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飛空技師は駆り出される  作者: 似瀬


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第146話 深い眠り

           ──飛空技師は駆り出される──


悪夢の始まり──。

「名誉ある死をくれてやろうぞ…! グハハハハッ!!」


「何がどうなってそんな感じになってるのか分からないニけど…名誉ある死なんて死んでもごめんニ…!」


「死だけにか?」


「ニャハハハハハハハハハッ…!! 腹痛いニ…! 死んじゃうニ…! 不名誉過ぎる死迎えちゃうニ…! ニャハハハハッ…!!」


あーしんどいしんどいニ…脇腹攣っちゃうニ…戦闘どころじゃなくなるニ…。くだらないダジャレ好きすぎるの悪いとこニね…。


せっかくの緊張感とか張り詰めた空気感が台無しになっちゃったニ…、ダメダメ…ふざけてちゃ勝てないニ…。切り替えてこー!


「笑ってられるのも今の内だぞ愚者よ…! すぐに貴様の顔から笑みを奪ってやる…! ゆくぞ愚かな紫よ…! ウオオオオッ!! 猪突猛睡(ちょとつもうすい)!!」


「ゴホゴホッ…おーし来いニ…! 脇腹の痛み分お返ししてやるニ…!


何かしら変化が生じたのは絶対そうニけど、詳細が分からないのなら考えても仕方ないし、とりあえず殴ってから考えることにするニ。


砂漠で戦ったあの…やたら熱いリス女とラクーン女みたいなタイプじゃなきゃいいニけど…。果たしてどうかニ…?!


「〝夢遊(むゆう)猪牙斧羅(いがぶらい)〟!!」


「〝纏哭(てんこく)〟!! ──ニャアアアアアッ…?!!」


幾度としてきた斧と拳の互角なぶつかり合い、しかし今回は明確に優劣がつき…後ろの木までぶっ飛ばされてしまった…。


あれェェ…? 力の上昇率が想像以上に爆発的ニね…、人相手にこんなガッツリ力負けしたの久し振りニ…。


「グハハハハッ! どうだ我のパワーは…?! こうなった我を止められる者はそう居ない…! 大抵は切り刻まれてミンチ肉になるだけよ…!」


「確かに凄いパワーアップニね、さてはよっぽど高邁(こうまい)で傑出したイノシシなんでしょうニ~?」


「その通り! 我は〝夢想猪(ソメイユボアー)〟の獣族(ビケ)! 寝に入ることで眠れる力の全てを解き放てる偉大なる獣よ!」


適当に褒めたらペラペラと喋ってくれたニ、扱い易い扱い易い。ってか寝に入ることでって言ってたニけど…じゃあ今寝てるってことニ…!?


夢遊病Lv100みたいな奴…! アクアスの対極みたいな奴…! いやー…世界は広いニねー…、あんな奇怪な進化を遂げた獣も存在するとは…。


でもよく見たら確かに…瞼は開いてるけど白目ニね…、えっあれでちゃんと見えてるニ…? それともニオイで感知してるニ…? 分からんニ…。


「偉大なる獣の底力を味わうがいい…! 〝夢遊(むゆう)猪牙頭羅(いのがしら)〟!!」


「うわっ危っぶニャア…?!」


パワーだけじゃなくスピードもさっきまでとはまるで別人…、身を捩ってギリギリ回避できたけど…少しでも遅れてたら直撃だったニ…。


回避したことでイノシシ男は勢いよく巨木に衝突したけれど…まさかの巨木の方がミシミシと悲鳴を上げ…若干傾いたようにも見えるニ…。


寝ただけにしては強化幅ぶっ飛んでるニね…! 子供が一気に大人へと進化を遂げたかのような…はっきり言ってイカれてるニ…。


「運良く回避したか…だが次はどうだ…?! 〝夢遊(むゆう)猪牙群槍(いがぐり)〟!!」


「オラニャアアア…!! 〝群発纏哭(ぐんぱつてんこく)〟…!!」


さっきよりも速い連撃…広い攻撃範囲…、避けるのは不可能と瞬時に見切りをつけ…こっちも纏哭(てんこく)を連発して応戦。


でもやっぱり押され気味…っというかどんどん押されてる…。拳から出た血があちこちに飛び散っていく…。


「グハハハハッ! 随分苦しそうだな…! そんなものか紫よォ…?! そォらそこだ…!! 〝夢遊(むゆう)猪牙羅刺(いがらし)〟!!」


「ニギャッ…?!」


集中を解いたわけでも油断したわけでもないのに…強烈で正確無比な一撃が腹部に突き刺さった…、今までみたいに先っちょだけとかじゃなくしっかりと…。


すぐに腹筋を固めてそれ以上刺さらないようにはしたものの…めちゃくちゃぶっ飛ばされて地面を転がった…。


こりゃ相当ヤバいニね…何とかしないとマズいニ…。この状況を覆すにはどうすべきか…、脳みそフル回転で考えないとニ…。


うーん…うーん…──閃いたニ! 名付けて「敵が寝てるのならどんな手段を使ってでも起こせばいいじゃない、だって敵だもの」作戦!


寝に入ることで全ての力がどうたらこんたら言ったし、裏を返せば「寝てなきゃ無意味」ってことだもんニ? そんなら起こしたらァニ!!


そして起こすと言ったらやっぱ()()よニ! 息を目一杯吸って~…日頃のストレスも乗せて思いっきりいくニ!


「ワアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


「グヌッ…?!」


森中に響き渡る大声、喉が張り裂けんほどの全力シャウト。町でやったら絶対近隣住民達から石投げられるであろう迷惑行為。


もしかしたらカカ達の耳にも届いてるかもしれないニね、ほほほっ。でもこんだけうるさく叫べば流石に起きて──


「んぉぉぉ…耳が痛ェ…、何もない日にこれで起こされたら間違いなくブチギレる自信があるぜ…」


「起きてないんかい…! じゃあ起きろニ…! 起きてブチギレろニ…!」


「どんなキレ方だ貴様こそ…」


ニー…まさか今ので起きないとはニ…。じゃあ次の手段ニ…! ──次って言っても他に有効な方法知らないニね…!


あと何かあったけニー…、起きない奴を無理やり起こせる手段…うーん…──よしアレを試してみるニ…!


「ちょっとタイム…! 少しだけ動くの禁止ニ…! そのままジッとしてニキに身を委ねてくれニ…!」


「はっ…? 何を言い出す貴様…」


「いいからいいから…! こっちも攻撃しないと約束するからジッとしてるニ…! ──よっこいしょ…!」


「おいマジで何するつもりだ…?! 我が言うのもなんだが戦闘中だからな…?! 殺し合いの最中だからな…?!」


ピーピーうるさいイノシシ男を持ち上げ、とりあえずこの場所から離れる。多分どっかにあると思うんだけどニー、あったらいいニー。


キョロキョロしながら小走りしていると、左耳が微かにお目当ての音をキャッチした。すぐさま方向転換、音のする方へゴー。


やがて見えてきたのはお目当ての川、っと言うか水辺。葉っぱの色を反射してなのか、水の色が薄っすら赤い。


「おい…ここへ連れて来てどうするつもりだ…?」


「そりゃこうニよ。せーのっ! 〝旅商人の投擲(マーチャント・スタン)〟!」


「グオオオオッ?! ガボボボボッ…!」


寝てる奴の顔面に水ぶっかけるのも有効だと聞いたことがあるニ。しかも今回は全身! これは流石に起き──


「何さらしとんじゃゴラァ…! 〝夢遊(むゆう)猪牙羅刺(いがらし)〟!!」


「危なニャ…?!」


「おいコラ貴様コラ…! さっき攻撃はしないと言ってただろうが…! 何を悠然と誓い破ってんだチビ紫がコラ…!」


「攻撃じゃないニ、投げただけニ」


「そういうのはこっちの感じ方次第だろう…!」


めっちゃ説教されたけど…それでもイノシシ男は白目のまま…。あんな怒ってるのにまだ寝てるとか…最早ギャグの域ニ…。


きっとこれ何しても起きないんだろうニ…、なんかそういう気がするニ…。


そもそも寝ながら戦える時点で…ちょっとやそっとことじゃ起きないってのは予想できたニ…。無駄足踏んじゃったニ…。


「まったくふざけた奴だ…、だがもう手詰まりなんだろう…? そろそろ殺すが…もう思い残すこともあるまい…!」


「バカ言っちゃダメニよ…! 残念ながらニキは諦めが悪いニ…! まだまだ勝つ気は損なわれていないニよ…!」


「威勢だけは立派だが…威勢だけで覆る戦いなぞ存在せん…! 全ての結果は当人の能力と実力だけで決まるのだ…!」


全くもってその通り…! そして十分勝てるだけの自力もある…! 今はまだ突破口が見えてないだけニ、見つければあっちゅう間ニ。


どれだけ身体能力が上がってても、思考や癖は変わらないものニ。冷静に動きを分析すれば、付け入る隙ぐらいいくらでもある筈ニ。


力が増したからといって打たれ強くなるわけじゃないし、ニキの怪力に影響が出るわけでもない。一撃の重みは依然変わっていないニ。


「先手必勝! 〝纏哭(てんこく)〟!」


「むっ…! 目くらましか…猪口才(ちょこざい)な…!」


いつも通りの戦法で突っ込んでも埒が明かないし、こういう時は趣向を変えて戦うニ。多分カカでもこうする気がするニ。


地面を叩いて巻き上げた土煙に紛れ、とりあえず背後に回ってみる。本当はもっといい攻め方があるのかもしれないニけど、一旦定石通り攻めてみるニ。


視界は悪くてもあのイノシシ男が立っていた場所は覚えてる。狙いを悟られないよう足音を殺しつつ、最短で背後に回って攻撃を繰り出す。


「〝纏哭(てんこく)(げき)】〟!! ──あらっ…?」


絶対当たると思って放った渾身の蹴りは、虚しく空振りに終わった。蹴りの勢いで土煙が一気に晴れると、イノシシ男の姿がない。


「あれェェ…!? どこ行ったニ…?! まさか…透明化の能力もあるというニ…?!」


「あるわけないだろ…こっちだこっち…! 明らかな目くらましをされておいて、そのまま居続けるバカがどこに居る…」


「おのれ正論マンめ…! 正論は時と場所をわきまえて使えニ…!」


ぐぬぬ…目くらましが効かないとはつまらない奴ニね…。動き易さを重視したせいで…リュックも置いてきちゃったしニ…。


やっぱ真っ直ぐな自力だけで勝負するっきゃないみたいニね…。よーっし…! 燃えてきたニよ…! ──いざとなったらこっちにも…奥の手があるからニ…!


「小細工はもう終わりか…? では処刑を始めるぞ…! 我の最大奥義で消し去ってやろう…! ──〝夢想旋転(むそうせんてん)彷徨猪牙羅刺(ほうこういがらし)〟!!」


「ニ…?! 今度は何ニ…?!」


両手で斧槍を高速回転させると、イノシシ男は明後日の方向へ移動を始めた。すぐに目で追うも…イノシシ男は次々向きを変え、高速で動き続ける…。


イノシシ本来の機敏さに夢想猪(ソメイユボアー)の力が掛け合わされて…人並外れた物凄い高速移動を可能にしてるニ…。


乱雑に生えた巨木を上手く利用した奥行のある移動…、動体視力にはまあまあ自信あったニけど…これは目で追えないニ…。


「──〝猪牙羅刺(いがらし)〟!」


「ニ˝ュギュ…?!」


背後から迫って来ていたイノシシ男の攻撃が左脇腹を掠めた…。避けたわけじゃない…たまたま直撃しなかっただけ…。


あちこち見渡す為に動いていたのが偶然功を奏した…、もし立ち止まっていたら確実に直撃してたニ…。


イノシシ男は攻撃してなお止まらず…むしろさっきよりも速度が上がってるような気もするニ…。ニニニ…ちょー厄介ニ…。


でもきっと…さっきニキが同じく考えたように…また背後から狙ってくる筈…。だからある程度狙いを定めて…強烈な迎撃(カウンター)を決めてやるニ…!


「──そこだ…! 〝猪牙羅刺(いがらし)〟!!」


「ニ˝ャ…?!」


「ボハハハッ! 貴様の狙いなど手に取るように分かるわ…!!」


絶対背後から攻撃してくると思ってたのに…まさかの正面から攻撃を仕掛けてこられた…。槍の刃が完全に右肩を貫き…血が溢れた…。


痛みを堪えて苦し紛れに迎撃(カウンター)を試みるも…腹を思いっきり蹴られて無理やり槍を引き抜かれた…。


「自慢のタフネスも形無しだな、どうだ…? 我には勝てないと理解できたか…? 怪力だけが取り柄な貴様では…どうあがいても我には届かん…!」


「まーた勝手に勝利宣言しくさって…まだ負けてないって言ってるニよ…! 負傷箇所が増えただけニ…! 深い傷を負っただけニ…!」


「ボハハハハッ! 苦しい言い訳だ…! 貴様との楽しい戦いもそろそろ終幕と思うと残念なものだ…、ここでの全てを憶えてられないのもな…」


「──()()()()()()()…?」


「そうだ。寝ている間に見た夢を憶えてられないように、今の我も同様…目覚めれば寝ている間に起きたことは全て忘れてしまう。貴様の死に様を憶えられないのが残念で仕方ないわ…! ボハハハハッ!」


憶えてない…忘れる…──もしそれが本当なら…この上なく好都合。ここには他に誰も居ない…記憶が残らない敵が1人のみ。


できれば使いたくなかった奥の手も…構わず使えるニ…!


「さァお喋りはここまでだ、そろそろ貴様を殺して…トーキーの加勢に行かなくてはならん…! 死に晒せチビ紫…! 〝夢想(むそう)猪牙斧羅(いがぶらい)〟!!」


「──〝握哭(あっこく)〟…!」


「…っ?! 何ィ…!?」


首を狙って振るわれた一撃を左手で受け止める。血管が浮き出て破裂しそうなほど力を込めたけど…おかげでダメージはゼロ。


このまま掴んでいれば…とりあえずもうイノシシ男が斧槍を振ることはない。武器が無ければ…負けることもほぼない。


「くっ…! 何だこの力は…?! 一体…──…っ! 貴様…目があったのか…?!」


「そうじゃなきゃこんな自由に動き回れないニよ…」


あんまり見られ慣れてないからちょっとあれニけど…どうせ憶えてないなら気にしないニ。どうせすぐにより深い眠りに陥るだろうからニ…。


その前に、邪魔武器は破壊しておくに限るニ。右手も追加して思いっきり斧の刃に圧力をかけると、ひびが入って瞬時に砕けた。


「何ィ…!? クソ…!」


斧の刃を砕かれ、ニキの変化に気が付いたイノシシ男は後ろへ跳んで距離を取った。リスク管理は流石ニね。


でも無駄ニ…その距離ならまだニキの間合いニ…! 脚を縦に開いて拳を固め…左手を前に出して集中力を高め…全力で右手を前に突き出す。


「ニキの本気…! 刮目しろニ…! 〝亜壊哭(あかいこく)〟!!!」


「ぼがァァァ…?!!」


体重をガッツリ乗せた拳を思いっきり前に突き出すと同時に、イノシシ男はぶっ飛び、草葉はなびき、近くの巨木が3本も音を立てて倒れた。


イノシシ男は奥の方に生えている巨木に勢いよく衝突。そのままゆっくり仰向けに倒れ、動かなくなった。


「ふぅ…確かに厄介な悪夢だったニけど、醒めてしまえば気分は良いものニね。もっとも、一番の悪夢を見たのはニキじゃなかったみたいだけどニ~♪」


──でもずっと白目向いてたから…あれが気絶してるのかどうなのか判断つかないニね…。罠である可能性もあるニ…。


適当な木の枝を拾い、慎重に近付いてツンツン突っついてみるけど、全然起き上がらない。鼻にぶっ刺してみても動かない。


これは完全に気絶してるニね、ふぃー…良かったニ。これで力を抜けるニ…ズレた頭巾を整えないとニ。


あと治癒促進薬(ポーション)も飲まないとニ…、ちょっと血を流し過ぎたニ…。あんまり無茶し過ぎるのはダメニね…。


「さーて、治癒促進薬(ポーション)飲んだらカカ達の後を追わないとニ。きっとニキの力が必よ…──あれ…? どっちから来たっけニ…?」


ヤベッ…適当に走ってたから分からなくなったニ…。もし仮に戻れても…地面爆発させまくったから…カカ達の方向分からないニー…。


──ごめん…ニキ加勢行けないかもしれないニ…。



──第146話 深い眠り〈終〉

眠れる頭巾の底力──。

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