第141話 蛮勇の帰還
──飛空技師は駆り出される──
竜の慈悲で逃げられた2人は──?
─ 竜の古城 1階 ─
「カカ様…外に出ないのですか…? もうあそこから出られますけど…」
「こんな状態で皆のとこに戻ってみろ…とんでもない心配かけちまうだろ…? まーたアレスが口うるさくなるし、あれこれ言われる前に処置した方がいいだろ」
「処置…ですか…?」
「左腕くっつけんの…! 治癒促進薬2本飲みの超再生で…! 皆まで言わせんな…怖くなるだろ…」
取れた左腕をくっつけるには超再生に頼る他ない…。でも全然気乗りしない…、超再生には過回復症状が付き纏うから…。
またあの地獄を味合わなきゃならないのかと思うと…それだけでため息がもう…。憂鬱…ブルー…気が滅入る…。
マジで痛いんだもん過回復症状…、何なら腕もげるのより痛いもん…。しかも今回は右脚もかなりの重傷…、これは前回を越える激痛が期待できますね…。
「じゃあアクアス…私は全力で激痛に悶えるから…、左腕は任せたぞ…」
「えっ…私が持つんですか…?」
「専属メイドの必須業務だもんな」
「初耳でした…頑張ります…」
アクアスに左腕を持たせ、口に咥える為の手拭いを用意して準備万端…。2本の治癒促進薬を間隔開けずにグイっと飲み干した。
すぐに身体中に生じる異変…、体が火照って熱くなり…激痛が襲ってくる…。口に詰めた手拭いを噛み…必死に激痛に耐える…。
「んー…! んんー…! んー…! ──なぁアクアス…ちょっと言ってもいいか…? なんか前よりも…痛くない…かも…」
「えっ…!? こんな重傷なのにですか…!?」
「うん…めちゃくちゃ痛くはあるんだけど…意外と耐えれるんだよな…。何でかな…、逆に何でだと思う…?」
「いや…まったく分かりませんけれど…」
痛みに悶えて泣き叫ぶと思ってたから…少し心に余裕はできたけど…、それでもジッとはしてられないぐらいには痛い…。
何でこの程度の痛みで済んでるのかは謎だが…これもあの光の玉の効力…? んー…──それでもまだ気味悪いな…。
「あうぅ…カカ様ぁ…、グロいです…肩と左腕が再生していくところぉ…」
「ちゃんとくっつくまでしっかり持っててくれよ…、ズレないように頼むぞ…」
多少余裕があっても…左腕が再生してるところは見たくない…。きーっとグロい…右脚もグロい…、もう痛みが消えるまで目閉じとこ…。私は逃げる…。
痛みとアクアスのか細い声に意識を向けながらしばらく耐え続けていると…少しずつ全身から激痛が引いていくのを感じた…。
ようやく超再生が終わったらしい…、実にしんどい時間だった…。泣き叫ぶほどの痛みではなくても…もう体験したくない思いでいっぱい…。
ちゃんと左腕がくっついたか動かして確認してみると、まだ多少違和感はあるもののちゃんと動く。力は入りにくいけど…指もしっかり動く。
抉れた右太股もちゃんと治ってたし、改めて超再生は凄いなぁ…二度と体験はしたくないけど…。
「よし、ちゃんと治ったし、皆のとこに戻るか。──大丈夫か…?」
「はい…メンタルが少々削れましたが…大丈夫です…」
「ごめんな専属メイドの必須業務とか適当言って…」
「いえ…お役に立てたならば本望です…」
アクアスのメンタルが回復するまで背中をさすった後、私達は粛々と古城の外に出た。地獄の淵から舞い戻った気分だ…。
帰りは行きと違ってこっそりする必要はないよな…? 竜自ら逃がしてくれてたもんな…? もう匍匐前進はしたくねェぜ…。
「あっそうだ、私が竜と戦闘したことは皆に内緒だからな…? 特にニキとアレス…! あの2人に知られたら絶対やれ「命知らず」だの「野蛮人」だの「実力が劣っているにも関わらず竜にも勝てると思ってる過信系残念美人」とかボロカスに言われちまう…」
「あの御2人もそこまで言わないとは思いますけれど…」
まあもし言われたとしても、ちゃんと生還してる事実と石版を回収した功績をチラつかせて上から黙らせればいいか。
ってか流石にあんな死地に飛び込んだ勇者に対して酷いことはせんか…! むしろ胴上げされちまうかもしれねェな…! ワハハッ…!
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「おマヌケ達に制裁の〝旅商人の手刀〟!!」
「ぶげェ…?!」
「ぴゅ…?!」
淡い期待を抱いていた私と巻き添えを喰ったアクアスは…地面の上にうつ伏せに倒れた…。怪力頭巾のチョップ痛ェ…。
「まったく…! こっそり忍び込んで石版だけいただく算段だった筈なのに…それが何であんな最終決戦みたいな状況になるニ…?! 見てたこっちも生きた心地しなかったニ…!」
「み…見えてたの…? そっちから…」
「そりゃ急に夜空になってあんなに目立つ光線放ってたら嫌でも目に入るニ…! なんか古城も変形するし…! 古城内で一体何してたニ…!?」
「それはアクアスがやりまして…」
「ちょっカカ様…!?」
こうなっては説明しないわけにもいかず…古城内部に潜入してからのことを細かく話した。
古城変形の要因、竜との戦闘、その後の不可解な竜の行動等々。話せば話す程…皆の顔がポカーンとしていった…。
まあでしょうね、かく言う私達ですら古城変形と竜の行動の真意は分からずじまいだし。短剣に反応を示してたようだが…それが何故なのかも分からん。
ただ…竜が言葉を発したかもしれないことだけは皆には言わなかった。どうせ信じてもらえないだろうし…私の気のせいって線もあり得るし。
「聞いてて頭痛くなる話だな…整理が追いつかねェよ…。水晶玉に触れたら古城が変形したって…、メイド…オマエ…」
「アクアスもそっち側だったとはニ…」
「引かないでください…! あれは不可抗力みたいなものでしたし…そもそもおかしいのは変形する古城の方です…! だから引かないでください…!」
うんうん、まるであの日の私を第三者目線で見てる気分だ。分かるぞアクアス…痛いよな…引いてる奴の冷たい視線て…。
「それよりカカは大丈夫なの…? 見たところ負傷は無さそうだけど…衣服の損傷からして無傷じゃないよね…?」
「カカさん絶対超再生で傷直したでしょ、見りゃ分かんだよ…?」
「直に消えるけど、超再生した箇所には薄っすら〝再生痕〟って言う痣ができてね、有識者には一目瞭然なのさ」
「あっ…うん…そうだねェ…」
結局竜に負わされた怪我を正直に話した…。皆一斉にどん引いて…一斉に左腕に集まってきたんで…ちゃんと動くとこを見せつけてやった。
「ボクはきっと帰って来るッテ信じてたヨ~」
「 “クギャギャッ!” 」
「おうおう、心配してくれてありがとなクギャ~」
「ボクは?」
──色々困難だらけではあったが…またこうして皆のもとに戻って来られて本当に良かった…。人生どう転ぶか分かんねェもんだなまったく…。
──明昼 【晴れ】 -冥淵樹海-
「さてさて、竜の住処に潜入っつう圧倒的絶望イベントを終えたわけだが…むしろこっからが本番なんだよな…」
「そうニね、まだ魔物討伐というメインイベントが控えてるニ」
クソ気怠いなぁ…竜の次に魔物と戦わなきゃならないのはマジで気怠い…。しかもこっちはちゃんと討伐しなきゃならないのがより怠い…。
竜ほど反則級に強くはないが…別ベクトルで厄介過ぎんだよ魔物…。短剣で殺せるか殺せないかぐらいの違い…、人の身には荷が重い…。
「確か石版である程度誘導できるんだったか? どこを戦場にする?」
「あんまり危険が多くなく、視界も悪くない場所が一番だろうから…消去法で古原大の森じゃねェか…? 宵星は暗すぎるし、喰胃と冥淵は論外」
どの森に居てもネブルヘイナの端付近まで移動すれば魔物はきっと反応を示すだろうし、古原大にも問題なく誘導は可能だろう。
ただどのぐらい端に近付けば魔物が反応するか定かでない以上…古原大に着くまでは下手に外側へは行かない方がいいだろうな…。
あとは偶然エンカウントしてしまう事態だけは避けたい…、もしそうなったら有無を言わさず即戦闘になってしまう…。
細心の注意を払って古原大まで行かねェとな…。ただでさえ魔物との戦いはギリギリなんだから…極力魔物以外に意識を割きたくねェ…。
「一つ懸念点を上げるとするならランルゥ教団だね…。獣族達と違って彼等はまだ僕達を諦めてないんだよね…?」
「恐らくはな…、連中は獣賊団と狙いが違う…標的である私達が居続ける限り狙ってくるだろうさ…」
一番最悪なケースは…魔物との戦いの真っ只中に横槍を入れられること…。十中八九連中は魔物の肩を持つし…そうなったら確実にこっちが負ける…。
連中と戦わずに事を終えられるなら最善だが…もしもを危惧するのなら魔物の前に伸しちまうのが一番手っ取り早い…。
ままならねェな…、リスク覚悟でスルーか…メイン前に潰し合いか…。実に嫌な2択だ…アレスに決めさせようかな…?
“──キーン…!”
「…っ?! 後ろから何かくるぞ…!」
振り向くと、大きな謎の飛行物体が物凄い速度で接近してくる…。咄嗟に体を仰け反らせ、それと同時に右脚を蹴り上げて飛行物体の軌道を変えて危機を回避…。
飛行物体は木に衝突…したと思ったが…あろうことか木がスパッと切れてやがる…。凄まじい切れ味を持った飛行物体…? 何だってんだ…?
「…っ! 木の上にも居る…! 〝貫剛の一矢〟!!」
カーリーちゃんの放った正確無比な矢は、的確に木の上に潜んでいた存在へと飛んでいった。っが寸前で避けられ…ヒットとはならなかった…。
だが潜んでいる奴の正体は分かった…噂をすれば何とやらってやつだ…。
ランルゥ教徒に囲まれてる…四方八方の木の枝からこっちを見つめてきやがる…。ってことはさっきの飛行物体も連中の仲間か…恐ろしい不意打ちしやがって…。
鳥の巣荒らしの最中に出くわした2人もちゃんと居やがる…、喰胃で遭ったあの姉弟は…見当たらないな…。
しかし思ったより人数が居る…。木陰や茂みからも続々と教徒共が姿を現し…正面の木陰からも1人出てきた。
「──会いたかったぞ不敬者共。宍色髪の人族…貴様が頭だな…?」
「その通りだが…そういうテメェも教徒共の首領だな? 蟲らしく女王アリとでも呼べばいいのカナ?」
「…。」
軽い挑発には乗ってこない…か。色々闇を抱えてる連中の束ね役なだけあって…一筋縄ではいかない相手のようだ。
見たところ武器は剣みたいだな、腰に差しているのがローブの上からでも確認できる。──剣か…、ひょっとするとコイツが…。
「私達になんか用かァ…? 生憎蜜は持ってないぜ…? それと石版もな、アレは獣族共が持ってっちまったよ。そっちを先に狙ったらどうだァ? アイツ等も魔物をどうこうしようとしてる不敬者だぜ?」
「無論連中も神に代わってしかと裁くが…連中は魔物を〝手懐ける〟、貴様等は〝討つ〟、どっちを優先して処すべきかは自明の理だろう…?」
「それを実行する為に必要な石版を持ってないって話をしたつもりだったが…あんまりお頭は良くないようだな。私達に構ってる暇があったら、さっさと連中を追って石版を破壊した方が良いって分からない…? 自明の理だぜェ…?」
自分でも驚くほどすらすら嘘を吐く。だがコイツ等には嘘かどうかも判断つかないだろうし、言ってることもそれっぽいから信じるだろ。
「その割に焦らないんだな…先を越されてどこに居るかも分かっていないというのに。随分と余裕が見て取れるぞ…?」
「強者はどんな状況であっても敵に本心は見せないものだぜ…? ポーカーフェイスってやつさ、また一つお頭が賢くなったな女王アリ…!」
「随分口も回るようだな…」
よしよし、いい感じにこっちの言葉に反応してるな。このまま都合の良い方向に誘導して、獣賊団と教団をぶつけ合わせてやろう。
挑発に乗ってこないとしても、小さなイライラは必ず心に溜まる。それはやがて対抗心に代わり、相手の発言に対して無意識に反抗するようになる。
そうなったらもう簡単、「どうせ無理」とか「口だけだろ」とか適当に煽ってやるだけで、狙いが私達から獣賊団に早変わり。
そうすりゃ勝手に潰し合ってくれて、両陣営かなり消耗する。あとは漁夫の利狙うもヨシ、無視して魔物に専念するもヨシ、最高だな。
「────奪取ダーーシュ!!」
「ひゃっ…!? 何ですか…!? ──あれ…!? あれェ…!? 石版がァ…?! カカ様…! 石版盗られました…!!」
「何ィ…!!?」
衝撃発言…石版盗られましたァ…!? 今までの嘘全部無駄になったんだが…?! どこのどいつだ命知らずな窃盗犯は…?!
「ってまたテメェかストーカーネズミ…!! テメェ毎回当たり前のように出てきやがって…! さては戦闘で役に立たねェからって雑用に回されてんな…?!」
「ほっとけェ…!!」
ってかコイツが居るってことは獣賊団帰ってねェじゃねェか…! 騙しやがったなあのイノシシ野郎…!
それにあんなネズ公に何度も出し抜かれるなんて恥も恥…! ここで遭ったが百年目…! ボッコボコのズッタズタにしてやる…!
絶対石版は渡さねェ…! こっちがどんだけ苦労して手に入れたと思ってんだ…! こちとら竜に喧嘩売ったんだぞ…!!
ネズミが仲間のもとへ戻る前にひっ捕らえて──
“ガサガサッ!”
「ハッハー! 〝旋天斬爪撃〟!!」
「「 ぐわああっ…?! 」」
「げっ…?! ネコ野郎…」
樹冠から突如姿を現したのはシヌイ山でぶっ飛ばした七鋭傑の1人。あのイノシシが今回出張ってきた七鋭傑じゃねェのか…?
ネコ野郎はお得意の爪攻撃で、木の上に居た教徒共を一掃。それと同時に周囲の草陰から獣族共が現れ、ストーカーネズミの追跡を阻む。
「クソ…結局こうなるのかよ…。仕方ねェ…! オマエ等…! 邪魔する奴等全員ボコして、石版取り戻すぞ…!! ──非戦闘員は隠れててヨシ…!!」
「ワーイ」
「ちょっと期待してたよその言葉…!」
──第141話 蛮勇の帰還〈終〉
奪い合いが始まる──!




