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飛空技師は駆り出される  作者: 似瀬
ネブルヘイナ大森林編

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第156話 雌伏終い

           ──飛空技師は駆り出される──


おウマさん、激怒──。

「なァどう思うオマエ等…? 私の目にはおウマさんが怒髪冠を衝いているように見えるんだが…違った意見の持ち主は居るか…?」


「ニキには激昂してるように見えるニね…」


「僕には堪忍袋の緒が切れたように見えるよ…」


「全員大して意見変わってねェじゃねェか…」


(たてがみ)が揺らいで目付きが変わっただけで雰囲気がガラッと変わった…。これはあれか…? 本当に今までは本気じゃなかったって展開…?


精々足元をうろつくコバエ程度に思ってたのが…ちゃんと私達を敵と判断したってこと…? なんだその強者ムーブは…。


厄介だが攻略手段さえ確立できれば比較的容易に倒せる相手かと思ってたのに…もうそんな悠長な考えは捨てざるを得ねェ…。


「 “ブゥルルーーーンッ!!!” 」


「げっ…何だァ…?」


魔物は天を見上げて大きく咆哮を上げると、それに呼応するようにパイプから勢いよく深紫霧(きり)が噴き上がった。


その様はまるで活火山から上がる黒煙のよう…。そのまま深紫霧(きり)はあっという間に魔物の全身を覆いつくした。


かと思えば深紫霧(きり)は不自然に上へ流れていき、これまた不自然に空中を漂い…大きな球体を作り出した…。


普通の煙じゃああはならんし…やっぱ一つ一つが意思を持つ細胞の集合体なんだろう…。それを一箇所に集めて何をしようってんだ…?


「 “バゥルルーーンッ…!!” 」


もう一度大きく咆哮を上げると、宙で球体を保つ深紫霧(きり)がグニャグニャと動き出し…大砲の弾サイズの深紫霧(きり)の塊が私達に向かって発射された。


咄嗟に後ろへ跳んで事無きを得たが…、深紫霧(きり)の弾が命中した地面は窪んでいた…。ほぼ実体のない深紫霧(きり)が…地面を窪ませた…。


一瞬で引いていく血の気…魔物の上部に漂う球深紫霧(きり)は今もグニャグニャと動き続けている…。マズい気がする…〝音〟がする…!


「全員下がれ…! 巨木の後ろに逃げ込め…!」


私が呼び掛けると同時に…無数の深紫霧(きり)の弾が発射された。まるで降りしきる矢の雨…、地面が窪む鈍い音が辺り一帯から聞こえてくる…。


当たらないことを祈りながら死に物狂いで木々の中に避難し…巨木の後ろへ身を隠した。深紫霧(きり)の弾が高速でぶち当たっているせいで巨木も大きく揺れている…。


「ヒィィ…?! 何ニあの恐ろしい攻撃は…?!」


「まあ元は意思を持つ細胞の集まりだし、攻撃の威力を大幅に削げるだけの力があるからな…それを攻撃に転用にすりゃあれくらいできんだろうぜ…」


「これが魔物か…話に聞いてた以上に規格外だな…」


攻撃が止むまで巨木の後ろから出られないが…いつまで続くんだこの攻撃は…。メキメキと巨木が軋む音がするし…何なら徐々に傾いてきている…。


「おいヤベェぞこれ…! 倒れるぞ…?!」


「全員退避ー…! 今すぐ退避だー…!」


魔物の攻撃に注意しつつ急いで巨木から離れると…やがて巨木は音を立てて倒れた…。逃げ遅れてたらペチャンコだったぜ…。


巨木が倒れるとほぼ同時に魔物の攻撃は止んだ…。茂みからこっそり顔を覗かせてみると…地面がボッコボコになっている…。


あんなの真正面から喰らっちまったらただじゃ済まねェな…、全身打撲は必至だろうし…骨折も十分視野に入る…。


「どうするアレス…流石に今まで通りの方法では攻めらんないよな…?」


「そうとも決まったわけじゃねェが…まあ流石に警戒されてるだろうし…今すぐ固まって攻め込むのは無謀だろうな…」


「だよな、私もそう思う。だからよ…! 今こそ残しておいたクギャ(とっておき)の出番だと思わねェか…?! 圧倒的体格差に悩ませられながらも散々地上から攻め続けたんだ…魔物の意識は下に釘付けな筈…! だからこそ今なら虚をつける…!」


「概ね賛同だが…オマエが行くのか…? 俺達は今強力な遠距離攻撃を見せつけられたばっかだぞ…? もし狙われれば…」


「そりゃそうだが、素人が土壇場で完璧に乗りこなせるかは賭けだろ…? その点私ならもう慣れっこだ、私以上の適任は居ねェさ」


「──俺達が最大限魔物の気を惹く…、気を付けろよ…」


「ったりめェだ…! ちょっくらひとっ飛びしてくるぜ…!」


魔物の注意を惹いてしまわぬよう、屈みながら茂みの中を移動する。クギャは恐らくどこかに身を潜めている筈だが…今どこに居んだろうな…。


呼べば駆け付けてくれるだろうが…魔物がその声に反応するとも限らんしな…。私が魔物の注意を惹いちゃ奇襲が意味を為さない…。


とは言えこうも生い茂ってると見つけるのも一苦労だ…蟲人族(ビクト)みてェに嗅覚で見つけるとかもできねェしな…。


“──ガササッ…ガサガサッ…”


「カカ様…! どうかなされましたか…?!」


「うわっビックリした…! やめろよ急に…」


巨木の上からガサガサ音がするなと思った矢先…アクアスが長い蔦を急降下してきた…。サルかオマエは…ビビらせやがって…。だがある意味ナイスタイミングだ。


「クギャが今どこに居るか知らないか…?」


「クギャ様でしたら向こうで待機しています…! クギャ様の力が必要なのでしたら、(わたくし)が呼びに行きますが…」


「いや私が直接行く、オマエは引き続き全体の援護(サポート)に集中してくれ…! 見て分かると思うが…魔物が本気を出してきてな…」


「カカ様…十分お気を付けてくださいね…」


後ろからは魔物の咆哮と大きな音が聞こえ…皆が気を惹いてくれている…。引き続き茂みの中を進みながら、アクアスに教えてもらった場所へ急ぎ向かう。


付近まで行くと、巨木の傍でちんまりと伏せて待機しているクギャを見つけた。何だコイツカワイイな…っとか考えてる場合じゃねェな。


「待たせたなクギャ…! いよいよお待ちかねの出番だぞ…!」


「 “クギャギャッ!” 」


クギャの背に飛び乗り、飛び立つタイミングを窺う。飛び立ってから魔物より高い位置まで行くのには少し時間を要する…、奴が完全に顔を背けるまで辛抱強く待たねェとな…。


魔物はまた上空に深紫霧(きり)を溜め、攻撃の準備を整えている。そんな中、魔物を挟んで反対側から突然土煙が上がった。


何故土煙が上がったのかはちょっと見えなかったが…多分ニキが地面を殴ったのだろう。だがそのおかげで魔物は顔を土煙の方に向けた。


「今だクギャ…! 思いっきり羽ばたけ…!」


「 “クギャー!” 」


今がチャンスと見て、勢いよく地面から飛び立った。このまま魔物の上…の深紫霧(きり)の上まで飛び、奇襲のチャンスを待ちたい。


狙いは魔物が深紫霧(きり)攻撃を終えたタイミング。その後どんな行動に転じたとしても…クギャの飛行速度なら変なことをされる前に水晶体へ接近できる。


ニキ達はもう一度深紫霧(きり)攻撃の脅威に曝されることにはなっちまうが…こればっかりはあの3人を信じるしかない…。


皆を心配しつつ、垂直に飛ぶクギャの背中に何とかしがみつき…ようやく深紫霧(きり)の上まで辿り着いた。ここまで来れればこっちのものだ。


あとはできるだけ魔物の真上を位置取り、奇襲までの最短ルートを維持(キープ)する──腹積もりでいたのだが…。


地上を見下ろして鳥肌が立った…、全くこっちを見ていなかった筈の魔物が…頭を上げてこっちを直視していた…。


私と魔物の目が合ったと同時に…再び深紫霧(きり)がグニャグニャと動き始めた…。今までになく鳴り響く〝音〟…そうでなくても事態のヤバさは明白…、クギャは私の指示を待たずに退避を選択した…。


「何で気付かれてんだ…?! いや今は一旦いい…! クギャ頑張れ…! でないと大惨事だぞ私もオマエも…!」


「 “クギィ…!” 」


攻撃される前に木々の中へ逃げ込みたかったが…目障りな羽虫をみすみす見逃してはくれず…深紫霧(きり)の弾が発射された…。


容赦ない弾の雨…、クギャは高度を下げながら旋回するように飛んで何とか被弾を回避しているが…いつまで持つか分からない…。


霧弾(アレ)に実体があれば…私が弾くことでクギャの負担を多少減らせるんだがな…。クギャの飛行能力を信じることしかできない…。


だがクギャはしっかり弾から逃げながら順調に高度を下げていく。しかし魔物もアホじゃない…、クギャの動きを読み…偏差撃ちをし始めた…。


クギャも必死に対抗し、急旋回して方向を変えたり…急上昇や急降下で器用に霧弾(たま)を避けていく。


実に凄いことだが…気を抜いたら振り落とされそうだ…。そこまで腕力に自信ないから…これヤバい…遠心力が…──あ˝っ…?!


「 “クギャ…?! クギャギャ…!” 」


必死にしがみついていたが…ついに限界がきた…。まだ地上から距離がある空中で勢いよく放り出された…。


それに反応したクギャがすぐさま私の方へ飛んでくるが…霧弾(たま)は未だ発射され続けている…。このままじゃどっちも…。


“──メキメキメキメキッ!”


集中砲火を浴びると覚悟したが…突如私達と霧弾(たま)の間に太い蔓が割り込み、攻撃を受けることなくクギャに拾われた。


これは何だっけな…竜蔓豆(ドラゴンビーンズ)だっけか…? 定かじゃないが…きっとニキの仕業だろう。そういやバトルリュック背負ってたもんな。


心の中で感謝しつつ、蔓が破壊される前に木々の中へ避難。予想外な事態に苦しめられたが…私もクギャも無事で良かった…。


攻撃自体が失敗に終わったのはいただけないがな…、クソォ…何で気付かれたのか分かんねェ…。背中に目でもあったのか…?


「カカさん大丈夫ー…?!」


巨木の上からカーリーちゃんの声。アクアスといいカーリーちゃんといい…よく当たり前のようにこんな巨木にも登れるものだ…。


「私もクギャも大丈夫だよ…! それより一つ聞きたいんだけど、魔物の体におかしな箇所はない…?! 背中に目があるとか…!」


「そんなのないよー…! ──もしかして何で魔物にバレたのか分かってない感じー…?! ウマってね、めっちゃ視野角広いのー…! 魔物が普通のウマと一緒かは分かんないけど、一緒なら真後ろ以外ほぼ見えてると思っていいよー…!」


そんな広いのウマの視野角って…!? 初耳だ…事前に教えといてくれよ二等星ハンター…! こっちはただの飛空技師なんだぞ…。

※ウマの視野角は約350°


クソ…嘆いてても仕方ねェが…せっかくの作戦が台無しになったのは悔やまれる…。恐らく魔物も警戒してくるよな…。


さっきの今で同じことしても通用しないだろうし…一旦また地上から攻めるとしよう…。クギャはまた一旦待機させ、私だけ戦場に戻った。


足元には無残にも破壊された竜蔓豆(ドラゴンビーンズ)の残骸が転がっていて、それを見下ろす私のもとへニキが駆け寄って来る。


「カカ…! 良かった…大丈夫みたいニね」


「おかげさまでな、危うくこの残骸みたいになるところだったぜ…。しかし悪かったな…簡単に魔物を倒せたかもしれねェのに…」


「しょうがないニよ、切り替えていくニ! 落ち込んでちゃ魔物は倒せないニよ! 皆で頑張ればきっと何とかなるニ!」


何てふわっとした激励…でも不思議と元気が出た。確かにそうだ…反省会はやること全部やり終えた後でいい。


今すべきは次の手を考えること…、魔物を倒す為の策を…。


荒女(あらおんな)…! 頭巾…! こっちに来い…! 俺に考えがある…!」


私が考えるまでもなく策の方から来た…考えずに済んでラッキー。私のよりアレスの策の方が上手くいきそうだしな。


魔物が空を見上げて他にも何か飛んでいないか警戒している内に、アレスとロイスのもとへと駆け寄る。


「おうオマエ等、ごめん…」


「先制で謝罪してくんなよ…別に攻めてねェしよ…。それより聞け、アイツの付け入る隙を見つけた…! そこを狙えば確実に右前脚のパイプをへし折れる…!」


「へぇー…凄いじゃん…失敗しなきゃいいね…」


「おい切り替えろ…! 本当に攻めてねェから…!」

「ナイスファイトだったニ…!」


励まされながらアレスの話に耳を傾ける。アレスの言う付け入る隙とは、今まさに絶賛苦労させられている深紫霧(きり)攻撃のことだった。


アレス曰く、深紫霧(きり)を空中に溜めている最中は足元がガラ空きになるらしく、溜め終えるまでに攻撃を仕掛けられればパイプの破壊は十分可能だという。


空から攻め込むより確実そうなのちょっと嫌だな…張り切ってクギャに乗り込んだ私バカみたいじゃないか…。


「 “バゥルルーーンッ…!!” 」


「…っ! 早速か…! 行くぞオマエ等…!!」


魔物は三度(みたび)深紫霧(きり)を勢いよく噴き出し始めた。それを見たアレスの一声で、私達も一斉に前進を開始。


溜め終えるまでに攻撃を成功させれば、討伐までグッと近付く。だが間に合わなければ負傷は必至の危ない橋…。


しかも魔物がこっちの動きに応じて溜めを短縮してくる可能性もある…。当然霧弾(たま)数も減りはするが…それでも回避できるかどうか…。


「 “ブゥオルルーーンッ…!!!” 」


「うェ…!? 何だ…?! 何かさっきまでと違ェぞ…?!」


さっきまではその場に立ち止まりながら深紫霧(きり)を溜めていたのに…今度は徐々に溜まっていく深紫霧(きり)を囲むように走り始めた…。


今までと打って変わってアグレッシブ…何か嫌な予感を感じて仕方がない…。それに走り回ってるせいでパイプを狙うことも難しいときた…、これは一旦出方を窺った方が良さそうだ…。


皆と顔を見合わせ、攻撃を中止して一時撤退。狙いが集中しないようバラバラの方向へ散り、巨木の裏に身を隠す。


顔を覗かせて様子を見ると…魔物は依然としてグルグル走り続けている。その間も噴き出る深紫霧(きり)は止まらず…今までになく大きくなっている…。


胸騒ぎは大きくなる一方だが…私達には止めようがない…。アクアスとカーリーちゃんは遠距離攻撃で魔物の動きを妨害しようとするが…まるで意味がない…。


やがて球状に溜まっていく深紫霧(きり)は…魔物の巨体がすっぽりと収まりそうなほど巨大なものとなった…。


「 “ブゥルルーーーンッ!!!” 」


走り回っていた魔物は突如後ろ脚で立ち上がり、天高く咆哮を上げた。するとそれに呼応するかのように深紫霧(きり)が一瞬光を放った…。


その直後…魔物の周囲一帯が深紫霧(きり)に包まれた…。まるで爆発かのように何もかもが深紫霧(きり)に呑まれた…当然私達も…。


木陰に隠れていてもまるで意味がなく…過回復状態(かかいふくじょうたい)の時みたいに全身をくまなく激痛が襲う…。目が開けられないが…体が浮いている気がする…。








気が付けば地面の上に仰向けで倒れていた…。目を開けると一面の青空が広がっている…、茂りに茂った森に居た筈なんだがな…。


ゆっくり体を起こすと…変わり果てた光景が飛び込んできた…。巨木が何本も折れ…無理やり生み出された開けた空間の中央に…魔物が鎮座している…。


鳴光鬼(ナリオニ)の地面爆発が霞むほどの威力と広範囲の爆発を生んでおきながら…当人は何の影響もないのね…、本当にふざけた野郎だ…。


こっちは全身が痛くて仕方ねェってのによ…。骨折とまではいかなかったが…痛みが骨の髄まで響いてやがる…。軽度の脳震盪でも起きてんのか…吐き気もするぜ…。


「おう荒女(あらおんな)…生きてたか…」


「辛うじてな…、他の皆は…?」


「頭巾とロイスは無事だが…メイドとカーリーと偽竜種(レックス)は分からねェ…。しっかり探したわけじゃねェが…どこにも見当たらなかった…」


「そればっかりは…無事なのを信じるしかねェな…。それより今はこっちだ…、見ろ…今まで救われてた障害物がほとんど消されちまった…。もう攻撃と退避の切り替えはできねェぞ…? こっちがだいぶ不利になったな…」


巨木に助けられた場面がいくつかあっただけに…かなり辛い展開を強いられることになった…。こっちはまだ王手(チェック)に近付いてもねェってのに…。


「さーてどうしようか二等星…? 私まだちょっと痛みで頭が回らねェんだけどさ…何か素晴らしい策はおありかね…?」


「──ああ…俺に一つ考えがある…。ただ成功するかは分からねェし…完全に俺の腕次第だ…、それでもやるか…?」


「全てオマエに委ねるわけか…──面白ェじゃねェか…! どうせ他に有用な策もねェしな…! 乗らせてもらうぜオマエの策に…!」



──第156話 雌伏終(しふくじま)い〈終〉

形勢を覆す策とは──?!

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