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僕らの青春  作者: はるきち
第一章 高校一年生編
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#6 二人きりの誘い

月曜日。


昨日の休日が嘘だったかのように、いつもの学校生活が始まった。


教室に入ると、陸が自分の席からこちらを見つける。


「おはよう、湊」


「おはよう」


「昨日は楽しかったな」


「ああ」


「特にボウリング」


「お前、俺に負けたことまだ引きずってるのか?」


「当然だろ! 次は絶対勝つ!」


「はいはい」


陸と話していると、乃愛が教室に入ってきた。


「おはよう!」


「おはよう、乃愛」


「湊、昨日――」


そこまで言って、乃愛が少し黙る。


俺も思い出す。


昨日の帰り際。


隼人から乃愛への誘い。


『今度、二人で遊びに行かない?』


その言葉が、妙に頭に残っていた。


「……昨日のことだけど」


乃愛が小さな声で言う。


「一ノ瀬くんの?」


「ああ」


「うん……」


乃愛は少し困ったような顔をする。


「まだ返事してないの」


「そうなのか?」


「うん」


「どうして?」


「……分からない」


乃愛は俯く。


「嫌ってわけじゃないんだけど」


「じゃあ、行けばいいんじゃないか?」


自分でも、なぜそんなことを言ったのか分からなかった。


乃愛の表情が少し曇る。


「……そっか」


「?」


「うん。そうだよね」


乃愛は笑った。


でも、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。


---


一時間目。


授業が始まっても、俺は集中できなかった。


黒板を見る。


先生の話を聞く。


ノートを取る。


それなのに、頭の中には昨日のことが浮かんでくる。


乃愛と隼人。


二人で出かける。


それだけなのに。


「……」


シャーペンが止まる。


俺は小さく息を吐いた。


「水瀬」


「はい!」


突然、先生に呼ばれた。


「この問題、答えてみろ」


「……えっと」


黒板を見る。


問題の意味が頭に入ってこない。


「……分かりません」


「珍しいな。水瀬が分からないとは」


教室から少し笑いが起こる。


「すみません」


席に座る。


隣の陸が小声で言った。


「どうした?」


「何が?」


「今日のお前、変だぞ」


「そうか?」


「ああ」


翔太もこちらを見る。


「何かあった?」


「別に」


「……そう」


二人はそれ以上聞かなかった。


でも、俺自身は分かっていた。


昨日からずっと。


何かが引っかかっている。


---


昼休み。


いつものように四人で昼食を食べる。


けれど、今日は少し違った。


「湊」


乃愛が俺を見る。


「何?」


「昨日のこと、やっぱり気になる?」


「別に」


「……本当に?」


「ああ」


乃愛はしばらく俺を見る。


「じゃあ、断ろうかな」


「え?」


「一ノ瀬くんの誘い」


「どうして?」


「湊が嫌そうだから」


「俺は別に……」


そこまで言って、言葉が止まる。


俺が嫌そう?


そんなことは――


「……」


否定しようとした。


でも。


本当にそうじゃないのか?


昨日、隼人が乃愛を誘った時。


確かに俺は嫌だった。


でも、それを乃愛に言う理由なんてない。


俺たちは付き合っているわけでもない。


ただの友達だ。


「湊?」


「……ごめん」


「え?」


「俺、自分でもよく分からない」


乃愛は少し驚いた顔をした。


そして、優しく笑う。


「そっか」


「うん」


「じゃあ、無理に答えなくていいよ」


「乃愛……」


「私は大丈夫だから」


そう言って、乃愛は笑った。


けれど。


その笑顔を見ていると、胸が苦しくなった。


---


放課後。


俺は教室で一人、帰る準備をしていた。


すると。


「水瀬くん」


声をかけられる。


「藤宮?」


花音だった。


「今、帰るところ?」


「ああ」


「そうなんだ」


花音は少し迷ってから言う。


「……天野さんのこと?」


「え?」


「昨日のこと」


俺は黙った。


「やっぱり」


花音が小さく笑う。


「水瀬くんって、乃愛ちゃんのことになると分かりやすいね」


「俺が?」


「うん」


「そんなことないだろ」


「そうかな」


花音は窓の外を見る。


「乃愛ちゃんも、きっと同じだと思う」


「……」


「二人とも、お互いのことを大切にしてる」


「それは……友達だから」


「うん」


花音は頷く。


「今は、そうなんだと思う」


「今は?」


俺が聞き返すと、花音は少し笑った。


「何でもない」


そして、鞄を持つ。


「じゃあ、また明日」


「おう」


花音が教室を出ていく。


俺はその言葉が気になった。


『今は』


その意味を考えていると――


「湊!」


乃愛の声。


「帰ろ!」


「ああ」


俺は鞄を持ち、乃愛と一緒に教室を出た。


---


校門を出てしばらく歩く。


いつもの帰り道。


いつもの二人。


なのに、今日は少しだけ空気が違った。


「ねえ、湊」


「ん?」


「昨日さ」


「うん」


「一ノ瀬くんに誘われた時、ちょっと嫌そうな顔してたよね」


「……してた?」


「してた」


「そうか」


「うん」


乃愛は俺の顔を覗き込む。


「どうして?」


「……分からない」


正直に答える。


乃愛は驚いたように目を丸くした。


「分からない?」


「ああ」


「そっか」


少し歩く。


そして乃愛が笑う。


「じゃあ、私も分からない」


「何が?」


「湊がそういう顔する理由」


「……」


乃愛は前を向いた。


「でも」


「ん?」


「ちょっとだけ嬉しかった」


「何が?」


「湊が、私のこと気にしてくれたから」


胸が跳ねた。


「……そうか」


「うん」


乃愛は恥ずかしそうに笑う。


---


駅が見えてきた。


「そうだ」


乃愛が突然立ち止まる。


「どうした?」


「一ノ瀬くんの誘い」


「ああ」


「断ることにした」


「……本当に?」


「うん」


乃愛は頷いた。


「私、今は湊と一緒にいる時間の方が楽しいから」


「……」


何も言えなかった。


「じゃあね、湊!」


乃愛は笑って手を振る。


「また明日!」


「ああ。また明日」


乃愛が駅の階段を上っていく。


俺はその後ろ姿を見つめた。


そして、ようやく気づいた。


乃愛が誰かと二人で出かけるのが嫌だった。


乃愛が他の男子と仲良くするのが嫌だった。


乃愛が俺以外の誰かを選ぶことを考えると、胸が苦しくなる。


それはきっと――


ただの友達だからじゃない。


「……俺」


自分の胸に手を当てる。


鼓動が少し速い。


「乃愛のこと……」


その続きを口にすることはできなかった。


まだ。


だけど。


俺たちの関係は確実に変わり始めていた。


友達から。


幼なじみから。


少しずつ――


特別な誰かへ。

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