行きたくねえんだよ
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ジリリリッと黒電話が鳴る。正直言って出るのが面倒だが、仕方ない。他に出る人がいないのだ。
仁はソファの上で横になっていた体を起こし、一紀のデスクに置いた黒電話から受話器を取る。
「はい、探偵──」
『ジン先輩』
言葉を遮って、アイザックが名前を呼んだ。どこか声が震えている。
「アイザック、どうかしたのか?」
『エマ先輩、しゃべっちゃいました』
「しゃべった?」
『俺も、なんとなくは気づいてたんですけど、やっぱりイツキ……』
──気づかれたな。
声に出して、それを隠せと言ったことはない。が、本人はきちんと分かっているようだった。だから、無意識に何かをこぼしたのだろう。
「そうだ」
『……申し訳ないんですけど、イツキのこと、ヤード本部まで迎えに来てもらえますか?』
「本人の様子はどうだ?」
『ちょっと飲み込めてないみたいで、ひとりになりたいって』
「……分かった」
ありがとう、とだけ言い残して受話器を置く。
大きくため息をついたところで、景がパーテーションの奥から出てきた。
「なに、どうかしたの?」
「エマに気づかれた」
「なるほど。それで、全部バラされたってところかな」
「ああ」
「あのお嬢さんなら、十分あり得るね」
やれやれと景は肩をすくめる。そんな呑気なことじゃねえぞと思いながら、仁は話の続きをはじめた。
「そんで、迎えに来てほしいってよ」
「いるのはヤード本部?」
「そういうことだ」
「まだダメなの? アイザックたちとは普通に会うのに」
「行きたくねえんだよ」
奥歯を噛み締めるように、仁は言い捨てた。これはどうしようもないなと悟った景が、今度は小さなため息をつく。
「分かった。明日の朝食を買うついでに行ってくるよ」
「頼んだ」
外出の支度をしはじめた景を横目に、仁は自身のデスクに着いて、置きっ放しだったカップを手に取った。半分は飲んでいた記憶があったのだが、まだ中には残っていたらしい。
すっかり冷めてしまったコーヒーは、暖かいものよりもなんだか苦々しく感じた。




