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行きたくねえんだよ

       **




 ジリリリッと黒電話が鳴る。正直言って出るのが面倒だが、仕方ない。他に出る人がいないのだ。


 仁はソファの上で横になっていた体を起こし、一紀のデスクに置いた黒電話から受話器を取る。

「はい、探偵──」

『ジン先輩』

 言葉を遮って、アイザックが名前を呼んだ。どこか声が震えている。

「アイザック、どうかしたのか?」

『エマ先輩、しゃべっちゃいました』

「しゃべった?」

『俺も、なんとなくは気づいてたんですけど、やっぱりイツキ……』


 ──気づかれたな。


 声に出して、それを隠せと言ったことはない。が、本人はきちんと分かっているようだった。だから、無意識に何かをこぼしたのだろう。


「そうだ」

『……申し訳ないんですけど、イツキのこと、ヤード本部まで迎えに来てもらえますか?』

「本人の様子はどうだ?」

『ちょっと飲み込めてないみたいで、ひとりになりたいって』

「……分かった」

 ありがとう、とだけ言い残して受話器を置く。


 大きくため息をついたところで、景がパーテーションの奥から出てきた。


「なに、どうかしたの?」

「エマに気づかれた」

「なるほど。それで、全部バラされたってところかな」

「ああ」

「あのお嬢さんなら、十分あり得るね」


 やれやれと景は肩をすくめる。そんな呑気なことじゃねえぞと思いながら、仁は話の続きをはじめた。


「そんで、迎えに来てほしいってよ」

「いるのはヤード本部?」

「そういうことだ」

「まだダメなの? アイザックたちとは普通に会うのに」

「行きたくねえんだよ」


 奥歯を噛み締めるように、仁は言い捨てた。これはどうしようもないなと悟った景が、今度は小さなため息をつく。


「分かった。明日の朝食を買うついでに行ってくるよ」

「頼んだ」


 外出の支度をしはじめた景を横目に、仁は自身のデスクに着いて、置きっ放しだったカップを手に取った。半分は飲んでいた記憶があったのだが、まだ中には残っていたらしい。


 すっかり冷めてしまったコーヒーは、暖かいものよりもなんだか苦々しく感じた。

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