善意は救いか
おかしい。
私が用事でアジトを留守にしたあの日あたりから、私への二人の態度が妙によそよそしい。
いや、唯に関しては元々付かず離れずの最低限の会話しないから変わってない。
おかしいのは、特に燐。
あれ以来東雲がアジトに来ることが減って落ち込んでいるのかとも思ったが、そうでも無さそうだ。
それに、おかしいのは、私への態度だけじゃない。
唯と燐の二人の関係も、どこかぎこちない。
「ねぇ、最近なにかあった?」
「え」
突然の問いに、燐の肩が跳ねる。
マグカップを片付けていた手を1度止めたあと、静かに続けた。
「なにも、ないよ」
「うそ、明らかにおかしいわ。私への態度も」
「そんなこと...」
感情に任せてつい1歩踏み出して詰め寄ると、
視線を逸らしたまま、1歩後退する燐。
このなんとも言えない感覚を、私は知っている。
(もしかして――…)
そうして燐を問い詰めた結果、やはり予想通りだった。
葉月がアジトに来たこと。
理由は分からないが、私に何かあった時は葉月に連絡して欲しいと伝えられたこと。
理由は分からないと言っているが、二人とも提案を受け入れているあたり、大方察しはついているのだろう。
その反応の結果が"これ"だ。
見上げたカレンダーに、ふと目が止まる。
明日はいつもの、葉月との約束の日。
(…言うしかないわね)
◇ ◇ ◇
いつもの公園。
葉月は変わらぬ様子で、他愛もないことを駄弁っていた。
1度軽く息を吸い、極めて冷静に切り込んだ。
「ねぇ、葉月。聞いてもいい?」
楽しそうにお喋りしていた葉月の表情は、一変して呆気にとられていた。
「マコちゃんから話なんて珍しいね。なに?」
「貴方、燐たちに何か言った?」
「……詳しいことは、言ってないよ。ただ」
「ただ?」
「何かあったら私に連絡して欲しい、とはいった」
気まずそうに視線を落としながら、葉月は小さく呟いた。
やはり燐から聞いた話の通りで間違いなさそうだ。
それに、この反応をするということは、きっと善意のつもりだったのだろう。
大きなため息を吐き、私は覚悟を決めた。
「踏み込みすぎなのよ、貴方。たとえ、善意だとしてもね」
「ごめんなさい…」
「……今までありがとう。でも、もうここには来ない」
「マコちゃ――……」
「さよなら」
泣いていそうな葉月の声を背に受けながらも、被せるように押し切った。
一度も、振り返らなかった。
知っている。 頭では理解している。
傷つけたことに対して、心から謝られていることも。
助けようとして動いてくれてくれたことも。
葉月の善意に嘘はない。
けれど、私のこの嫌悪感にだって嘘はない。
謝られたからといって、癒えるわけじゃない。
許せるようになるとも、限らない。
どう関わればいいのか腫れ物のようにされるのも、
どう思われているのか警戒するのも、
どんな目にあったのか同情されるのも。
私にとってさよならとは、尊重だ。
決して交わることのない手を手放すことは、
相手も自分もどちらも否定しないこと。
願わくば、お互いどこかで幸せを願える程度でいい。
この時間は過去の思い出として、綺麗なまましまう。
やっぱり、1人の方が楽だ。




