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僕らの青春  作者: はるきち
第一章 高校一年生編
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#2 新しいクラスと、少しだけ特別な時間

高校生活二日目。


昨日の入学式とは違い、今日は朝から普通の授業がある。


「……眠い」


教室の自分の席に座り、俺は机に突っ伏した。


「おはよー、湊!」


「……おはよう」


元気な声とともに、乃愛がやってくる。


「どうしたの? 眠そう」


「昨日、寝るの遅くなった」


「何してたの?」


「入学初日ってことで、結菜に色々聞かれてた」


「結菜ちゃん?」


「ああ。高校生活はどうだったとか、彼女できそうかとか」


乃愛が一瞬固まった。


「……彼女?」


「そう」


「そ、そうなんだ……」


なぜか乃愛の声が少し小さくなる。


「何?」


「ううん、なんでもない!」


昨日も似たようなことがあった気がする。


「変なの」


「変じゃないよ!」


乃愛はそう言いながら、自分の席へ戻っていった。


その様子を、少し離れたところから美咲が見ていた。


「……乃愛」


「な、何?」


「昨日から分かりやすいね」


「何が?」


「湊くんのこと」


「――っ!」


乃愛の顔が一気に赤くなる。


「ち、違うから!」


「まだ何も言ってないけど?」


「……美咲の意地悪」


「はいはい」


美咲は楽しそうに笑った。


その二人の会話を、俺は知る由もなかった。


---


一時間目。


担任の高瀬先生が黒板に予定を書いていく。


「今日は自己紹介をしてもらう。名前と簡単な趣味、それから高校生活でやってみたいこと。この三つでいい」


「うわ、来た」


陸が小声で呟く。


「何が嫌なんだよ」


「自己紹介」


「普通だろ」


「俺、こういうの苦手なんだよ」


「お前が?」


「こう見えて人見知りだから」


「どこがだよ」


翔太が横から口を挟む。


「桐生が人見知りなら、世の中の大半が人見知りだと思う」


「佐伯、ひどくね?」


「事実だよ」


俺は思わず笑った。


その後、一人ずつ自己紹介が始まった。


そして――


「天野乃愛です!」


乃愛の番になる。


「趣味は音楽を聴くことと、友達と遊ぶことです!」


明るい声が教室に響く。


「高校では、たくさん友達を作って、いっぱい思い出を作りたいです!」


「よろしくお願いします!」


拍手が起きる。


乃愛らしい自己紹介だった。


「次、水瀬」


高瀬先生に呼ばれる。


「……水瀬湊です」


立ち上がる。


「趣味は……特にありません」


「えー?」


どこからか声が飛んできた。


「本当にないのか?」


先生まで笑っている。


「いや、普通にゲームとかしますけど……」


「それを趣味と言うんだ」


「じゃあゲームです」


教室から笑い声が起きる。


「高校では、普通に楽しく過ごせればいいと思っています。よろしくお願いします」


席に戻る。


陸が小声で言った。


「お前、無難すぎるだろ」


「うるさい」


「もっと青春しろよ」


「お前は青春って言葉を使いたいだけだろ」


「バレた?」


「バレバレだ」


---


昼休み。


俺たちは四人で机を囲んでいた。


俺、陸、翔太、そして乃愛。


「湊、卵焼き一個ちょうだい」


「なんでだよ」


「美味しそうだから」


「自分の弁当食え」


「一個だけ!」


「……仕方ないな」


卵焼きを一つ渡す。


「やった!」


乃愛は嬉しそうに受け取った。


「ありがとう!」


「別に」


その様子を見ていた陸がニヤニヤする。


「お前ら、昔からそんな感じなの?」


「そんな感じって?」


「距離感」


「普通だろ」


「いや、普通に距離近くね?」


翔太も二人を見る。


「確かに仲いいよね」


「幼なじみみたいなものだからな」


「幼なじみ……」


乃愛が小さく呟いた。


「何?」


「ううん」


乃愛は笑った。


「ただ……幼なじみっていいなって思って」


「何それ」


「なんでもないよ」


まただ。


最近、乃愛の言っていることが少しだけ分からない。


---


放課後。


部活見学の時間になった。


「湊、どこ行く?」


陸が聞いてくる。


「まだ決めてない」


「俺はサッカー部見に行く!」


「経験者だっけ?」


「中学でやってた」


「じゃあそのまま入ればいいじゃん」


「お前も来いよ」


「俺は考える」


そんな話をしていると、乃愛が近づいてきた。


「湊」


「ん?」


「今日、一緒に帰ろ?」


「いいけど」


「本当?」


「ああ」


「じゃあ決まり!」


乃愛が嬉しそうに笑う。


「じゃあ私、部活見学してくるね」


「おう」


「また後で!」


乃愛が手を振って走っていく。


陸がその背中を見ながら呟いた。


「……なるほど」


「何が?」


「いや、なんでもない」


「絶対何かあるだろ」


「青春だなって」


「またそれか」


---


放課後。


校門の前で乃愛を待っていると、見慣れない男子生徒が声をかけてきた。


「水瀬くん?」


「……はい?」


振り返る。


そこに立っていたのは、一ノ瀬隼人だった。


「突然ごめん。少し話してみたくて」


「俺と?」


「うん」


隼人は爽やかに笑った。


「昨日から何となく気になってたんだ」


「そうなのか?」


「ああ」


少し会話をする。


成績も運動も優秀だと聞いていたが、話してみると意外と普通の男子だった。


「水瀬って、天野さんと仲いいよな」


「まあ、昔からの友達だから」


「そうなんだ」


その瞬間。


「湊ー!」


乃愛が走ってきた。


「ごめん、待った?」


「いや、今来たところ」


「よかった!」


乃愛は俺の隣に立つ。


そして隼人を見る。


「一ノ瀬くん?」


「ああ。天野さんとは同じクラスだね」


「うん!」


「じゃあ、また明日」


隼人はそう言って校門の向こうへ歩いていった。


「……一ノ瀬くんと何話してたの?」


「少し話してただけ」


「ふーん」


「何だよ」


「別に?」


乃愛は少しだけ頬を膨らませた。


「帰ろ」


「ああ」


二人で歩き始める。


しばらく無言が続いた。


「……湊」


「ん?」


「一ノ瀬くんと、仲良くなった?」


「まだ会ったばかりだし、そんなでもないだろ」


「そっか」


乃愛はそれだけ言った。


けれど。


その声には、ほんの少しだけ安心したような響きがあった。


「乃愛」


「なに?」


「もしかして、嫉妬してる?」


「してない!」


即答だった。


「いや、まだ何も言ってないけど」


「……」


乃愛は黙り込む。


そして少しだけ俯いてから、


「……湊のくせに」


「なんで怒られるんだよ」


「知らない!」


俺には分からない。


でも。


その横顔が、いつもより少しだけ可愛く見えた。


そして乃愛もまた、俺のことを意識するようになっていた。


まだ、それが恋だと認めるには少し早い。


けれど――


俺たちの距離は、昨日までとはほんの少しだけ変わり始めていた。

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