第135話 隠し玉
──飛空技師は駆り出される──
VS格上の混合獣──!
「よーしっ…! こうなりゃもう仕方ねェ…腹括ってぶっ倒すぞ…! ジルゥ…!! コイツはどうだ…?! 解毒に足るか…?!」
「足る足る…! それはもう足りちゃうよ…! なにせこの縄張りのヌシだからね…! だから気を付けるんだよ…?! 本当に強いからね…!」
思わぬ形でこんな展開になっちまったが…どうせいつかは解毒の為に戦わなきゃならなかったんだし、その機会が今訪れたに過ぎない。
できれば十分に巣を集め終えて余裕がある状態で取り掛かりたかったがな…、戦闘の後にまた巣を探し回るの気怠い…。
サクッと倒せるような敵じゃないのはジルゥの発言からして明白だし…いざ向かい合うと凄まじい威圧感だ…。
威圧感…、威圧感…? まあ威圧感はあるけど…どっちかというと違和感…? 見慣れないんだよなあの姿…結合部どうなってんの…?
「 “ギャウーーーンッ!!” 」
「来るぞ荒女…! 他の首にも注意しながら対処しろ…!」
「言われなくても分かってるよ…! 今回も良い働きに期待してるぜアレス君…!」
咆哮を上げる混合獣を挟み込むように、私とアレスは左右に分かれる。すると早速1匹のウツボが大口を開けながらアレスの方へと突っ込んだ。
普通なら今の内に攻撃とかするんだが…他3匹に凄い見られてて無理だこれ…。襲われてるアレスの方が負担少ないまであるな…。
これ一斉に襲ってこられたらヤバいぞ…、ウツボ1匹1匹が人丸吞みできるサイズなんだから…。襲いに来るなら1匹ずつ…
「 “ギャオーーンッ!!” 」
「 “ギャーーーンッ!!” 」
「1匹ずつにしろって…」
危惧してることってやたら現実になりえるよなマジで…、これ私の運が悪いだけ…? 確かに運は自信はねェけども…。
だがその分腕には自信たっぷりだ…! この程度余裕で切り抜けてやろうじゃねェの…! 今に見てやがれよキモ混合獣…!
まずは右へ方向転換…すると見せかけて左脚を軸にクルッと反転、左へ移動。フェイントに釣られたウツボは無様に地面へ突っ込んだ。バカめ。
もう1匹のウツボも逃がすまいと攻撃を仕掛けてきたが、事前に〝音〟で察知し、フェイントに釣られたバカウツボにしがみつく。
何も考えず大口を開けて迫るウツボ。ギリギリまで引き付け、タイミングを見計らって体(首)を蹴り、瞬時に攻撃を回避。
「 “ギャーーースッ…?!” 」
「 “ギャウッ!?” 」
何の躊躇もなく噛みつきやがった…よっぽどバカだぞコイツ等…。──いや同一個体だから等は違うか…。
とにかくバカウツボBがバカウツボAに噛み付き、ガッツリ自傷した、滑稽。どうやら頭は良くないみたいだ、脳4つはありそうなのに…。
自分が噛みつかれたことに腹を立ててか、私そっちのけで喧嘩まで始めやがった…。何なのマジでコイツ…もういいや攻撃しちゃお…。
喧嘩両成敗的な意味も込めて、噛みついた方のウツボへ渾身の竜撃をお見舞い。手応えからして…頭部より衝撃の通りは良さそうだ。
こんだけ長くデカい首を自在に動かせるってこたァ…ヘビみてェにほとんどが筋肉で構成されてる可能性が高い。
今みたいに頭部を避けて攻撃し続けていけば…いずれダメージの蓄積で頭を持ち上げられなくなるかもしれねェな。
そうなりゃ脅威は半減…いやむしろそれ以上。4つ全ての首を機能停止に陥らせれば、後は残ったがら空きの胴体を袋叩きにするだけ。
よーし作戦は決まった。アレスにはタイミングを見て伝えるとして、アクアスには迅速に伝えておきたいな…ちょっと今どこに居るか分からんが…。
どっかに身を隠して狙撃の機会を狙ってる…っと思うんだが…、こっちから目視できないと指示もできねェぜ…。
まあいいや…多分スコープ越しにこっちを見てると信じて、首を指でちょんちょん差す。このジェスチャーの意味を察せるかは賭けだな…。
“──ボォーーンッ!”
「 “ギャゥ…?!” 」
あっ…もう伝わった感じ…? 理解早ー…ってかやっぱどこかからこっち見てたのか…。狙撃能力・理解能力・隠密能力抜群なメイド優秀ー…。
こんだけ遮蔽物があれば…砂漠の時みたいなことにはなるまい。戦闘において後方支援が狙われないのは理想的、このままガンガン撃ってもらおう。
そんで私とアレスは、万が一にもアクアスへ意識が向かないよう派手に暴れ散らかせばいい。そうしていればいずれ倒せる筈…そうだといいな…。
「 “ウギューー…!” 」
「おっ、好き勝手され過ぎて流石に怒ったか? みっともねェなァ…こんなちっぽけな生物相手によォ」
ウツボはおもむろに体(首)を撓らせると、周囲を薙ぎ払うかのような攻撃を仕掛けてきた。これはちょっとマズいな…範囲が広すぎる…。
回避は無理…防御はもっと無理…、っとなれば逃げ道を作るしかない。頭上で衝棍を高速回転させ、勢いそのままに地面へ振り下ろした。
雨のおかげで柔らかくなっていた地面は簡単に抉れ、人が入り込めるだけの隙間を生んだ。手遅れになる前に急いで避難する。
直後真上をデカウツボが通過した…あんなの直撃したら全身の骨がイカれちまう…。次またあの動きを見せたら要注意だ…。
無事に薙ぎ払いをやり過ごし起き上がると、すぐにもう1匹のウツボが正面から迫って来る。したらまたフェイント試してみようか。
今度は左へ行くと見せかけて右へ急旋回。ウツボはというと…これまた実に綺麗に引っ掛かってくれた、マジでバカやん…。
引っ掛かった罰として、がら空きの体(首)に再度竜撃を叩き込む。更には追い打ちの炸裂弾がウツボを襲う。
これは相当効いただろう──っと思ったが…なんか全然ピンピンしてるな…。まるでニキのような…耐久力が果てしない印象を受ける…。
こいつァ時間がかかりそうだぜ…、のんびりやってたら日が暮れちまう…。体(首)狙いと言わず…リスク覚悟で胴体を狙うべきか…。
クソ…この場にニキとロイスが居れば…もっと負担を分散できるものを…。1人当たり首二つを相手しながら胴体を攻撃するのは至難だ…。
やっぱ地道に首を叩きまくるしかねェのか…? 参ったねこりゃ…とんだ厄介者を押し付けられたもんだ…。
「──チィ…そっちどうだ荒女…!」
「おうっ全然ダメだな…! 攻撃はしてるが効いてる気がしねェ…! ハンター殿は如何かな…?! 色好い返事ちょーだい…!」
「残念ながらこっちも難航中だ…、皮膚が硬くて上手いこと斬れねェ…」
打撃・斬撃共に効果が薄いか…、こいつァ困ったな…アクアスの弾もほとんど効かねェものと考えた方がよさそうだ…。
流石はヌシ…図体がデカいだけの低能混合獣じゃねェな…。こんな強敵を相手にしなきゃ呪毒から解放されねェとは…まったく酷ェ話だ…。
混合獣を倒す為の有効な手立ても浮かばねェし…こっからは持久戦だな…。実に最悪な気分だぜ…。
──明昼 【曇り】
「──クッソォ…どんだけタフなんだよ混合獣ゥ…! もう100発以上は殴った気がするんですけどー…?! それなのに全っ然倒れねェじゃん…! 全っ然倒れねェわアレスゥ…!!」
「俺にキレんなよ…。俺だって散々斬りつけた…、その結果がこれだ…受け入れるしかねェだろ…。だが悪いことばっかじゃねェ、混合獣の動きは鈍くなってる…確実に体力が削れてる証拠だ」
そりゃ確かにそうだが…気休めにしか聞こえねェな…。体力を消耗してるのはお互い様…、未だに底が見えてこねェのも同様…。
強さの一点を除けば…その厄介度は魔物にも匹敵しそうなもんだ…。攻撃が単調なおかげで攻撃を受けずに済んではいるが…いつまで続くか分からん…。
疲労が溜まれば集中力が落ちていく…、そうなれば思わぬミスを生み…最悪の場合致命傷を負ってしまう…。長引けば長引くほど不利が嵩む…。
しかもより不安なのは混合獣の胴体…、つまりはクマの部分…。この戦いが始まってからずっと…ほとんど動いてないんだよなー…。
っということはだよ…? めっちゃ元気ってことじゃん…? こっちはこんなにも疲れてるのに…、不公平だ…。
この際胴体は考えない方がいいか…? 首全部落とすか脳を全破壊すれば流石に死ぬよな…? ってかもうそれしかないよな…?
「なぁアレス…本気出せばあの太っとい首切り落とせたりしないか…?」
「今の俺じゃ厳しいかもな…、ムルクのおっさんならできたかもしれんが…。ってか先に言っとくが…俺は混合獣を倒そうなんて思ってねェぞ…?」
「ハァ…!? 何オマエ…?! やる気出せや…! テメェからしばき倒してやろうかゴラァ…! オオン…?!」
「落ち着け落ち着け…オマエの方こそ勘違いしてないか…? 俺達の勝利条件は倒すことじゃねェ…〝血の回収〟だろ…? なら首が動かせない状態にすりゃ…後は適当に血を回収して撤収するだけでいい。簡単な話だろ…?」
ぐぅの音も出ない正論じゃないか…。ついいつもの調子で考えてしまったぜ…、そうじゃん無理して倒す必要ないじゃん…!
なんだよ…これじゃ私が生粋の戦闘狂みたいになるじゃねェか…。もっと早く言えよー…無駄に精神擦り減らしちまった…。
「よーしちょっとやる気出てきたぜー! そうと決まればガンガン首攻撃したらァよ! 希望を見出した人類の強さ見せたんよォ!」
「ったく…調子のいい奴め…。変に油断したりすんじゃねェぞ…? 手負いの獣ほど予想外の行動をする…思わぬ反撃に注意しろよ…?」
「分ーってるよ、私も不要な怪我したくねェしな。そんじゃさっきみたいに左右に分かれて、首2つずつ担当して…──うぉん…?」
ここまでボコボコにされて怒りが頂点に達したのか…ウツボは小刻みに震え始めた。それも4匹とも…なんか様子おかしいな…。嫌な予感スル…。
そして運不得意な私の予感は見事的中…。ウツボの体は徐々に赤みを帯びていき…紫色の斑点が現れ始めた…。
体表面からは何やら粘液みたいなのも滲み出てきて…、見た目のヤバさが数段上に進化した…。一体何が起こってんだか…。
「希望ってさ…ほんと儚いものだよな…」
「何ちょっと諦めかけてんだ…人類の強さはどうした…?」
ここにきて隠し玉とか聞いてねェよー…最初っからやっとけやクソ混合獣め…! 知性低いくせに出し惜しみすんなボケェ…!
クソがァ…ぬか喜びさせやがって…。考え方によってはそれだけ追い込まれてるってことかもしれんが…だとしてもなんだかなぁ…。
「まあいい…! ここまでやって諦めるのは癪だからな…! こうなったら何が何でもボコして血をいただいてやる…! 必要以上に抜き取ってやるわ…!」
「その意気だ、そんじゃまた分かれるぞ、健闘を祈る…!」
再び左右に分かれ、様子のおかしい混合獣を挟む。当然混合獣も静観などせず、首を2つずつ仕向けてくる。
負担はさっきまでと変わらないが…目に見えるこの変化がどう影響を及ぼしてくるかは未知数だな…。見た目的に〝毒〟っぽい印象を受けるが…果たして…。
どうか致死性の高い毒でないことを祈りたいね…。私1人ならまだしも…アレスに毒耐性があるとは思えないし…アレスに退場されては困る…。
ひとまず怪我を負うことをより一層避けて…傷口にあの粘液が触れないように意識して立ち回ろう…。二等星ハンター様もその辺は理解してる筈…。
注意点は増えたが…やることは何も変わらない。知性の低い混合獣を翻弄しながら殴り続けて…首を動かせなくさせる…それだけ…!
「 “ギャオーーーンッ!!” 」
「よっしゃきやがれバーーカ…! 今度こそ私に一泡吹かせられたらいいなァ…!」
様子は変わったが攻撃方法は依然変わらず、単調に突っ込んでくるだけ。フェイントに引っ掛かるのも相変わらず…強いんだか弱いんだか…。
とりあえず攻撃を躱して反撃チャンス、一旦粘液のことは忘れて普通に攻撃してみよう。そこから得るものがあるかもしれんしな。
「〝震打〟!! ──うわっばっちィ…?!」
思いのほか滑ったりはしなかったが…叩いた途端粘液が飛び散った…。んだよこれ汚ェな…、今こそ雨降ってほしいわ…。
毒性の有無はまだ分からんが…滑らないのであれば攻撃には影響しないな。これならアレスも問題なく斬れる筈。
だが…防御面で役に立たないってことは…やっぱ毒である可能性高いな…。う˝うぅ…マジで面倒な奴だぜ…。
麻痺・弛緩・失感・酔・出血のいずれかの毒なら耐性あるが…他の毒はまだ獲得してないからなぁ…。
その他の毒だったら…私でもヤバい…、適応が間に合うかの…勝負に…なるな…。──…? なんだ…? 呼吸が…しづらい…?
まさか粘液の効果…!? 経皮毒に分類されるタイプの毒…!? 経皮毒なんて…世界に数種しかない稀少毒なのに…よりにもよってか…?!
ハァ…ハァ…、今のところ症状は呼吸困難と…気持ち目眩もしてきた気がする…。っがこれ何毒なんだ…? 色んな毒の副次的効果だけが現れてる気がするが…。
こんなにはっきり症状が現れてるってことは…私が耐性を持っていない毒なんだろうが…、主効果が現れないのは何なんだ…?
クッソ…毒物研究を趣味にしておきながらこの様とは…、私もまだまだだぜ…。
「 “ギャオーーンッ!!” 」
「 “ギャーーーンッ!!” 」
「カハハッ…まんまと…してやられちまったな…。──いいだろう…! バカなオマエ等相手にゃ…ちょうどいいハンデだぜ…!!」
──第135話 隠し玉〈終〉
これぞヌシたる由縁──!




