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Flow Light フローライト ~扉の向こうの物騒な世界~  作者: 久河央理
第6話 How is it reflected in your eyes?
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仁と宗司

      **




 高校課程を終えた十八の夏。

 何になりたいか。具体的なものはなかった。人のために何か出来れば結構だなと、リストに挙げたのは二つ。

 消防士《ファイア》か、警察官《ヤード》だ。

 アメリカ地域に拠点を置く消防か、イギリス地域に拠点を置く警察か……黒須仁は自分のイメージと重ね、後者を選んだ。



 そして十九の夏、その男と会った。


「やあ、今日から研修担当をする久野宗司だ。黒須仁くんだね? 仁って呼んでいい?」

「はあ」


 初対面だというのに随分と親しげだな、というのが正直な感想である。


 ここでは、就職する二十歳までの間に、それぞれが希望する専門の学びをすることになる。

 ヤードの場合は、まず英語の筆記を学ぶ。話し言葉は通じても、書く文字が違っては仕事が出来ないからだ。

 そして、それを終えてから専門の研修に入る。久野宗司はそのときの担当だった。


「よし、許可も出たし……改めて、よろしくな、仁」


 差し出された手を、ついまじまじと見た。

 物持ちがいいのか。新品なのか。清潔さがにじみ出るほど、真っ白な手袋だった。


「ん?」

「あ、いや」


 視線を誤魔化しつつ、その手を握り返す。さすがに布が二枚もあれば、体温は伝わってこなかった。


「つーか……あんた、ゆかりの彼氏だよな?」


 仁がそう問うと、宗司は握手したまま固まった。しばらくした後、ふと力が抜けたと思ったら、彼は離した手で自身の首を掻いた。


「……やっぱり、幼馴染みの君には知られてるかぁ」


 仁とゆかりはいわゆる幼馴染みというやつだ。学年は一つ違うが、母親同士の仲が良く、昔はよく遊んでいた。それゆえに、情報はたびたび耳にしていたのである。


「知ってるな。秋に結婚することも、いま新しく建てている所があることも、ガキが生まれて落ち着いたら、そこで店をやることも」

「うわぁ、結構知られてるな……怖ぇし、恥ずかしいし、怖い」

「母親っつうのは怖えよ」

「うん。今よく思い知った」


 宗司は柔らかい笑いを浮かべる。

 ああ、ゆかりが言っていた通りの奴だな、と安心する。とんとん拍子で色々とやっているから、どんな奴かと実は怪しんでいたのだ。


「そういえば仁さ、ちょっと気になったんだけど」

「なんすか」

「おまえさん、ちょっとヤンチャしてた?」

「は? なんで……」

「ん、勘かな」

「はぁ?」

「あれだよ、あれ……黒い虎」

「黒い虎? 知らねえ、なんだそれ」

「虎みたいにギラギラした眼で獲物を豪快に食らう! みたいな?」

「……いや、俺は喧嘩とか吹っかけたことねえし」

「吹っかけられたことはあるんだな」

「……はぁ。まあ、売られた喧嘩は倍で買い取ったくれえだよ」

「来るもの拒まず、か。なーるほど、かっけえ」

「馬鹿にしてるだろ」

「はっはっは、いい威勢だよ。そのくらいでいけ」


 なんだこいつ。やっぱり、そう思わずにはいられなかった。



 そのときの仁はまだ、何も知らなかった。手の平の印についても、この世界についても。


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