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僕らの青春  作者: はるきち
第一章 高校一年生編
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#4 親友の恋

月曜日。


週末が終わり、また一週間が始まる。


「……眠い」


俺――水瀬湊は、教室の自分の席で大きくあくびをした。


「おはよ、湊」


聞き慣れた声。


顔を上げると、乃愛が立っていた。


「おはよう」


「また眠そう」


「昨日ちょっと夜更かしした」


「もう。ちゃんと寝なきゃダメだよ」


「はいはい」


「返事が適当!」


乃愛が頬を膨らませる。


その様子を見ていた陸が、後ろから笑った。


「相変わらず仲いいな、お前ら」


「そうか?」


「そうだよ」


翔太も頷く。


「付き合ってないのが不思議なくらい」


「……は?」


俺は思わず固まった。


乃愛も同時に固まる。


「え?」


「いや、佐伯。それは言いすぎだろ」


陸が慌ててフォローする。


「まあまあ。そういう話だよ」


「どういう話だよ」


俺は呆れた。


けれど、乃愛は何も言わなかった。


ただ、顔を赤くして自分の席へ戻っていく。


「……?」


俺は首を傾げた。


---


一時間目と二時間目の間の休み時間。


乃愛の席には美咲と花音が集まっていた。


「乃愛」


「な、なに?」


「さっきの話」


美咲がニヤニヤしながら聞く。


「湊くんと付き合ってないのが不思議って言われてたね」


「……うん」


「どうだった?」


「どうって?」


「嬉しかった?」


「……」


乃愛は黙った。


そして小さく、


「……ちょっと」


と答えた。


美咲の顔が一気に明るくなる。


「やっぱり!」


「声大きい!」


「だって乃愛がついに認めたんだもん!」


「認めてない!」


「じゃあ好きじゃないの?」


「……」


乃愛は答えられなかった。


花音がそんな乃愛を見つめる。


「乃愛ちゃん」


「うん?」


「湊くんのこと、本当に好きなんだね」


乃愛は少しだけ俯く。


「……たぶん」


「たぶん?」


「まだ自信ないけど」


乃愛は胸元に手を当てた。


「湊と一緒にいると楽しいし、湊が他の女の子と話してると……なんか嫌」


「それはもう恋だよ」


美咲が即答する。


「そうなのかな……」


「絶対そう」


花音は何も言わず、二人の会話を聞いていた。


そして胸の奥に、少しだけ痛みを感じていた。


乃愛のことは大切な友達。


だから、応援したい。


そう思っている。


なのに――


最近、湊と話すと楽しい。


湊のツッコミを聞くと、つい笑ってしまう。


困っている人がいると自然に助けるところも好きだった。


いつの間にか、目で追ってしまう。


「……私も」


花音が小さく呟く。


「え?」


「ううん、何でもない」


花音は笑った。


けれど、その笑顔は少しだけ寂しかった。


---


昼休み。


俺たちはいつものように四人で昼食を食べていた。


「そういえばさ」


陸が突然言った。


「今度の日曜日、みんなで遊びに行かね?」


「急だな」


「いいじゃん。高校生活最初の思い出作り!」


「また青春か」


「お前、最近俺の青春発言に厳しくね?」


「毎回言ってるからだよ」


翔太が笑う。


「俺はいいよ」


「俺も」


俺が答える。


「じゃあ女子にも声かけようぜ」


陸が教室を見回す。


「乃愛!」


「え?」


「今度の日曜、みんなで遊びに行かない?」


乃愛が俺を見る。


「湊も行く?」


「行くけど」


「じゃあ行く!」


即答だった。


「花音と美咲も来る?」


「もちろん!」


美咲が答える。


花音も頷いた。


「私も行くよ」


こうして、日曜日にみんなで出かけることになった。


ただ――


この時の俺たちは、その一日がそれぞれの気持ちを大きく変えることになるとは思っていなかった。


---


放課後。


俺は一人で教室に残っていた。


忘れ物を取りに戻っただけなのだが、教室にはもう一人いた。


「……水瀬くん?」


「藤宮?」


花音だった。


「まだ帰ってなかったのか?」


「うん。少し本を読んでたの」


机の上には一冊の小説。


「へえ」


「水瀬くんは?」


「忘れ物」


「そうなんだ」


短い会話。


それなのに、なぜか気まずい。


花音が本を閉じる。


「ねえ、水瀬くん」


「ん?」


「天野さんと……仲いいよね」


「まあ、昔からだからな」


「そっか」


花音は少し笑った。


「乃愛ちゃん、楽しそう」


「そう?」


「うん」


そして花音は少しだけ目を伏せる。


「……幸せそう」


「?」


「ううん。何でもない」


花音は立ち上がる。


「じゃあ、私も帰るね」


「ああ。また明日」


「うん。また明日」


花音が教室を出ていく。


俺はその背中を見送った。


「……変な感じだったな」


その理由は分からなかった。


---


その頃。


乃愛は一人で廊下を歩いていた。


「乃愛」


後ろから声がする。


振り返ると、隼人だった。


「一ノ瀬くん?」


「今、帰るところ?」


「うん」


「よかったら途中まで一緒に帰らない?」


乃愛は少し迷った。


その時。


廊下の向こうから湊が歩いてくるのが見えた。


「あ」


湊もこちらに気づく。


「乃愛、帰るぞ」


「うん!」


乃愛は隼人に向き直った。


「ごめんね、一ノ瀬くん」


「……水瀬と?」


「うん」


「そっか」


隼人は少しだけ笑った。


「じゃあ、また明日」


「また明日!」


乃愛は湊の隣へ駆け寄った。


「待たせた?」


「いや」


二人並んで歩き始める。


その背中を、隼人は静かに見送っていた。


「……やっぱり」


隼人は小さく呟く。


「天野さんは、水瀬のことが好きなのか」


そして、拳を軽く握る。


「だったら――」


その先の言葉を、隼人は口にしなかった。


ただ一つ。


諦めるつもりはなかった。


---


帰り道。


「湊」


「ん?」


「日曜日、楽しみだね」


「ああ」


「みんなで遊ぶの久しぶりだし」


「そうだな」


「……ねえ」


「何?」


乃愛が少しだけ迷う。


「もし日曜日、二人きりになったら……どうする?」


「どうするって?」


「……なんでもない!」


乃愛は顔を赤くして前を向いた。


「?」


やっぱり、よく分からない。


だけど。


そんな乃愛の横顔を見ていると、不思議と心が落ち着いた。


俺にとって乃愛は、昔から変わらない存在。


――そう思っていた。


でも。


ほんの少しずつ。


その「昔から」という言葉だけでは説明できない何かが、俺の中に生まれ始めていた。


そして日曜日。


俺たちは初めて、みんなで休日を過ごす。


その日を境に――


俺たちの関係は、少しずつ変わっていくことになる。

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