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翌日。

 

葉月は学校を休んだ。

 

熱はなさそうだが、食欲もなくずっと部屋にこもっている。

 

昨日はずっと泣いてばかりだったので、落ち着いたのはいいが、今度は感情が死んだかのようにふさぎ込んでいる。

 

本当は側にいてやりたいが、掛けられる言葉も思いつかず俺は逃げるようにそっと自室を後にした。


「……いってくるね、葉月」


           ◇ ◇ ◇


定例会議の後。


人がまばらに会議室を抜けていくなか、資料を見つめる櫻井さんに呼びかける。


 「櫻井さん」


その声に顔を上げたのを確認して、櫻井さんにお礼を伝えた。


「葉月の件、学校へ連絡してくださって、ありがとうございました」


「ま、葉月のことだから理由はあるのだろうし別に構わないが。お前こそ、側にいてやらなくていいのか?」


「俺がいたって、できることなんてないですから」


「…そうか。ところで、お前N.Tの件、なにか独断で動いてたりしないか?」


「…そんなことないですよ」


 「先日、夜の保管庫に一人で来ていたと橘から聞いたが?」


 「それは、いつまでも櫻井さんたちが両親の件を教えてくれないからじゃないですか」


 「それはだな…」


 「刺激が強いから、とか言うんでしょう。俺ももう子どもじゃないですよ」


 図星だったのか、言葉を選んでいるのか。


櫻井さんは、俺の言葉を否定することはなかった。


正直、両親の件を教えてくれと前ほど口にはしないが、諦めたつもりはない。


不信感を持たれては困る。

 

 「とにかく、何も関わりはありません。なんなら、今ここで社用スマホの通信履歴の確認でもしますか?」


 そう言って、俺はその場で社用スマホを櫻井さんの前に差し出した。


こんなこともあろうかと、連絡先の交換等はしていない。


もちろん、N.Tのアジトへ行く際は社用スマホも置いていっているので、位置情報も検知されていないはず。


 「…いや、いい。お前が言うなら、信じる。葉月のとこ、早く戻ってやれよ」


 櫻井さんは一瞬、差し出された社用スマホに視線を移したが、すぐに資料に視線を戻す。


なんだかむず痒い気持ちのまま、社用スマホをしまうと、一礼して会議室を後にした。



           ◇ ◇ ◇


 ほんの少しの罪悪感を抱えながら、自室へと続く廊下を歩きながらぼんやりと考える。


さすがに、そろそろ接触は控えた方がいいかもしれない。


視線を落としながら思考を巡らせていると、鼻に軽い衝撃が走った。


 この状況、とてもデジャブだ。


くだらないことを考えながら、鼻をさすりながら顔を上げる。


案の定そこには、またしても大量の荷物の脇から顔を出した、花枝さんがいた。


「あ、柚紀くん!先日はどうも」


「いえ、俺でよろしければまたおっしゃってください」


完璧な定型句を置いて、ほほ笑む。 


このまま話は終わると思ったが、花枝さんは予想外の話を切り出してきた。

 

 「そのことなんだけどね、実はまた頼みたくて…」


 (このパターンで本当に来るとは…)


 余計な心の声を削ぎ、後半の本音だけを声に乗せた。


「はあ、構いませんが」


「ほんと!?助かる!!みんな同じような納期ばかりで依頼するから、手が回らなくてさ」


そう苦笑いを浮かべながら、花枝さんは前回と同じようなファイルを俺に差し出した。


ファイルを受けとるとき、前回の違和感が沸き上がり、ふと疑問が口をついた。


「そういえば、このDX化の仕事って、誰から依頼されてるんですか?」


「これかい?これは、大体いつも出社すると僕のデスクの処理依頼BOXに置いてあるよ」


 (ってことは、直接依頼されてるわけじゃないのか……)


 パラパラとファイルをめくりながら、そんなことを考える。


「? それがどうかしたの?」


「あ、いえ。ちょっと気になっただけです」


 「そう?じゃあまた頼んだね。前回と同じようにやってくれれば僕の確認は不要だから。直接提出しておいて」


 提出先を聞き返す間もなく、花枝さんは遠くに消えていった。


(一旦、ファイル内を確認してみるか)


          ◇ ◇ ◇


 自室に戻ると、早速俺はファイルを開く。

 

量も内容も見たところ、特に前回と変わらない。


(となると、これも今日中には終わるか……ん?)


よく見ると、ページの右上に「N」と小さく印字されている。


だが、この「N」が何を示すものなのか注釈もどこにもない。


意味がわからないままでは、転記する必要があるのかどうかも判断できない。


前回は見落としてしまっていたが、もし転記が必要ならば前回データも併せて修正する必要がありそうだ。


幸い、前回のデータも、花枝さんには途中まで見せただけだ。


最終提出データは、まだ俺の手元にある。


(これは花枝さんに確認すべきだろうか)


ページをめくっていると、最終ページのメモに完成データの提出先メールアドレスの記載がされていた。


宛先は「証拠保管担当」となっていて、個人名まではわからなかった。


(前回のファイルは、花枝さんが対応するつもりだったから抜いてあったのか…?)


思い切って、その担当者に連絡をしてみることにした。


すると、返信は思いのほか早く来た。


『ご確認ありがとうございます。ですが、当該事項はLv1機密のため、お答えできかねます。なお、DXデータへの転記は不要です』、とのことだった。


(Lv1ほどの重要な情報なのに、転記は不要…?)


それはこの情報が、DX化を機に消えてしまっても構わないということだろうが、どうにもひっかりが抜けなかった。


PC画面の端に視線を落とすと、いつの間にか19時を回っている。


(そうだ、そろそろごはんつくらなきゃ)

 

いつもは葉月が家事をしてくれていることもあるが、それに甘えている場合じゃない。


この仕事も前回同様に、納期は出来次第でよいと聞いている。


こんな時くらい、仕事を後回しにしてもいいだろう。


 


どうにも気が進まず、俺はここで切り上げた。






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