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飛空技師は駆り出される  作者: 似瀬


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第144話 もう1人の二等星

           ──飛空技師は駆り出される──


アクアスの毒舌に沈んだ戦場は──。

<〔Perspective:(‐ロイス視点‐)Loiz〕>


ハァ…やらかしちゃったなぁ…。あのパンサー男…相当の手練れだったのに通してしまった…。立ち直るのに時間掛け過ぎた…。


アクアスがあんなに毒舌だとは思わなかったよ…、申し訳ないけどカカの方がずっと毒吐きそうなのに…。


今から追い掛けても遅いよね…、相手はパンサーの獣族(ビケ)で脚力に自信があるだろうし…僕は羽無系(エルミャ)だから飛べないしなぁ…。


でもきっと大丈夫だよね、カカもニキも凄く強いし、アレスも付いてる。むしろ戦力が3人減った分…こっちが大変かもしれない…。


アクアスはそこまで心配ないだろうけれど、カーリーは最近成人して森番になったばかりだから…あまり実戦経験は積めてない筈…。


かく言う僕も猛獣や魔獣の相手は慣れてるけど…本気の対人戦…それも命を賭した実践は初めて…。組み手は何度もやってるけど…訓練と実践はまるで違う…。


気を引き締めていこう…! 今僕等のやるべきことは一つ、この場に居る敵を足止めすること…! カカ達の後は追わせない…!


落ち込んだメンタルが回復して立ち上がる敵も増えてきたし、全員が完全に復帰する前に出る杭を打ってしまおう…!


「ぐぬヌゥゥン…一体何が起きたってんだ…? サイアック獣賊団の一員たる俺達が…あんなメスの毒舌一つに…、恥だ…!」


「クソ…! 石版は今誰が持ってる…?!」


「僕が持ってるよ、石版欲しい方はこちらへどうぞ~」


どんよりと落ち込んでてカカ達の動向を見てなかった敵を誘導。さてさて、問題はしっかり対処できるか否か…。


どうかあのパンサー男より弱くあってほしいな…、あのパンサー男が獣賊団(彼等)の階級制度上…どれくらいの強さか分かんないけど…。


「バカ正直に喋りやがって…! ぶっ潰してやルゥゥン…! 見よっ燃え盛る剣! これで焼却処分したルゥゥン!!」

< サイアック獣賊団グレー隊〝火打野牛(プロクスバイソン)獣族(ビケ)〟Ghanan Bobora(ガナン・ボボリアル)irl >


バイソン男は鞘から抜いた剣を頭部の角に何度も叩きつけると、火花が刃に引火して燃えだした。変わった剣だ…燃やす必要あるのかな…。


でも危ないし、何より森に燃え広がったらそれこそ敵味方関係なく焼死してしまう。それだけは避けなきゃなね…。


「〝酸噴射(ゾール・アウト)〟!」


「ヌゥオォッ…?! 唾で消火しやがった…?! 汚ェなコイツ…!」


シンプルに失礼だけど…直前にアクアスの毒が耳に入ってるから全然大した事なく聞こえる不思議…。


「おのれェェイ…! 虫ケラ風情が…! 〝野牛裁断(やぎゅうさいだん)〟!」


「おっと、危ない危ない…!」


「ぐぬヌゥゥン…! ならばこれでどうだァ!! 〝野牛裁連断(やぎゅうさいれんだん)〟!!」


「おっとっとっと…! 危ない危ない…!」


しっかり動きを見極めて、最低限の動きで躱していく。一撃でも命中したらそれだけで致命傷になりそうな力強い攻撃…流石はバイソン…。


瞬きのタイミングすら間違えられないのは辛いね…。けれど辛いのはお相手も同じだ、全力で剣を振り続けて疲れない人は存在しない。


事実目に見えて動きが鈍ってきている。それなのに攻撃の手を止めないのは、これだけやって一撃も当たらない焦りか、それとも自尊心(プライド)故か。


いずれにせよ回避がそこまで苦じゃなくなったし、こっちも反撃に転じよう…!


「そこだ…! 〝薙ぎ断ち(アルミーガ)〟!」


「ぬぐゥゥン…?! 貴…様ァ…! ヌォォォォォン…!!! 〝野牛裁(やぎゅうさい)─」


「〝蟻殴点(マンマイゼ)〟!」


「バフォォォン…?!!」


薙ぎ断ち(アルミーガ)で切り裂いた箇所に、石突でのダメ押し。浅くない傷口に全力の突きをもらったバイソン男は、そのまま仰向けに倒れた。


意外と弱い…虫ケラがどうこうとか言ってた割に…。でもまだまだ敵は居るし、そっちに割く体力を残せたと思えばいいか。


敵は続々と立ち上がって、僕を囲むように睨み付けてくる。7…いや8人か…、獣賊団と教徒が入り混じってるとは言え…一斉に襲われたら流石にキツいね…。


どうせもうヘイトは集めているし、ここは先手を打っておこう…!


「〝酸霧射(ゾール・ミスト)〟!」


体を回しながら酸を霧状にして吹きかける。液で噴射するより酸自体の効力は落ちるけど、その代わりに得られる恩恵もある。酸の節約にもなるし。


ただ今ので全員がこっちに向かってきた…。このまま黙って待ち構えてたら袋叩きにあっちゃうし、こっちからも動かないとね。


素早く全体を見回し、一番攻め込みやすそうなランルゥ教徒の女性に狙いをつけて距離を詰める。大きなブーメランを持ってるけど…アレが武器なのかな…?


「同じ蟲人族(ビクト)でありながら不敬者の人族(ヒホ)共に手を貸すとは…許されざる行為…! めっちゃ苦しめ…! 〝暗澹の轡音(グルーミー・トーン)〟…!!」

< ランルゥ教徒〝鬱轡虫(ユユイグツワ)蟲人族(ビクト)〟Cecey Amyn(ケシー・アミン)e >


“ジリリリリリリリリリリリッ!!!”


「う˝っ…これは…」


耳を(つんざ)くような甲高い音…。聞いた途端に頭が痛くなって動悸もする…、しかも漠然とした不安のような憂いのような感情が湧いてくる…。


これは…鬱轡虫(ユユイグツワ)特有の鳴き声…。これを聞き続けるのはマズいね…、無理やり戦意喪失させられてしまう…。


「そこだ喰らえ…! 〝飛去戻切(スラーブ)〟!!」


精神を乱されているところへ容赦のない攻撃…。けれど今にも解れそうな心を何とか奮わせ、勢いよく投擲してきたブーメランを避けて距離を詰める。


ブーメランの特性上…恐らくは手元に戻って来るんだろうけど、戻って来るまでに少しの余白がある。丸腰な今のうちに無力化してしまおう…!


「チッ…! しぶとい…! 大人しくやられろ…!」


丸腰だと思っていたけれど、彼女は腰から短剣を抜いて真っ直ぐ刃を突き出してきた。しかしその動きは単純で、容易に躱すことができた。


そのまま素早く背後へと回り、首の後ろに手刀を入れて気絶させた。倒れ込む体を支え、静かに地面の上に寝かせる。


本当は木陰まで運んであげたいけど…そんな暇も与えてはくれないみたい…。敵が今度は頭上から近付いて来ている…。


横たわる彼女に目線を落としたまま口の中に酸を溜め、頭上の敵の方へ顔を向けると同時に酸を放出する。


「〝酸噴射(ゾール・アウト)〟…!」


「うわァ…?! 顔が…?!」


「ごめんよ…! 〝薙ぎ刈り(メルベーレ)〟!」


「ガッ…ハァ…?!」


薙刀を回しながら左右に振り、落下してきた男性教徒の胴体を素早く二箇所斬りつけた。そのまま地面に墜ちた男も、気を失って倒れた。


事前に酸霧射(ゾール・ミスト)をかけておいて正解だった。酸の匂いを触角で感知していなければ…今の奇襲で負傷していたかもしれない…。


見渡す限り全員が敵なこの戦場を戦い抜くなら…もっと多くの敵に酸を吹きかけなきゃ危ういね…。いつ背後から不意打ちされても文句は言えないのだから…。


「──ロイ兄! オレを上に上げて!」


一時的に戦線離脱していたカーリーが全速力でこっちに走ってくる。何を策してのことか分からないけど、とりあえず両手を重ねて待ち構える。


カーリーが足を乗せると同時に勢いを殺さないようすぐに力一杯上宙へ放った。


「〝拡射(かくしゃ)七矢(なや)〟…!!」


カーリーは体を回しながら弓を引き、異なる方向へ7本の矢を射下(いお)ろした。矢は吸い込まれるかのようにして敵の太股に命中。


昔から弓の才能に溢れてはいたけど、より顕著に腕が上がっている。少し前まであんなに小さな子供だったのに…成長したなぁカーリーも…。


「でも詰めが甘いよ…! 〝薙ぎ穿ち(シュターチ)〟…!」


「ギャアアッ…?!」


カーリーの矢から逃れたもう1人を素早く撃破し、これでマーキングしていた敵は全員倒した。まだまだキリがないけど…。


「カーリー、戻ってきて大丈夫…? ヒューイは…?」


「ジルゥさんに預けてきた、なんか手当もできるっぽいし」


「そっか、でもヒューイが居ない分周囲には気を付けるんだよ…? ヒューイの居ない戦闘は初めてだろう…?」


「それも大丈夫、クギャと組んでるから。じゃオレあっちの方片付けてくる、行くぞ…!」


「 “クギャッ!” 」


行っちゃった…、まあクギャがカーリーについてくれるなら大丈夫か。まだ飛べないようだけど、戦闘能力はヒューイと比べ物にならないだろうから。


ただそれでもカーリー達の手に余るような強敵は居る筈…、そしてきっとカーリーはそういう敵と遭遇した時…梃子でも退かないだろうな…。カカに勝るとも劣らないほど気が強いから…。


早めに全体の戦況を確認しておいた方が良さそうだね…。尖った実力者を把握して、見つけた奴を片っ端から叩いていこう。


まずは敵が集まってくる前に木の幹に上り、高い視点から周囲を眺める。カーリー達はあっちに居るし、アクアスは向こうで戦ってる。


それ以外にもあちこちで戦いが繰り広げられてる…想像以上に壮絶な光景だ…。安息の地がどこにも存在しない…。


どこを見ても血が飛び散り…誰彼構わず負傷している…。けどしっかり見れば…負傷の程度にはバラつきがある。


重傷者…軽傷者…横たわって動かない者と様々…、それ等を大きく分けているのは個々の実力に他ならない。強者ほど負傷は少ないものだ。


それを踏まえた上で僕が狙うべき敵は…──アイツだ…!


地面に下り、標的の居るポイントへ真っ直ぐ駆ける。やがて見えてきたのは…他の人達とは一線を画す強さを誇る強者の背中。


焦げ茶色の毛皮をしたサルらしき獣族(ビケ)…、どんな能力を秘めたサルか分からないけど…お手並み拝見だね…!


「んっ…? また吾輩に殺されたい奴が来たか…! お望み通りこのサーベルの錆にしてくれようぞ…! 〝重重(じゅうじゅう)猩刃(しょうじん)〟!!」

< サイアック獣賊団グレー隊幹部〝含水猩猩(スポンピテコス)獣族(ビケ)〟Dorewghi Soc(ドルーギ・ソケス)es >


「〝薙ぎ断ち(アルミーガ)〟…!! ──うわっ…?!」


腕力(ちから)には自信あったんだけど…普通に力負けしてしまった…。まさか押し飛ばされるとは…、凄く重い一撃だった…。


腕も脚も太くてムキムキ…見るからにパワータイプな見た目してるけど…、今のは腕力だけの攻撃じゃないね…。


「ほう…貴様の攻撃も中々の威力だ、やるではないか若造…! だが吾輩には敵わん…! 見よ…! 多量の血を吸い重みを増したこの腕を…! 質量はパワー! 質量は破壊力よ!」


言われてみれば確かに腕の毛だけ赤黒く変色してる。「血を吸って重みを増した」…その発言からして恐らくは含水猩猩(スポンピテコス)獣族(ビケ)か…。


本来は水や主食となる果物の果汁を吸わせたりして攻撃の威力を上げる生物な筈だけど…血でもいいんだ…、知性生種ならではの発想だ…。


「切れ味とか剣才とか関係なしにパワーで真っ二つにしてやろう…! 喰らえェい吾輩の必殺技! 〝重重重(かじゅう)猩圧(しょうあつ)裂壊斬(れっかいざん)〟!!!」


男はその場で大きくジャンプすると、サーベルを高々と振り上げ、落下の勢いを全てサーベルに乗せて振り下ろしてきた。


ただの一振りでも力負けしたわけだし…あんなの素直に喰らったらひとたまりもない…。素早く左に回避すると…サーベルの刃が地面に触れた。


直後地面に亀裂が走り…地面が割れた…、その光景に背筋が凍りつく…。もし無理にでも受け止めようとしていたら…確実に斬られていた…。


「どうだ恐れ入ったか…?! 七鋭傑の方々も一目置く吾輩自慢の一撃よ…! ただジャンプしなきゃならない都合上、あまり当たらないがな…!」


「当たらない攻撃に意味はないよ…、威力は認めるけど…」


「ほう…ならば貴様も一撃振るってみるがいい…! 顔以外ならどこを攻撃されようとも受けてやるわい…! 防御も回避も反撃もせん…! さァ来い…!!」


えっ…何で…? 何でそういう展開になったんだろう…、えっいいの…? まだちょっと意図理解できてないけど…攻撃していいならしてしまおう。


「〝薙ぎ断ち(アルミーガ)〟…!!」


「ムンッ…!!」


男は宣言通り避けも防ぎもせず、ただ堂々と立っていただけ。がら空きの胴へ狙い澄ました一撃は、確かな手応えを携えた。


「フッ…フフフフッ…オハハハハッ!! その程度か若造…?! 当たらぬ攻撃に意味が無いのなら…斬れぬ刃もまた然り…! 事前にたっぷり水を含ませた吾輩の体はもはや鎧…! 生半可な攻撃などそれこそ無意味よ…!」


「なるほどね…」


それを示す為だけにわざわざ斬らせたわけか…。恐れ知らずというか何というか…、既に勝ち誇っているかのような雰囲気すら感じる…。


まあ実際腕力(パワー)では優り…防御面でも圧倒的な差があるわけだから…、そう感じても何らおかしくはない…。


けどそこが…その慢心こそが唯一の隙…! 何もかもが優れていると思い込むことで生じる綻び…そこに勝機がある…!


〝「標的が動かなくなるまで勝ったと思うな」「戦場では油断した奴ほど先に死ぬ」〟…ムルクさんから口酸っぱく言われたことだ。


この男は完全に油断してる…既に勝ったつもりでいる…、だからきっと…こっちの()()に乗ってくる筈…!


「んっ…? 一体何のつもりだ若造…? まさか無駄と承知の上でまだ吾輩に挑もうと言うのか…?」


「そのまさかさ…! 悪いけどこっちにも負けられない事情があってね…! ここで逃げたら亡き恩師に叱られちゃう…! だから斬らせてもらうよ…!」


「オハハハハッ!! 面白い…良いだろう…! もう一度貴様の攻撃を受け切って…即座に首を刎ねてやろうぞ…! 来い…!! 勇敢な虫ケラよ…!!」


大きく息を吐いて集中力を高め…薙刀の刃にたっぷりと酸を纏わせる。これならあの邪魔な体毛も溶かしながら斬れる筈。


これが失敗に終わったなら…たとえ首を刎ねられなかったとしても大怪我は確実…。敗色濃厚…、だが退けばアクアスやカーリーに脅威が及ぶ…!


この男は僕が絶対に倒さなきゃならない…! 2人の為にも…! 石版を追ったカカ達の為にも…! たとえこの男を殺すことになっても…必ず…!!


「…っ!? 貴様さっきと何か…、ちょっ待…?!」


「〝溶解薙ぎ刈り(ゾール・メルベーレ)〟…!!!」


「オ˝ラバァ…?!!」


胴の二箇所を素早く切り裂き…そのまま通り過ぎた。すぐさま反撃に備えて身構えるも…男は背を向けたまま仁王立ち。


不敵な笑みを浮かべて振り向くかと思ったけれど…男はそのまま仰向けに倒れて白目を向いている。起き上がる気配もない。


攻撃の寸前に何か言っていたようだったけど…、まあ気にしなくてもいいかな。今は無事に倒せたことを喜んで、まだまだ居る敵を倒して回ろう。


──それにしてもまさかこんなあっさり倒せるなんてね…、めちゃくちゃ打たれ弱い人だったのかな…。見せ筋…だったのかな…。



──第144話 もう1人の二等星〈終〉

二等星ハンター強し──。

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