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20話

翌朝。

五月の空は雲一つ無い快晴だった。

窓を開けると山の空気が流れ込んでくる。

少し湿った土の匂い。

鳥の鳴き声。遠くから聞こえる軽トラックのエンジン音。

都会なら環境音として再生されそうな音が、この場所では当たり前に流れている。


「ふぁ〜。」

 

大きく伸びをする。

昨日は疲れた。精神的にも肉体的にも。

ゴブリン。

あの気持ち悪い緑色の魔物を思い出す。正直に言えば怖かった。今でも怖い。

木刀を振り下ろした感触もまだ手に残っている・・・。


「おはようだワン!」顔面に柴犬が降ってきた。

「ぐふっ。」

「ご主人〜朝だワン!」

「二郎丸。」

「ワン!」

「重い。」


「ワン?」

「レベル上がってるから。重くなったのかな。」

「ワン!」

嬉しそうだった。まるで褒められた子供である。


居間へ向かうとるかにも起きていた。テーブルの上にちょこんと座っている。両手で牛乳パックを抱えていた。

「おはよ〜。」

「おはよう。」

「牛乳美味しい〜。」ハリネズミがパック牛乳を飲んでいる。

よく考えるとかなり・・・。な光景である。ストローはあの手でどうやって?

だがもう少し慣れた。人間とは恐ろしい生き物だ。

慣れてくるもんだな。


朝ご飯は簡単に。焼き鮭。卵焼き。味噌汁。納豆。ご飯。

シンプルだが完璧な朝食である。

「いただきます。」

「いただきますだワン!」

「いただきま〜す。」

三人で食べる朝食。それだけで少し楽しい。以前はテレビを付けて無言で食べていたけど今は違う。

誰かと食べるだけで美味しさが変わる。

不思議なものだ。


朝食後。二郎丸とるかには早速修行へ。

「じゃあ行ってくるワン!」

「行ってきま〜す。」

「気を付けてね。」

「ワン!」

「は〜い。」

二人は裏山へ駆けて行った。

元気である。非常に元気である。子供は風の子とはよく言ったものだ。

一方僕。

「さて。」

現実と向き合おう。備蓄である。大量の荷物である。

倉庫の中はまるで小さなスーパーのようになっていた。

お米。パスタ。缶詰。冷凍肉。乾麺。レトルト食品。薬。

トイレットペーパー。ガソリン缶。種。工具。その他保存食。

自分で買っておいて何だが。とてもやり過ぎた気がする。

「うん。」

完全に終末準備おじさんである。だが。笑われても良い。もし何も起きなければそれで良い。起きた時に何も無い方が怖い。

それだけだ。


軽トラックに乗り込み畑へ向かう。目的地は徳島さんの家。

昔から畑をお願いしている人だ。七十歳を超えているが元気。

化け物みたいに元気。畑仕事をしている人は本当に強い。

たぶんゴブリンくらいなら鍬で倒せる。

畑へ到着すると。予想通りだった。既に働いている。

朝八時。なのに働いている。しかも楽しそうに。

「おーい徳島さーん。」

「あん?」

振り向いた徳島さんが手を上げる。

日に焼けた顔。大きな手。腰には鎌。完全に農業戦士である。

「どうした秀ちゃん。」

「お願いがありまして。」

「金なら無いぞ。」

「僕も無いです。」

「わっはっは!」

豪快に笑う。この人と話していると何故か安心する。

「先日の畑を増やす件なんですけど」

「うむ。準備は始めておるよ。ジャガイモとサツマイモと玉ねぎじゃったな。土は問題無い。じゃが、ワシが思うにダイコンとニンジン、椎茸も作るべきじゃの。余裕があれば唐辛子とニンニクじゃ」

徳島さんはニヤリとしながら髭を撫でる。

「え。そんなに必要ですか?」

「うむ。何をするのかは知らんがな。」


爺ちゃん。カンが鋭過ぎるだろう。◯ュータイプか?


十分後。徳島さんは真顔になっていた。

「秀ちゃん。」

「はい。」

「戦争でも始まるんか?」

「いや〜。」

始まるというか。

魔物が出るというか。ダンジョンというか。

説明できないのがもどかしい。

「食糧が大事かなぁと思いまして。」

「なるほど。」

「はい。」

「まあ間違っちゃいねぇ。」

徳島さんは腕を組む。そして少し考え込んだ。

「実はな。」

「はい?」

「最近変なんだ。」

「変?」

「山が騒がしい。ざわついておる。」


シュウの表情が固まる。

「猪も鹿も動きがおかしい。」

「・・・。」

「猿も下りてきとる。」

「・・・。」

「熊も見た。」

 「まぁ、ワシに言えるようになったら教えとくれよ。おそらくはナイショの話じゃろう?」

「は、はい。僕も今は上手く言えないと言うかなんと言うか。」

「うむ。それなら良い良い。折角じゃ美味い野菜をつくろうかのぉ。」


 嫌な予感がした。ものすごく嫌な感じがする。


ダンジョン。魔力。魔物。世界の変化。


それが人間だけに影響するとは限らない。動物達も何かを感じ始めているのかもしれない。


空を見上げる。青空だった。どこまでも平和な空だった。

でも、その平和の裏側で。少しずつ。本当に少しずつ。


世界が変わり始めている。

何か違って来ちゃいました(笑)

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