イギリスらしい
「おまたせー。どうだった?」
そう言いながら戻ってきたアイザックは、普段とほぼ変わらない格好でそこにいた。先ほどまでの寝癖はきれいに直されており、今にも寝そうだった睡魔も吹っ切れたようだ。
「とても美味しかったです、ごちそうさまでした」
「よかった」
彼は笑いかけながら、そっと胸をなで下ろした。アイザックなりに、気を遣ってくれていたらしい。
「カップはキッチンまで運びますか?」
「いいの? じゃあ、おねがい」
奥にお邪魔して、シンクにカップを置いた。生活感の溢れるキッチンだ。よく使うのだろうものは分かりやすく外に置いてある。だが、特に散らかっている印象などはない。案外、きちんとしている――というのは、少し失礼だろうか。
「イツキ、ありがと」
「いえいえ。そういえば、スーツなんですか?」
「うん。あとでヤードに行くし、考えるのも面倒だから」
「な、なるほど」
ふと、探偵事務所の二人を思い出す。いや、彼らはもはや制服なのだろう。気にしないでおこう。
アイザックに視線を戻すと、一つだけ足りないものがあった。それは赤いもの……そう、ネクタイだ。
「じゃあ、行こっか」
「アイザック! ネクタイは?」
「あっそうだった。何色がいいかな?」
「何色があるんです?」
「いろいろあるよ」
彼はうきうきした空気を纏って、アンティークな棚に向かった。上段の右側を開けると、正方形の仕切りがされた中に、ネクタイがずらりと並んでいた。
「でしたら……この紫とかどうですか?」
「いいね、そうする」
一紀が指さしたものを手に取り、アイザックは慣れた様子でキュッと結ぶ。しっかりと締めた後、さも当然のように緩めて整えた。
「よし。今度こそ行こっか」
「はい、行きましょう!」
「あはは、楽しそう」
「楽しいですよ。外国に行くのは初めてなので。あ、いや、外国ってちょっとちがうかもしれませんけど……」
「いやいや。まあ、とにかく見よー」
彼に背中を押され、一紀は外に出た。どれくらいの時間が経ったかは計っていないが、先ほどよりも人通りが増えている。
「中心街はこっち。もっとイギリスっぽいよ」
アイザックが指さした方向に、二人はゆっくりと歩いて行く。
この辺りでも似たような雰囲気の建物が多く並んでいて、十分にイギリスらしいのだが、そう言われると期待がぐっと高まる。楽しみだ。
ずっと分かりやすくワクワクとしている一紀に、アイザックは微笑みを被せた。
こんなにこの景色を喜ぶ人は珍しいなと思いつつ、探偵事務所の客人に余計な詮索はしないでおこうと、疑いは吹っ飛ばしてしまう。いや、実際には勘づいていることがあるのだが。
悪い子じゃないし、楽しそうな様子に悪い気はしないから、別にいいか……と思考を放棄するアイザックであった。




