第139話 歪んだ古城
──飛空技師は駆り出される──
窮地直面──!
「あわわ…! マズいですよカカ様ァ…!」
「ヤバすぎィィィィィ…?!!」
とんでもない事態になった…! 間違いなく過去最大の窮地だ…! 取るに足らない下等生物が今…! 世界の天辺に睨まれている…!
いやワンチャン…ワンチャン変形した城を見てるのであって…こんな虫けらは端から眼中にない可能性だってある…。
このまま石像みたいにジッとしてたら見逃してもらえたり…──
「 “ゴルルゥン…!” 」
あっダメかも…これ完全に視認してるわ…、何ならガン見してるわこっちを…。うおー…ヤッベェ…、どうしたらいいか頭働かねェ…。
「 “ゴルララララァ…!!” 」
「ちょっマジか…!? アクアス…!! 早く梯子下れ…!! 逃げるぞ…! 急げ急げ急げェ…!!」
竜はガパッと口を開けると…口内がまた赤みがかっていく…。それを見た瞬間に全身の細胞が危機を察知し…生存本能が全開に…。
脇目も振らずに梯子を下り…急いで古城内部を目指す…。監視塔にはアーチ型の窓がある…きっとそこから紫炎が監視塔内に入り込んできてしまう…、急いで避難しないと燃えカスにされる…。
とは言え下手に飛び降りたら足を負傷してしまうし…出せる全力の速さで梯子を下るしかない…。だからめっちゃ焦る…凄い焦る…、踏み外して落ちそうになる…。
なんとかアクアスが下まで降り、私も片足を床につけたその瞬間…3階と4階の窓から紫炎が入り込んできた…。
監視塔から飛び出し…横の通路に逃れると、その直後灼熱の紫炎が勢いよく監視塔の入り口から噴き出した…。
とんでもない熱気が通路内に充満し…肌が焼けるような激痛に襲われる…。呼吸で肺まで焼かれそうだ…、身動きができねェ…。
いつまで続くか分からない焦熱地獄の中…ただただ床に突っ伏して苦しみに耐える…。無限にも感じる苦痛…意識が飛びそうになる…。
限界がすぐそこまで迫ってきていたが…意識が途切れる前に竜の紫炎は止まった…。少しずつ周囲の温度は下がっていくが…中々立ち上がれない…。
「アクアス…生きてるか…?」
「辛うじて…、危うく気を失うところでした…」
アクアスも私も…肌が露出していた手や顔に軽い火傷を負った…。改めてどんな炎だよ…、生物が放出していい炎じゃねェな…。
獅子はウサギを狩るにも全力を出すとか言うが…流石にちょっとは手加減してほしいもんだ…。恐ろしい生物だぜ…竜…。
「ったく…乙女の顔を傷物にしやがって…。ほらアクアス…飲めるなら治癒促進薬飲んどけ、火傷跡残っちまうぞ…?」
「うぅぅ…それは嫌なので飲みます…」
治癒促進薬を飲み干し…これでなんとか行動できる…。まったく酷ェ目に遭ったもんだ…クソみてェな気分だぜ…。
ひとまず命があったことを喜ぶべきだろうがな…。さて…気を取り直して上階を目指すとしましょうか…。
なんか8階建てにグレードアップされたせいで…目指すべき場所が高くなっちまったな…。階毎の捜索面積は減ったが…。
「いやしかし…そっかそっかぁ~、アクアスも…ふ~ん」
「えっ…何ですか…? 何ですかその反応…」
「いやいや、ほらさ、私ガガテガ遺跡で壁に触れて隠し通路見つけたろ? あの時皆から奇異の目を向けられたのがちょっとショックだったんだぁ…。でも今日…オマエがより凄まじいことをしてくれたから、これでオマエも仲間入りだな…! ようこそ…アクアス…!」
「う˝っ…、こ…光栄です…」
帰ったらアクアスがしでかした事を皆に伝えてやらなきゃな。きっと私の時以上に驚かれることだろう、私は仲間できて嬉しいけど。
「そうですカカ様…! もう一度あの水晶玉に触れれば元の形に戻るんじゃないですか…?! きっとそうに決まってます…! 私行ってまいります…!」
「あっちょっ…」
アクアスはすぐさま例の水晶玉部屋に駆け出した。確かに触れれば元に戻るかもしれんが…更に竜の怒りを買うんじゃ…。
いやでもまあ…うん…もう手遅れではあるか…、既に焼き殺されかけたわけだし…。もういいか…やっちゃおうか…。
アクアスの後を追って部屋に入ると、ちょうどアクアスが水晶玉に触れようとしていた。その様子を入口のそばで見守る。
“ペタッ!──ペタペタペタペタペタッ!”
「カカ様ァ…! 何も起こりません…!!」
「見りゃ分かるわ…。んー…一応私も試してみるか…」
ちょっと気が引けるものの…ダメもとで水晶玉に触ってみるが…うんともすんとも言わなかった…。ただ手が埃にまみれただけ…。
アクアスは未だに諦めずペタペタ触ってる…、触る箇所変えても意味無いだろうに…。これは恐らくダメだな…何故かは知らんが…。
「ほらアクアス、諦めて階段探すぞ」
「あうぅ…でも私のせいでこうなりましたし…」
「元に戻せねェなら仕方ないだろ? 諦めなさい!」
「はい…」
古代技術のことは何一つ分からんが…流石に「一度変形したらもう戻りませ~ん☆ 残念でした~☆」なんて御粗末な造りにはしないと思うし、コレとは違う水晶玉がどっかにあるのかもな。
いずれにしても今は手出しができないし、大人しく先を急ぐのがベストだろう。どうせ階段を探すのにまた一苦労強いられるのだから…。
「ハッ…! カカ様…! もしや構造が変化した今こそ、あの見取図が正常に機能するのではないですか…?! もしそうなら上階を目指すのも苦じゃありません…!」
「おおっ! それは確かにありえるな、でかしたぞアクアス! ようやく見取図の出番が来たか! 見取図の出番…見取図の…見取図…」
ポケットやポーチに手を伸ばしてみるも…手応えはどれも違う…。どっと冷や汗…全身に嫌な緊張が走る…。
「──あっ…地面に叩きつけたまま…回収してなかったかも…」
「何をなさってるんですか…!? カカ様のおバカ…! おバカカ様…!」
「いやほんと面目ない…」
取りに戻ろうにも…構造が変化しちまったせいでもう場所が分からない…。この広すぎる古城の中で見取図が迷子…。
ぐぐぐ…悔やんでも悔みきれ…なくはないけど…。だって城が変形するなんて夢にも思ってなかったし…おとぎ話でも見たことない展開だぜ…。
「もういいや…全部諦めて階段探そう…石版さえ回収できれば他はどうでもいいんだしな…。終わり良ければ総て良しってな…」
「この調子じゃ良い終わりを迎えられるかも不安ですけどね…」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
──昼前 【曇り】 ─ 竜の古城 5階 ─
「この高さだと流石に窓からの眺めも素晴らしいですね、独特な色の冥淵樹海も美しく見えます」
「あんま身乗り出すなよ? 落っこちても助けられねェからな」
あれから階をくまなく練り歩き、見つけた階段を上がってはまたその階を練り歩くを繰り返し…ようやく5階まで来れた…。
当初はこの5階まで来れれば…あとは竜に見つからないように石版を持って帰るだけだったのに…。まだ上を目指さなきゃならないとは…。
なんで毎回上階への階段バラバラの位置にあんだよ…おかげで無駄に疲労が蓄積する…。クソ設計め…。
せめて中央付近に偏っててくれれば苦労は少ねェのに…全然端の方にもありやがるからな…、2階と4階がそうだった…。
もうじき外周を回り切るが…今んところ階段は見当たらない…。交互に端と中央付近に階段を設けてるのかもしれねェな…。
「それにしても本当に埃っぽいですね…、鼻がムズムズして…ックシュン…!」
「そりゃこまめに手入れするような奴が居なきゃそうなるだろうな。ここに住んでるあの竜に責任持ってやってほしいぐらいd…」
“──キーン…!!”
「…っ?! アクアス…!」
後ろを歩いていたアクアスにタックルを仕掛け、一緒に床の上を転がった。その直後…外とを隔てていた壁に勢いよく何かが突っ込んできた…。
それは竜の指…、スポンジに穴開けるみたいに古城に穴開けやがった…。出来立てほやほやの風穴からはそよ風と一緒に竜の唸り声がする…。
まさかアクアスのくしゃみを聞いて攻撃してきたのか…!? めっちゃ神経質…!よっぽどお怒りなのでしょうか…?!
“──スンスンッ、スンスンッ”
ニオイ嗅いどるー…! 私達の痕跡探っとるー…! これ蓑が無かったらここでジ・エンドだったんじゃねェか…!?
ヤバい…怖い…竜が離れてくれるまで動けない…。物音一つ立てたらおしまいだ…手で口元を抑えて僅かな呼吸の音すらも遮断する…。
鼓動が早くなる…耳鳴りがする…、吐き気すらも息を潜めるほどの緊張感が全身にまとわりつく…。
“スンスンッ…” 「 “ゴルルルゥ…” 」
竜が遠ざかっていく気配がする…。気付けば凄い汗ばんでいた…まるで風邪引いた時のよう…。緊張感から解放されてか…手や脚が震えている…。
もしかしたら…竜はまだ私達を諦めていないのかもしれない…。例えコバエであっても…死骸を見るまでは安心しないってわけだ…。実に恐ろしいぜ…。
「ここからはより一層慎重にいこうか…」
「ですね…命が幾つあっても足りません…」
重たい恐怖が足にまとまりついたまま…階段探しを再始動…。比較的安全な筈の中央付近に移動しても尚…心臓が握り潰されそうな感覚に襲われる…。
凄ェ気持ち悪いこれ…ずーっと背後から死神数人に話し掛けられてる気分…。上を目指してる筈なのに…地獄へ向かってるかのようだ…。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
─ 竜の古城 6階 ─
「あーっ! カカ様アレ…! あそこに落ちているの…カカ様が感情に任せて地面に叩きつけた挙句放置した見取図じゃないですか…?!」
「おいもっと歯に衣着せろよ、ミスをもっと気遣え」
とは言えアクアスの言う通り、アレは間違いなくあの時捨ててきた見取図。正直この階まで来ちゃうとあんまり出番は無さそうだが…まああっても困らないか…。
けどなぁ…改めて見取図を見る限り…全8階分の見取図は記されてないんだよな…。4階分しか書かれてない…。
──もしかしてあの小せェ遺跡の中にまだあったんじゃねェか…? 1~4階の見取図と5~8階の見取図で分かれてた説…。
コレどっちだ…? 部屋数的に5~8階の方な気はするけど…。いや私が考えるのは危険だな…ここはアクアスに頼ろう…。
「なァなァ…コレ頼むわもう…、見れば見るほど分からなくなっちまうよ…」
「お任せください。──ふむふむ…コレが5~8階の見取図だとして…上に行くほど階の面積が広くなっていますから…6階はコレでしょうか…? っで階段の位置がここで…ここまで来たルートと照らし合わせると…──カカ様…! 恐らくこの見取図はあってます…!」
そうか…私はさっぱりだけどな…。ここまでのルートとか憶えてるわけねェし…むしろよく憶えてたなこんな入り組んだ通路…。
まあ何はともあれ、これで問題なく8階まで行けそうだ。不意に乱入してくる恐れのある竜を除けばだが…。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
─ 竜の古城 7階 ─
大ピーンチ…!! 8階を目前にしてとんでない窮地出現…!
見取図で8階への階段は外側にあると知れたが…なんとビックリ…そこまでの通路の壁が完全に崩れてやがる…!
外丸見え…! 無論竜からもこっちの姿丸見え…! ヤッバァ…! しかも結構距離ある…! 勘弁してくれよマジでよォ…!
未だ竜は私達を捜して古城の周りをうろうろしてる…、かと言って他に階段に通じる道も無いし…ここを通らなきゃ8階には行けない…。
竜が居ないタイミングで向こう側に渡るしかないが…相手が相手なだけあって足がすくみにすくむ…。
しかもあの竜…やたらと羽ばたく時の音が小せェ…、鳥の方がまだ聞こえるぐらいだぜ…。おかげで今どこ飛んでるのか分からない…。
いつこっち側に回ってくるかと考えただけで進めない…、底なし沼にハマった気分…。一生分の勇気と覚悟がなきゃ…抜け出せないなこれは…。
「私が先に行く…オマエは私が合図を出したら来い…」
「かしこまりました…、お気を付けて…」
ゆっくり息を吐き…踏み出すタイミングを慎重に見極める…。次…竜の姿を視認して…再度姿が見えなくなったそのタイミングで行く…。
身を隠しながら外の様子を窺っていると…案の定また竜がこっち側に回ってきた…。口元を押さえ…竜が居なくなるのをジッと待つ…。
目を閉じ…微かに聞こえる翼が空気を切る音にだけ意識を注ぐ…。やがて風切り音は遠ざかっていき、竜の気配を感じなくなった。
小さく息を吐き…身震いする体に鞭を打ち…覚悟を決めて駆け出した。振り返らず…足を止めず…ただただ竜が戻って来ないことを祈りながら走り続けた…。
言葉にできない恐怖で頭の中はプチパニック…、無事に向こう側へ到達する瞬間に無駄にスライディングかましちまった…。猛烈にケツが痛ェ…。
とは言え見つからずにこっちまで来れた安堵が凄まじい。ケツの痛みも気にならねェや、あとはアクアスもこっちに来れれば万事オッケーだ。
竜はさっき離れたばかりだし、来ようと思えば来られるかもしれんが…ここは神経質なぐらい慎重になるべきだろう…。
再び竜が周回してくるのを静かに待ち…しつこく探し回ってる竜をやり過ごし、いよいよアクアスの番…。
完全に風切り音が止んだのを確認し、アクアスに合図を出す。アクアスはすぐに駆け出したが…これ見てる側もめっちゃ怖い…。
頭の中「急げ急げ急げ急げ…!」って感情でいっぱい…。何なら見てる方がハラハラする…心臓もたない…。
「── “ゴルルラァ…!” 」
「「 …っ!? 」」
あともう少しで渡り切れるという時に…突然轟く竜の唸り声…。突然下から顔を覗かせた竜の眼には…アクアスの姿がバッチリ映っていた…。
しくじった…てっきりこれまで同様に古城を周ってると思い込んでた…。音だけで判断してたから…正確な動向まで把握できなかった弊害だ…。
いや1人反省会なんてしてる場合じゃない…! このままじゃアクアスが攻撃される…! こうなりゃ仕掛けられる前にこっちからやってやる…!
「〝震打〟…!!」
「 “ゴグゥゥ…?!” 」
壁を思い切り叩き、砕けた瓦礫を礫にしての先制攻撃。どうせ効いちゃいないだろうが…視覚外からの攻撃で怯まねェ生物なんて存在しねェだろ。
「行くぞアクアス…! もうこのまま8階まで行っちまうぞ…!」
「えっ…!? はっはい…!」
幸い8階への階段はここから近い、一切足を止めることなく一気に8階への階段を駆け上がる。外からは怒れる竜の雄叫びが響いている…。
だがもう喧嘩は売っちまった…もう引き返せねェ。見取図を持つアクアスを先頭に、8階の通路を迷わず進んで行く。
構造はおろか何もかもが変形しちまった城だが…流石に屋根のある部分は最上階以外には適さない筈。8階は変形前の5階とほとんど一緒だ。
流石にこんだけ大掛かりな変形の後じゃアクアスの〝軌跡〟も役には立たないだろうが…ある程度監視塔から石版がある場所は把握してる。
8階中央にさえ出られれば、石版の回収にはそこまで苦労しない。問題は怒れる竜の巣からの離脱だが…そこはもう時の運だな…。
とにかく今は石版の回収が最優先…! 時間との勝負だ…、石版回収前に竜が8階に来てしまったら…終わり…。
「カカ様…! あの角を曲がれば中央まで直線です…! ──わっ…天井が…!」
「そりゃまあ…人都合の天井なんて必要ねェんだろ…」
ここから先…私達を隠してくれる天井はもう無い…、空から見下ろされたら一瞬で見つかってしまう…。
まだ私達を捜して7階に意識が向いてる今しか石版回収の機会はない…、見つかる恐れは考えず…ただ真っ直ぐ進む…。
やがて天井はおろか壁一つない更地に出た。見取図がなくても分かる…ここが中心…竜の玉座…! 広大だが…落ち着いて思い出せ…監視塔で見た景色を…。
竜は中央に鎮座していて…アクアスはその背後に〝軌跡〟を視たと言っていた。つまりは端…! 辛うじて壁が残ってる部分と更地の境目付近…!
周囲を見渡すが…こっち側に石版らしき物は見当たらない…、っとなれば…。
「ありました…! 向こうです…!」
やっぱそうか…だが見つけた…! あとはアレをいただいてこっそりトンズラこくだけ…! 簡単じゃないが行きよかイージー…!
最悪全ての階の床に穴を開けて最短ルートを進むでもいい…! とにかく一刻も早く石版を手中におs──
「 “ゴラァァァァ…!!” 」
「…っ?! クソ…!」
竜はいつの間にか上空に居て…鋭い眼光でこっちを見下ろしていた…。咆哮に思わず足を止めてしまったその間に…竜は8階に下り立った…。
石版は怒れる竜の後ろ…ここに来て最大の障壁に割って入られた…。
「──アクアス…オマエは隙を見て竜の背後に回り…石版を回収しろ…」
「えっ…!? カカ様は…?!」
「私か…私はそうだな…、世界の天辺に遊んでもらうとするかな…!」
蓑を脱ぎ捨て、衝棍を手に取り臨戦態勢。
勝機は微塵も無い…、だが石版を取るには誰かが意識を引かなきゃならねェ…! 上等だァ…反骨精神MAXで無理やり己を奮い立たせてやる…!
「少しの間お付き合い願うぜオオトカゲ…! 私に夢中にさせてやんよォ…!!」
「 “ゴルララララララァ!!!” 」
──第139話 歪んだ古城〈終〉
最強咆える──!
<一方、待機班>
「竜凄いキレてナイ?」
「なんかヤバい状況ニ…! カカ達はどうなったニ…!?」
「──大丈夫だろうな…荒女…」




