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僕らの青春  作者: はるきち
第一章 高校一年生編
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6/8

#5 初めての休日

日曜日。


高校生活が始まってから、初めての休日。


朝から駅前はたくさんの人で賑わっていた。


俺――水瀬湊は、待ち合わせ場所の時計台の下でスマホを確認する。


「……まだ誰も来てないか」


集合時間まで、あと十分。


少し早く来すぎたらしい。


「湊!」


聞き慣れた声が聞こえた。


振り返る。


「乃愛」


そこには私服姿の天野乃愛がいた。


制服姿しか見ていなかったからか、いつもと少し違って見える。


淡い色のトップスにスカート。


髪もいつもより少しだけ整えている。


「おはよう!」


「ああ、おはよう」


「待った?」


「今来たところ」


「本当に?」


「本当」


「よかった」


乃愛は安心したように笑う。


「……どう?」


「何が?」


「今日の服」


「似合ってると思う」


「……!」


乃愛の顔が少し赤くなる。


「そ、そう? ありがとう」


「うん」


俺は特に気にせずスマホを見る。


その隣で、乃愛は小さく胸を押さえていた。


「……よし」


「何が?」


「なんでもない!」


「変なの」


「湊には言われたくない!」


---


しばらくすると、陸と翔太がやってきた。


「おっ、二人とも早いな!」


「陸が遅いだけだろ」


「細かいこと言うなって」


翔太は笑いながら時計を見る。


「まだ集合時間前だよ」


「ならセーフ!」


「何の勝負だよ」


そんなやり取りをしていると、美咲と花音もやってきた。


「お待たせー!」


「おはよう」


「おはよう」


そして最後に――


「ごめん、待たせた」


一ノ瀬隼人が現れた。


「これで全員?」


陸が人数を確認する。


「七人だな」


「八人じゃない?」


美咲が言う。


「え?」


「ほら」


美咲が指差した先。


そこには、乃愛の後ろに隠れるように立っている女子がいた。


「白石さん?」


俺が驚く。


「おはよう」


白石莉奈。


学年でも有名な美少女だ。


普段から女子の間でも話題になることが多い。


「どうしてここに?」


「美咲に誘われたの」


「うん。せっかくだしって」


「よろしく」


莉奈は俺たちに軽く頭を下げる。


そして俺を見る。


「水瀬くん」


「ん?」


「今日はよろしくね」


「ああ。よろしく」


「……ふふ」


莉奈が少し笑う。


「何?」


「ううん。思ってたより普通なんだなって」


「どういう意味?」


「もっと怖い人かと思ってた」


「なんでだよ」


陸が笑い出す。


「水瀬、学年の美少女に普通って言われてるぞ」


「褒められてるのか?」


「たぶん」


「たぶんって何だよ」


みんなが笑った。


ただ一人。


乃愛だけは、莉奈と俺の会話をじっと見ていた。


---


最初に向かったのはショッピングモール。


服を見たり、ゲームセンターへ行ったり、適当に店を回ったり。


ただの休日。


それだけなのに、不思議と楽しかった。


「湊、これやろう!」


「また?」


「いいじゃん!」


乃愛に連れてこられたのは、クレーンゲームだった。


「これ、欲しい!」


乃愛が指差したのは、小さなぬいぐるみ。


「取れるのか?」


「取れる!」


「根拠は?」


「ない!」


「ないのかよ」


乃愛が挑戦する。


一回目。


失敗。


二回目。


失敗。


三回目。


「……」


乃愛が無言になる。


「諦める?」


「嫌」


「じゃあ貸して」


「え?」


俺が台の前に立つ。


「湊、できるの?」


「たぶん」


「頑張って!」


数回操作して――


ぬいぐるみが落ちた。


「取れた!」


乃愛が目を輝かせる。


「すごい!」


「ほら」


俺がぬいぐるみを渡す。


「ありがとう!」


乃愛は嬉しそうに抱きしめた。


「大事にするね」


「そこまで?」


「だって湊が取ってくれたんだもん」


「……そうか」


その会話を少し離れたところから見ていた美咲が、花音に小声で言う。


「ねえ」


「うん」


「完全にカップルじゃない?」


花音は苦笑した。


「……そうだね」


その横で、莉奈も二人を見ていた。


「なるほど」


「どうしたの?」


美咲が聞く。


「ううん」


莉奈は笑う。


「ちょっと興味が出てきただけ」


---


昼食。


フードコートでそれぞれ好きなものを注文する。


「俺、ラーメン!」


「俺はカレー」


「翔太、それ毎回じゃない?」


「好きだから」


そんなくだらない話をしていると、莉奈が俺の隣に座った。


「水瀬くん」


「ん?」


「この前、授業で先生に当てられたときの返し、面白かった」


「見てたの?」


「うん」


「恥ずかしいな」


「私は好きだけど」


「……え?」


莉奈は笑った。


「水瀬くんって、面白いね」


「そうかな」


「うん」


そのやり取りを、乃愛が向かい側から見ていた。


「……」


「乃愛?」


「え?」


「どうした?」


「なんでもないよ」


乃愛は笑った。


けれど、少しだけ元気がない。


それに気づいたのは、花音だった。


「乃愛ちゃん」


「なに?」


「大丈夫?」


「大丈夫だよ」


花音はそれ以上聞かなかった。


ただ、乃愛の気持ちが少し分かってしまった。


――嫉妬している。


そして。


自分も同じだった。


莉奈が湊と話しているのを見ると、胸が少し苦しくなる。


「……私まで」


花音は小さく息を吐いた。


---


午後。


みんなでボウリングへ行くことになった。


「水瀬、勝負な!」


陸が言う。


「何で?」


「負けた方がジュース奢り!」


「子供かよ」


「いいから!」


結果。


「……なんでお前、そんな上手いんだよ」


陸が愕然としている。


「普通だろ」


「普通じゃねえ!」


翔太がスコアを見る。


「水瀬、一位だね」


「たまたまだよ」


「たまたまでこの点数は無理だろ」


「じゃあ次、乃愛!」


「私?」


乃愛がボールを持つ。


「頑張れー!」


美咲が応援する。


乃愛が投げる。


ボールはゆっくりとレーンを進み――


「……!」


ピンを一本だけ倒した。


「惜しい!」


「うわぁ……」


乃愛が落ち込む。


「次があるって」


俺が声をかける。


「湊、応援して」


「はいはい」


「ちゃんと!」


「分かったよ」


乃愛がもう一度投げる。


今度は――


ストライク。


「やったー!」


乃愛が俺の方へ走ってくる。


「見た? 湊!」


「ああ、すごかった」


「えへへ!」


そのまま乃愛が俺の腕を掴む。


「……」


「……」


お互いに固まる。


「……乃愛?」


「……あ」


乃愛は慌てて手を離した。


「ご、ごめん!」


「いや……」


何となく気まずい。


それを見ていた美咲はニヤニヤ。


花音は複雑な表情。


莉奈は興味深そうに二人を見ている。


そして隼人は――


静かに乃愛を見つめていた。


---


夕方。


楽しかった一日も終わりに近づいていた。


駅前で解散することになる。


「今日は楽しかったな!」


陸が言う。


「また行こうよ」


美咲も笑う。


「うん」


乃愛が頷く。


「じゃあ、また明日」


みんなが帰っていく。


俺と乃愛も駅へ向かう。


「今日は楽しかったね」


「ああ」


「……ねえ」


「ん?」


乃愛が立ち止まる。


「今日は、ありがとう」


「何が?」


「ぬいぐるみ」


「ああ」


「あと……」


乃愛は少しだけ笑った。


「一緒にいてくれて」


「それくらい普通だろ」


「……うん」


乃愛は嬉しそうに笑った。


その時。


後ろから声がした。


「天野さん」


振り返る。


隼人だった。


「一ノ瀬くん?」


「今日は楽しかった?」


「うん!」


「それならよかった」


隼人は一度俺を見る。


そして乃愛を見る。


「天野さん」


「なに?」


「今度、二人で遊びに行かない?」


乃愛が目を丸くする。


「え……?」


俺も何も言えなかった。


隼人は真剣な表情だった。


「もちろん、嫌なら断ってくれていい」


乃愛は答えに迷う。


そして――


俺を見る。


「……湊」


「ん?」


「どうしよう」


「俺に聞くなよ」


「だって……」


乃愛は困ったように笑った。


その瞬間。


俺はなぜか、胸の奥がざわついた。


隼人と乃愛が二人で出かける。


ただ、それだけの話だ。


俺には関係ない。


なのに――


「……なんで、嫌なんだ?」


自分でも分からなかった。


乃愛はまだ答えを出していない。


ただ、俺の隣に立ったまま。


小さく笑っていた。


春の夕暮れ。


高校生活最初の休日は終わった。


そして俺たちの恋は――


まだ誰も知らないところで、少しずつ動き始めていた。

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