第145話 過激暴力
──飛空技師は駆り出される──
バチボコ! 殴り合い──!
<〔Perspective:Nikhi〕>
「〝猪牙殴暴〟!!」
「ニャブゥ…?!! ──ニニニ…! 〝纏哭〟!!」
「ヌグォ…?!!」
くぅー…体の節々がズキズキと痛むニ…。対人戦では中々味わえないこの痛み…、切り傷以外でこんなに鈍い痛みが蓄積したの初めてニ…。
それもこれもあのイノシシ男のパワーによるもの…。ただそのパワーが素の肉体のものなのか獣由来のものなのかは定かじゃないニね…。
力持ちなイノシシだと何がいたっけニ…? 〝肉喰猪〟…〝驀進猪〟…あとシンプルに〝筋肉猪〟…。
他にも色々いて絞り切れないニね…。そもそもイノシシ自体がかなり怪力持ちだから…あんまり参考にならんのよニー…。
今のところこれといって変な動きはしてないニけど…まだ何か手札を隠し持っているかもしれないし…警戒緩めず戦うニよ…!
「痛てて…ぬァークソ…、圧倒的に体格差のある俺が力でぶっ飛ばされるってのァ癪だな…。頭が混乱しやがる…、とんだハズレくじを引いたもんだ…」
「人をハズレくじ扱いとは失礼な奴ニね…! 背が低いわりにハチャメチャ怪力持ちなだけニ…!」
「それを言ってんだよそれを…。あの場に居た他2人のどっちかなら有利に戦いを進められたろうにな…、実に残念だ…」
勝手にガッカリされるの実に不愉快ニね…! ──あっでもニキが強いからそう感じてるって話ニ…? それならまあええか!
「さっさと殺してトーキーの後を追うつもりだったが…粉骨砕身で臨まないと勝てないようだな…!」
「えっトーキー…!? あのパンサー男いつの間にカカ達を追ってたニ…!? 全然気が付かなかったニ…、えっ貴方は気付かれたんですニ…?」
「俺は鼻が良いからな、イノシシの嗅覚を舐めちゃいけねェ」
なんと…、てっきりカカとアレスの2人で逃げた男を袋叩きにしてると思ってたけど…そんな招かれざる客が乱入してたらそうもいかないよニ…。
これはニキも少し急いだ方がいいかもしれないニ…。じりじり足止めしながら最終的に勝てばヨシ!とか思ってたニけど…そうも言ってらんないニね…!
「おーし! やる気出てきたニよ~! カカ達と石版の為にも思いっきりぶっ飛ばしてやるニ! お遊びはここまでニ!」
「望むところだ…! 俺も全力を以ってしてオマエを潰そう…! もし仮に石版が手に入らずとも…オマエだけは消しておけと本能が叫んでいるわ…!」
「やれるもんならやってみろニ!」
拳を握りしめて、イノシシ相手に猪突猛進。色々小難しく考えるとお腹すいちゃうし、アイツが何のイノシシなのかはとりあえず無視するニ。
もし相性が悪そうなイノシシだと明らかになった時は…その時のニキに任せるニ…! 今のニキはとにかくガン攻めあるのみニ…!
「そう何度も近付けると思うなよ…?! 喰らえっ! 〝猪牙群槍〟!!」
「わっ…?! 痛っ…! 痛っ…!」
もう少し近付けば殴れるのに…中距離から連続で突き出される斧槍に阻まれて接近できない…。無理に近付こうとしても痛いだけ…凄い密度の攻撃ニ…。
「そこだ…! 〝猪牙羅刺〟!!」
「ニ˝…?!」
歩を止められ後手に回らされたことで生じてしまった隙に…強烈な一突きを腹にお見舞いされてしまった…。しっかり腰の入った一突きは比べ物にならない威力…。
シヌイ山で戦ったサイ男の角攻撃よりも強力…。槍の先端が肉に刺さり…そのまま後方へと押し飛ばされた…。
地面の上を転がり…何とか体勢を整えようとするも…いつの間にかすぐそこまで迫ってきていたイノシシ男が斧槍を振りかぶっている…。
「〝猪牙斧羅〟!!」
「ニ˝ギュ…?!」
立ち上がるのが間に合わず…今度は斧で思いっきり左脇腹を叩かれた…。これまたクリーンヒット…再びぶっ飛ばされて地面を転がる…。
巨木に衝突して止まったものの…ゆっくり立ち上がる暇も与えられず…猛接近してくるイノシシ男の槍先がギラリと光る…。
「串刺しになれェ…!! 〝猪牙羅刺〟!!」
「ニー…! よっっこいしょォ…!!」
「なっ…!? マジかオマエ…?!」
全神経を槍にのみ注ぎ、高速で放たれた槍の刃を両手で挟んで無理やり止めた。立ち上がれず攻撃を避けれないのならこれしか方法ないもんニ…!
一か八かだったニけど…成功したならこっちのもの…! 槍を力任せに左へ流し、重心が崩れたイノシシ男の腹部に強めの蹴りを入れてやるニ…!
「〝纏哭【激】〟!!」
「ぼふォ…?!!」
ちょっと体勢がきつかったニけど…あの重い体が4歩後退るだけのダメージは残せたみたい。しっかり効いてるのなら今度はこっちの追撃チャァァァンス!
素早くイノシシ男の間合いの内側に入り込み、胴にそっと右手をつく。
「〝纏哭発勁〟!!」
腰から肩へ、肩から腕へと体重を移し、力と体重を全て乗っけた右手で力一杯イノシシ男を押し飛ばした。
初めてやってみたけど、想像以上に上手くいったニね…。体格がニキの倍ほどもあろう重たい男が向こうの巨木までぶっ飛んだニ…。
「グウゥゥ…今のは効いたぜ…、小っこいから間合いに入られると厄介だな…」
「小っこいって言うなニ…! 余計なお世話ニ…!」
「褒め言葉だ」
「ならいいニ…!!」
素直に褒めを受け取り、真新しいダメージが深く残っているであろうイノシシ男のもとへダッシュ。
ニキみたいに攻撃手段がシンプルな物理しかないタイプは…間を置かずガンガン攻めないと息切れしちゃうからニ…。獣族の特性と相性悪いニ…。
≪獣族の特性:〝修復活性〟≫
獣族は高い回復力を備えている。瞬時に傷が塞がることはないが、痛みや蓄積したダメージはそう時間をかけず回復する。治癒促進薬よりやや効果が弱い程度。
カカの内部破壊ならまた話が違ってくるんだろうけどニ…、とにかくニキが今すべき最善は…! 残したダメージが和らぐ前にどんどんダメージを追加すること…!
ようするにそう…! 思いっきりぶん殴ってやるってことニ…!!
「もう近付けさせんぞチビ紫…! 〝猪牙群槍〟!!」
「誰がチビ紫ニ…! 紫って呼ぶなニ…! 〝群発纏哭〟!!」
斧槍が何本にも分裂したかのように見えるほどのスピードで繰り出される連続突きに、こっちも気合いの連続パンチで対抗。
槍と拳の熾烈なぶつけ合い…、両の拳がズキズキと痛むけど…根性一つで耐えながら少しずつ少しずつ前へ進む。
「ぬゥゥ…ならばこれでどうだ…!」
「ニャッ…!?」
イノシシ男は不意に地面を蹴ると…顔に大量の土を飛ばしてきた…。しかも細かい土が目に入って…つい攻撃の手を止めてしまった…。
「〝猪牙頭羅〟!!」
「ニ˝ュ…?!!」
瞼を閉じて視界真っ暗なところに…脳が激しく揺れそうな衝撃が全身を襲った…。骨にまで響く痛みと…妙な浮遊感を覚えた…。
目を擦って周囲を確認すると…巨木の枝ほどの高さに自分が居た…。撥ね上げられたみたいニね…何ちゅうパワー…。
下を見れば落下地点で斧槍を構えてちゃんと待ち受けているイノシシ男の姿…、このまま落ちてったらヤバいことになりそうニ…。
「さァ下りて来いチビ紫…! その硬い胴体を貫いてやる…! 〝旋転・猪牙羅刺〟!!」
器用に斧槍を高速回転させて、突貫威力を高めようという魂胆ニね…。流石にアレをもろで喰らうのはマズいし…全力抵抗させてもらうニ…!
「ニキを近接戦闘しか能が無い旅商人だと思ったら大間違いニよ…! 圧し潰してやるニ…! 〝哭砲〟!!」
「ぐぼォ…?!!」
初見で不可視の攻撃を避ける術無し…! 初見殺し最強…! 初殺しか勝たん…! このまま追い打ちいっちゃうニよ…!
哭砲によって地面にうつ伏せとなったイノシシ男に、落下の勢いを乗せた拳をプレゼント…!
「〝容赦ない追撃纏哭〟!!」
「うげェ…?! ぐっ…何のこれしき…!! 〝猪牙斧羅〟!!」
「わニャ…?!」
痛ったァ…斧でアッパーカットされたの初めてニ…、おのれぇ…割れてケツアゴになったらどうするつもりニ…。
もしそうなったらこっちも頭に思いっきりチョップして…ケツアタマに変えてやるニ…。一生残り続ける生き恥を刻み込んでやるニ…。
「ボハハハハッ…! 少し癪だが…段々楽しくなってきたな…! トーキーみてェに戦闘狂じゃねェが…ここまで殴り合える相手と戦ったのは久し振りよ…! 殺さなきゃならないのが残念なくらいだ…!」
「じゃあさっさとやられるニ…! そしたらニキを殺さず済んで楽しいままこの戦いを終えられるニよ…! アジトに帰ってたっぷり余韻に浸ってればいいニ…!」
「そういうわけにもいかん、任務に私情は挟めんからな」
「おのれ融通の利かないイノシシめ…! 少しは自我を持ったらどうニ…! イエスマンはんたーい…! 唯々諾々はんたーい…! バーカ…! ボーケ…! ブータ…!」
「悪とて組織だぞこちとら…、上の命令には背けんだろう…」
ニニニ…そういうもの…なのニ…? 如何せん生まれてこの方組織に属した経験がないから分からんニ…。──大変ニね…組織って…。
「悪いが俺の想い出となってくれチビ紫…!」
「その不名誉過ぎる異名のまま想い出になってたまるかニ…!」
「 〝纏哭〟!!
〝猪牙殴暴〟!! 」
ジャンプして顔面に拳を振るうと…同じタイミングで向こうも顔面に拳を振るってきた…。威力的には多分こっちが上だけど…手が大きいせいで顔の左側が全部痛い…。
でも負けないニよ…! 威力で勝っていれば確実に競り勝てるからニ…! 痛みは無視して今度は蹴りを顔面目掛けて繰り出す。
“ガブッ!”
「痛ったァァァ…?!! 痛たたたたた…?!!」
狙い定めた蹴りは虚しく躱され…代わりに牙が飛び出した口で噛み付かれた…。万力みたいに締め付けられて…骨が悲鳴を上げてる…。
その状態のままイノシシ男は全身を使って地面に叩きつけてきた…。それも何度も何度も…めっちゃ往復してる…。
叩きつけられるだけなら別にいいけど…噛まれてる脚の痛みがどんどん増してくる…。このままじゃ今後に大きく響いてしまうニ…、どうにか抜け出さないと…。
「オラァァ…! 苦し紛れの〝握哭〟…!」
「ん˝ンンン…?! それがどうしたァ…!!」
「ギャアアッ…! 根性が凄いィィィ…!」
手で腹を思いっきりギュッ!としてみたけど…まったく止まりませんでした…。むしろより一層激しくなっちゃった…。
臨機応変に作戦変更…! 地面に叩きつけられるタイミングで両手を地面に突き刺し、これ以上振り回されないよう耐える。
「フンッ…小癪な真似を…! このまま脚を噛み砕いてやってもいいんだぞ…?!」
「それはど~かニ~?!」
右脚は未だ噛まれたまま…両手は地面に刺したまま…、この状態から状況を覆すには余った左脚を使う他なし。
ただし無暗やたらに蹴ったりはせず、股関節を駆使してイノシシ男の首を太股と脹脛で挟み込んだ。
「何のつもりだ…? こんなことをしても逃れは─」
「逃れは…? フッ…な~に寝言言っちゃってるニ…? 今この状況…! 本当に逃れられないのはどっちか…答え合わせしてやるニ…!!」
「何…?! ──…っ! クソ…! 離せ…!」
「そっちこそ小癪な真似は無駄ニよ…! さァさ盛り上がって参りましょうニ…! 口閉じてないと舌噛むニよ…! 〝哭哭地爆〟!!!」
本日二度目の大・爆・発☆ しかも今回は前回よりも力を込めたから、爆発力も当然割増。地面が爆ぜた瞬間に体が浮き上がり、視界は真っ暗…。
メキメキと巨木が倒れるような音もするし、いよいよ鳴光鬼に威力が近付いてきたニね。これはカカ達にどん引きされる予感ニ…。
っとか考えてる間に地面へと落ちた。土煙が晴れるまでは口を閉じて呼吸を止めて待機。イノシシ男はどこまで飛ばされたのやら。
とりあえずジッと待ってると、やがて土煙が晴れた。辺り一帯酷い有様…これ自然調査員のジルゥが見たら怒られたりしてニ…。
なんてそんなこと考えるのは後ニね、イノシシ男はどこに行ったかな? またどっかに埋まってたりしてニ。
「ハァ…ハァ…、とんでもないことしやがるなマジで…」
「んっ? どこから声が? ──あっそんなところに居ましたか…!」
巨木の枝に引っ掛かってる…干された洗濯物みたいニ…。ウケるw。
イノシシ男は枝を切って地面に着地。どうでもいいけどよくあの斧槍手放さなかったものニ、やはり根性が凄い。
「まったく恐ろしい奴め…、常識外れも大概にしておけ…。自由というか型破りというか…良くも悪くも戦ったことのないタイプだ…、それでいてまだどこか余力を残している…」
「ふっふーん♪ ニキの強さにビビってるようニね、諦めて投降するなら素直に受け入れてあげるニよ? ニキは強くて優しいからニ♪」
「ボハハハッ…! 俺は七鋭傑だ…立場ってものがある…! 強敵だからと逃げ出しては…下の者に示しがつかねェ…! ──残念だが…戦いを楽しむのはここまでだ…。オマエが真の強者ならば…この〝悪夢〟を払ってみせろ…!」
「あ…悪夢…?! それは一体…」
「──ZZZ~…」
「寝たァァァァ…?!!」
えっ…えっ…? ね…寝た…? えっ寝た…? こんな戦いの最中に…? あんな鼻提灯まで膨らませて…? とんでもねェニね…。
悪夢を払って~っとか言ってたニけど…ちょうどいいタイミング起こせってことニ…? 何なら今すぐ叩き起こしてやろうかニ…?
いやいっそより深い眠りに落としてやってもいいニね、無防備な頭にガツンと一発入れればきっと気絶する筈ニ。
そうと決めたら拳を固めて接近接近! 鼻提灯膨らませてガチ寝してるし、変に警戒する必要もないニね。
「ZZZ~…ZZZ~…ZZZ~…── “パァン!” 」
「ニ…!?」
「〝夢遊・猪牙斧羅〟!!」
「ニ˝ャギャ…?!」
近付いたら突然鼻提灯が割れて…全く警戒してなかったから直撃を喰らってしまった…。ショートスリーパーだとしても起きるの早すぎるニ…。
しかも…痛たた…、少し切れてるニ…。さっきまでは全然切れなかったのに…不思議と力が増してる気もするニ…。
「グハハハハッ! 貴様は我を本気にさせたァ…! 誇るがいいぞ紫…! それ即ち…名誉ある死を手にすることが許されたのだからな…! グハハハハッ!」
「なーんか様子が変わったニね…、これは確かに悪夢ニ…」
──第145話 過激暴力〈終〉
悪夢の始まり──。




