巻きたばこ、ペースメーカー、満月
「・・・・・・うむ?」
夜。
ちょっと暇だったので、映画を見ていた。
その中で登場人物が机について何かをしている。
「・・・・・・これ、何だろ?」
手の中で、筒状のものをくるくるしている。
登場人物たちは、何か会話を交わしていて、部屋の奥の重厚な作りの机に座ったいかついおっさんが、なんか机の上で手を小さくくるくるしている。
一度気になると、もはや映画の展開よりあっちの方が気になる。
そうしている間に、おっさんはその細い筒を口にくわえて、火を点けた。
「・・・・・・タバコか」
でも、どうしてくるくるしていたのか。
「・・・・・・えっと・・・・・・」
調べた。
巻きたばこらしい。
要は、紙にタバコの葉を手で巻いて作るタバコとのこと。
「・・・・・・普通に売ってる紙巻きたばこと何がちがうの?」
映画の再生を止めて、軽くネットで調べてみる。
紙にほぐしたたばこの葉を載せ、片端にフィルターを載せて、巻く。
フィルターがあるし、紙で巻いているし、紙たばこと同じに見える。
「・・・・・・・・・・・・まあ、自分で巻くのは、自分でコーヒー豆をひいて飲むのと似たものなのかな?」
映画の中、登場人物がたばこを吸って、煙を吐く。
画面が、白くなる。
「たばこねえ・・・・・・」
たばこと言うと、昔病院で見た、たばこを吸う人の肺が、たばこになっていく絵のポスターを思い出す。
思い出すに、あれは禁煙を呼びかけるポスターだったのだろう。
今は、たばこがどれだけ健康に悪いか知識があるから、たばこを吸おうとは思わないけれど、当時はたばこを吸うと肺がたばこになると思って、絶対にたばこは吸わないようにしようと思ったものだ。
懐かしい。
間違ってはいないだろう。
たばこに、いいことは何もない。
「・・・・・・そういうと、どうなんだろうね?」
どうして、映画の中でたばこを吸う人は格好いいこともあるのに、街中でたばこを吸っている人はださいのだろう?
「ふむ・・・・・・」
+++
「そりゃあ、ストレス発散とニコチン中毒。要は自堕落の象徴だからじゃないでしょうか?」
「わあ、はなさん辛辣ぅ・・・・・・」
はなさんに疑問を投げかけたところで、はっきりと答えが返ってきた。
「たばこなんて百害あって一利なし。においもつきますし」
「なんか嫌なことでもあったの?」
「うーん。なんか腹立つんですよねえ。ポイ捨てされたたばこの吸い殻。火が付いたまま車の窓から投げ捨てられるたばこ。黄ばんだ壁に天井。ねとつくフィルター・・・・・・」
「ええっと?」
なんかヒートアップしている珍しいはなさんだ。
「ああ。いえ。この間清掃のバイトをしまして。その時に喫煙室の清掃があったんですよ」
「ああ。なるほど。ねとつくフィルターっていうのは・・・・・・」
「たばこのニコチンとかが染みついた換気扇のフィルターです。・・・・・・なんか不快になるねとつきでした」
はあああああ、とはなさんが深くため息を吐いた。
「たばこも、依存性があるっていう点ではドラッグと変わらないでしょうに。どうして規制しないんでしょうか」
「税金が高く取れるからじゃない?」
「その健康被害に対する保険料の方が高いっていう話も聞きますよ?」
「まあ、言ったところでどうしようもないよ。せいぜい迷惑にならないようにだけしてほしいと思うくらい」
「吸わないだけで損をしなくなるというのに」
「あはは」
なんだかはなさんが怒り心頭なのも珍しい。
「わたしのお父さんも昔たばこ吸ってたんですよ。傍を通るたびに『臭い』って言い続けたらやめましたが」
「はなさんのお父さんも大変だったね・・・・・・」
「おかげでお小遣い増えたんならいいと思いません?」
「あはは・・・・・・」
「たまに引き出しから昔のライターが出てきます。使い道ないんですけど」
やれやれ、とはなさんが肩をすくめる。
「さんざん言い訳してましたよ。たばこは人生のペースメーカーだの。吸っていると落ち着くんだのと。・・・・・・『臭い』の一言で黙らせましたが」
「強烈すぎる」
タバコ、嫌いなんだねえ、と思う。
「たばこは嫌いです」
「大学まで来ると、普通に売店にたばこ売ってるけどね」
「吸うと馬鹿になりますよ」
「特に根拠もないのに妙に説得力のあるお言葉で」
「基本的に、嗜好品って体に悪いものが多いですよね」
「カロリーは美味しい、みたいな?」
「・・・・・・・・・・・・ちょっと、方向性が違う気もしますが」
「まあまあ。怒っててもしょうがないし、美味しいものでも食べ行こう?」
なだめて、提案してみると、はなさんもはあ、とため息を吐いて、頷いた。
「そうですね・・・・・・」
「ラーメンだね。背脂こってりバターラー油とカロリーマシマシ」
「そうしましょう」
+++
うっぷ、とえづく。
ちょっと食べすぎた。
どうせなら、と大盛りを頼んでみたが、予想以上にボリュームがあった。
おなかをさすりながら、ゆっくりと帰路につく。
はなさんも、ちょっと苦しそうだ。
なんとなく空を見上げれば、満月。
「・・・・・・月が綺麗」
ぽつっとつぶやいたところで、はなさんも同じように月を見上げて、
「・・・・・・お団子。・・・・・・ふむ。まだいけますね」
「甘いものは別腹にもほどがあるよ。はなさん」
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