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僕らの青春  作者: はるきち
第一章 高校一年生編
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#12 放課後の約束

五月のある日。


昼休みのチャイムが鳴ると、教室は一気に騒がしくなった。


「湊、昼飯食おうぜ!」


陸がこちらへやってくる。


「悪い。今日は乃愛と食べる」


「……お?」


陸の動きが止まった。


「今、なんて?」


「乃愛と食べる」


「お前から言ったの?」


「いや、乃愛から」


「なるほど……」


陸がニヤニヤする。


「青春だな」


「またそれかよ」


「いいじゃん、青春!」


翔太も笑いながらやってくる。


「最近、本当に二人でいること増えたよね」


「昔からだろ」


「でも高校に入ってから、特にじゃない?」


「……そうか?」


自分ではあまり意識していなかった。


その時。


「湊ー!」


教室の入り口から乃愛が手を振っている。


「早く!」


「今行く」


俺が立ち上がる。


陸が小さく呟いた。


「……やっぱり、あれ付き合ってないんだよな?」


「付き合ってないよ」


翔太が即答する。


「今のところは、ね」


「お前まで何言ってんだよ」


俺は二人を置いて、乃愛のところへ向かった。


---


「どこで食べる?」


「今日は屋上!」


「屋上?」


「うん。天気いいから」


乃愛に連れられて、屋上へ向かう。


扉を開けると、心地よい風が吹いてきた。


「気持ちいい!」


「確かに」


フェンスの向こうに広がる街並み。


五月の空は青く、雲がゆっくり流れていた。


「ここ、好きなんだ」


乃愛が言う。


「初めて来た」


「そうだよね」


乃愛はベンチに座る。


「中学の時も、たまにここに来てた」


「へえ」


「覚えてない?」


「……ごめん」


「やっぱり」


乃愛が頬を膨らませる。


「湊って昔のこと、結構忘れてるよね」


「全部覚えてる方がおかしいだろ」


「私は覚えてるよ」


「本当に?」


「うん」


乃愛は少し考えてから笑った。


「小学校の時、湊が木から落ちたこと」


「それは忘れろ」


「中学一年の時、テストで私に負けて悔しがってたこと」


「それも忘れろ」


「中学二年の時――」


「もういい!」


乃愛が楽しそうに笑う。


「ふふっ」


「……昔から変わらないな」


「湊もね」


「そうか?」


「うん」


乃愛は俺を見る。


「優しいところも」


「……」


「困ってる人を放っておけないところも」


「そんな大したことじゃない」


「私は好きだよ」


「……え?」


乃愛は一瞬固まる。


「……あ」


自分が何を言ったのか気づいたらしい。


「ち、違う!」


「何が?」


「今の!」


乃愛の顔が真っ赤になる。


「その……人として好きっていうか!」


「分かってるよ」


「本当に?」


「ああ」


「……よかった」


乃愛は胸を撫で下ろした。


でも。


俺は少しだけ気になった。


『好き』


その言葉が、頭から離れなかった。


---


昼休みが終わり、午後の授業。


俺はなぜか集中できなかった。


黒板の文字を写しながら、さっきの乃愛の言葉を思い出す。


――私は好きだよ。


もちろん、友達として。


幼なじみとして。


そういう意味だろう。


それなのに。


胸の奥が妙に落ち着かない。


「水瀬」


「はい!」


先生に呼ばれて、また驚く。


「大丈夫か?」


「大丈夫です」


教室の後ろから陸がニヤニヤしている。


嫌な予感しかしない。


---


放課後。


「湊」


帰りの準備をしていると、乃愛がやってきた。


「今日、一緒に帰ろ」


「もちろん」


「それとね」


乃愛は鞄から小さな紙を取り出した。


「これ」


「何?」


「今度の休日の予定」


「予定?」


「この前みたいに、またみんなで遊びに行こうって」


紙には、陸たちと相談した予定が書かれていた。


「遊園地?」


「うん!」


「結構本格的だな」


「高校生だもん!」


「またそれか」


「いいじゃん!」


乃愛が笑う。


「今度はもっと思い出作ろうよ」


「……そうだな」


俺も笑った。


---


その帰り道。


駅へ向かう途中、乃愛が突然言った。


「ねえ、湊」


「ん?」


「私たちってさ」


「うん」


「このままずっと一緒にいるのかな」


「……どういう意味?」


「分からない」


乃愛は空を見上げる。


「高校を卒業しても、その先も」


「……」


「ずっと一緒にいられたらいいなって」


俺は少し考えた。


「俺も、そう思う」


乃愛がこちらを見る。


「本当?」


「ああ」


「……そっか」


乃愛は嬉しそうに笑った。


「じゃあ、約束」


「また?」


「だって、約束いっぱいした方がいいでしょ」


「何で?」


「忘れないため」


乃愛は小指を差し出した。


「これからも、ずっと友達でいること」


俺も小指を絡める。


「約束」


「……うん」


その言葉を口にした瞬間。


乃愛は少しだけ寂しそうな顔をした。


けれど俺には、その理由が分からなかった。


今の俺たちは友達。


それでいい。


そう思っているはずなのに――


「……ずっと友達、か」


口にすると、なぜか少しだけ胸が痛かった。


---


翌朝。


教室では、美咲と花音が話していた。


「乃愛、昨日楽しそうだったね」


「うん」


「湊くんと帰った?」


「うん」


「何かあった?」


「……秘密」


乃愛は笑う。


花音はその笑顔を見つめる。


そして、ほんの少しだけ思う。


――乃愛ちゃんは、もう気づいてるのかもしれない。


自分の気持ちに。


一方。


教室の反対側では、莉奈が湊を見ていた。


「……水瀬くん」


「ん?」


「今度、前に話してた勉強会だけど」


「ああ」


「二人じゃなくて、みんなでやらない?」


「いいんじゃないか?」


莉奈が笑う。


「うん。それがいい」


そしてその様子を、乃愛が見ていた。


昨日とは違う。


今度は、少しだけ余裕のある笑顔だった。


「……大丈夫」


誰に言うでもなく、乃愛は呟く。


「私も、もっと湊と一緒にいればいいんだから」


まだ誰も、自分の気持ちを口にはしていない。


けれど。


少しずつ。


確実に。


それぞれの想いが動き始めていた。

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