揚げ物、説得力、杞憂
んあ、と口を開く。
「はぐ」
さく、と揚がった衣を噛んだ感触が楽しい。
「・・・・・・ほう」
むぐむぐと噛み、味わって飲み込む。
かけていたソースの味もあるけれど、衣の中の肉の味もよし。
「・・・・・・おいしいよ?」
「そうですか」
ふむ、とはなさんがあごに手を当てて唸る。
今日は、はなさんの作った料理を食べに来ている。
とはいえ、単純に食べているわけではない。
少し前に、料理先輩こと九十九先輩が、やたらとおいしい揚げ物をタッパーに詰めて持ってきた。
それを味わい、おいしいですね、と言ったところで、レシピをもらったのだ。
そこで、はなさんがそのレシピで揚げ物を作る、というので、ぼくはお誘いに乗ってはなさんの家に来ている。
串の揚げ物を作ってくれたので、一つ味見をしている。
正直、ぼくの舌では、おいしいことは分かるが、それほど大きな違いがあるようには感じない。
「美味しいよ?」
「でも、わたしとしては、一味足りないようにも感じるのです」
むう、とはなさんは唸っている。
「下味に使った調味料の調合も、漬ける時間も、油の温度から揚げ方まで、レシピ通りなんですけどね?」
腕を組んで、唸りつつ考え込んでいる。
「そこらへんはもう、九十九先輩の腕ってことで、腕の差として受け入れるしかないんじゃない?」
「・・・・・・・・・・・・それはそれですさまじく悔しい結論ですね」
ふう、とはなさんはため息を吐く。
「まあ、練習あるのみですね」
仕方なさそうな微笑を浮かべ、
「さて、残りの分も揚げてしまいますか」
串に刺して用意された食材はいくつかある。
一つ一つは小ぶりだが、皿の上に山になる程度には量がある。
「というか、何を用意したの?」
「まずは基本。串カツとして豚肉ですね」
串に刺した豚肉に衣をつけて油の中へ。
音を立てて揚げられる串カツは、音だけでもおいしそうだ。
「それから、ピーマン、シイタケ、玉ねぎ」
はなさんは、一つ一つ数えながら、串に衣をつけていく。
「他には、ウズラの卵と、しし唐もありますね」
「結構用意したね」
「野菜のほうが多いでしょうか。ナスビとかもあります」
「ほうほう」
「あとは、練り物を少し」
やっぱり、結構な量がある。
「まあ、とりあえず揚げていきます」
揚がったものは脇に置いて、はなさんは手際よく揚げ物を揚げていく。
揚げ終えた串揚げの積まれた網の置かれたトレイ。
きつね色のおいしそうな山である。
「・・・・・・」
ただそれを見ているのも何だったので、はなさんのもらったレシピをぼくも読んでみる。
「・・・・・・・・・・・・うーん?」
はなさんの手伝いをした感じ、これと違うやり方をしているとも思えない。
はなさんを見ると、手際がいい。
それほど九十九先輩と腕前が違うのだろうか、と思ったところで、
「・・・・・・あ」
「? どうしました?」
「いや・・・・・・」
はなさんの家の台所は、IHコンロだ。
ただ、
「そういえばさ、九十九先輩って、コンロ何使ってるんだろうね?」
「コンロ?」
「いや、この家のはIHコンロじゃない? そうでなくとも、家庭用のコンロって業務用のコンロより火力低いんでしょう? 九十九先輩、そこらへん割とこだわりそうだし、実は業務用のコンロを使っている、という可能性が」
「・・・・・・ありますねえ」
「火力が違えば、油の温度も下がりにくくなるだろうし、なんか、そこらへんに違いがあるのでは?」
「なるほど。今度九十九先輩に聞いてみましょう」
うん、と納得した顔で、はなさんは頷き、串揚げに戻った。
「・・・・・・まあ、美味しいのは変わらないから」
「そうですね。おいしく揚げます」
ふふふ、とはなさんは笑っている。
「・・・・・・ああ、そうです」
はなさんは、ぽん、と手を打った。
「サン。ちょっと手が空いているでしょう? 冷蔵庫にキャベツがありますので、ちょっと千切りにしてもらえますか?」
「あ、うん。わかった」
言われた通りに、キャベツを取り出し、数枚葉をむしって、まな板の上に並べる。
丸めて、手を添えて、とんとん、と切っていく。
「手は、切らないようにしてくださいね」
「大丈夫。ゆっくりやるから」
ゆっくりと切っていく。
「ちょっと太いか」
「いいですよ。少しくらい太くても」
はなさんは、こちらの手元を見て、
「サンがうまくできるかちょっと心配でしたけど、杞憂でしたね」
「それはさすがに舐めすぎさ」
ふふん、と自慢げにしてみる。
「そのようでしたね」
千切りにしたキャベツはざるに入れて、
「軽く塩もみ?」
「はい。塩はそっちです」
さらさら、と塩を振りかけて、もみ込む。
そのあとで、水をかけて塩は落としておく。
「こんなものかな?」
「ええ。お皿はそちらに。・・・・・・あと、揚げ物用に、大きいお皿もお願いします」
「はいはーい」
皿にキャベツを二人分盛る。
大きなお皿はちょっと横に置いておく。
「じゃあ、ちょっと待っててくださいね」
「はーい」
はなさんに言われて、台所を離れる。
それからしばらくして、
「はーい。全部できましたよー」
「待ってましたー」
+++
「うん。おいしいね」
ソースをかけた串揚げを口に運ぶ。
素直な感想に、はなさんは顔をほころばせている。
「そうですね。九十九先輩のものには一歩及ばないにしても、今までに作ったことのある揚げ物よりはおいしいです」
はなさんも、満足気に頷いている。
「美味しいやり方を教えてもらえたなら、後は練習あるのみ、ですから」
「そうだね。練習あるのみ」
うんうん、と頷く。
「九十九先輩だって、大学をさぼってまで料理の練習して、あのおいしさだって言ってたしね」
「・・・・・・・・・・・・説得力があるようで真似してはいけない意見だと思いますよ。それ」
確かに、とは思う。
「さぼりはだめだよね。うん」
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