第147話 デッドヒート
──飛空技師は駆り出される──
激しさを増す戦い──!
<〔Perspective:Kaqua〕>
「〝揺撃【礫】〟!!」
「〝深潭の瘢疵〟…!!」
あんま近付くとまたあのクソズルい鎌で斬られちまうから、ある程度離れた場所から攻撃してみたが…全然意味無ェの一周回って笑えてくるぜ…。
飛ばした礫を素早い剣技で全部弾き飛ばすとか…どうかしてる…。鞭でならまだしも剣でだぞ…? まったく…超人の相手はしたくねェぜ…。
「くだらない小細工だ…次はどうする…? その衝棍でも投げるか…? 何をしたところで…俺から逃れられることはできないがな…」
「逃げるつもりなんて最初から毛頭無ェよ…! テメェの境遇にゃ同情こそするが…こっちにも事情があんだ…! 必ずボコしてやっから楽しみにしとけ…!」
つっても有効な中距離攻撃は持ってねェし…向こうの土俵で戦わざるを得ないな…。普段はこっちも得意な間合いなんだがな…溜息が止まらん…。
っとは言え、無知だった時に比べれば状況は良い。あの攻撃への対処は未だ難しい…っが私の能力を駆使すれば突破も可能な筈。
どんなもんかいっちょ試してみるか…。結果次第では改めて攻め方を考え直す必要も出てくるが…何事もやってみなきゃ分かんねェからな。
普段通り衝棍を回しながら距離を詰めていく。ただし攻撃については一切考えてない、回避にだけ神経を注ぐ腹積もり。
またお得意の鎌攻撃を仕掛けてくれれば…そう思って近付いたが、残念ながら奴は剣を構えた。恐らく例の鎌攻撃はしてこない…そんならこっちも普通に攻撃してやる。
だがただ考え無しに攻撃したんじゃ…防がれて有効なダメージを与えられるか分からねェし、ちょいと細工して攻撃だ…!
「オラァ!〝震打〟!!」
「…っ?! チッ…見誤ったか…」
回しながら持ち手を石突側へとスライドし、通常よりリーチを伸ばした状態で攻撃を仕掛けた。寸前で防がれはしたが、遠心力がのった一撃は衝撃も増す。少なからずダメージは負っただろう、ざまァみろ。
「どうだ衝撃のお味はよォ…?! 私は有言実行する女だぜ…! 打撃と衝撃で外も内もボッコボコにしてやるよ…!」
「調子に乗るな…!」
少し挑発してやると、奴は剣を下げた。くる…! 左の掌をこっちへ向けた瞬間に例の攻撃が…!
“キーン…!!”
「〝瞬刎鎌〟!!」
〝音〟が頭の中に響いた瞬間に素早く体を逸らした。それとほぼ同時に耳にした空気を切る音…、ほとんど見えてないが…スレスレのところを鎌が通ったらしい…。
だが避けられた…! 予備動作と〝音〟に気を付けていれば…あの視認不可能なズル攻撃も避けられる…! この情報は大き過ぎる収穫だ。
攻撃の軌道も手を見ればある程度予測できる。鎌は腕に沿う形で生えてやがるし、その構造も至って単純だからだ。
それなのにアイツの鎌攻撃があんなにも凶悪なものへ昇華している要因はただ一つ…鎌の展開速度が異常に速い…ただそれだけ。
つまりは見切ってしまえば脅威半減…! そして私ならそれが可能…! 目で動きを…耳で〝音〟を聞けば…攻略できる筈…!
素早く体を逸らしたせいで、若干体勢が崩れてしまったが…反撃の為に整えている暇はない…。今のこの体勢からできる攻撃をぶつける…!
身を屈め、脛を狙って迷いない蹴りを繰り出す。やや無理のある体勢で蹴ったから威力はそれほどでもないが…脛は人体の急所、ダメージは十分。
実際右脛を蹴られたことで、奴は一瞬体を硬直させた。その隙を見逃さず、右手に土を握り込み、顔面目掛けて投げつけた。
目くらまし成功、このまま連撃を決めて今までの分全部返してやる…!
「〝竜撃〟!!」
「ぐォ…?!!」
今まで大したダメージを与えられなかったが、ようやくクリティカルヒットを出せた。腹のど真ん中に強烈な一撃、これは相当なダメージになった筈。
コイツは素である程度タフな獣族とは違う。たった一撃であっても、竜撃によって発生する衝撃は十分過ぎる。
事実奴は吐血して苦しそうにしている、ざまァねェぜ。もう同じ手は食わないだろうが…ひとまず一方的な戦況は崩れたな。
「どうだァ気分のほどは…? 自惚れも吹っ飛んだんじゃねェかァ…?!」
「──そうだな…少し貴様を侮っていた…。ここからは…俺も全力を以てして貴様を消す…! もう今のような隙は晒さん…!」
おーっとぉ…自惚れと一緒に余裕まで吹っ飛んじゃったみてェだ…。威圧感も増しやがったし…、挑発があんまり良い方向に作用しないタイプだったか…。
たった今私の強みが一つ死んだところで…こっちも気を引き締め直さないとな…。一撃入れたとはいえ…負傷箇所は圧倒的にこっちが多い…。
結構体力も削られてるし…こっからが正念場だな…。危機感を抱いて本気で殺しにくるアイツの猛撃をかいくぐるのは…一筋縄ではいかねェだろうからな…。
“──キーン…!!”
「〝深奥の瑕〟…!!」
「うおっ…!!?」
最低限の動きで何ちゅう鋭い突きを放ってくるんだコイツは…。ギリギリで防げたが…〝音〟が無かったらと考えるとゾッとする…。
いやゾッとしてる場合じゃねェ…! まだ〝音〟が継続してる…こっから更に追撃をかましてくる腹積もりだな…! 上等だァ…!
「〝深潭の瘢疵〟…!!」
「〝震速薙ぎ〟…!!」
見事と言わざるを得ないほどの無慈悲な連撃が浴びせられたが、こっちは両手を駆使した衝棍の全力回転で対抗。
如何に素早い剣技だろうが…鞭の速度には及ばねェ。生憎こっちは上澄みの鞭使いの連撃を全て耐え凌いだ実績があんだ…! 速ェだけの斬撃なんざ強引に全部弾き返せんだよボケェ…!
“ガキィィン…!”
当たり所が良かったのか、剣が大きく弾かれ偶然にも絶好の隙が生まれた。すぐに左手を離し、衝棍を預けた右腕を振るう。
「〝震う─」
「〝瞬刎鎌〟…!!」
「チッ…! オラァァァ…!!」
「ぐっ…?!」
渾身の一振りは例の鎌攻撃で阻止されちまったが…空けておいた左手で即座に顔面を殴る。攻撃が成功したのを本能で感じ取り、反射的に衝棍を手放した。
そこからはお得意の近接暴力に持ち込む。ひたすらに顔・胴・脚を狙って殴る蹴る、殴る蹴る、殴る蹴る!
常人なら大した抵抗もできぬまま殴られ続ける他ないんだが…コイツはそんな一方的な暴力の中でも、怯まず蹴りを繰り出してきた。
当然そんな蹴りは避けたが、今ので連撃が乱された。奴はその一瞬の隙に剣を手放し、両腕を広げながらその場で体を回転させた。
「〝瞬刎周散〟…!!」
「痛っってェ…?!」
直後腕や腹や脚にいくつも切り傷が増えた…。体を回しながら鎌を高速展開して自分周囲を切り裂く…、そういうのもあんのね…。
この技相手に強行突破は難しいだろうし…ここは無理せず一旦距離を取る…。それに…少し血を流し過ぎてくらくらしてきた…、一旦回復を挟もう…。
衝棍を拾い上げ、力一杯地面を叩きつけて土煙を上げる。そしたら後ろへ跳んで…
「これでも喰らえやァァ…!!」
っと大声で盛大に威嚇。視界の悪い土煙の中でこんな発言を向けられたら、どんな強者とて身構えて動けなくなるだろう。
その心理の裏をかいて、私は安全な場所で治癒促進薬と塊血をゴクリッ。うーん、これは中々にクズ。
「──ふざけているのか真面目なのか…」
「どちらかと言えば大真面目だぜ私は…! 卑怯でも何でも言ってもらって結構…! これが私のやり方だからな…!!」
「いっそ清々しい奴だ…」
まだまだ卑怯な手札は残してあるからな、いつどこでその手札を切るかが重要だ…。特に毒ナイフ…これだけは確実に当てなきゃならねェ…。
当てさえすれば僅かな間だけだが…体を完全に硬直させられる。そこでキッツい一撃を叩き込めれば…その時点で戦いを終えられるかもしれん。
中々隙を晒してくれないコイツ相手には難しいかもしれんが…だからこそ狙わなきゃ勝てない…! 是が非でも毒に侵してやるからなァ…楽しみにしとけよカマキリィ…!
「また何か企んでるのか知らないが…そう何度も貴様のペースが続くとは思わないことだ…! 見せてやる…! この俺の真の恐ろしさを…!」
「そういうの自分で言っちゃうんだ…、オエー…」
「貴様こそ何とでも言うがいい…! いくぞ…! 〝深淵の瞬刎痕〟…!!」
真の恐ろしさとか言ってた割に何度か見た斬撃を仕掛けてきた。当然衝棍で防御しようとしたが…剣に触れる前に腹部がスパッと切れた…。
それによってほんの少しの動揺が生じ…動揺は体に硬直を生んだ…。直後衝棍と剣がぶつかり…硬直した脚では踏ん張れず…大きく体勢を崩された…。
「〝深奥の瞬刎瑕〟…!!」
奴は体勢が崩れたところへ容赦ない刺突を繰り出してきた…。気合いで身を捩り…何とか刺突の直撃は避けれた…。
だがその直後に今度は左太股に鋭い痛みが走った…、刺突は避けた筈なのに…まるで刺されたかのような痛み…。
このせいで立ち上がれなくなり…情けなく尻餅をついた…。脚の痛みを堪えてすぐに立ち上がろうとするが…振りかぶられた剣が先に目についた。
このまま起立を優先させたら斬られちまう…そう直感した私は両手を地面につき、下半身を持ち上げて剣を振り下ろそうとする右腕に蹴りをぶつけた。
何とか一番回避すべき攻撃は潰せたものの…どうしても腹部はがら空きになってしまい…そこへ強烈なミドルキックを入れられた…。
思いっきりぶっ飛ばされ…一緒に意識まで飛びそうなほどの痛みに襲われた…。勢いよく地面の上を転がったせいで…塞がりかけてた腕や脚の傷が開いてしまった気がする…。
だが何より…目がチカチカする…、呼吸が…しづらい…。いっそこのまま寝転んでしまいたいが…こっちに向かって走ってくる敵を前にそれはできない…。
息を止めて奥歯を噛み締め…衝棍を支えに立ち上がる。視界はまだ少しぼやけるが…それでも抵抗しなきゃならねェ…。
奴が攻撃の間合いまで近付いて来る前に…衝棍を頭上に掲げてみせた。
「目くらまし…! もういっちょいくぞォ…!」
「無駄だ…! 貴様が土煙を上げると同時に斬る…!」
実際このまま地面を叩けば…上がった土煙に紛れて距離を取る前に攻撃されるだろう…。だがそんなのは百も承知…! そもそも本当にやるつもりなら…わざわざ宣言しねェしな…!
私は力一杯衝棍を振り下ろした…っと同時に、地面につく前の衝棍を蹴り上げた。
「ぐぉ…?!」
「どうだこの野郎ォ…! これが私の恐ろしさだぜ…!」
すぐそばまで接近し…いつでも斬れる態勢が整っていた男の下顎に、震重石がクリーンヒット。足取りがふらついている。
大した衝撃は生まれてないだろうが…顎を伝って脳が軽く揺れたんだろう。こっちも呼吸困難で倒れちまいそうだが…この好機は逃がせない…!
より一層脳を揺らすつもりで、すぐさま左拳を顔面へ叩き込んだ。パンチを受け、奴は必死に構えを取ろうとするが…全く定まっていない。
まるで…ご自由に攻撃してくださいって言ってるようなもんだぜ…!
「〝震打〟!!」
「ぅがァ…?!!」
見事左脇腹に命中、さっき蹴られた私より派手にぶっ飛びやがった。だが…今ので流石に限界がきた…。
呼吸が乱れた状態で激しく動いたせいか…まともに立ってられず…思わず膝をついた…。目玉が飛び出そうなほど苦しい…、汗が噴き出てくる…。
落ち着け…ゆっくりだ…ゆっくり呼吸を整えろ…。手応えはあったが…今ので倒せたとは到底思えない…、必ずまた姿を現す…。
今の状態じゃさっきみたいな不意を突く反撃もままならない…。今は冷静に…それでいて確実に酸素を肺に送り込むことに集中しろ…。
慌てるな…急くな…──そうだ…少しずつでいい…酸素が肺に流れていくのを感じ取れ…、鼓動のリズムに合わせて呼吸するんだ…。
スゥ、ハァ…、スゥ、ハァ…、スゥ…ハァ…、スー…ハー…。
「──まったく…敵ながら感服する…、よくあの状況から攻勢に転じられるものだ…。手負いの獣は恐ろしいと言うが…正にこのことだな…」
「ハハハッ…私は逆境でこそ最高の潜在能力を発揮するタイプだからな…。特に相手が人の場合は尚更だぜ…」
相手が規格外な…それこそ魔物とか竜とかなら話は別だが、同じ人類相手だと自分でも歯止めの利かない負けん気が顔を出す。
時にはそれが祟って…さっきみたいに意識を失う寸前まで無理しちまうわけだが…。自分のことながら実に厄介…。
「貴様のせいで使うつもりのなかった治癒促進薬を消費した…、この落とし前は高くつくぞ…」
「戦いの中でそういうのケチる奴ほど早死にすんだよなァ…。戦場を生きて切り抜けるコツは〝己の体の機嫌取り〟って私の師が言ってたぜ…?」
呼吸を整えてる間に治癒促進薬飲まれちまったか…、本来なら是が非でも阻止すべき展開だったが…まあ仕方ねェか…。
むしろゆっくり呼吸を整えれたと考えればこっちにも十分利はあった、ポジティブにいこうか。
それに…アイツに治癒促進薬を使わせたって事実はデカい。相当消耗してる証拠だ、前向きになれる情報だぜ。
アイツの底も大体見えたしな、流石にこれ以上新しい攻撃手段は出てこないだろう。後は私が対処できるかどうか…。
さっきアイツが仕掛けてきた攻撃とかマジでもう…どう対処していいかちっとも分かんねェ…。
剣での攻撃の前と後…、剣撃に被せるように鎌で攻撃してくる…。しかも攻撃の間隔が狭いせいで…最初の〝音〟が剣と鎌のどっちを示してるのか分からん…。
ただでさえ鎌攻撃は避けるのが難しいってのに…剣に被せられると回避はほぼ不可能だ…。攻撃速度が早過ぎて防御もできねェし…。
だが裏を返せば…その二連撃の対処法さえ見つけてしまえば私の天下…! 後は殴ってボコって決着をつけれる…!
アイツが私を殺すのが先か…私がアイツの攻撃に慣れるのが先か…。いずれにせよ…勝負はそう長引かないだろう…。
面白ェ…やってやんぜ…! 絶対私が先を行ってやる…!!
──第147話 デッドヒート〈終〉
逆境がカカの背を押す──!




