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手品、ビーフジャーキー、コイントス

 むし、と歯で食いちぎる。

 塩っ辛い味と、肉の噛み応え。 

「ビーフジャーキーって、おやつにもいいよね」

「味の濃さはやっぱり酒のつまみなんだと思いますけどね」

 はなさんも、一つつまんでいる。

「でも、乾物ってやっぱり噛めば噛むほどおいしいので」

「顎が疲れます。・・・・・・少量ならいいですけど、あまり大量に食べたいものではないですよね」

「それはそうだね」

 頷く。

「ビーフジャーキーか。・・・・・・お湯に入れてゆでたらスープにならないかな?」

「いや。どうでしょう? 塩気は出そうですけど、肉の出汁は出ますかね?」

「ジャーキーの味は薄くなるし、柔らかくもなりそうだから、食べやすくなりそう、とは思うけど?」

「なるほど。それはあるかもしれません」

 ふむ、と考える。

「焼いてもいいかな?」

「油は感じますし、焼く、というのはいいかもしれませんね」

「レンジで温めるくらいはすると思うけど」

「そうですねえ」

「細かく切って、ごはんにかける」

「ふりかけですか? でもそれは普通においしそうですね」

 ビーフジャーキーはやや硬めだし、ちょっと柔らかくできればな、と思う。

「・・・・・・まあ、普通につまむのが一番楽だけど」

「そうですね」

 はなさんも苦笑している。

「やっぱり、噛む回数が多いからか、割とおなかも膨れるね」

「そうですね。塩が強くて喉が渇くから、たくさん飲み物が欲しくなりますしね」

 炭酸飲料を合わせる。

 ごっくごっくと飲んで、ぷは、と息を吐いた。

 それから、またビーフジャーキーを一つまみ。

 しげしげと眺めながら、

「酒が飲めるようになると、これの味わい方も変わるのかな?」

「どうでしょう? お酒が飲めたからって、酒の肴の味わいまで変わるとは思いませんけど」

 はなさんもくい、と炭酸飲料を飲んで、言う。

「お酒飲んで、脳がバカになって、味覚が変わるとか?」

「あるかもしれませんけど、それで美味しく感じるようになるかは別問題な気がしますよ」

「そりゃそうだ」

「油気があるから、お酒を飲むときに胃腸を保護してくれる効果はありそうですけど」

「胃腸?」

「お酒は胃を荒れさせるんですよ。空の胃にお酒を入れると、胃に悪いんです」

「へー」

 それは知らなかった。

「お酒のおつまみは、そういうのを防ぐ効果もあるんです」

「はなさんものしりー」

「テレビでやってました」

「テレビの知識かー」

 テレビで言っていることって、定期的に変わるからどこまで信用していいのかは微妙な気がしている。

 正直、テレビの知識は話半分でしか聞かないのがぼくだ。

「はなさんはテレビの知識を信じるタイプ?」

「興味があったら自分で調べます」

「なかったら」

「すぐ忘れます」

「ある意味正しい使い方なのかな・・・・・・?」

 はなさんほどの思い切りはないから、首を傾げてしまった。

「まあ、役に立たない知識ばかり付きますからね。テレビっていうのは」

「そういうものかな?」

「自分で調べない知識は、基本的に役に立つことは少ないですよ?」

「そういうものか」

 ふーん、と頷く。

「サンは、テレビを見てから、自分で調べたりとかはしないんですか?」

「テレビの知識は話半分に聞き流しかなあ。何かを調べるのは、必要がある時だけ」

 自分から能動的に調べよう、と思うことなんてそれほどない。

 あまり周りに興味を持っていないのかもしれないけど。

「ジャーキーの作り方」

「味つけの調味料に漬けた後、乾かすのが基本ですね」

「よく知ってるね」

「昔、燻製について調べたことがありまして。ジャーキーだと、乾かしたあと燻製にすればできるらしいです」

「へー」

「一度、燻製やってみたいんですけどね。・・・・・・あれ、においがすごいんですよ」

「あー。煙が出るもんね」

「ええ。うちは一軒家ですから庭でやったんでそれほどじゃないですけど、それでもしばらく匂いが残りましたし」

「そんなに」

 ほへー、と驚きが顔に出た。

 はなさんはそんなぼくを見て苦笑している。

「キャンプの時のお肉みたいで、結構楽しくはありましたけどね」

「あー」

 それは楽しそう、と思った。

「ところでサン?」

「ん?」

「いまさらですけど、このビーフジャーキーどうしたんですか? 市販品とは違うようですけど」

「先輩にもらった。燻製をいろいろ試して、結構量ができたからおすそ分けって」

「なるほど」

 はなさんが苦笑している。

 多分、頭に浮かんでいるのは、同じ先輩の顔だろう。

「ちょっとびっくりしたよ。いきなり来て、『ビーフジャーキー、好き?』って聞かれてさ」

 大学じゃなく、ぼくの住むアパートの玄関先での話だ。

 昨日の夕方ごろにいきなり来たのだ。

「まあ、嫌いじゃないです、って言ったら、なんか手品みたいに結構な量のジャーキーを出して、『好きに食べな』って、置いて去って行った」

「あはは」

 全部で一キロ位の量のジャーキーを、いくつか小分けにした袋をもらったのだ。

 正直、この量は一人では厳しいな、と思ったので、はなさんのところに持ってきたのである。

「手作りだとすると、市販品より保存厳しいかな、とも思って」

「そうでしょうね」

 味はいい。

 塩辛いとは思うけれど、ちょうどいい塩梅、とも思う。

「なんかやっぱりうまいんだよね。あの先輩」

「そうですね」

「たまにハズレが混じってるけど」

「ああ。このやたら塩辛い・・・・・・」

 うぐ、とはなさんが口を押さえている。

 ちょうど引いたらしい。

「・・・・・・手作り故の、ムラかな?」

「・・・・・・しょうがないことでは、あるんでしょうけど」

 飲み物で喉を潤して、ふう、とはなさんは一息ついた。

「結構あるし、はなさんと分けようかな、と思って持ってきたんだけど」

「いただけるなら、ありがたくいただきますよ。お父さんたちも、お酒飲みますし」

「そっか。じゃあ。この一袋を」

 小分けの一袋のうちの一つを渡す。

 ちょうどいい具合に飲みものも飲み干してしまっているし、

「・・・・・・ちょっと飲み物買ってくるよ」

「あら。わたしが行きましょうか?」

「そこのコンビニで、何か買ってくる。塩っぽいから、ちょっと甘いものも欲しいし」

「そうですね。・・・・・・わたしもちょっとほしいです」

「わかった。じゃあ、何か買ってくるよ」

「お願いします」

 立ち上がり、外へ出た。

 コンビニに向かう途中で、財布を覗けば、五百円玉がある。

「む」

 一つ取り出し、ピンとはじく。

 コイントスをして、受け止めて、

「表なら、甘い飲み物。裏なら、甘い食べ物」

 開いてみれば、

「表。・・・・・・カフェオレか、ミルクティー。フルーツジュースでもいいかな」

 はなさんにも、買って帰らなきゃ、と思いながら、ぼくはコンビニに入っていった。

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