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魔女と呼ばれた私の不本意な救世行脚  作者: 津々浦 うら


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2/4

ふたり



ヨハンが消えた後、森には奇妙な静寂が訪れた。さっきまでの喧騒が嘘のようだ。私は渡された箒と帽子をぎゅっと握りしめる。まるでお祭りの景品みたいに軽々しく与えられたけれど、これが私の新しい人生の道具なのだ。

「……ふん」

 低い声に顔を上げると、ゼロスが背を向けたまま小さく鼻を鳴らした。呆れているのだろうか。それとも怒っている?

「あの……ゼロスさん…?は、これからどうされるんですか? さっきは『やりたいことがある』って…。」

 恐る恐る尋ねると、彼はゆっくりとこちらを振り返った。相変わらず鋭い眼光だけれど、どこか観察するような色も混ざっている気がする。


「どうもこうもねぇよ。テメェが俺の封印解いちまったんだ。責任は取ってもらう。」

「え、責任って……?!」

「あの神が言ってただろうが。星屑の欠片を集めろってな。俺ァテメェみてぇなガキのおもりなんか死んでもごめんだが……

。」

そこで彼は一度言葉を切り、チラリと私の左手のブレスレット――正確にはそこに宿る自分の魔力だろうか――を見た。

「俺の力もほとんどこいつに持ってかれたままだ。それを回収するのが最優先ってわけだ。テメェを利用する形にはなるが……まあいい。」

 利用、という言葉に少し胸がちくりとしたけれど、少なくとも見捨てられるわけではないらしい。それだけでも今は十分だった。

「じゃあ……一緒に探してくれるんですね!?」

思わず声が弾んだ。一人でこんな途方もない旅ができる自信なんてなかったから。

ゼロスはフンとそっぽを向いた。

「勘違いするな。俺の目的のために手を組むだけだ。テメェと馴れ合うつもりは毛頭ない。」

「は、はい…!」

それでも構わない。頷くと、彼は少し考える素振りを見せた。

「……とりあえず、この森を抜けるぞ。テメェみたいなのが長居できる場所じゃない。」

「…はい!」

イチルはもらった帽子を被り、箒を握りしめた。不思議と怖くはなかった。むしろ、この得体の知れないブレスレットとゼロスの存在が、確かな支えになっているのを感じる。

「おい。」

森の出口に向かって歩き出したゼロスが、数歩進んでから私を呼び止めた。

「あの屋敷……もう戻るつもりは?」

「え……?」

「てめえの住んでたあの家。」

ああー…と意識していないのに口から声を漏らすと、イチルは少しだけかんがえた。

確かにゼロスの言うようにあの屋敷には未練も何もない。焼けたであろう自分の部屋と、私を見捨てた人たちのことなど考えたくもない。

「……ありません。少なくとも今は帰りたくないです。いつか戻る時が来るかもしれませんけど…その時までは私も義妹達に負けないくらい強くなってから戻ってボコボコにします!」

笑いながらきっぱりと言い切ると、ゼロスは満足したように「フン」と短く鼻を鳴らしただけだった。その横顔には、少しだけ安堵のようなものが浮かんでいるように見えたのは、気のせいだろうか。


森の中を歩きながら、私たちはぽつりぽつりと言葉を交わした。

「それで、星屑の欠片ってどうやって見つければいいんでしょう? 方向くらいは分かるんでしょうか……?」

「さあな。だが、アレが撒き散らされた以上、何かしらの影響が出ているはずだ。異常な現象を見つけりゃあ近いかもしれねぇ。」

「異常な現象……。」

例えばどんなのだろう。昔読んだ御伽噺では、作物が枯れたり、季節が狂ったりといった描写があった気がする。あれが本当なら……。

そのとふと、ヨハンの言葉をおもいだした。。

「そういえばあの時、ヨハンさんが私を見て『そっくり』って言っていましたよね。誰になんでしょう…。」

ぽつりと口から出た疑問に、ゼロスの足が一瞬止まった。

「…さあな。あの神の考えることは分からねぇ。だが…」

彼は何か言いかけたが、結局続きは言わずにまた歩き出した。


しばらく歩くと、木々の切れ間から眩しい太陽の光と青空が見えた。森の終わりが近いのだ。最後の木陰を抜けた瞬間、私たちは息を呑んだ。


一面の草原だった。遠くには小さな村が見えた。

「あれ……?」

村の周辺だけが、奇妙な靄に覆われている。しかもその靄は紫色で、時折微かに渦巻いているように見えた。

「まさか……。」

ゼロスが低く唸る。間違いなく、あれは普通の自然現象ではない。

「あそこに行くべきでしょうか?」

尋ねると、彼は険しい顔で頷いた。

「だろうな。しかもあの色……不吉な予感しかしねぇ。」

彼は私をじろりと見た。

「テメェ一人で行っても即座に野垂れ死ぬだけだ。俺が一緒に行ってやる。」

「一緒に来てくれるんですか?」

「何度も言わせるな。てめぇを利用するのはこっちだ。」

ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、彼の声にはほんの少しだけ別の温度が混じっている気がした。

こうして私たちは、最初の「異変」が起きているであろう紫の靄の村へと、ゆっくりと歩みを進めたのだった。

私の左手首のブレスレットが、微かに温かくなったような気がした。ゼロスの魔力が反応しているのかもしれない。

二人の冒険は、まだ始まったばかりだ。




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