第137話 〝竜〟
──飛空技師は駆り出される──
おや…? カカの様子が──…?
──明昼 【曇り】
「ふぅ…ここまで来ればもう大丈夫だろ。流石に一旦休憩するか…、俺も荒女もぶっ通しで戦い続けたわけだしな…。──おい大丈夫か荒女」
「大丈夫ではねぇな…。あ˝ぁ~…気怠い…、アクアス…膝枕して…」
<〔Perspective:Kaqua〕>
あ˝ぁ~…いつものが訪れた…。毒に適応し終えてすぐはハイで気分良いのに…、終わると一気に気怠さが押し寄せてきて…ブルーな気持ちになる…。
もう何もしたくない…体動かしたくない…、さっきまでお腹減ってたのに…もう食欲が微塵もない…。もう帰りたい…可愛い子供とふれあいたい…。
「よわよわなおネエさん新鮮ダネ、今なら余裕でパイタッチできソウ」
「う˝ぅ~…1回だけだぞ…」
「いいんダ…、これは重症ダネ…」
怒る気力もありません…、なんだろう…今無性に人の温もりが欲しい…。この際パークでもいい…抱きしめちゃお…、柔らかい抱き枕ゲット…。
「カカ様、その状態はどのぐらい続くのですか?」
「どれぐらいだろうねぇ~…教えてジルゥ…」
「人族のことは僕にも分からないよ…、何だい適応ハイって…」
さぁ…何なんだろうね…。多分毒適応でハイになるの私だけだろうしな…、他の人族で同じ状態になってる人見たことないもん…。
反応的にアクアスもなったことないっぽいし…私毒でハイになる変人だったんだなぁ…。あ˝ー…なんかまたブルーになってきたわ…。
「これはしばらく動けそうにないね、仕方ないけれど」
「仕方ねェ…のか…? まあ動けないのに変わりはねェけどよ…。──そうだ、今の内にコレ飲んどけよ、酸化して味落ちる前に」
「味目的じゃないから別に気にしないけどね? 美味しい血ってのもよく分からないし。でもありがとう…有難くちょうだいするよ」
あっ待って…ジルゥが呪毒を解毒する瞬間だけは見届けたい…。その為だけにこんな状態になってまで頑張ったんだ…、絶対見たいぃ…。
「だけどまだ飲まないよ~、せっかくなら冥淵の外に出る直前に飲みたいからね~。そっちの方がより解毒を実感できるしさ」
「あっ…そっすか…。──アクアス…頭撫でて…」
「本当に重症ですねこれは…」
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
──昼過ぎ 【晴れ】
「ふっかーーつ!! バリバリ元気なカカ様が戻ってきたぜ~!」
「長かったなマジで…」
「もう限りなく入相に寄った昼過ぎです…」
あのキッツい苦しみからようやく解放された、あー良かった。まるで生まれ変わったみたいに体が軽い、お腹減ってきた。
昼食今食べちゃうと夕食あんま食べれなくなりそうだけど、我慢できないから今食べちゃお。胃の中が空っぽでキリキリするもん。
「ったく…呑気なもんだな…。もう時間が時間がだぞ…? 完全に日が暮れる前に拠点へ帰るんなら…今からじゃ大して巣は集められないぞ…?」
「んー仕方ねェなそれは、まあ私が言えたことじゃねェんだろうが…。とりあえずは帰路につきつつ、通り道にある巣を片っ端から集めるしかねェな…」
いやーまさかこんなことになるとはな…、でも全部あのクソ混合獣もといランルゥ教徒が悪い。
身動き取れなかったのは私のせいかもしれないけど、そもそもの原因は別だもん。私悪くねェもん、体調悪かっただけだもん。
しかし体調が治った後の飯はウマいね、舌と胃が喜んでいる。あっという間にぺろりと完食、ごちそうさまでした。
「よし、そんじゃ早速動くか。──あれっ? パークとジルゥは?」
「お2人でしたらそこでお昼寝してらっしゃいますよ」
「すぅ…すぅ…」
「zzz~」
あらまーこりゃ気持ちよさそうにスヤスヤと。仮にもあんな混合獣が生息してる危険地帯だってのに…コイツ等ときたら…。
「おい起きろジルゥー! 移動すんぞっ! ほらオマエもさっさと起きやがれパーク! 地面に埋めてやろうかカブコラッ!」
「足蹴…?! 中々酷いですね…」
「どこの女王様だアイツは…」
ぐっすり寝ていた2人を起こし、早速行動開始。混合獣の縄張りから出るまでにいくつ巣を入手できるかの勝負だ。
今日はまだ2つしか巣を集めていないし…せめてもう1人分作るにしても…最低でもあと8つは要る…。──おっ、無理か?
だって昨日1日中探し回ってようやく10よ? それなのに帰路に都合よく8つも巣があるなんて奇跡…起こるわけが…──
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
──宵 【晴れ】
ありませんでしたねェェ…!! あーいう前フリしたら逆の展開になるもんなんじゃねェの…!? 現実は甘くねェなァ…! クソがよォ…!
結局あの後1つしか手に入りませんでした…私達は敗北者です…。なんか今日散々だったないつにもまして…、実についてない1日だった…。
どんよりとした足取りで拠点へと戻り…トホホな気持ちで夕食を囲む…。少し前に遅すぎる昼食を食べた私だが…気にせずやけ食いすることに決めた。
「それで蓑はどうするニ? 結局今ある分じゃ1人分しか作れないんだよニ?」
「そうなんだよ…。それで色々考えたんだけどさ…悪いけどジルゥの蓑貸してくれない…? 流石に単独で竜の根城に行くのはどうかと思って…」
「それは全然構わないよ、僕の身の安全を守ってくれるなら」
ジルゥの協力もあり、なんとか2人分は揃った。早速明日にでも竜の巣へと潜入し、命懸けの石版回収に勤しむことになる。
だが問題はここから…〝誰が〟赴くかを決めなければならない…。理想は私とアクアスだが…アレスは何て言うか…。
ひとまずダメもとで皆に考えを伝えてみる、アレスの顔色を窺いながら…。
「ダメだ…! 竜の巣には俺とロイスで行く…!」
やっぱこういう展開になるよねー…えェ分かってましたとも…。こうなっては仕方ない…なんとか言いくるめなければ…。
「どうしてもダメか?」
「ダメだ…! 竜の巣は他とまるで危険度が違う…! オマエ等がいくら腕に自信があると言っても竜には敵わない…! もし見つかったら終わりなんだぞ…!」
「それくらい分かってるよ。なら聞くが、オマエやロイスなら竜に見つかっても死なないのか? オマエ等なら竜にも勝てんのか? 無理だろ? 私達が行こうがオマエ等が行こうが、辿る結末は何一つ変わらねェ…これはそういう話だ」
「それは…そうだが…」
「オマエの言う通り、もし竜に見つかれば…超高確率で死が訪れるだろうし、オマエが私達の身を案じて言ってくれてるのは分かる。だがもし死ぬんなら自分達の方が良いなんて…そんなクソみてェな話はねェぞ…!」
「…。」
「もし私達が戻って来なかったら…その時は石版を諦めて魔物の捜索に舵を切れ。見つけ出すにも時間はかかるだろうし…理想の場所で戦うことも難しいだろうが…石版が無くても魔物は討てる。口にするのは癪だが…この中で一番強いのはアレスだ…! だからこそオマエは残って、魔物戦に控えておかなきゃダメなんだよ…! それが延いては皆を守ることに繋がる…! 自分の役割を見誤るなよアレス…!」
「──分かったよ…」
よし、なんとか頑固者の首を縦に振らせてやったぞ。これで竜の巣へ赴くのは私とアクアスで確定、名誉ではないが…。
明日生きて皆のもとへ戻ってくる為にも、人一倍食べて精気を養おう。ってことでこの大きな肉は私がいただくぜ♪ へへへっ♪
──中宵 【曇り】
ちょっと食べ過ぎて苦しくなったお腹の痛みを紛らわす為に、拠点の外に出てクギャと戯れる。ついでにジルゥから借りた蓑も纏ってみた。
「ヨシヨシ、今日も可愛い奴だなオマエは。もし私が帰って来なかったら、ニキの言うことをちゃんと聞くんだぞ?」
「 “クギィ…” 」
「そんな顔すんなって、もしだよもし、私もアクアスもちゃーんと帰って来るよ。そしたらまたなでなでしてやるからな、お利口さんに待ってろよ」
「 “クギャッ!” 」
もうすっかり従順な犬だなコイツは…、可愛いけど偽竜種の威厳は何処に行ってしまったのか…。人慣れした偽竜種って全部こうなの…?
それともクソエナの調教に依るところが大きいのか…? 優秀な稼ぎ頭だったとか言ってたもんな…、なんかムカつく。
「──んっ? おやアレス君、君もクギャを撫でに来たのかな?」
「まあそんなとこだ。ヨシヨシ──やっぱ俺も偽竜種欲しいな…」
「フッ…、アレス…懐かれるには人望が必要なんだぜ…?」
「んだコイツムカつくな」
私のように優しくて人望がないと難しいだろうな。──クギャ…なんだその目は。まるで「オマエは力でねじ伏せただろ」って言いたげな目は、殴ったろか?
ってか違うしね? 私はクギャと一緒に使役されてたお友達はぶっ飛ばしたけど、クギャには何もしてませんからね?
クギャにはぶっ飛ばすぞってドスを利かせただけだし、そもそも仲間にするつもりもなかったし、何ならコイツが勝手に懐いてついて来ただけだし。
「それで? クギャを撫でに~なんて口実だろ? 私に何か用か?」
「バレたか…。──本当にオマエとメイドで行くのか…? 先に言っとくが…俺は別に自分がどうしても行きたいから言ってるわけじゃねェぞ…? ただ…」
「分ーってるって、まったく…何で男ってのは素直に〝心配〟って口にできねェのかねェ。同じオスとしてどう思うクギャ?」
「 “クギャギャッ” 」
言葉の裏に隠した本音を完璧に見抜かれたアレスは顔を背けた。一見堅物みたいな奴ほど分かり易いの不思議だよなー。
「だけど心配無用だぜい、私もアクアスもビビっちゃいないからな。むしろ生きて帰って来る気満々だぜ、でなきゃオマエの分の肉まで食わねェし」
「言っとくがその件についてはまだ納得してねェからな…? ったく…まあ無理してねェんならいいけどよ…。したらそろそろ寝るぞ、明日も早ェからな」
「ハイハイ、食った分までしっかり寝ますよ~。──そうだ、もし私が死んだら枕元に化けて出てやるよ…! キヒヒッ♪」
「勘弁しろよ…知り合いの亡霊に付き纏われるのはごめんだぜ…」
──朝 【快晴】
雨が降ってくれたら視界が悪くなって見つかるリスクを下げれたかもしれんが…こういう時に限って雲一つない快晴…、これまた餓鬼月では珍しい…。
古城周辺は大きく開けてて障害物となる木が生えていないから…快晴の下じゃ目立つぞー…。上手いこと竜の目をかいくぐって古城に向かわないとな…。
「アクアス、準備できてるか?」
「バッチリです! いつでも行けます!」
蓑を身に纏い、出発準備は整った。天気は快晴! 目標地点・竜の巣! 生還確率不明! やる気100点! 万事オッケー!
しっかり古城の見取図も持ったし、もはや何の心配も要らない! 唯一懸念があるとすれば竜の存在そのものだ、ってかそれが全て。
「十分気を付けてニ…! 絶対帰って来てニ…! ついでに面白しそうな物があったらお土産に持って来てくれニ…!」
「2人ならきっと大丈夫だろうけど、油断だけはしちゃダメだよ」
「古城の中どんな感じだったか後で教えてね、絶対」
「──生きて戻って来いよ…」
ニキ達から激励を貰い、いよいよ出発。古城まではそこそこ距離があり、走ればそれほどかからず着けそうだが…目立ってしまいそうで走れない…。
今はまだ竜の姿は見えないが…寝てるのか何なのか…。まだ距離はあるが走ってしまおうか…? いややっぱヤダ…怖い…。
こっちから姿が見えないんなら、あっちからもこっちの姿は見えないってことだし…このまま慎重に近付くのが良さそうだ…。
このまま何も起こらず古城まで行かせてくれェ…。──あっ…なんかこういうことを願うと良くないことが起こる気が…。
「 “ウルルゥン…!” 」
「ほらねー…!」
「うわァビックリしました…?! 何ですか急に…!?」
あまりにも思った通りのことが起きて声が出てしまった…。観録東北東から大型のネコ科生物がのっそのっそと現れた…。
とりあえずこっちに気付く前に体を伏せてジッとする…。蓑纏ってるからニオイは消えてる筈だし…そこらの雑草に見えてる筈…。
頼むから余計なことすんなよ…このまま素通りして森に帰ってくれ…。できるだけ静かに…粛々と居なくなれェ…。──あっ…ヤバいか…?
「 “ゴルルルゥ…!”
ヤッッッッッッッッッバ…?!!
ネコ科生物の存在に気が付いたのかたった今眠りから目覚めたのか知らんが…ついに竜が首を持ち上げた…。凛々しくも恐ろしいお顔…もう生きた心地しない…。
どうかそのままもう一度お眠りくださ…ああ…こっち向いた…。こうなってしまったら仕方ない…呼吸も止めて徹底的に雑草になりきるしかない…。
「 “ウルルゥン! ウルルゥン!” 」
なんで威嚇してんだよテメェは…?! 勝てるとでもお思いか…!? 微生物がゾウに喧嘩売るようなものだぞ…!? いや喧嘩にもならんわボケ…!
身の程を知れネコ畜生…! 今すぐ森に帰ってくれ…! 竜が気付く前に…! 頼むから不機嫌にしないで…! 私達これから古城に潜入するの…! 無断で…!!
「 “ゴルゥ…? ゴルララララララァ!!!” 」
終わったァァァァァ…!!
竜は立ち上がり…ネコ科生物を睨み付けている…。大きな翼も広げて完全に臨戦態勢…、あっ…翼膜の模様…夜空みたいで綺麗…。
なんて言ってる場合じゃねェ…。竜はおもむろに口を開くと…徐々に口内が赤みがかっていく…。何をしようとしてるか知らんが…口元に陽炎が見える…。
一瞬強い閃光を放ったかと思えば…その瞬間口から紫の炎が放出された…。避ける間もなくネコ科生物は炎に包まれ…紫の炎は扇状に拡がっていく…。
炎はこっちに及んでいないが…物凄い熱は容赦なく届く…。熱いを通り越してクソ痛い…どんな炎してやがる…。
熱からアクアスを守ろうと覆い被さってはみるものの…これ絶対意味ない…。とにかく早くあの火炎放射が終わるのを待つしかない…。
そう思いながらただジッと痛みに耐えていると…やがて火炎放射は止んだ…。辛かったぁ今の時間…、マジであのクソネコめ…。
竜は全てを焼き払って満足したのか…再びくつろぎだした。しかし首は上げたまま…どこか遠くを眺めている。
「アクアス大丈夫か…?」
「はい…カカ様のおかげでなんとか…。凄まじかったですね…竜の炎…」
「ああ…、あんなの浴びせられたら一瞬で骨だぜ…」
もはや別世界の生き物に見えるな…、今の内から亡霊になる覚悟決めといた方が良さそうだ…。絶対にアレスの枕元に出てやる…。ついでにニキ…。
「どうしますか…? 竜は首を上げたままですが…」
「流石にさっきみたいに近付くのは無理だろうな…。疲れるだろうが…這って行くしかないな…、地道に少しずつ…」
「骨が折れますね…」
──第137話 〝竜〟〈終〉
<一方、待機班>
「いきなり危なかったニね…」
「アイツマジで運無ェな…」
見てる方もハラハラ──…。




