マーマレード、ラー油、ゼロカロリー
「ちゃーちゃらちゃらー」
鼻歌交じりに歩いていた。
別に大したことがあるわけでもないのだけれど、黙って歩くには手持無沙汰だったからだ。
「ご機嫌ですね。サン」
「やあはなさん。今日はいい天気だね」
はなさんと出会った。
「何かいいことでもありましたか?」
「え? ううん別に? ただ黙って歩くのも詰まんなかっただけ」
「なるほど・・・・・・」
はなさんが苦笑している。
「まあ、はなさんと会えたのはいいこと」
「はい。ありがとうございます」
はなさんと並んで、また歩き出す。
「今日はちょっとめずらしいかな?」
「何がです?」
「大学に行く途中ではなさんと会うのが」
「確かに、いつもは講義室で会いますからね」
「いつも席取っといてくれてありがとね」
「いえいえ。どういたしまして」
いつもの笑顔のはなさんだ。
ふう、と空を見上げる。
まだ朝の内だが、じんわりと汗ばむ程度には暑い。
夏が近いんだな、と実感する。
「いい感じに、暑くなってきたね」
「そうですね」
「そろそろ、うまく体力調整しないと、朝起きるのが辛くなる季節かな、と」
「睡眠時間はきちんと確保した方がいいですね。一日が死んだようにきつくなりますから」
「本当にね」
ふう、とため息を吐く。
「あとは、さっぱりしたものが食べたい」
「冷やし中華とか?」
「そろそろ季節だね。・・・・・・あれ、作るの楽だし、普通においしいしで好きだよ。ぼく」
コンビニに売っているものでもいいけれど、ゆでて作るのも楽でいい。
「そうめんに冷やしうどん。ざるそばもいいですね」
「するっと入る麺類か。・・・・・・いいね」
かけるとしたら、ポン酢か出汁つゆか。
「あえて、ラーメンとかもいいですけどね」
「ラー油をたっぷり入れて辛味を強くするとか?」
「いいですね。普通に七味使ってもいいですけど」
なんだか、
「昼は麺類だな」
「そうですね」
言っているうちに、そういう口になってしまった。
「とはいえ。いろいろ気を付けないと夏バテしちゃうね」
「熱中症という可能性もあります」
「ね」
ふう、とため息を吐く。
「実感として、天気予報の気温より絶対暑いと思う今日この頃」
「まあ、体感温度なんてそんなものでしょうけど」
うんうん、と頷く。
「でもさ。よくよく考えると、天気予報の気温って、ぼくらが味わってる温度よりは低いと思うんだ」
「・・・・・・そのこころは?」
「だって、ああいうのって、えっと、なんだっけ? 百葉箱?」
「ああ。あの木でできた・・・・・・」
「そうそう。ちょっと高いところに作られてて、風通しがよくて屋根がついてる白いあの箱。あれの中で測るんでしょ?」
「小学校の時に中庭とかにありましたね。理科の授業か何かで中を見せてもらった覚えが・・・・・・」
「ぼくもあるよ。なんだこの箱とか、普段思ってたんだけどね」
「天気予報の気温もあの中で測るんですか?」
「ちゃんと調べたことはないから知らないけど、でもこの間ラジオで、地面より高いところで、日陰で、風通しがよいところで測りました、とか言ってたから、きっとあの中」
「ふむ」
「空気の温度、と考えれば、確かに日差しとかの要素は抜かないといけないと思うんだけど、ぼくらが感じている暑さは、アスファルトが溜めた熱に直射日光もあるんだから、ああいう気温より高いんじゃないかな、って」
「なるほど。言われてみるとそうですね」
ほうほう、とはなさんも頷いている。
普段あんまり考えないけれど、一度考え出すとこういうことも考える。
きちんと後で調べれば、知識も身につくかもしれない。
「まあ、そんなことを知ったところで、暑さが消えるわけじゃないけど」
「まあまあ。今そんなこと言ってたら、夏が来たらもっとひどいですよ?」
「・・・・・・汗ふきにタオルが必須になるなあ」
「普段から持ち歩かないと、ですね」
「冷たい飲み物の持ち歩きも必須」
「水筒とか、持ち歩きますか」
「麦茶とか?」
氷を入れた麦茶とか、なんか小学生を思い出す。
冷たすぎて味が分からなかった記憶がある。
あとは、ペットボトルごと凍らせた麦茶か。
遠足とかで持たされて、昼食時ぐらいにいい具合に溶けていた。
「まあ、大学ならそこら中に自販機ありますけどね」
「コンビニもあるしね」
冷たい飲み物なら、そこらで買えるから、
「アイスとかも食べたいなあ」
「ファミリーサイズのバニラアイスにジャムとか、マーマレードとかかけるのが好きです」
「いっそ、そういうのを凍らせたヨーグルトに混ぜるとかもいいよ?」
「ほう?」
「ちなみに、作ったばかりの温かいジャムを冷たいアイスにかける。・・・・・・ぼくは好きです」
「・・・・・・・・・・・・実践するのが難しいですね。ジャムを作るところから始めないと」
むう、とはなさんが難しい顔をしている。
「ジャムだけレンジにかけるとか?」
「爆発するか焦げるかしますよ」
「小さい鍋があればね。ちょっとだけあっためるとかできそうだけど」
どこかに売ってたりするだろうか、と考える。
手の平に乗るくらいの小さなやつでいい。
「まあ、無理して探すこともないでしょう。湯煎という手もありますし」
「アイスにさ、温かいソースをかけるのは結構な贅沢だと思うんだ」
「なんかイメージだけでおいしそうですもんね」
「ねー」
なんか食べたい。
「・・・・・・講義前にアイス買ってこようかな」
「やめておきましょう。講義室は、きっと空調効いてますから。・・・・・・講義が終わった後にしましょう」
「・・・・・・そうだね」
仕方ないか、と肩をすくめる。
+++
昼。
気分的に冷たいそばにした。
「・・・・・・・・・・・・暑い時に食べるさっぱりしたものってさ、カロリー低く感じるよね」
「そうですね。油も少ないですしね」
「・・・・・・食べた分、暑くて減った分。差し引きゼロカロリー」
「夏場のカロリーは、少し多めに取らないと夏バテしますよ」
「・・・・・・・・・・・・今度はウナギが食べたくなってきたよ」
「はいはい」
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