ヤード vs. 探偵
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志木崎景は三十分ほどでヤードの本部に到着した。車を正面の道路に停め、まっすぐ窓口へと向かう。
少し待っていると、内部連絡を受けたエマ・レイランドが彼の前に姿を見せた。
「やはり君だったな、ケイ」
「そうだねぇ。で、どこまで話したの?」
「どうにかならんのか、その性格」
「どうにかする必要ある?」
「ハァ……来い。奥で話そう」
「もちろん、それがいいね」
ヤードにいた経験は全くない景だが、すっかり慣れた様子で廊下を歩いて行く。今まで出入りが多かったため、ヤードの面々も彼の存在を違和感に思う者はいなかった。
「あっ、シキザキさん~」
直接的な接点がない女性たちは、景が手をひらひらと向けただけで騒ぐ。だが逆に、
「相変わらずですね、シキザキさん?」
「お褒めに預かり光栄だよ」
「どこも褒めてませんが!」
接点を持つ機会が多くあった女性ならばこうなる。人間ってものはよく分からない。いや、景自身も人間なのだが。
「ここでいいだろう」
前をスタスタと歩いていたエマが、足を止めて後ろを振り返った。そこは刑事部の事務室前だ。
「廊下、か」
「問題ないだろう。伝えるべきことがあるだけだからな」
「じゃあ、さっさと伝えてもらってもいいかな?」
「……そうだな」
エマの口から話されたのは、彼女が一紀に伝えたことだ。印と鍵、代償の存在。そこまで詳しくは話されていないようだが、隠していた根本はすべて伝わっているらしかった。
「へえ、なるほど」
「なぜ黙っていた?」
「全て話す必要はないでしょ?」
「隠すべきことと話すべきことを履き違えるな」
「その言葉、そっくりそのまま返してあげるよ」
バチバチと火花を散らす。周りを通りがかった者が小さな悲鳴を上げるのが聞こえた。
「ケイさん」
恐る恐るながら、しっかりとした声で彼は名前を呼んだ。相変わらず、アイザックは強い精神力を持っている。なんだか──があって、恐ろしい男だ。
「ああ、アイザック。連絡ありがとう」
「いや、はい。あの、イツキはあっちにいるんで」
「分かった、一緒に行こう。じゃあね、エマちゃん」
「……ああ」
すごく嫌そうな顔で目を逸らされた。まあ、いいだろう。
アイザックの後を追って、取り調べ室の並んでいる廊下を進む。そのうちの一つの部屋の前に、人が立っていた。
「イツキ、もう、平気?」
「はい、ご心配をおかけしました」
一紀はとりあえず立っていた感があった。考えられることは一つ──呼ばれてから、呼んでくると置いて行かれたのだろう。アイザックにはそういうところがある。
「じゃあ、帰ろうか」
「はい」
「正面まで送ります」
アイザックを先頭に玄関口までの道を歩いて行くが、その間に会話が全くなかった。景でも空気の重さがよく分かる。気にするかどうかは別として。
窓口の前まで来たところで、景はアイザックを呼び止めた。
「ここでいいよ。まだやること、残ってるんでしょ?」
「あ、はい。僕もそのつもりですけど」
「今のアイザックなら、どこまでも来ちゃいそうだよ」
「っ……」
本人の思っていた以上に頭を働かせていたらしい。分かりやすくシュンとした様子を見せる。
珍しいこともあるものだ。そう景が思ったとき、一紀が前に出て声をかける。
「アイザック」
「ん?」
「楽しかった。すごい、ロンドンみたいで面白かった」
アイザックは目を丸くした。そして、変に電源の落ちていた自分が情けなくなったのか、雑念でも振り払うように頭を左右に振った。
「うん、モデルがロンドンだからね。……また、来てね」
「うん、行きます。ありがとう」
一紀はふっと寂しげに笑う。
いろいろなことを得て、たくさん考えたのだろうか。
妙にスッキリとした顔をしていた一紀に、景は違和感しかなかった。




