は左側から小さな声が聞こえる。
「むにゃ〜……。」るかにである。
いつの間にか僕の肩の辺りまで移動してきていて、頭をちょこんと乗せて眠っていた。
「……。」
狭い。
昨日川の字で寝ようと言ったのは誰だっただろう。
良いとはいったけどこんなに密着するとは聞いていない。
「起きるよ。」
「……ワン。」
返事だけして寝ている。器用だな。
「るかにも朝だよ。」
「あと五分〜……。」
ハリネズミにも五分という文化があるらしい。
結局二人を起こすのに十分ほど掛かり、ようやく三人揃って居間へ向かった。
朝食はベーコンエッグとサラダ、それにトーストとコーンスープという少し洋風の献立にした。
「今日はパンなんだね。」
「たまにはね。」
「パンも好きだワン!」
二郎丸はベーコンから食べ始め、るかにはジャムを塗った食パンを小さな前足で抱えながら幸せそうに頬張っている。
朝食を終えると、僕は食器を片付けながら二人へ声を掛ける。
「今日は裏山ダンジョンへ行こう。」
「ワン!」
「やった〜。」
二人とも嬉しそうに飛び跳ねる。
「でも今日は遊びじゃないからね。」
「ワン!」
「分かってるよ〜。」
「まずは一階層だけ。危なくなったらすぐ帰る。深追いは禁止。」
「「はーい。」」
返事だけは百点満点だった。
・・・
装備を身に付ける。
プロテクトインナー。
胸部プロテクター。
肘と膝のガード。
グローブ。
最後に木刀を背負う。
鏡を見ると、自分でも少し笑ってしまった。
「どう見てもバイクツーリングに行く人なんだけど。」
「カッコいいワン!」
「強そう〜。」
二人には好評らしい。
玄関を開けると朝の空気が気持ちいい。五月の風が木々を揺らし、山からは小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
「よし、行こうか。」
「ワン!」
「は〜い。」
三人で裏山へ向かって歩き始めた。
・・・
ところが、裏山の入口まで来たところで、僕は足を止めた。
「……。」
昨日までとは何か違う。
風だろうか。匂いだろうか。上手く説明できない。
山全体が少しだけ静かだった。
鳥は鳴いている。葉も揺れている。景色は何一つ変わらない。
それなのに胸の奥がざわつく。
「ご主人?」
二郎丸も何か感じたのか耳をピンと立てていた。
るかにも辺りをきょろきょろ見回している。
「シュウ君……。」
「うん。」
僕は小さく頷いた。
「昨日徳島さんが言ってたことを思い出しただけ。」
“山が騒がしい。”あの言葉とは逆だった。
今日は静か過ぎる。それが逆に気味が悪い。
「警戒しながら行こう。」
「ワン。」
「うん。」
三人は自然と足音を小さくしながら、裏山ダンジョンへと続く獣道をゆっくり歩き始めた。
その頃、日本各地では、まだ誰もその変化に気付いていなかった。
北海道では牧場の牛が一斉に北の山を見つめたまま動かなくなり、長野では猿の群れが山奥へ姿を消し、九州では野鳥の渡りのルートが例年とは僅かに変わり始めていた。
それは人間なら見逃してしまうほど小さな異変。
だけど自然は確実に何かを感じ取っていた。
世界は静かに、しかし確実に、九十日後へ向かって歩み始めていた。




