↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕らの青春  作者: はるきち
第一章 高校一年生編
PR
12/13

#11 少しだけ気になる

翌朝。


教室に入ると、乃愛はすでに席についていた。


「おはよう、乃愛」


「……おはよう」


「どうした?」


「何が?」


「なんか元気ない」


「そんなことないよ」


乃愛は笑う。


けれど、昨日と同じだった。


どこか無理をしているような笑顔。


「本当に?」


「本当!」


「ならいいけど」


俺が自分の席に向かおうとすると、乃愛が突然声をかけてきた。


「ねえ、湊」


「ん?」


「今日、一緒に帰れる?」


「もちろん」


「……よかった」


乃愛は安心したように笑った。


その瞬間だけは、いつもの乃愛に戻った気がした。


---


一時間目と二時間目の間。


俺が席で次の授業の準備をしていると、莉奈がやってきた。


「水瀬くん」


「白石?」


「昨日の話、覚えてる?」


「勉強のこと?」


「うん」


莉奈は一冊のノートを持っていた。


「今日の放課後、少し教えてもらってもいい?」


「別にいいけど」


「ありがとう」


「図書室でいい?」


「うん」


その会話を、乃愛が聞いていた。


「……」


乃愛は何も言わない。


ただ、手にしていたペンを少し強く握った。


「乃愛?」


「え?」


「どうした?」


「何でもない」


そう言って、乃愛は前を向いた。


---


昼休み。


美咲が乃愛のところへやってくる。


「乃愛」


「なに?」


「朝からずっと変じゃない?」


「そうかな?」


「そうだよ」


美咲は乃愛の顔を覗き込む。


「もしかして……白石さん?」


「……」


乃愛が黙る。


「やっぱり」


「違うよ」


「本当に?」


「……」


「乃愛」


美咲の声が少し優しくなる。


「嫉妬してる?」


「……してない」


「顔が赤いよ」


「……ちょっとだけ」


乃愛は小さく認めた。


「白石さん、すごく可愛いし……湊とも楽しそうに話してるから」


「うん」


「私より、白石さんの方が湊と合うのかなって」


「そんなこと考えなくていいよ」


花音が静かに言った。


「でも……」


「湊くんは乃愛ちゃんといる時が一番自然だと思う」


「……本当?」


「うん」


花音は笑った。


けれど、その言葉を口にするたび、自分の胸も痛んだ。


「だから、大丈夫」


「……ありがとう、花音」


乃愛は少しだけ笑った。


---


放課後。


約束通り、俺は図書室へ向かった。


莉奈はすでに席についていた。


「ごめん、待った?」


「ううん。今来たところ」


「じゃあ始めるか」


「お願いします、先生」


「先生じゃない」


莉奈が笑う。


「冗談」


ノートを開き、問題を確認する。


「ここは公式を使えばいい」


「なるほど」


「分からなかったら遠慮なく聞いて」


「じゃあ、ここ」


「ん?」


莉奈が俺のノートを覗き込む。


肩が少し触れた。


「……」


「……」


お互いに一瞬止まる。


「近かったね」


莉奈が笑う。


「ご、ごめん」


「謝らなくていいよ」


莉奈は平然としていた。


「水瀬くんって、意外とこういうところ鈍いよね」


「何が?」


「何でもない」


「?」


その時。


図書室の入り口に人影が見えた。


「……湊?」


乃愛だった。


「あれ、乃愛?」


「……勉強してたんだ」


「うん。白石に教えてた」


「そっか」


乃愛は笑う。


「邪魔しちゃった?」


「いや、もう終わるところ」


莉奈が答える。


「天野さんも一緒に帰る?」


「……うん」


乃愛は頷いた。


「湊、帰ろ」


「ああ」


俺はノートを閉じる。


莉奈も立ち上がった。


「じゃあ、また明日」


「うん。また明日」


図書室を出る。


その後ろ姿を莉奈が見送っていた。


「……ふふ」


---


帰り道。


今日は三人だった。


俺。


乃愛。


そして莉奈。


「白石さんって、数学得意なんだね」


乃愛が言う。


「得意ってほどじゃないよ」


莉奈が笑う。


「水瀬くんに教えてもらったから、少し分かるようになっただけ」


「湊って教えるの上手いからね」


「そうなんだ?」


「うん。昔から」


「へえ」


莉奈が俺を見る。


「じゃあ、昔から天野さんが教えてもらってたんだ」


「まあな」


「羨ましい」


莉奈が何気なく言った。


「……」


乃愛が黙る。


俺はその空気に気づいていなかった。


「また分からないところがあったら教えるよ」


「本当?」


「ああ」


「ありがとう」


莉奈が嬉しそうに笑う。


その瞬間。


乃愛が俺の袖をつまんだ。


「湊」


「ん?」


「ちょっと早く歩こう」


「え?」


「……二人で話したい」


俺は驚いた。


「分かった」


莉奈がその様子を見て、少し笑う。


「じゃあ、私はこっちだから」


「また明日」


「また明日」


莉奈と別れる。


しばらく歩くと、乃愛がようやく口を開いた。


「……ごめん」


「何が?」


「白石さんと一緒にいるところ、見たら……」


乃愛は立ち止まる。


「なんか嫌だった」


「……」


「自分でも、こんなこと思うの変だって分かってる」


「乃愛」


「だって私たち、付き合ってないもんね」


乃愛は少し寂しそうに笑った。


「だから、私が口を出すことじゃないのに」


俺はしばらく考える。


そして。


「……別に、変じゃないと思う」


「え?」


「俺だって、一ノ瀬がお前を誘った時、嫌だったから」


乃愛が目を見開く。


「本当?」


「ああ」


「どうして?」


「それは……」


言葉が出てこない。


俺自身、まだ答えが分からない。


「分からない」


「……そっか」


乃愛は少し笑う。


「じゃあ、私たち似た者同士だね」


「そうかもな」


二人で笑う。


さっきまであった距離が、少しだけ元に戻った。


---


駅に着く。


「じゃあ、また明日」


「ああ」


乃愛が階段を上る。


数段進んだところで振り返る。


「湊!」


「ん?」


「明日も一緒に帰ろうね!」


「分かってるよ」


「約束!」


「はいはい」


乃愛は満足そうに笑って、階段を上っていった。


俺はその背中を見送る。


そして思う。


乃愛が誰かと仲良くするのが嫌だ。


乃愛が他の男子と話していると気になる。


そして、乃愛が俺を必要としてくれると嬉しい。


これが何なのか。


まだ、はっきりとは分からない。


ただ――


少なくとも。


乃愛は俺にとって、普通の友達ではなくなりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。