円グラフ、こんにゃく、コンピュータ
たかたかとキーボードを叩く。
ディスプレイに開かれた表計算ソフト。
カリカリと回転するコンピューターのハードディスクの音。
冷却用のファンもかりかりと回っている。
課題をしている。
大した課題ではない。
せいぜいで、パソコン教室の宿題みたいなものだと思う。
表計算ソフトに数字を入れて、計算式を設定して、計算結果をグラフにする。
グラフの形は、円グラフでも棒グラフで折れ線グラフでもいい、となっているけれど、データの種類によって見やすいグラフの形の資料がついている以上、選んだグラフの形状も、採点対象のうちなのだと思う。
やっていることは単純で、それほど難しいことでもない。
ただ、
「めんどい・・・・・・!」
ひたすらに面倒くさい。
データの量がそれなりに多い。
一個一個手打ち。
間違っていないか確認し、計算を行う。
とにかく、面倒くさい。
「・・・・・・はなさん」
「はい」
「この課題。面倒くさいです」
「気持ちはわかりますけど、最後まできちんとやりましょうね?」
はなさんも苦笑している。
なお、はなさんは、とっくの昔にこの課題は終わらせている。
わざわざぼくの課題に付き合ってくれているのだから、はなさんの優しさだと思おう。
とはいえ、面倒臭さはちっとも消えない。
「・・・・・・はなさんは、これ、全部手打ちしたの?」
「しましたよ?」
「早く終わらせるコツとかないかなあ?」
「そうですねえ・・・・・・」
んー、とはなさんはちょっと唸って、
「まずは、とにかくデータの手打ちを終わらせてしまうことですね」
「? 計算式はあとにするってこと?」
「ええ。データの手打ち、計算式の入力、グラフの作成。これが一連の流れですけど、流れに沿って順番にやるより、同じ種類の作業を一つずつ終わらせていくのが早いです」
「そういうもの?」
「作業っていうのは、一種類をつづけた方が慣れが入って早く終わるんです。途中に別の作業を挟むと、作業の切り替えの分だけロスも出ますしね」
「一つに集中しろ、と」
「そういうことです」
ふーん、と頷き、紙を見て、データを手打ちして、ととにかく手を動かす。
とはいえ、ぼくはそれほどタイピングが早いわけじゃない。
数字のキーを打つだけだから、タイピングとは違うかもしれないけど、それでも順番だと遅い。
「うー。・・・・・・ずるしたい」
「だめですよ?」
「はなさんの打ったデータをコピーしたいよう」
「だめですよ?」
「しないよう。ずるだから。・・・・・・でもずるしたい」
「もう・・・・・・」
くすくすとはなさんが笑っている。
「サラリーマンはこういう仕事を毎日しているのだろうか」
「そうかもしれませんね」
「そういう仕事には就きたくないなあ」
「サンは、どういう仕事をしたいんですか?」
「・・・・・・んー?」
ちょっと手を止めて考えた。
「・・・・・・・・・・・・編集者?」
「あら」
少し考えてからひねり出した答えに対し、はなさんは意外そうな声を出した。
「編集者ですか。・・・・・・ちょっと意外ですね」
「え? なんで?」
「いえ。サンはどちらかというとアーティスト気質かな、と思っていたので、編集者よりは作家かな、と」
「ぼく、そんなイメージ?」
「というか、サンは机に向かって仕事するイメージが薄いです」
「あー。それはあるかも」
うんうん、と頷く。
「なんでしょうね? 喫茶店開く、とか言ったら、そちらの方がらしいと思います」
「それもいいね。マスターに聞いたら喫茶店のやり方とか教えてくれるかな」
「そうですね。きっと教えてくれるでしょうね」
へへへ、と笑いながらも、手は動かす。
やっと半分。
「まあ、どんな仕事をしているかなんて、まだ分かんないけどね」
「うーん。そうですね」
「自分でお店やる方が、ぼくはたしかに気楽に感じるかもしれないけど」
「自営業。・・・・・・ニートと間違われそうですね」
「え。なんで?」
「サンの性格と言動?」
「なんで!?」
かなり心配そうに言われることに愕然とする。
ニートは、働く意思も働きもしていない人のことだ。
ぼくは働きはする、と思う。
「まあ、今のはさすがにないとしても」
「うん」
「サンの場合、普通の会社員として働くようなイメージには、やっぱり違和感があります」
「うーん」
「就職しても、基本的に私服OKなところで働きそうですよね」
「あー。・・・・・・それは確かに」
「そっちの方が楽だからって。会社を探す段階でそういうところを探しそうですよね」
「いや、いっそのこと会社に行かなくてもいい就職先を探すというのも」
「在宅ワークってやつですか?」
「そうそれ」
「・・・・・・・・・・・・どうしてでしょう? サンが在宅ワークと言いつつ、仕事しながらゲームしている器用な様子がイメージできます」
「・・・・・・いや、さすがにゲームしながら仕事はできないでしょ」
「それもそうですね」
ふふふ、とはなさんが笑っている。
手は動かしているけど、
「あとちょっと」
「はい。がんばれがんばれー」
はなさんの応援が身に染みる。
「・・・・・・ようし、手打ち終わり!」
「ご苦労様でした」
「あとは、この計算式を入れて・・・・・・」
計算方法は同じだから、コピーペーストで増やせる。
出てきた結果を一列に並べて、グラフ化する。
「・・・・・・おうし」
できたら、印刷。
「・・・・・・・・・・・・完成ー」
「おつかれさまでした」
ぱちぱちと小さくはなさんが拍手してくれた。
「・・・・・・なんかすごく疲れた」
「ふふふ。結構時間かけましたからね」
「・・・・・・・・・・・・甘いものが欲しい」
「そうですね。何か食べに行きましょうか」
課題をカバンに入れて、立ち上がる。
「・・・・・・・・・・・・頭がこんにゃくになったみたい」
「はいはい」
よしよし、と撫でてくれるはなさんの手が和みました。
評価いただけると励みになります。
よろしくお願いします。




