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Flow Light フローライト ~扉の向こうの物騒な世界~  作者: 久河央理
第6話 How is it reflected in your eyes?
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手袋の理由


 ある日──これは確か、その年の終わり頃だった。


「仁、手袋のこと気になるのか?」

「何のことだ」

「分かってんだぜ。研修初日から、たびたび俺の手袋見てたろ? 俺の彼女が丁寧に洗ってくれた愛情一杯の手袋だ。あ、もう彼女じゃなかった」

「…………」


 宗司の惚気話など、仁には心底どうでも良かった。なんだよ、洗っただけで愛情一杯の手袋って。意味分かんねえ。と、これらの感情を詰め込んだ視線を送る。


「何かヒドい……コホン、話を戻す。それで、なんでそんなに見てたんだ?」

「変なこたぁねえだろ。ちょっと気になっただけだ」

「どうして気になった?」

「別に……」

「おまえは、人が手袋をする理由に思い当たることがある。違うか?」

「まあ」

「そんで、それについて何か気になる点があるんだな」

「そう、だな」

「印、もしくは紋章……痣……」


 反応を堪えるように、仁は目を逸らした。いま思えば、それは十分な反応だった。


「やっぱり、そうなのか」


 仁の反応を見て、宗司は困った顔をした。今まで納得できなかったことを、やっと理解できたときのような様子だ。


「あんたらしくねえな」

「……なんのことが?」

「話の展開の仕方だ。あんな感じに誘導しねえだろ」


 逆に相手を突いてみると、さらに困った顔をしながら首を掻いた。


「なんでそういうところは気づくんだい……そうだよ。これは、他人の推理だからな」

「そいつと、俺は会ったことがあるか?」

「いいや? 俺の知る限りではないね。学年はゆかりと一緒だから一個上だし、学校も違うはずだ」


 なんて奴だと思った。会ったことがあるならまだしも、会ってもいないのにそこまでのことを思いつくなんて。


「で、おまえさんの手袋の下は?」

「なんだろうな。俺にはよく分かんねえものが手の平にあんだよ。痣……にしては、形を成しててな」

「その色は?」

「灰色っぽい」

「ちょっと、見せてくれるか?」


 右の手袋を取って見せてみる。すると、宗司は興味深そうな声を上げた。


「へぇ……先代が存命のうちの次代はこうなのか……」

「何の話だ」

「爪は? えっと……」


 一人でどんどん話を進めていく。手をひっくり返しては、ピンポイントに観察を始めた。


「お、黒だ。こっちは普通なのか。なあ、何か超能力的なの使える?」

「な、何をサラリと言ってんだよ」

「その言い方は使えるな。ってことは……なるほどなるほど」


 仁の手を掴んだまま、ぶつぶつと何やら考察を続ける宗司に対して、仁はだんだん苛だちを募らせた。無理矢理に右手を引っこ抜いて、真正面からそれをぶつける。


「オイ、さっきから一人でなんなんだよ。分かんねえッ、説明しやがれ!」

「ごめんごめん。ほら、お詫びするから……」

「詫びはいらねえよッ!」

「っ、分かった分かった。でも、これはまだ、その、ゆっくりじゃないと話せなくて……だから、また機会を作って、必ず、改めて説明する」

「あ?」

「怖いなぁ……でも、ほんと頼む。春になれば、おまえも本格的な所属になるし、こっちの準備も進むから」

「こっち……? 何言ってんだ」

「あれだよ。新しく建てているところの……」


 宗司の必死な様子を見ていて、仁はだんだん頭が冷えてきた。じゃあ何で今その話を振ったんだ、とか諸々は諦める。


「ハァ……。分かった。だが、破ンなよ」

「もちろん。破らないよ。けど、もう一つお願いがある。他の奴に、むやみやたらと素手を見せるな」

「……そりゃ分かってるが」


 実際にはすでに、ある一人に見せていた。

 エマ・レイランド。同期であり、似たようなものを持っていた女。

 時間がなかったから話こそ聞けていないが、まあ、それくらいなら大丈夫だろう。


 そう思っていたが、それどころではなかった。


 今現在においては、彼女がそのことを知っているのは好都合となっているが、この当時は真逆の状況を生み出すきっかけだった。


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