↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Flow Light フローライト ~扉の向こうの物騒な世界~  作者: 久河央理
第6話 How is it reflected in your eyes?
PR
41/42

昔話のあと

       **




「ふー……っ」


 屋上で仁はひとり、たばこを吹かす。見上げる空には星一つなかった。申し訳なさげに月が光を届けているだけの、完全な曇天模様である。あの時の空と同じだ。


 一紀と話を終えた後、二人はゆかりの店へ向かった。

 約束通りに景と飲んでいる最中、葉隠が空腹を押さえつつ転がり込んできたときは、つい笑ってしまった。まさか、一紀にこんな形で会わせるとは。

 いま思い出しても、あの光景は笑える。さすがとしかいえない。

 すると、コツコツと誰かが階段を登ってきているのが分かった。この軽い足音はおそらく景だろう。


「ここにいたんだね、黒須くん」


 彼は随分と懐かしい呼び方をしてきた。普段なら怪訝な顔をするところだが、このシチュエーションで言われればさすがに分かる。

 ふっと軽く笑った後、仁も乗ることにした。


「なあ、志木崎……おまえは俺を探偵として受け入れるか?」

「へぇ、どうして?」

「ヤードは危険だ。特に、印への執着がな。それに今日の事件──あれを明らかにする気がねえってのは確認済みだろ。そんな巣穴にいてたまるか。いつか、外部から暴いてやる。……こんな感じだったか?」

「はは、良く覚えてるね?」

「オメェからやりだしたんだろうが」

「まあね」


 景は仁の隣に立つと、缶を一つ差し出した。向こうの世界で入手した缶チューハイだ。


「飲み直すのかよ」

「葉隠くんに全部持っていかれたし」

「ハハ、そうだな」


 缶を受け取り、タブに指をかけて開ける。軽く乾杯をしてからグイッと一口目を飲むと、景はおもむろに言葉を紡いだ。


「どこまで話したの?」

「俺のことは、ほぼ全部だな」

「さっきの会話とか、初めて会った日とかも?」

「そうだな。あの、いかにも志木崎景らしい挨拶をかましてきたヤツだ」

「ああ、あれね。でも、それのおかげでいろいろ分かったんだよ?」

「だろうな、おまえなら」

「へぇ、何か気づいてるのかな」

「馬鹿にしてんのか。あんときとは違えよ」

「あはは、そうだね。その辺りは変わってくれて良かったよ」

「馬鹿にしてんだろ……」


 仁が頭を抱えたくなったのに反して、景は上機嫌に笑った。

 だが、その空気は時間とともに流れていく。


「…………」


 妙に落ち着いた空気を纏った景が気になったものの、右側からでは前髪のせいで顔がよく見えない。しかし、きゅっと結んだ唇の端は、彼が考えていることの重さを語っていた。詳しい内容は未だによく分からないが。


「ん? なにかな、仁」

「なんでもねえよ」

「あ、そう」


 ……本当に、よく分からない男だ。


 まだ仁にも言っていないことは多々あるのだろう。わざわざ聞き出そうとは思わないが、気にならないことはない。


 ──別に。人はいつか死ぬんだから。


 言い聞かせるためか、割り切るためか。どちらにせよ、あの眼で見られたら背筋が凍る。

 それくらいの何かを抱えているのだろう。一紀に言えるのはそれだけだったが、仁も少しは知っている。逆に言えば、少ししか知らない。


 その瞳は一体どこまでを見通し、その心は一体どこまで他人を信用しているのだろうか。


 今は限りなく愚問であるそれを掻き消すように、仁は空を見上げる。


 いつの間にか月さえも姿を覆われて、辺りは真っ暗な夜だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。