↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/42

言葉



 中心街へと近づくにつれて、空気がどんよりとしてきた。さすが、霧の都と呼ばれるだけあって、視界はあまりよろしくはない。だが、アイザックの見た新聞の予報によると、これよりひどくなることはないらしく、割といい天気なのだという。


 一通り町を探索し、昼食にパイの店を選んだ。また紅茶を飲みつつ、メインの料理を待つ。


「馬車まであるとは!」

「本当に楽しそうだったね」

「うん。あ」

「ん?」

「あー、ありがとうございます」

「うん……?」


 自然と気が緩んでいたことに気づく。おっと……と思ってごまかしたが、アイザックは何のことかまるで分かっていなかった。何を考えているのかよく分からない瞳で、じーっと見つめてくる。


「イツキ、何か心配事?」

「えーっと……あ、じゃあ、聞きたいことを」

「聞きたいこと? なになに」

「仁さんのことなんですけど」

「ジン先輩?」

「はい。元ヤードだったりします?」

「そうだよ。聞いてない?」

「何も……」

「え、じゃあ、よく分かったね」

「さっきもですけど、アイザックが『先輩』と付けているので」

「『先輩』?……あ、そっか」


 アイザックは少し考えたあと、気が抜けたように笑った。一紀は首をかしげながら、彼の言葉の続きを待つ。


「あのね。たぶんそれ、イツキが日本人だからだよ。英語に、そういう言い方はないから。俺も別に、ジン先輩もケイさんも区別して呼んでる意識ないし」

「ああ、なるほど」


 どういうわけか、使っている言葉は違っても、通じる世界にいるらしい。つまり、アイザックが話している言葉をどこかで訳され、それを一紀は聞き取っている。いくつか生じている不自然なものは、訳す上でのバグのようなものだろうか。

 アイザックに多く生じているが、面白いからそれ以上は言わないでおこう。


 ん? ということは……アイザックの言った「態度が硬い」の意味は、敬語を使わないといけないと意識していることなのか……?


「三年くらい前にね、急にやめちゃったんだよ」

「急に?」

「そ。ジン先輩と親しかったある人が殺された事件があって、そのあとすぐにやめちゃった。それからは、今みたいな感じ。元から探偵やってたケイさんと組んで、事務所やってる」

「何があったんだろう……」

「その辺は、ジン先輩が自分から話したいと思うよ」

「そうですよね」


 話の間に、ミートパイが二つ運ばれてきた。美味しそうなにおいがする。イギリスの料理は美味しくないと聞いたことがあるが、さてどうなのだろう。ゴクリと、覚悟を決める。


「あははは」

「な、何ですか、アイザック」

「大丈夫。ここはイギリスのようで、イギリスじゃないから」

「ってことは、普通に美味しい……いただきます!」


 一口、パクリと食べる。

「おいしい!」

 美味しかった。


「最初はね、イギリスみたいに味がなかったようだけど、周りの地域に日本もイタリアもフランスもあるから、それじゃあ色々と不都合でね」

「へぇ」

「学んじゃうと、やめられないよね」

「あはは、確かに」

「俺も食べよ。終わったら、ヤードね」

「いよいよですね」

「いよいよだよ。だけど、ゆっくり食べてね」

「すいません、急ぎすぎました」

 アイザックが食べる前に、一紀のパイは半分の大きさになっていた。あぶないあぶない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。