言い出しっぺ、手帳、スキップ
なんというか、と考える。
バーべキューの煙が上がる。
以前のように、湯原さんが炭火を起こし、めいめいに肉を焼く。
はなさんが適度に肉を散らしつつ、野菜も焼いているのはさすがだ。
肉を焼く動きははなさんがメインだ。
こういう時、料理先輩がメインになると思っていたら、あちらはあちらでなにやら持ち込んできたバーベキューコンロの上に金属のボウルのような蓋を使って、どことなく本格的なにおいのする料理法を行っている。
ナオさんなんかは料理先輩が作ろうとしているものに対して興味津々だが、他のバイト先輩とゲーム先輩は、何も気にせずに肉をばくばく食べている。
「ふうむ・・・・・・」
ちょっと手持ち無沙汰になったため、ポケットから手帳を取り出す。
今日の親睦会の参加者。
ぼく、はなさん、ナオさん、湯原さん、湯原さんの娘さん、料理先輩こと九十九先輩、バイト先輩こと芳賀先輩、ゲーム先輩ことゴロキュー。
「・・・・・・・・・・・・ゴロキューだけなんか違う」
なお、この呼び方はそうしろ、と言われたからだ。
なんでも、この名前でゲーム配信者として活動しているのだとか。
顔出しもしていて、プロゲーマーでもあるとかで、そう呼ばれた方がやりやすい、ということらしい。
閑話休題。
湯原さんの娘さんは、先ほどあみだですずさんと呼ぶことが決まった。
本日のバーベキュー親睦会の主役となるはずだったが、なんだかんだ、湯原さんと一緒にかなり早い段階で来て、準備を手伝ってくれた。
「・・・・・・すずさん。楽しめてる?」
手帳をしまい、隣に立っているすずさんに聞いてみる。
「ええ。楽しいわ」
くすくすとすずさんは笑った。
美人なんだよなあ、と思う。
バーベキューということからか、動きやすそうで涼しそうな服装は、夏の雰囲気と相まって、爽快さを感じる。
すずさんの持つ皿の肉がないことを見て、
「はなさーん」
はなさんのにところへ行って、肉をもらう。
「はい。サン。すずさんもどうぞ?」
「ありがとう。はなちゃん」
結局、すずさんからのぼくらの呼び名は、ぼくがサンちゃん。はなさんがはなちゃん。ナオさんがナオちゃんと、ちゃん付けすることに決めたようだ。
最初、一人だけ大学の違う、ということで少し緊張していたようだったが、わりとあっさりと馴染むようになった。
先輩方が、じつにうまくすずさんに接したため、緊張はほぐれたらしい。
湯原さんが一人だけずいぶんと年上だというのに、先輩方が実にちょうどいい塩梅の接し方をしていたのも、印象的だった。
こういうところは、さすが先輩と思わざるを得ない。
「おうい。九十九先輩の肉だぞー」
「言い方。まるで九十九先輩を切って持ってきたみたいな・・・・・・」
「美味いぞ?」
ナオさんが、九十九先輩が作っていた料理を切り分けたものを持ってきた。
蓋で蒸し焼きだの、これこそ真のバーベキューステーキだのと言っていたが、食べてみれば確かに美味い。
「・・・・・・ほへー」
いつの間にやら、先輩方や湯原さんが酒を開け始めている。
「・・・・・・すずさん。湯原さん飲んでるけどいいの?」
「いい大人なんだから大丈夫よ。ここで止めることもないわ」
言って、すずさんは肉を口に運び、笑顔になる。
「正直、浮いてないかと思ってたけど、そんなこともないみたいだし」
「湯原さん、ぱっと見三十代には見えないからね」
「娘の目から見ても不思議よ。今でも、一緒に歩いてると兄妹か何かに見られるんだから」
「ね。若作り」
「悪いことじゃないけれど、ね」
くすくすと笑い、すずさんは、近くのテーブルからソフトドリンクを取ってきた。
「改めて、かんぱーい!」
「かんぱい」
ぼくもならって、手に持っていたジュースの缶を掲げる。
ちら、と見ると、すずさんはよく食べてよく飲んでいる。
はなさんを見ると、ふ、と微笑まれた。
+++
「湯原涼子です。よろしくお願いします」
そう言って、すずさんはぺこ、と一礼した。
参加者が集まったところでの、バーベキュー開始前の自己紹介タイムだ。
メインは、湯原さんとすずさん。
あとは、名前を確認し合うだけのもので、ほとんど内容はなく、スキップしたみたいなものだった。
とはいえ、ナオさんはまっすぐすずさんに突撃していったし、先輩方は湯原さんを引っ張って行って、いろいろと話をしていた。
そうやって、ちょっと置いたところで始まったバーベキューは、にぎやかながら、終始和やかだ。
+++
「他の先輩も、呼べばよかったかな?」
「あまり呼びすぎると、肉の管理が大変になりますよ」
「それもそうだね。取り分が少なくなると大変」
その時は肉を増やせばいいだけだけれど、はなさんの家の庭だって、無限に広いわけじゃない。
「あんまり人数多いようなら、大学内にもバーベキューできる設備ありますし、そちらを借りる、というのも手、ですけどね」
「そういうのは、いずれまた、ね」
そうですね、と言って、はなさんも肉を口に運ぶ。
「・・・・・・おいしいですね。いい肉です」
「今回お取り寄せで調達した食材の中で、なんだかんだ一番高いからね」
「やわらかくてジューシー。いい肉よね。本当」
すずさんも同意して頷く。
「ナオさんは、どう?」
「うーまーいーぞー、と叫びたい出来だなー」
「気持ちはわかる」
実際、叫んでも不思議ではない。
「・・・・・・それなりに時間経ってからいうのもなんだけど」
「?」
すずさんに目を向けて、
「ぶっちゃけ、こういう会を開催したこと、すずさんは迷惑になってない?」
「大丈夫よ。予定の確認もちゃんとしてくれたし、パパがどういう人たちに囲まれているか確認したかったのは事実だし」
ふふふ、とすずさんは笑う。
「あたしも、今の大学になれるので精いっぱいだから、パパのフォローなんてできないし?」
「すずさんの方がフォローするんだ」
「当たり前よ。そうでもなさそうに見えても、パパは結構一般常識に欠けるんだから」
「へー」
「高校をちゃんと卒業してないからね。足りないところもあるのよ」
「ふうん?」
「そういうところを助けるのは、小さいころからあたしの仕事でね」
「いい娘さんだ・・・・・・」
目がしらを押さえるふり。
「ふふん。そう、あたしはいい娘さんなのよ」
どや顔しつつも、冗談めかした口調ですずさんは胸を張る。
「正直、離れて暮らすのって初めてだから、心配ではあるのよ。家事関連は問題ないにしても、人間関係がね」
「大丈夫。湯原さんいい人だから」
「そうね。そこは正直、サンちゃんに会えてほっとしてる」
ん? と首を傾げたところで、すずさんがぼくの頭を撫でた。
「サンちゃん、いい子だから」
「はなさん。ぼく褒められたよ!」
「そうですね。サンはいい子ですから」
うふふ、と笑いながら、はなさんもぼくの頭を撫でる。
「・・・・・・・・・・・・パパのこと、これからもよろしくね?」
「友達だからね。できる範囲で助けるよ」
「ありがと」
にっこりと笑うすずさん。
その笑顔を見て、言い出しっぺとして、この親睦会を主催してよかったな、とそう思った。
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