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ヤード vs. 探偵

       **



 志木崎景は三十分ほどでヤードの本部に到着した。車を正面の道路に停め、まっすぐ窓口へと向かう。

 少し待っていると、内部連絡を受けたエマ・レイランドが彼の前に姿を見せた。


「やはり君だったな、ケイ」

「そうだねぇ。で、どこまで話したの?」

「どうにかならんのか、その性格」

「どうにかする必要ある?」

「ハァ……来い。奥で話そう」

「もちろん、それがいいね」


 ヤードにいた経験は全くない景だが、すっかり慣れた様子で廊下を歩いて行く。今まで出入りが多かったため、ヤードの面々も彼の存在を違和感に思う者はいなかった。


「あっ、シキザキさん~」

 直接的な接点がない女性たちは、景が手をひらひらと向けただけで騒ぐ。だが逆に、

「相変わらずですね、シキザキさん?」

「お褒めに預かり光栄だよ」

「どこも褒めてませんが!」

 接点を持つ機会が多くあった女性ならばこうなる。人間ってものはよく分からない。いや、景自身も人間なのだが。


「ここでいいだろう」

 前をスタスタと歩いていたエマが、足を止めて後ろを振り返った。そこは刑事部の事務室前だ。

「廊下、か」

「問題ないだろう。伝えるべきことがあるだけだからな」

「じゃあ、さっさと伝えてもらってもいいかな?」

「……そうだな」

 エマの口から話されたのは、彼女が一紀に伝えたことだ。印と鍵、代償の存在。そこまで詳しくは話されていないようだが、隠していた根本はすべて伝わっているらしかった。

「へえ、なるほど」

「なぜ黙っていた?」

「全て話す必要はないでしょ?」

「隠すべきことと話すべきことを履き違えるな」

「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ」

 バチバチと火花を散らす。周りを通りがかった者が小さな悲鳴を上げるのが聞こえた。


「ケイさん」


 恐る恐るながら、しっかりとした声で彼は名前を呼んだ。相変わらず、アイザックは強い精神力を持っている。なんだか──があって、恐ろしい男だ。


「ああ、アイザック。連絡ありがとう」

「いや、はい。あの、イツキはあっちにいるんで」

「分かった、一緒に行こう。じゃあね、エマちゃん」

「……ああ」

 すごく嫌そうな顔で目を逸らされた。まあ、いいだろう。


 アイザックの後を追って、取り調べ室の並んでいる廊下を進む。そのうちの一つの部屋の前に、人が立っていた。

「イツキ、もう、平気?」

「はい、ご心配をおかけしました」

 一紀はとりあえず立っていた感があった。考えられることは一つ──呼ばれてから、呼んでくると置いて行かれたのだろう。アイザックにはそういうところがある。


「じゃあ、帰ろうか」

「はい」

「正面まで送ります」


 アイザックを先頭に玄関口までの道を歩いて行くが、その間に会話が全くなかった。景でも空気の重さがよく分かる。気にするかどうかは別として。


 窓口の前まで来たところで、景はアイザックを呼び止めた。

「ここでいいよ。まだやること、残ってるんでしょ?」

「あ、はい。僕もそのつもりですけど」

「今のアイザックなら、どこまでも来ちゃいそうだよ」

「っ……」


 本人の思っていた以上に頭を働かせていたらしい。分かりやすくシュンとした様子を見せる。

 珍しいこともあるものだ。そう景が思ったとき、一紀が前に出て声をかける。


「アイザック」

「ん?」

「楽しかった。すごい、ロンドンみたいで面白かった」

 アイザックは目を丸くした。そして、変に電源の落ちていた自分が情けなくなったのか、雑念でも振り払うように頭を左右に振った。

「うん、モデルがロンドンだからね。……また、来てね」

「うん、行きます。ありがとう」


 一紀はふっと寂しげに笑う。

 いろいろなことを得て、たくさん考えたのだろうか。


 妙にスッキリとした顔をしていた一紀に、景は違和感しかなかった。

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