第142話 争奪戦
──飛空技師は駆り出される──
三つ巴の石版争奪戦──!
「グレー隊! リッケを死守し、なんとしても石版をグレー様のもとに届けろっ!」
「オマエ等…! あのネズミ捕まえて石版取り返すぞ…! 容赦も遠慮も要らねェ…! 半殺しじゃー! 全員ぶっ飛ばしたれェ!」
「──邪魔が入ったが…まあいい。ランルゥ教団…! 石版を奪い取り、不敬者共の野望を打ち砕く…! 邪魔する者は神に代わってあの世に送れ…!」
たった一つの石版を巡る争奪戦が唐突に幕を開けた。世界の天辺に喧嘩売ってまで手に入れた石版…誰にも渡してたまるかってんだ…!
とは言え人数的には私達の陣営が圧倒的不利…。獣賊団も教団も、余裕で10人を超えてる…大してこっちは9人(クギャ・パーク・ジルゥ含め)…。
内戦闘で役に立たない奴等を除けば7人…、うーんこの…。1人1人の質なら負けてねェんだけどな…流石に敵数が多い…。
だがまあ…竜に挑んだことを考えれば…大した事ねェか。なんか感覚バグってるような気もするが…うるせェ知らねェ、全員フルボッコだ。
「ここは通さないぞ人族の賊…! 今まで好き勝手しやがって…これ以上サイアック獣賊団の目的を邪魔させんぞォ! 〝白黒金棒〟!!」
< サイアック獣賊団グレー隊〝空玉獏の獣族〟Betaedi Bosecon >
「どいてろ三下ァ! 〝竜撃〟!!」
「ご退場願うニ! 〝纏哭〟!!」
「ぼべぶォ…?!!」
無謀にも立ち塞がったバクの獣族を容赦なくK.O。やはり七鋭傑どころか幹部でもない下っ端は相手にならんな。量より質はガチ。
だがまだまだ敵は多いし、ランルゥ教団の面々とは大して戦ってねェから…層の厚さが分からねェ…。大部分があの姉レベルならありがてェが…。
「クソ…それはそれとして足速ェなあのネズミ…! ちょこまかちょこまかと…、遠距離班…! 足止めプリーズ…!」
「オレがやる…! 〝疾速の二矢〟!」
「うおっ…!? あっぶなァ…?!」
高速で飛んだ矢はギリギリで回避されてしまったが、クソネズミは体勢を崩して明らかに失速した。今なら追いつけるかもしれん。
「クギャGO! 自慢の顎で噛み付け!」
「 “クギャギャー!” 」
基礎能力の高い偽竜種ならば十分に追いつける筈。もしクソネズミが左右に逃げてもいいように、遠距離班には指示を出しておく。
クギャは器用に木を蹴ってぐんぐんクソネズミとの距離を縮めていく。あともう少しでクギャの牙が届く…そんな折…。
「死ねェェ!! この不敬者がァァ!!」
「ま˝ぅずゥ…?!!」
殺意MAXな横槍がクソネズミを襲った…。チョウの蟲人族であろう桃色髪の女の見事な飛び蹴りで、クソネズミはぶっ飛んだ…。
しかもその衝撃で石版手放して…気性荒いチョウ女の手に渡ってしまった…。これはマズい…空に逃げられる…!
「テメェ等も死ね! 全員死ねェェ!! 〝暴鱗粉〟!!」
< ランルゥ教徒〝尖粉蝶の蟲人族〟Caflu Owdaen >
「ぐおっ…?! 痛ってェ…!」
チョウ女が大きな翅を羽ばたかせると、風に乗った赤い鱗粉が襲ってきた…。強風で舞った砂粒が肌に打ち付けられたみたいに痛い…。
殺傷能力は大してねェが…範囲が広くて厄介…。事実全員が鱗粉に打たれて足止めされている…、このままじゃ逃がしちまう…。
「──〝堅犰衝突〟!!」
「ぐげっ…?! ク…ソがァァ…!!」
左から物凄い速度で飛んできた謎の球体な物体が勢いよくチョウ女にぶつかった。球体の正体はアルマジロの獣族…、マジで横槍入り放題だな…。
かなり強烈な一撃を喰らった筈だが、それでもチョウ女は石版を手放さない。頭からダラダラ血を流しながら、目に映る全てを睨み付ける。
「クソクソクソォ…! 恵まれた分際で…! 今まで普通に生きてこられた分際で…! まだ望むのか…?! 神は破壊を望んでいるんだ…! 善人も悪人も果報者も不幸者も関係ない平等な破壊だ…! 何もかも与えられた奴等に邪魔は──」
“ドシュッ!!”
「…っ!?」
「やかましいな…普通だの恵まれただのと、多くを得た者がそれ以上を望んで何が悪いのか。平等などどこにもありはしない幻想だ、虫ケラ…!」
感情を爆発させて叫ぶチョウ女…、その背後の木陰から素早く飛び出したジャガーの獣族の剣が…チョウ女の胴体を貫いた…。
ジャガー男はすぐに突き刺した剣を引き抜くと…力なく倒れたチョウ女の手から石版を奪い取り、何も気にせず逃走を計る。
「おいぼさっとすんな荒女! アイツを追うぞ!」
「あ…ああ…! ──やっぱ悪ィ…オマエ等で先追っててくれ…!」
ジャガー男の追跡を皆に託し…私はうつ伏せに倒れるチョウ女のもとに駆け寄った。敵だと分かっていても…どうしてもコイツ等は無視できない…。
ひとまず仰向けにするが…呼吸はかなり荒い…、命を落としてもおかしくない…。打たれ強いタイプじゃねェみてェだなコイツは…。
「──し……ね…! しねぇ……ふけい…ものめ…!」
命の瀬戸際に立たされても尚それを言うか…、一体どれほどの怨み辛みがコイツの人格を形成しているのか…もはや計り知れない…。
「おい何してる…?! 離れろ不敬者…!」
「カフルから離れろっ…!!」
わらわらと仲間が集まってくる…私がトドメを刺すと思ってるんだろう…。
聞こえるかチョウ女…、コイツ等全員…生まれも育ちも違うオマエを必死に守りに来てんだぞ…。それこそ…オマエはまだそれ以上を望むのか…?
神なんぞに縋らずとも…互いに寄りかかれる存在が居ながら…、それでもまだ…不確かな平等を望むのか…? ──理解できねェよ…。
きっと似たような境遇を過去に持つ者同士なのに…信じるものが一つ違うだけで…こんなにも遠いのか…。
──やめよう…考えるのは…。これは石版を巡る戦争…己の都合の押し付け合い…、手を取り合うなんて叶いようのない空論だ…。
チョウ女の体の上に、そっと塊血を置いて皆の後を追った。流石に治癒促進薬はやれないが…お仲間が持ってるなら塊血で延命も可能だろう…。後のことは連中がどうにかすると信じて…私は争奪戦に集中しなきゃな。
塊血と共に雑念は置いてきた、もうブレねェ…! 誰が立ち塞がろうと…この争いが終わるまでは冷酷な鬼になってやる…!
「カカー! ソイツが石版持ってるニー! どうにか止めるニー!」
「あァ…?! ソイツってひょっとしてこっちに転がって来るアルマジロ野郎のことか…?! おっしゃ上等だァ…! かっ飛ばしてやらァ…!!」
ランルゥ教団と違って獣賊団は実に相手しやすい、中身の無い悪党はいくら叩き潰しても罪悪感が湧かねェからな…!
衝棍を両手で握って振りかぶり、真っ直ぐ転がって来るアルマジロ男に狙いを定めて思いっきりスイング。
私の力と震重石の衝撃が加わり、アルマジロ男をニキ達の方へ打ち返すことに成功。腕が少し痺れたが…なんてこたァねェ。
「ナイススイングニ! そしたら後はァ…! ニキの腕力でェ…無~理~や~り~──オラニャアアアアッ!!」
「何ですとォォ…!?」
「喰らえニ! 〝頭哭〟!!」
「ブバァ…?!!」
打ち返したアルマジロ男をガシッと受け止めたニキは、己の腕力をフルに生かして丸まった体を無理やり開きやがった…。
まさか無理やり開かれるとは思ってもいなかったであろうアルマジロ男は困惑…、その隙に容赦ない頭突きが腹部に炸裂した…。
だが攻撃を喰らった拍子に手からすっぽ抜けた石版が宙に放られた。しかもマズいことに…石版が落下するであろう地点にランルゥ教徒が居やがる…。
落下する前に全員蹴散らしてしまいたいが…到底間に合わねェ…。華天で攻撃してもいいが…周りが敵だらけな現状…衝棍を手放すのはリスクがデカ過ぎる…。
「ヒューイ!!」
「 “キュゥゥゥ!!” 」
石版が教徒の手に落ちる寸前、間一髪でヒューイの鉤爪が石版を掴んだ。ヒューイは常に空を飛んでいるから、時々存在を忘れちまうぜ…。
でもナイスだヒューイ&カーリーちゃん…! これで石版が再びこっちの手中に戻った、後は如何に石版を守りながら逃げ切るかだが…。
「──…っ?! ヒューイ…! 気を付けろ…!」
木々の間を縫うように高速で近付いてくる人影がチラッと見えた。しかもあのシルエット…間違いねェ…! トーキーだ…!
マズい…ヒューイがやられる…! 今更大空に逃げたところで…アイツの変幻自在な爪からは逃げられねェ…!
ヒューイがやられて…石版がネコ野郎の手に渡ったら…取り返すのが困難になる…。だが私じゃ距離が遠い…助けられねェ…。
「〝斬爪撃〟!!」
「〝薙ぎ断ち〟…!!」
私より早くネコ野郎の接近に気が付いていたのか、ロイスが間に入ってヒューイへの攻撃を防いだ。両者互角の鍔迫り合い…激しく火花が散った。
「〝爪抉弾〟!」
「 “キュアァ…?!” 」
「ヒューイ…?!!」
均衡する力の衝突で2人は互いに弾かれたが、その瞬間にネコ野郎は右手の爪をヒューイ目掛けて撃ち込みやがった…。
殺傷力はそれほど無いにせよ…羽に爪が突き刺さったヒューイは驚いて石版を離し…上手く飛べずに地面に落ちた…。
カーリーちゃんはすぐにヒューイを抱き上げ、一時的に戦線離脱。万が一そんなカーリーちゃんを狙う輩から守る為に、クギャも同行させた。
2人を見送ってから地面を転がった石版の方へと目線を移すと、ランルゥ教徒と獣賊団員が我先にと駆け出している…。
距離的にロイスが一番近いが…今はネコ野郎の相手で手一杯な様子…。っとなればもう機動力に優れまくったアレスに頼るしかない。
「アレス行ったれェ…! ぶっちぎれ…!」
「ああ…! 〝斑千─」
「〝冥途贈厘〟…!!」
「ぅおっ…!?」
また横槍が入りやがった…、アレスが足止めされたらもう誰も間に合わない…。やっぱリスク覚悟で華天すべきか…?! だがそうしたら衝棍が…。
──そうだ…! まだあの手が残されてる…! 敵味方問わず全員に大ダメージを与えてしまうことになるが…迷ってる暇はねェ…!
「アクアスっ!! 〝毒吐き〟!!!」
「 “ピーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!” 」
「「「「「「「「 ぐわァ…?!!! 」」」」」」」」
清楚な見た目をしたメイドの口から…この世のあらゆる不善を煮詰めたような凄まじい言葉が解き放たれた…。
地を駆けていた者は皆倒れ…空を飛んでいた者は悉く地に落ちた…。激しい争奪戦が一瞬にして地獄絵図に様変わり…。
アクアスの毒舌ビギナーなアレス達も周りと同様に項垂れている…。今動けるのはアクアスと…多少経験のある私とニキぐらいか…。
って言ってもいきなり動くのは無理…胸が苦しい…、今までで一番攻撃力が高い毒舌かもしれん…。どこであんな言葉を…。
「アクアスぅ…今がチャンスだぁ…、石版を回収しちまえぇ…」
「かしこまりましたっ!」
当人だけは無傷なのが一層タチ悪いな…、一体何を想ってあれほどの暴言を…。アクアス…恐ろしい子…。
「──…っ?! 貴方様は教徒達の…!」
「石版は我々が貰う…! 貴様等には渡さん…!」
アイツは…教徒共を率いてる統率者の男…! アクアスの暴言が効かなかったのか…!? マズい…アクアスには荷が重い相手かもしれない…。
「〝深淵の痕〟…!!」
「〝銃床の炸撃〟…!!」
男が抜いた剣とアクアスの攻撃が激しくぶつかり合った。しかし腕力で劣るアクアスは押し負け…体勢が少し崩れた…。
男はそんなアクアスに対し…不意に左手を伸ばす…。
「〝瞬刎鎌〟…!」
「ぁぐっ…?!」
「アクアス…?!」
一瞬男とアクアスの間に何かが見えたと思った途端…何故かアクアスが出血した…。今アイツ何した…!? 何も見えなかった…。
アクアスも突然の事態に困惑している…。その隙に男は石版を懐に忍ばせ…私達に背を向けて走り出した…。
「なっ…!? テメェ待ちやがれェ…! 逃がすかよォ…!!」
気力を振り絞って立ち上がり、逃げた男の後を追う。アクアスの負傷が気になるところだが…今奴を逃がすことだけは避けなきゃならない…!
幸い周りの連中はまだ復帰できていない、追跡を邪魔されることはないだろう。っとなればどこまでも追い掛けて…絶対ェ石版取り返してやる…!
「俺も行くぞ…! オマエだけに任せてられねェ…!」
「ニキも行くニよ~! 備えあれば患いなしニ~!」
「オマエ等…──オマエ等のメンタルも大概だな…」
ニキはまあ分かるが…毒初見のアレスがもう復帰してるのヤバいな…。メンタル強度が鋼を優に超えてやがる…。
だが心強いものだ、3人で囲めばあっという間にフルボッコにできる。もはやあの男に勝利はない、勝ったなガハハッ。
“──メキメキメキメキッ…!!”
「…っ?! 何だ…!?」
突然巨木が音を立てて男の進行方向を塞ぐように倒れた…。何だって急にこんな巨木が…、信じてねェけど神の加護か…?
それともまた招かるざる客か…? 今クソキモい混合獣と戦うなんてごめんだぞ…、勘弁してくれよ頼むから…。
「──ふぅむ…少し倒すのが早かったか…。これだけの巨木だ、タイミングが合えば全員潰すことも可能だったろうにな、残念だ…」
< サイアック獣賊団〝七鋭傑〟Glae Hasaque >
倒れた巨木の上に誰かが立っている。あの姿…あの鼻…、イノシシ男…!
「テメェ…! な~にが「俺達はこの件から手を引かさせてもらんます~」だっ…! 掠め取る気満々じゃねェか…! 嘘つきやがったなこのクソブタがァ…!」
「そんなバカみたいに言った覚えはないぞ…?! 改変するな賊め…! さァさっさと石版を渡せ…! どいつが持ってる…?!」
「そこの宍色髪の女だ」
「なっ…テメ…!?」
迷わずこっちを指差しやがったあの男…! ほんでイノシシ男は何も疑うことなく私を睨み付けてきやがる…! 疑えよバカ…! 追ってたのこっちだぞ…!
「石版は渡さん…!! 喰らえイノシシの頭突き…! 〝猪牙頭羅〟!!」
「〝纏哭〟!!」
対応しようと身構えた矢先、後ろから飛び出したニキが拳を振るった。ニキのパンチが頭に…陥没したんじゃねェか…?
っと思ったが全然ピンピンしてやがる…、やっぱコイツが今回出張ってきた七鋭傑で間違いなさそうだな…。──じゃあネコ野郎は何だ…?
なんて考えてる間に男は巨木を跳び越えて行ってしまった。
「カカ! アレス! コイツの相手はニキに任せてあの男を追うニ!」
「分かった…! オマエなら大丈夫だろうが、相手は恐らく七鋭傑だ…! 油断して足元すくわれんなよ…!」
「もちろんニ! カカ達も絶対石版取り返すニよー!」
イノシシ男をニキに任せ、アレスと共に巨木を乗り越えて男を追う。男は真っ直ぐ走らず…ちょこちょこ木に隠れながら走っている。
そういやランルゥ教徒は一度アクアス・ニキ・アレスの3人と戦ってるんだったか…? ってことはあの不自然な走法はアレスを警戒してのものか…。
どうりでアレスがお得意の超加速を使わないわけだ…、なんで使わないんだコイツ…?って思ってたわ…。
だが慣れない走法を駆使しているせいか、少しずつ距離が縮んできている。追いつくのは時間の問題だ、観念しやがれ統率者…!
“──ガサッ…! ガサガサッ!!”
「カカ・ウォートレイ…!! 俺と戦ろうぜェ…! リベンジだァ…!」
「ネコ野郎…!? テメェいつの間に復帰しやがった…!?」
アクアスが毒を吐く直前までロイスと戦り合ってたのに…なんでここに居んだよコイツは…!? ロイスはやられたのか…!?
クソ…! こんなとこで足止めされてる場合じゃねェってのに…!
「〝斑千風〟…!」
「ベボベェ…?!!」
流石に無視できないと衝棍を握る手に力を込めた矢先、超加速したアレスの蹴りがネコ野郎の顔面にヒット…、痛ってェ…。
派手に吹っ飛ぶネコ野郎…、アレスはその方向を向いたまま男の背中を指差す。
「追え…! コイツは俺がやる…! オマエが俺達の頭なんだろ…? 責任持って敵の頭潰してこい…! オマエならやれる…!」
「へっ…! 言われなくても余裕だっての…! それよりソイツ強ェぞ…?! 遠慮なくやれよ二等星…! 負けんじゃねェぞ…!」
「オマエこそ、俺が加勢に行くまで死ぬんじゃねェぞ…! ──またな…!」
ネコ野郎の相手をアレスに託し、私1人で男の後を追う。2人に背中押されたんだ…逃がしてたまるもんか…!
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
しつこく逃げ続ける男をしつこく追いかけるイタチごっこ、だがそれは突然終わりを迎えることとなった…。
男の背中を追っていると、ポツンと開けた場所に出た。男は中央まで行くと足を止め、おもむろに振り返った。
「──正直あの赤髪の男と戦ることには忌避の念を抱いていたが…貴様ならば何の問題もない。神の予定調和の為に消してやろう…!」
「なんだァ…?! 神の為神の為ってほざいてっから、てっきり堅苦しい奴かと思ってたが…か弱い乙女にマウント取りたいだけの腰抜けだったとはなァ…! カッコ悪いぜェ…? オマエ」
「何とでも言うがいい…不敬者からどう思われようが何の価値もない。それで神の予定調和を守れるのなら本望だ、いくらでも罵るがいい…!」
んー…流石はアクアスの毒吐きを余裕で耐えた男だ…ブレないメンタルをお持ちのようで…。これは揺さぶり効かなそうだな…、残念…。
それならちょっと趣向を変えて…コイツの本心を問いただしてやろうか…。どうせコイツも…他の奴等同様…色々抱えてんだろうし…。
「一つ聞いてもいいか…? オマエは何でランルゥ教団に身を置いてんだ…?」
「…っ? 何故それに答える必要がある…?」
「どうにも他人事とは思えない事情を抱えてる奴が多いもんで…少し揺れてるんだ…。自分の正義と神の意思…どっちが高邁な理想なのかってさ…。だから教えてくれよ…オマエがランルゥ教団に居続ける理由を…」
神至上主義なコイツ等だ、少しでも神の崇高な教えを広げようとする意志がある筈。こう言えばきっとコイツは口を開く…。
「──妹がいた…5つ下の妹だ…。知っているか…? 黒は深淵に近く…あらゆる不幸を周囲にもたらす不吉な色で…その色を髪に宿した子は忌み子として迫害されるんだ…。俺の妹は生まれながらに黒髪だった…、後は言うまでもないだろう…?」
「迫害を受けたわけか…」
「そうだ…。親からも近隣住民からも…町に住まう全ての民が妹を責め立てた…。俺だけがそんな妹に寄り添い…必死に守り続けた…。だが所詮は個だ…群には敵わない…、やがてそんな辛い日々に耐えかねた妹は…自ら命を絶った…」
子の髪色は親から遺伝する…、父母どっちかの髪色を半々の確率でだ…。だが稀に…異なるケースも確認されている…。
混色遺伝──父母両方の髪色が混ざって生まれるケース…。始色遺伝──父母の髪色関係なく、白い髪で生まれてくるケース…。
そして終色遺伝──父母の髪色関係なく、黒髪で生まれてくるケース…。
何故このように生まれてくるかは未だ未解明ではあるが…髪色だけで迫害されるなんて…クソったれの一言だ…。
「俺は分からなくなって考えた…、何が正しいのか…生まれながらに迫害されることが決まっていた妹の存在に…果たして意味はあったのか…。そんな答えの出ない自問自答を繰り返す中で…ランルゥ教団と出会った」
「それで…ランルゥ教団の教えに染まったのか…? ランルゥ教団の…神の意思に心打たれたってのか…?」
「──勘違いしているようだが…俺は別にランルゥ教団の教えを心の底から正しいと思ったことはない」
「はっ…?! じゃあ何で教団に居んだよ…?!」
「教団の教えは分からない…、だが教徒達の中には…妹のように忌み子と呼ばれ迫害されてきた者も多い…。そしてその多くが…神の為に尽力することこそが己の存在意義だと信じている…。人から必要とされないのは…神に必要とされているからだとな…」
「じゃあ…」
「俺がこのランルゥ教団を否定すれば…それは自ら妹の存在価値を否定するようなものだ…。だから俺は居続けて…神の意思を正しいと言い続けねばならない…! たとえそれがどんな災いに繋がろうともな…」
ハァ…コイツはダメだな…。あの姉弟の時のように…どうにか改心させるなんてことは不可能だと悟った…。
亡き妹の存在意義を証明し続ける…、それは終わりのない旅…。説得するのも違う気がする…、戦う運命からは逃れられない…。
「話は終わりだ…貴様を殺す…!」
「待てェい…!!」
「はっ…? ん…?」
「なんか今の話を聞いてモチベーションが下がった…! だからもう一つだけ質問させろォ…! それでモチベを取り戻すから…!」
「何なんだ貴様は…──質問は何だ…?」
おっ、素直に答えてくれるのか、そんじゃありがたく聞かせてもらおうか。
「──支度町で薬売りを斬ったのはオマエか…?」
「薬売り…? ああ、魔物病の特効薬を配っていたあの森人族のことか。そうだ、俺が斬り伏せた…!」
「オーケーオーケー! 沸いてきたぜやる気がァ! アイツは私の数少ない親友だっ! 傷付けたテメェは許さねェ!! ぶちのめしてやるよ!!」
「ならば俺は亡きの為に不敬者である貴様を殺そう…! 神よ…貴殿に代わってこの者をあの世に送ります…!」
<【瘴魔司教】〝???の蟲人族〟 Adeymoth Viwyra >
──第142話 争奪戦〈終〉
譲れない想い、衝突──!




