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TRUE♰LIE  作者: 410
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真実

 目が覚めると、見慣れない天井だった。


 視界がぼやけたまま、ベッド脇に視線を向けると、椅子に腰かけた人影がひとつ。


「ゆず……っ!」


 葉月だった。

 

 上体を起こした俺と目があった途端、葉月の大きな瞳から涙がポロポロとこぼれた。


「よかった。元気になったんだね」


「もう!人の心配している場合じゃないよっ!心配したんだからっ」


 次の瞬間、勢いのまま強く抱き締められる。


 肩口に揺れた髪から、ふわりと馴染みのある香りがした。


 家で、いつも使っているシャンプーの匂い。


 それだけで、張りつめていた何かが解けていくような気がした。



 

 葉月の知らせをうけて、櫻井さんもすぐに駆けつけてきた。


 その顔はいつも以上にしかめっ面だというのに、どこか瞳は潤んで見えた気がした。


 互いに迂闊に口を開けないまま、秒針の音だけが響く。


 頼みの綱の葉月は、この空気を知ってか知らずか。


 櫻井さんに『花瓶のお水換えてきますね』と言って、あっさりと出て行ってしまった。


 深く息を吸ったあと、櫻井さんは目も合わせないまま、言葉を選んだ。


「……体調は、どうだ」


「特に、大丈夫です。というか、正直よく覚えていなくて……」


 それから、櫻井さんは苦い顔をしながらも、あの日のことを話してくれた。

 

 中央裁定局。

 

 西鈴庁のトップを任命し、不正があればその権限を剥奪できる独立機関。


 あの日、リアルタイムでの裁定により藍田さんの権限は剥奪され、現在は櫻井さんがその座を引き継いでいるとのこと。

 

 そして、著しく倫理観を欠いた今回までの一連の件は、既にメディアでも大きく報道されているらしい。

 

 警察への信用問題から公表の是非について意見は割れたものの、櫻井さんの強い要望で事実を伏せない方針が決まった。

 

 現在は詳細を調査中で、櫻井さん自身も記者会見で説明に追われているという。


「と、いうわけだ。何か聞いておきたいことはあるか?」


 (と、言われてもなにがなんだか……)


 あまりの情報量に、まだ頭の整理が追いついていなかった。


 つい、柄にもなく思い浮かぶままに、声に出してしまった。

 

「そういえば」


「俺のことを、排除するつもりだったんじゃ……」


「はあ?なんのことをいっているんだ。お前は」


「橘さんと二人で、夜の保管庫で話してたじゃないですか。俺が『計画に邪魔』だって」


「あぁ?」


「俺、内部不正の報告をしようとして……」

 

「あー……っと、あれは違う」


 櫻井さんは、気まずそうにうなじを掻いた。


「内部不正には、俺も薄々気づいていた。ただ、証拠がなかった」


 ここまで徹底的に痕跡を消せる以上、相手は相当上の権限を持っている。


 だから櫻井さんはより確実な証拠を集めるために、自分自身が権限を持てる位置まで上がる道を選んだらしい。


「まさか、藍田さんだとは思ってなかったがな。ここまで来るのに、数年もかかった」


「じゃあ、『邪魔』っていうのは……」


「お前の正義感なら、先に動くだろうと思った」


「え」


「証拠も揃ってないのに正面から詰めたって、絶対に逃げられる。だから、それまでは大人しくしていてほしかった」


 櫻井さんは、小さく息を吐いた。


「ま、藍田さんの目的がお前自身だったなら、遅かれ早かれだったのかもしれないがな」


「本当に、俺の……思い違い……」

 

 胸の奥で固まっていたものが、ゆっくりとほどけていく。

 

 そう理解した途端、じんわりと涙がこみ上げてきた。


「当たり前だろう。お前みたいな生意気なガキ、そう簡単に俺より先に死なせるわけにはいかないからな。どうしても死にたきゃ俺より偉い立場になってから言え」


「って、アンタ今トップじゃないですか!超えられるわけなくないですか、性格悪いですよ」


「ほう。現トップにそこまで言い返せるなら、当分はまだまだ五月蠅くてかなわないな」


 そう言って笑ったあと、櫻井さんは腕時計に目を落とした。


 ほんの一瞬だけ、その表情が曇る。


「……悪い。そろそろ戻らないと」


 立ち上がりかけて、それでもすぐには扉へ向かわなかった。


「体調、本当に大丈夫なんだな」


「大丈夫ですよ」


「無理はするなよ」


「分かってますって」


 それでもまだ何か言いたそうに、櫻井さんは俺の顔を見ていた。


 けれど次の瞬間には、小さく息を吐いて踵を返す。


「今はしっかり休め。また時間を作って様子を見に来る」


「あ、はい」


「じゃあな」


 そう言って、櫻井さんは慌ただしく部屋を出て行った。


 悪態をついた口で礼も言いそびれたまま、俺はその大きな背中が扉の向こうへ消えるのを見送った。


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